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第74話、尻に矢を受けた奴の話


 城塞都市カスティーゴを歩く。俺、ヴィック、ベルさんにエルティアナ、それとユーゴがそのメンツだ。


 なおベルさんを除いて、皆、センシュタール工房製の大竜装備を身につけている。


 俺は大地竜の杖、同ブリガンティン、同バックラーなど。エルティアナは大地竜の弓に同スケイルアーマー、同ガントレットなど。ヴィックとユーゴも大地竜の小盾、同スケイルアーマーを防具にし、ユーゴはさらに大地竜の槍を担いでいた。


「ウェポンレイダーは、尻に矢を受けている?」


 ヴィックが怪訝な声で聞いてきた。俺は真面目ぶる。


「ああ、センシュタール工房の近くをうろついて、妖精さんに見つかったらしい。それでケツに矢を食らった」

「ざまあ!」


 ユーゴがからからと笑った。


「すると、兄貴。この町にいるケツに矢を食らった奴を探せばいいんですね?」

「まあ、手掛かりといっちゃ手掛かりなんだけどね」


 俺はそれとなく周囲を見回す。町行く人々が、大竜退治の冒険者たる俺たちに好奇の視線を向けてくる。他の冒険者たちもまた、大竜装備を見て羨望の眼差しを寄越す。


「なにぶん、ケツだからね。ズボンに隠れてる」

「ケツ丸出しの野郎なんて、まずいないからなぁ!」


 ベルさんが言えば、ユーゴも下品に笑った。元気だなぁ、あんたら。


「ただ、場所が場所だからな。致命傷ではないが、しばらく座るのが厄介だと思われる。そうなると、さっさと治療したいところだ」

「医者に聞き込みを?」


 ヴィックが、こちらも真面目な調子で言った。俺は頷く。


「それもある、が。金もそこそこ取られるから、ウェポンレイダーが冒険者なら、同じ冒険者の治癒魔法が使える奴を頼るんじゃないか」

「なるほど!」


 ユーゴが、首を縦に振った。


「ギルドに聞き込みですね!」

「ああ、ケツに矢なんて、話題になってるかもしれない」

「からかう奴、絶対いますね!」


 あははっ、とユーゴは本当に楽しそうだった。


 そんなわけで、冒険者ギルドへ到着。やはりというべきか、依頼探しや休憩中の冒険者たちから視線の集中砲火を浴びた。


 呼びもしないのに冒険者たちがやってきて、さっそく大竜装備を近くでみて、質問やら感想などを勝手に言ってきた。


「ところでお前ら、ここ最近、ケツに矢を食らった奴の話、聞いてないか?」


 ベルさん、単刀直入過ぎィ! それを聞いた冒険者たちは、はたとなる。


「グレボーの話?」

「馬鹿、あいつがケツに怪我したのはだいぶ前の話だろ」


 ツッコミが入って、乾いた笑いが一部で湧き起こる。


「ケツに矢が刺さってる奴なんていたか……?」

「ここ最近?」


 顔を見合わせる冒険者たち。誰か知らね?――とかいう雰囲気の中、席で仲間とカードゲームに興じていた斧使いの戦士――ベルさんがランク試験の時に瞬殺したウルゴが、顔を向けずに口を開いた。


「矢かどうかは知らんが、昨日ラットの奴が尻を痛そうにして、ギルドに来てたんじゃないか?」

「おう、それそれ」


 別の冒険者が頷いた。


「あいつ、ズボンから垂らしたから、漏らしたのかと思ったが、よく見たら血だったな、そういや。……あれまさか、ホントにケツに食らってたのかよ!」


 ザワザワガヤガヤと冒険者たちが騒ぎ始める。ウルゴが俺たちのほうを見た。


「それで、ラットが尻に矢を受けてたら何だって言うんだ?」

「その、ラットって奴が、例のウェポンレイダーかもしれんって話だ」


 さらりとベルさんがいえば、場がしんと静まり返る。


「え、どういうこと?」

「あいつ、ウェポンレイダーだったの?」


 冒険者たちが完全にそっちの話題に移った。これこれこういうことで、と、尻に矢を受けた透明マントの不審者の話をしてやる。妖精さんが、というのは伏せたけど。


「クソッタレ! あいつがウェポンレイダーだったのか!?」

「まだわからんが、怪我をした理由を問い詰めるべきじゃないかな」


 俺が言えば、血の気の多い冒険者が外へと駆け始める。


「こうしちゃいられねえ!」

「ラットの野郎はどこだ!? ぶっ殺してやるッ!」

「まだだ、捕まえるのが先だ! 殺すのはその後だ!」


 何か、滅茶苦茶やばい空気である。……これ冤罪だったらかわいそうじゃ済まない。

 言葉が出てこない俺。ヴィックが冷淡に言う。


「それだけ、ウェポンレイダーへの恨みは深い。おれたちもペシュクを殺されたが、他にも仲間を殺された冒険者はいるからな」


 ドタドタと冒険者たちがギルドの外へと出て行く。ほとんど皆なんだけど――


「そりゃ身内に殺人鬼がいるっていうんだ。他人事じゃ済まないさ」

「なあ、ジン」


 ベルさんが唐突に、俺の肩を小突いた。


「お前、ラットって知ってるか?」

「よくは知らないけど、顔は知ってる」

「本当か?」

「ベルさんも会ってるよ。俺の記憶違いでなければ、初めてこの町に来たときに、俺たちに声をかけてきた冒険者がいただろう? あいつだよ」

「覚えてねぇよ」


 まあ、それから特に話したわけじゃないし、印象にないのはわかるよ。あの気さくに声をかけてくれた男が、まさか冒険者殺しのウェポンレイダーかもしれないなんて……。複雑な心境。


「兄貴、オレたちも――」


 ユーゴが今にも飛び出そうとしていたが、俺は手を振って少し待てと合図する。


「ここでの用を済ませてからだ」

「まだ何か用があるのか?」


 ヴィックが聞いてきた。俺は、視線をギルドの受け付けカウンターに向ける。


「昨日、ラットがここに駆け込んだって話」

「あー、そういえば」


 そう口にしたところで、ヴィックは眉を寄せた。


「何故、奴はここにきた? 怪我を治療するわけでもなく」

「どういうことです?」


 ユーゴがわからないという顔をする横で、ベルさんが口を挟んだ。


「ここで誰か奴に治療したなら冒険者どもが話題にしてる。そうじゃなく、怪我をしたまま駆け込んだってのが引っかからんか? 治療じゃねえなら、手当てした後でもいいわけだし」

「何やら臭ってきたな」


 俺がギルドカウンターへ歩み寄れば、ヴィックも同じくついてくる。受付嬢らは、どこか気圧されたように表情を引きつらせている。


「つかぬ事を聞きますが――」


 俺は営業スマイル。


「昨日、ラットって冒険者がここに来たそうですが、何しに来たか教えてくれませんかねぇ……?」

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