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第83話、一歩一歩


「クーカペンテ人たちがやられたから、ってわけじゃないが、気をつけるんだぞ、エルティアナ」

「はい、ジン」


 弓使いの彼女は。怯んだ様子も動揺もなくコクリと頷いた。午前の組の半数がやられたクーカペンテ戦士団はメンバー総入れ替えだが、俺たち三人組は引き続きの連投だ。


 正直、不安はある。ベルさんは大丈夫だろうが、俺もエルティアナも、ちょっとのミスや油断で死ぬ可能がある。


 午前の攻略で、一緒に行動をしていた者たちの死の場面――それがまだ頭の中に残っているのだ。どうあっても負の感情がよぎる。


 俺は死にたくないし、仲間を死なせたくない。決して、油断はしない。俺は固く心に思うのだ。


 ちなみに、クーカペンテ戦士団のメンバーは騎士ガストン、魔法戦士のレーティア、治癒魔法を担当するランベルト神父ほか、兵が四人。


 邪神塔ダンジョン、16階へ。先ほどまでの雰囲気がガラリと変わった。ようやく灼熱空間とおさらばである。


 だがまたも上へと登っていくアスレチック的フロアが広がっていた。


 四方はでこぼこした岩肌のような壁。ロッククライミングするなら、コースどりを間違えるとやばそう。


 部屋の真ん中ほどには空中に浮遊する板状の足場が複数。空間に固定したように止まっているものと、一定範囲を上下、もしくは水平方向に往復を繰り返している。


「こういうのを見ると、ますますゲームじみているんだよな……」

「ゲーム……ですか?」


 エルティアナが俺の呟きに首をかしげた。独り言だと首を振っておく。この邪神塔ダンジョンを設計した奴、そっち方面が好きそうだろうな、きっと。


 このリフトをつたって行くのは、跳躍の距離が鍵となる。距離が足りないと落下、タイミングを外しても転落。が、助走を付けすぎると着地しても滑ってリフトから落ちるということもあり得る。


 俺たちは、往復移動する足場を浮遊魔法補助のジャンプで進みつつ、上へと登っていく。思いっきり助走しなくても、余裕で届くようになるから勢いつき過ぎて失敗なんてことは起こらない。


 楽勝楽勝――クーカペンテ戦士団たちの表情にも余裕がある。フロアの一番上に到着し、次の階段も発見。……えーと、次で17階か。


 行った先は、またも先ほどと同じ一定範囲を往復する足場を乗りつぐタイプのフロア。

またも楽勝――なとど思っていたら、とんでもない地獄だった。



  ・  ・  ・



「ちくしょう、周りは敵だらけだ!」

「固まれ! ――ジン、障壁だ」


 ベルさんの声。固定された足場に俺たちは集まっていた。四方の壁には無数の横穴があって、そこからゴブリン種がクロスボウや弓で攻撃してきた。


 往復する足場を移動していたら、狙い撃ちされるという、一種のトラップ。


 クーカペンテ戦士団のひとりが、往復する足場上で被弾し動けなくなったところを、集中的に狙われ射殺された。


 また別の兵は、ジャンプしたところを狙撃され、バランスを崩して転落、そのまま床に叩きつけられ動かなくなった。……頭から落ちたんだ、助かるまい。


 ガストンが盾を構え、声を張り上げる。


「防御陣! 互いの背中を守れ!」


 何せ、あらゆる方向から矢が飛んでくる。俺も味方が固まったところで、防御障壁を展開して、モグラ叩きの要領よろしく現れて飛来する矢を防ぐ。


 だがそれまでに被弾した者もいて――


「エルティアナ、大丈夫か!?」

「……はいっ」


 その彼女も左腕に矢を受けてしまっていた。とっさの反撃を行った際に、死角から飛んできた矢が刺さったのだ。レーティアがすぐに、エルティアナが被弾した矢を引き抜き、ランベルト神父が治癒魔法をかけている。


 俺は歯噛みした。死傷者が出て、気を引き締めてかかって、結果的にこの有様だ。不甲斐なくって頭にくるぜ……!


「とりあえず障壁は防いでいるが、面倒だな」


 ベルさんが、忌々しげに壁から矢を放つゴブリンを睨む。


「四方八方から撃ってくる矢のせいで、移動も難しい」

「矢がなくなる……というのは、さすがにないですね」


 ガストンが生真面目な調子で言った。ベルさんが軽口を叩く。


「少し待ってみるか? そうすりゃわかる」


 数十はあるだろう穴を個別に魔法で潰していく、というのは効率が悪い。魔力の消耗がすさまじいし、何より数が多すぎる。


 まとめて吹き飛ばすというのも無理だ。壁の穴にいるという地形ゆえ、穴にひっこまれたら攻撃が届かないこともある。


 何か手はないのか。考える俺は、ふと自分たちが立っている足場を踏んでみた。


「……なあ、ベルさん。この足場、宙に浮いているよな?」

「ああ、それが何だ?」

「この足場、上まで移動させられないかな。魔法で、無理やり」

「……」


 すっと目を見開いたベルさん。その表情がふっと緩んだ。


「空間固定された足場ね……。ちょっとやそっとの魔力じゃ干渉できねえだろうが――」


 すっとベルさんが足場に右手を向けた。


「オレなら可能だ」


 何せ魔王だからな――口には出さずとも、ベルさんがそう言った気がした。


「ジン、障壁を任せるぞ。オレはこっちを持ち上げる」

「任された!」


 ベルさんも張っていただろう防御障壁の分も俺が引き受ける。


「急に動くからな! お前ら、落ちるんじゃないぞ」


 その瞬間、俺たちの乗っている足場がグラリと揺れた。クーカペンテの戦士たちは膝をついて自身を安定させることで転倒や落下を防ぐ。その間にも矢が飛来するが、俺の魔法でシャットアウト中。


 さながらエレベーターのように、足場が本来動かない方向へ無理やり動いた。何だか固定された器具をブチブチとねじ切ったような強引さを感じたが、足場はぐんぐんと上昇しく。


 そしてこのフロアの天井近くまで浮上。ゴブリンアーチャーらのキルゾーンを抜けて、次の階への階段のある足場を発見する。ここには敵はいなかった。


「助かりました」


 ガストンが俺に言った。


「あなたの機転のおかげです」

「ベルさんのおかげだよ」

「ああ、大いに感謝しろよ」


 足場から降りながら、この人の姿をした魔王様は何でもないように言った。


 エルティアナはランベルト神父の魔法で、治療終了。すぐに戦線復帰可能で、死亡した二人以外で負傷した者も同様だった。


 だが俺の気は晴れない。何とか突破して安堵している反面、こう、胸の奥が違和感を伝えてくるのだ。


 これはいったい何だろうと考えて、ひとつの答えに行き着いた。


 ひょっとして俺、先に進むのが怖くなっているのではないか……?

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