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第8話、古代遺跡の石碑


 ひんやりした空気。ぼんやりした光源が遠くに見える。ここは薄暗い地下。古い文明の遺跡の中だ。

 俺は、その最深部にある台座の上の岩のプレート――石碑のそばに膝をつき手を伸ばした。ツルツルとした手触りは、明らかに手が加えられたもの。そこに刻まれた文字を、指で撫でる。


「ベルさん、ベルさん!」


 相棒を呼ぶ。ブーツの音が近づいてくる。


「……見つけたのか?」


 浅黒い肌のがっちりした二刀流の戦士――ベルさんが俺の肩越しに言った。俺は振り向くことなく、視線を石碑に向けたまま首を縦に振る。


「魔法文字だ。……今はない古代文明時代の」

「さっきもそう言ったぞ。またただの墓石は御免だ」


 呆れたようなベルさんの声に、俺は反論する。


「こんな台座の上の石碑なんて意味深なもの、墓石のわけがない」

「どうだかな。……言っとくが、オレ様はその文字は読めんぞ」

「それがわからない」


 俺は振り返って、間近にあるベルさんの顔を見やる。


「いろんな言語を操れるあんたに、読めない文字なんてあるのが」

「字の読み書きができなくたって、話はできるだろう?」


 ベルさんがわざとらしく言った。


「オレ様にこの文字を読んで欲しけりゃ、この文字を刻んだ奴か、その時代のその国の人間を連れてこい。そうすりゃ読み取ってやるよ」

「さっきの墓石の下に、当時の人間がいただろう?」

「生きた奴だ。脳みそなくなって骨しかないのに、どうやって思考を読み取るってんだ?」


 ベルさんがポンと俺の肩を叩いた。


「なあ、冗談はほどほどにして、さっさとズラかるぞ」

「まさか、ベルさんともあろうお方が、幽霊が怖いとか言わないよな?」

「アンデッドの相手は得るものがないから、疲れる」

「そいつは同感」


 俺は立ち上がる。


「たぶん、お宝はこの石碑の下だ。伝承に間違いがなければ」


 問題は、どう石碑の下にアプローチするか、だ。何か仕掛けがあって、どこか操作するか、特定の魔法を使えば、それに反応して開くと思われる。この遺跡内の罠以外の仕掛けはそういう開け方だった。


「面倒だな」


 ベルさんは言うや否や石碑を押した。するときしむような音を立てて、高さ二メートルほどの石碑が倒れ、轟音を立てた。あまりの音に俺は肩をすくめ、舞い上がった砂埃に顔をしかめる。


「おいおい、ベルさん……」

「ちょっと押しただけだ」


 そこで真顔はやめて。絶対、わかってやったぞこの人。なんつー、馬鹿力。まあ、魔王様にとっては朝飯前なんだろうけどさ。


「倒れてしまったものはしょうがない。それより、中に箱があるぞ」


 根元から抜けるように倒れたらしい石碑。台座に穴があって、そこに石碑がはまっていたようだ。穴を覗き込むと、ありました宝箱。


 俺は穴の周りをざっと見回し、罠の類いがないのを確認。そして縦横三十センチ、深さ二十センチほどの金属製の箱をとる。……あ、意外と軽い。案の定、鍵がかかっているようだ。鍵穴はどこだ……?

 ガチャリ、と足下で音がした。とっさに見るが、特に変化もなく……。


「嫌な予感がする」


 ベルさんがフラグを立てた。俺は回収した箱の検分を後回しに、異空間収納魔法に箱を放り込む。


「さっさと帰ろう」

「ああ、賛成だ」


 他にも何かお宝がないか見て回りたいところだが、妙な圧迫感をひしひしと感じる。しっとり嫌な汗が出てきた。

 足早にその場から離れる。カツカツと足音が早くなる中、聞こえてくるは不気味な地響きめいた音。


「いったい何だこの音?」

「大掛かりな仕掛けが働いているってことだろうよ。急ぐぞ」


 俺とベルさんは走っていた。

 遠くの部屋だろうか、バタンバタンと重量物が床に倒れ込むような音が連続する。まさか、崩れてるとか、そんなんじゃないよな!


 加速の魔法を使う。通路を駆け抜け、遺跡内のフロアに出る。入ってきた時に解除した落とし穴トラップを大ジャンプで飛び越える。

 そのフロアの出口は、高さ三メートルほどの段差の上。来た時は、飛び降りるだけだったが、登るとなると、梯子などないので普通なら不可能。だが魔力を足に回して、跳躍すれば……。


「とっ!」


 腕が段差のてっぺんに届き、腕に魔力を集めて筋力強化。勢いのまま自身の身体を持ち上げ、一息で段差を突破。


「ベルさん!」

「こんなの浮遊でひとっ飛びだろうよ」


 大ジャンプの延長で軽く段差を超えるベルさん。さあ、遺跡の入り口まで急ごうか。


 元来た道を引き返し、トラップゾーンを抜けてたどり着いた大広間。そこには無数の骸骨人間――スケルトンどもがひしめいていた。


「いったいこいつらどこから湧いて出てきやがったんだ?」


 足の踏み場もない、という言葉があるが、スケルトンが密集していて、まるで海のように固まっている。抜ける隙間などあるはずもなく、スケルトンどもの空洞の目が、俺とベルさんへと集まった。ただでさえホラーな光景なんだから怖いっての。


「行きの時はこんなにいなかったのに、ここの番人たちは随分とお寝坊なんだな!」

「そのまま眠ってくれていればよかったのにな」


 ベルさんが皮肉った。


「誰だよ、こいつらを起こしたのは!」

「ベルさんが石碑を倒したから目が覚めたんじゃないの?」


 すっげぇ音したし。


「は? お前さんが箱を拾った時に音がしただろ? あれが目覚ましのスイッチだったんだろうよ」


 あー、あの音ね。あれは宝泥棒用のトラップが作動した音だったかもしれないってことか。


「じゃあ、箱をお返ししたら、こいつらまた眠ってくれるかね?」

「無理なんじゃねえの!」


 ひしめくスケルトンが津波のようにこっちへ押し寄せてくる。魔力を集中、衝撃波!


 俺が腕を突き出すのと、ベルさんも衝撃波の魔法を使うのはほぼ同時だった。モーゼの十戒、もといモーゼの奇跡で海が割れるがごとく、スケルトン集団の中央に穴が開く。吹き飛ばされ、ぶつかり複雑骨折の残骸になる中央スケルトンたちだったが、左右の大集団がその穴を埋めるように進んでくる。……うん、海を割るなんて無理なのと同じだな。

 このまま哀れにもスケルトンの波に飲み込まれて、おしまい……なんて冗談ではない!


「ストレージ……!」


 俺は異空間収納と同じように魔法で、異空間への入り口を開ける。これで俺たちの周りに取り囲み――押し寄せてきたスケルトンの波が異空間に突入しそのまま消えていく。高いところから低いところに流れる水の如く、自ら異空間に飛び込んでいく骨ども……。


 やがて、大広間には、俺とベルさん以外、動くものはなくなった。俺はすかさず異空間の口を塞ぎ、そのまま、スケルトンたちはなかったことにした。


「終わった、のか?」


 ベルさんが口元を笑みの形に歪めて、俺を見た。


「たぶんね」

「行くか?」

「そうしよう」


 俺たちは、スケルトンの消え去った大広間を抜け、古代遺跡を後にした。

次話は27日更新のため、明日は投稿ありません。


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