第75話、ウェポンレイダーの正体
「おい、クソ野郎……!」
ヴィックは激昂していた。その敵意と殺意を向けられていたのは、カスティーゴ冒険者ギルドのギルマス、ロバールだった。
「お前もウェポンレイダーだったのか!?」
拳骨が、ギルマスの腹部に叩き込まれた。息が止まり、喘ぐように膝をつくロバール。俺もベルさんも冷淡にそれを見やる。
ギルド長の執務室には、俺、ベルさん、エルティアナ、ヴィック、ユーゴのほか、ロバールと、ほか用心棒が二人いた。
なお、その用心棒はすでに床とキスをしている。
「これ、何ですかー?」
棒読みでユーゴが、倒れている用心棒が身につけていたモノをまくる。
「透明になるマントってやつですかねー、これ」
この用心棒二人は部屋の隅に潜んでいたが、ベルさんの魔力眼で速効で看破され、不意討ちを仕掛けたところを返り討ちにした。
昨日ラットがギルマスに会いにきた、と受付嬢たちに聞いたので、執務室にお邪魔したらこれだ。
ウェポンレイダーの話をしたら、ギルマスは刺客にウェポンレイダーの手口そのもので奇襲させようとした。言い逃れできると思うなよ。
「まさか、犯人の手掛かりを求めてきたら、そいつも犯人だったとは……」
ヴィックの発した声は恐ろしく冷たい。
「ユーゴ、隣の守備隊詰め所へ行け。隊長と数人をこっちへ回すように言え」
「了解、ボス」
ユーゴが執務室を後にした。ヴィックは、身体を折り曲げて顔を伏せているギルマスの頭をつかんで立たせると、豪勢な彼の椅子に放り投げるように叩き込んだ。
「お前がウェポンレイダーの一味、いやそのボスだな?」
「……違う、わ、私ではない……フゴッ」
拳が飛んだ。
「もう一度聞く。お前がウェポンレイダーの親玉か?」
「……」
「……フン!」
殴打の音が室内に響いた。ベルさんも、エルティアナも何の感情も推し量れない目で、それを見ていた。
……俺だけかな、こう、こういう場が苦手なのは。
ウェポンレイダーは、武器を奪う殺人鬼で、俺もそれに殺されるところだった。もちろん、狙われたからには怒っているが……。
仲間を殺されたヴィックの怒りは当然だ。俺だって身内を傷つけられたら、相手を切り刻むほど憎んだだろう。
だがなぁ、わかっていても、正直、苦手なものは苦手かもしれない。自然と髪をかいていた。落ち着かない。
俺は暴力の現場から視線を外し、室内の捜索にかかった。特に何かあるわけではないと思う。ただ、黙って見ていられなかったんだ。
……はい、本棚の上のほうに変な取っ手みたいなのがありました。邪神塔ダンジョンに潜っているうちに、こういうの見つけるのが得意になってきたかもしれない。
ギルド建物の外観からその図を頭の中に思い描く。たぶんだけど、隠し部屋かなー。
ガガガ、と本棚がスライドして部屋がお目見え。……下への階段があった。おやおや、地下室ですかー。なんか、胡散臭い。
「おい、あの部屋は何だ!?」
ヴィックがロバールを問い詰めていた。少し見ないうちにギルマスは顔を腫らして泣きまくっていた。ありゃりゃ……。
俺は、階段に沿って下へ。エルティアナがついてきた。暗かったので照明の魔法で照らしながら、一歩一歩進む。少し埃っぽさが鼻についたが、そこまで強烈ではなかった。一応、定期的に掃除くらいはしていたかもな。
通路に沿って十歩もしないうちに、扉が立ち塞がる。……南京錠がかかってやんの。
「ジン」
エルティアナが腰に下げていたダガーを抜いた。あれ、それひょっとして大地竜の牙を加工したやつ? 持ってたのそれ。
南京錠に刃を当てるエルティアナ。ゴリ、と音がした次の瞬間、金属製の南京錠が割れた。
「鍵要らずだな」
「二度と鍵として使えないですけどね」
エルティアナが珍しく冗談っぽく返した。口調はいつもと変わらないんだけどね。
扉を開けて、部屋の中へ。
はい、無数の珍しいそうな武器とか防具が陳列してあります。
宝物庫である。おそらく、これまで奪ったウェポンレイダーとしての戦利品だろう。魔法剣や槍、斧ほか各種武器が、それぞれ並べられている。
……もし俺が殺されていたら、ここにサンダーバレッドも飾られていたんだろうな。
その後、守備隊が冒険者ギルドに到着した。ロバールは逮捕、拘束され、ウェポンレイダー関係事件の厳しい取り調べを受けることとなる。
・ ・ ・
カスティーゴ闇の名物、ウェポンレイダー事件は終幕へと向かっている。
冒険者たちが血眼になって探したラットも逮捕され、首謀者ロバールとその仲間たちは漏れなく全員が逮捕された。
犯行の動機は、ロバールの希少武器収集癖がエスカレートした結果だという。彼は、ダンジョン産の貴重な武具を集めていた。だが希少武器ともなれば、手放さない冒険者も少なくなかった。金も有限なので、殺して奪ってしまえ、ということらしい。
ちなみに、ラットをはじめとした協力者は、金で雇われていたらしい。……直接殺しをやっているので罪は重い。
守備隊による取り調べは苛烈を極めた。冒険者と王国の兵、違いはあれど、ここカスティーゴでは戦士は皆仲間という、異様な空気感がある。ゆえに仲間殺しは、冒険者ではない王国の騎士や兵士らにとっても他人事ではなかったのだ。
冒険者ギルドの運営側にウェポンレイダーの関係者が数人含まれていたため、ギルドの以後の運営に少々影響が出た。
ウーラムゴリサ王国の王都冒険者ギルドに事件は報告され、その後任が派遣されるだろうという話になったが、その後任が来るまで、ヴィックが臨時にギルド運営に関わることになった。
あくまで一時的な処置だが、ここカスティーゴは週に一回、ダンジョンスタンピードを受ける町である。守備隊と良好な関係をもち、かつそれなりに集団を統率できる者となると中々いない。
前任であるロバールは、それをしなかったので守備隊からも好ましく思われていなかった。そこで守備隊側が信頼したのは、防衛戦に常に参加し部隊を統率していたヴィックというわけだ。
よそ者であるクーカペンテ人ではあるが、冒険者たちからは反対意見は出なかった。彼を信用していたこともあるが、あくまで一時的だからとわかっているからだろう。
「そんなわけで、おそらく三日後にスタンピードが来る」
冒険者ギルドの執務室に収まったヴィックが、資料に目を通しながら俺とベルさんに言った。
「敵は待ってくれないから、おれは君たちと行けないが、当面はうちの戦士たちをこれまで通り出すから、気をつけて邪神塔に挑むように」
「そうするよ」
まあ、頑張ってくれ。俺は、クーカペンテ人の戦友にエールを贈る。
これまで背後を脅かしていた、うざったい脅威が去ったので、これからは後顧の憂いもなく、邪神塔ダンジョンに集中できるだろう。
「スタンピードを忘れないでくれな」
ヴィックに指摘された。
了解、ここを拠点にする冒険者にとってダンジョンスタンピードの防衛戦参加は義務だもんね。
……いっそ、三日以内に攻略しちゃうか?
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