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第73話、大竜装備ができていた


 今度は塔に上がることになった俺たちだけど、連戦だったこともあり、2階でポータルを置いて、カスティーゴに一度撤退した。


 センシュタール工房に行けば、リリ教授が意味深な笑みで迎えてくれた。


「見てたよ。塔、浮上したみたいだね」

「ええ、地下50階で行き止まりだったようです」


 アットホームな雰囲気にホッとしている俺がいる。古き木の家という趣のセンシュタール工房では、今日も妖精さんたちが武器や魔法具の製作を行っていた。


 俺は、自分で見てきたもの、塔の模型とそれがもたらしたと思われる効果、ギミックなどを教授に説明した。たぶんに推測が多いが、概ね間違ってはいないと思う。


「カスティーゴにいた連中は、音のしない雷が増えたとしかわからないだろうな。アタシは一度、邪神塔の浮上を見てるから微妙な違いがわかるけども」


 プーカ妖精のいれてくれた果汁酒をもらいつつ、俺は問うた。


「俺たちが留守のあいだ、何か異常は?」

「何も。あー、例の武器泥棒の話だね。近くに一回怪しい奴がきたけど、ウチの好奇心旺盛なフェアリーが背後から尻に矢を打ち込んでやったら、町へと逃げていったよ」

「矢を打ち込んだ? 過激ですね」


 しかも尻かよ。


「そりゃ君、透明マントでこっそり忍び込む奴に、ろくなのがいるわけないだろう」


 あー、反論の余地なしだな。ウェポンレイダーだったかもしれないな、それ。


「追跡しましたか?」

「いいや、ウチの妖精たちには町に入らないように言ってるんだ。妖精を売ろうなんて厄介な奴にとっ捕まったら大変だからね」


 そりゃそうだ。これは仕方ない。ウェポンレイダーの手掛かりが掴めたらと思ったけど、それで誰かが捕まったりとか、そういうのは望んでない。


 俺は、チビチビと果汁酒を飲む。


「とりあえず、塔を攻略して今度は最上階へ向かうつもりです」


 中から。面倒ではあるけどね。


「うん、君らの見立てでほぼ正解だと思うよ。ズルはいけない」


 教授は何度か頷いた後、俺にあるモノを持ってきた。


「ほれ、大竜素材で、魔法杖を作ってみた」

「もうできたんですか!」


 早いなぁ、さすが妖精族。


「……ちと、早すぎませんか?」


 大丈夫? 手を抜いてない?


「こんな楽しい素材で作るとなると、ついね。どうもアタシら職人は自身の時間を加速させて没頭していたらしい」

「時間加速……?」

「おっと、今のは妖精族の秘密だ。聞かなかったことにしてくれ」


 何それ、気になる。時間加速とか、かっけぇじゃん、そういうの。


 ともあれ、教授が机の上に置いたそれは、一メートルほどの長さの杖。先端にエメラルドグリーンの宝玉がついていて、そこから半分くらいまで緑がかった木の皮が張られているようだ。残り半分はミスリルっぽい光沢がありながら何か別のものが混じっているような材質でできていた。


「……うわ、めっちゃ軽い」


 試しに手に持てば、長さの割にとても軽かった。プラスチックみたい。片手でも余裕でバトン遊びができそう。重心が宝玉のあるヘッドのほうにあるので、振り回したら、その部分が特にスピードが出そうだ。


 俺が杖を色んな角度で見ていると、リリ教授が口を開いた。


「ヘッドの魔石は、大竜の魔石の一部を切り取ってオーブに加工した。杖本体はミスリルと大竜の骨を加工したのを合成した、たぶんこの世にここしかないオリジナル材質だよ。どうだ、軽いだろう?」

「ええ。……しかもこれ、頑丈なんでしょう?」

「もちろん。ただのミスリルよりは丈夫だと保証するよ」

「この木の皮っぽいのは?」

「それも合成素材だよ。大竜の鱗と、妖精界のとある木材を使った」

「とある木材?」

「他種族には秘密さ。いくら君でもね」


 何かすげぇもん使ってるんじゃないでしょうね……。聞くのが怖いわ。


「一応、ぶん回しても壊れないようにはできてる。柄のほうも、並大抵の刃物じゃ、切れたり折れたりはしないはずさ」

「これで直接ぶん殴れるわけですね」

「そういう使い方にも対応はしている。……ただあまり突きはお勧めしない。突くなら柄のほうでやれよ。オーブは簡単には傷はつかないが、絶対じゃないからね」

「了解です。ありがとうございます」


 お礼を言う。この軽さなら日常的に持ち歩いても負担にならない。これで俺もベルさん並にレア武器持ちとして認識されるだろう。……ウェポンレイダーさんが襲ってくるに充分な。


 さて、その他、大竜素材の小型盾、鱗を使った軽鎧、小手などの防具を渡された。


「レザーアーマー、スケイルアーマー、ブリガンディン……まあ、どれも大竜の鱗を使ってるから、大抵のものより頑丈だよ」


 むしろ、金属製のフルプレートアーマーより強い、と言われた。さすがドラゴン、何ともないぜってか。


「しかも君のは大竜の骨と血を混ぜ込んだやつを使って、一から作ってるさらに特注中の特注品だからね。強度はさらに上がってるし、それでいて軽い」

「……服一枚着てるくらいですね、これ」


 走ったり激しい運動をしても、装備のせいでバテるなんてことはなさそう。スゲェはこれ。マジで感謝しかない! 改めて、ありがとうございます! 感謝、感謝!


 なお、装備はエルティアナ用もあって、大地竜の弓――やや大型だが、大竜の骨と血を合わせた合成弓で軽量かつ耐久性にも優れる。彼女用のスケイルアーマー、大竜のガントレットなどなどが用意された。


 ノーム妖精さんたちが、自分たちがこしらえた装備に満面の笑みを浮かべているのをよそに、ひとり様子をみていたベルさんが言った。


「オレには何かないのか?」

「おや、ベルさん。君も大竜装備をお求めかね?」


 リリ教授が意外そうにしながらも、どこか悪戯っ子じみた笑みを浮かべる。


「君はどれも特注装備だから、いまさらいらないと思ったよ」

「大竜製の武器のひとつも欲しいな、と思ってな」


 これでも割とコレクターでね――ベルさんの言葉に、教授は笑みを深めた。


「なるほど。ご依頼あらば応えるのが職人だ。ちなみに希望の武器はあるかな?」

「剣は定番だな。……ふむ、せっかく大地属性の大竜だ。両手で持つ斧なんかいいかもな」

「切りたい大木でもあるかい?」


 教授が冗談めかすと、俺も冗談に乗った。


「木こりを目指すのかな、ベルさん?」

「魔の森の木を全部伐採してやるのもいいかもな」


 笑いが室内に木霊した。妖精さんたちは、そういう自然破壊ネタは受け付けないかと思ったが、そうでもなかったようだ。……あるいは冗談で片付けたのかも。


「そうそう、教授。俺ももうひとつ武器が欲しいんですが」


 俺がついでとばかりに切り出せば、リリ教授の目が光った。


「ほう、言ってみろ」

「サブウェポンなんですが、片手用のメイス、それか斧。同時に魔法杖として使えたら最高なんですが……」


 説明しながら、適当に図を描いてみる。せっかく大竜の牙とかあるんで、そういう近接系の武器があってもいいだろう。

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