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第82話、攻略と死亡者


 一度、上から下に行った。今度はそれを逆に行くだけなのだが、中の階層が以前通った時とまるで違う邪神塔ダンジョン。


 おかげで新鮮な気持ちで、塔に挑める……などと考えられたらよかったのだが。


 俺、ベルさん、エルティアナほか、ルバート兵長に率いられたクーカペンテ戦士団七人で挑んだ今回のダンジョン攻略。


 11階は高温に満たされた、炎のフロアともいうべき階層だった。息をしただけで肺が焼けるのではないかという室内には、さすがに一歩を踏み出すのもためらう。


 陽炎が揺らめき、鉄色の床や壁も熱を帯びて赤みを増している。肌で直に触れようものなら、火傷確定。


「こりゃ駄目だ……!」


 入った早々に引き返し、一度、センシュタール工房に撤退。こんなことは初めてだが、ポータルを使って即やり直しが利くのが良いところだ。

 リリ教授から溶岩の流れる火山地帯でも一定時間なら活動できる魔法具を借りて、再挑戦。


「……まったく、熱せられたフライパンの上を歩いている気分だ」

「オレたちゃ美味しくないぞ」


 ベルさんが軽口を叩き、同行するクーカペンテ戦士たちが苦笑した。ほんと、魔法具がなけりゃ死んでる。

 そんなフロアには、溶岩スライムや炎のモンスターが元気に動き回っていて、俺たちを妨害してきた。


「お前らは下がってろ。並の武器じゃ、触れたら溶けるぞ!」


 ベルさんが警告した。彼の二剣や、大竜武具を持っている者たちには、さほど苦戦はなかった。ただ近づいただけでかなり熱を感じたが。


 ともあれ、神殿内とおぼしき11階をクリア。


 12階は一転して、火山の中のような、溶岩流れる床に浮かぶ足場を超えていくフロアだった。


「この足場、溶岩の上に浮いているのか?」


 俺たちが乗ったら重みで沈んだりは……しなかった。足場自体、十数メートルくらいと結構大きかったからな。だが足場から足場へはジャンプして飛び越えないといけなかった。


 そしてその足場の間の溶岩から、炎の大蛇が姿を現した。全身これマグマで形作られていて、ドロドロと溶岩の滴が垂れていた。


 間違って近づいたら、落ちてきた溶岩で溶けるやつだ……。そしてそんな触ることもアウトな大蛇が、俺たちへ襲いかかってきた。


 そんなヤバイ奴は氷漬けだ! 俺は大竜の杖を向け、魔法で対抗。一頭を瞬間冷却して撃退した。


 が、敵は何頭もいて、足場の間の溶岩から次々に現れた。さすがに一頭ずつ相手にしてられない。フロアの突破を優先!


 だが、ここクーカペンテ戦士団に戦死者と重傷者を一名ずつ出してしまった。突っ込んでくる炎の大蛇ののしかかりを受けてしまい、溶岩に溶かされるようにやられたのだ。


 断末魔の声はかき消え、人間だったものが崩壊していくのは、思い出しても気分が悪くなった。


 何とか次の階段へたどり着いたが、仲間を失い、失意の戦士たちを半分帰した。


 残りの者たちと攻略続行。次のダンジョンスタンピードは起こさせない。進めるだけ進むのだ。


 13階層は円柱の部屋。壁に埋め込まれた足場や取っ手を掴んだりして、壁伝いに登るアスレチック……。


 ただし壁も足場も床も11階層と同じく熱せられた鉄板状態。触れば火傷、しかし普通なら接触しなければ上に行けないという、完全に殺しにきているフロアだった。


 はい、熱保護の魔法具のお守りを信じ、いつもの浮遊魔法でアスレチックを迂回。……のはずだったのだが、魔力によるセンサートラップじみた仕掛けが施されていて、見えない魔力の線に触れたら、壁からダーツの矢じみた刃とか、溶岩液が飛び出し、襲いかかってきた。


「魔力眼だ! 魔力眼で見ろ!」


 ベルさんの指示に応え、何とか魔力線を回避しながら進めたものの、最初にトラップを発動させてしまったことで飛んできた溶岩液でクーカペンテ戦士の持っていた盾が溶けてしまった。……まあ、被害が盾だけで済んでよかった。


 続く14階。相変わらず熱気が支配している。


「塔の中に塔ってか?」


 ベルさんが、部屋の中央から上へと伸びる奇妙な巨柱を見上げた。先ほどと同じような円柱の部屋だ。ただ今度は壁ではなく、中央に螺旋階段じみた柱がある。


「魔力眼……今度はトラップじみたものはないな」


 俺は魔力線の有無を確認。


「柱を登っていくんだろうけど、これ、どうみてもただの階段じゃないよな?」

「同感。前に階段に擬態していたボーンドラゴンがいたけど、その類いな気がするぜ」

「どういうことです?」


 クーカペンテ戦士団のルバート兵長が聞いてきた。俺は肩をすくめる。


「つまり柱自体がモンスターだってパターン」


 さて、どうしたものか。罠かもしれない柱に従って登るか、浮遊で越えていくか。……浮遊魔法で行こう。


 というわけで、俺たちは柱を迂回。外から柱を眺めていると、柱の通路上に鉄の棘や、スライドしそうな溝があったりと、何やら罠のニオイがプンプンした。刺されたり潰されたりが、狭い空間で行われたら避けようがない。


 ま、柱を直に歩かないからいいんだけど。


 14階クリア。そして15階へ突入。またも灼熱の空気。だがその部屋には、宝箱が十数個、等間隔で並べられていた。


 お宝部屋? ……いやぁ、あからさまに怪しくないか?


 クーカペンテの戦士たちが周りの宝箱へ歩く。


「おいおい、こりゃご褒美ってやつか?」

「すげっ……中身は何だ?」

「おい、気をつけろ!」


 ルバート兵長が叱るように言った。


「罠かもしれんぞ」

「あー、たしかに、この熱で素手で触ったら火傷するかも――」


 宝箱に手を出しかけた兵が、慌てて手を引っ込める。その瞬間、宝箱が開き――いや口を開いて、炎を吐き出した!


「グワッ――」

「ハミルトン!」

「くそっ、ミミックだ!」


 宝箱の中にミミックが紛れていた……ではなく、全部、ミミックだった。溶岩弾を吐き出し、それを間近で受けたクーカペンテ戦士――ハミルトンがあっという間に焼け、溶けてしまった。……クソッタレ!


 フロア全部のミミックを倒したが、二名が戦死。15階は突破したが、さすがにクーカペンテ戦士団の被害が大きいので、一度、塔の外へ撤退を選択した。


 ポータルを展開。一度、カスティーゴに戻って、昼食休憩。ヴィックと会って、ここまでの進捗を報告しておく。


 兵たちのまとめ役であるルバート兵長は、連れていったメンバーの半分を失ったことでかなり消沈していた。


 大休憩の後は、また塔へ戻るが、クーカペンテ戦士団はほぼメンバーが入れ替わることになる。


 それにしても、死亡者が続くというのは、よろしくないな。邪神塔ダンジョンがいよいよ本領を出してきたのかもしれない。

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