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第67話、目で見る魔力


「ウェポンレイダーが透明と言っても、別に異空間にいるわけじゃないんだ」


 ベルさんがそんなことを言った。


 ここはクーカペンテ戦士団のアジト。邪神塔ダンジョンに挑む前に、大竜の素材をどう活用して戦力アップに繋げるか話し合っていた。


 だが、希少武器を狙って現れるかもしれないウェポンレイダーへの対処が必要だという話になり、先のベルさんの発言となる。


「姿を消しているのは魔法具が発動しているだけだ。『魔力の目』で見りゃ、奴の姿も見える」


 それでベルさんは、スタンピード迎撃の際に、俺に忍び寄る奴を発見したのだ。


「魔力の目……?」


 ヴィックがキョトンとする。どうやら初めて聞く単語だったようだ。彼はティシアと顔を見合わせる。

 その反応に、ベルさんがため息をついた。


「おいおい、マジか。この中には魔術師もいるだろう? 誰か使えないのか?」

「どうだろう……?」

「魔術師はいますし、魔法を扱える者は少なくないですが……」


 騎士であるティシアは表情を曇らせた。


「聞いたことがありません」

「そんなんで、どうやってダンジョンの魔法トラップをかわすつもりなんだ? いや、ウェポンレイダーを見つけるつもりだったんだ?」


 お話にならない、とばかりに椅子にもたれかかるベルさん。真顔で指摘されたせいか、ヴィックたちは閉口してしまう。


 俺は助け船を出すことにした。


「魔力の目が使えると、色々便利だよ。魔法効果で姿を消している奴も見つけられるようになるし、ベルさんが言うようにダンジョンのトラップ発見の助けになることもあるんだ」

「そんなに便利なのか」


 ヴィックが顎をさすった。


「しかし、一般的にそういう方法を聞かないが……。魔術師だけの高度な魔法なのか?」

「魔力を見るだけだぞ? 魔術師かどうかなんて関係あるか」


 ベルさんが首を横に振った。ティシアが口を開く。


「それでは、私たちでも習得できるのですか?」

「できるさ。ジンだって使えるんだ」


 うん、俺は魔法を覚えて、結構早い段階で教わった。魔力という存在を見ることで、魔法を行使することの幅が広がったからね。


「いや、ジンは魔術師じゃないか」


 使えるのは自然だろう、というヴィックに、ベルさんは首を振る。


「お前たちは知らないだろうが、このジンは二カ月前まで魔法の『ま』の字も知らなかった男だぞ。そんな男でさえ使えるんだから、魔術師云々は関係ない」

「二カ月!?」


 ティシアがビックリして目を見開いた。ヴィックは否定的な顔をした。


「ベルさん、いくらなんでも、そんな嘘には騙されないよ。ジンのレベルは高位魔術師、それも並の高位術者より上だ。わずか二カ月とかあり得ない」


 冷静な指摘に、隣のティシアが騙されたかかったと思い赤面している。


「いや、別に嘘はついていないよ」


 俺は勘違いを正すことにする。


「師匠がよかったんだ。ほんと、俺が魔術師になったのは、つい先日――二カ月ほど前なんだよ」

「……」


 ヴィックが真顔で黙り込む。……その目はまだ疑っているな。


「魔法を覚えて二カ月で、大竜を討伐……? それを誰が信じるんだ? 本当だとすれば、ジン。君が天才だということだろう」


 俺はベルさんを見た。天才だってさ、初めて言われたよ、そんなの。ちと嬉しいが、そんな天才ではないと思う。


 ベルさんは肩をすくめた。


「忘れていた。人間は魔法を学ばないと使えないと思い込んでいるんだったな」

「違うのですか?」


 ティシアが興味深いとばかりに前傾になった。


「普通は、魔術師の師が手本を見せて、効果を学び、呪文の詠唱を覚え、反復して練習するものだと思っていたのですが」

「そもそも、呪文なんていらない」


 指摘するベルさん。


「いいか、魔力というのはあらゆるところに存在していて、大気や土や自然、生物、お前たちの身体の中にもあるんだ」

「はい、それはわかっています。ゆえに、人は自らの体内の魔力に働きかけ、それを放出することで魔法を使うのです」


 すっと胸を張ってティシアが告げた。何だか模範解答をする優等生みたい。

 しかしベルさんは落胆した、という顔になる。


「いや、わかってねえだろ。何で自分の中の魔力を使う」

「え……?」

「どういうことだ?」


 ヴィックが首を捻る。ベルさんは馬鹿を見る目になった。


「いいか、あらゆるところに魔力は存在するっていうのは、こういうことだぞ」


 その瞬間、部屋がうっすらと青に染まった。まるで魔力眼で見た世界のように、色がついたのだ。


「今、青く見えるのは全部、魔力だぞ。……ああ、心配するな有毒なガスとかそういうのじゃない」


 色がついたことで少々パニックに陥る周囲。毒だと思って息を止めた者もいたようだ。


「いつもお前たちは、空気を吸うように魔力も吸ったり吐いたりしている。いま見えているのが魔力だ。オレ様が着色してやったからな。魔力の目ってのは、こういうのを見たり、あるいは目で見えない魔法の効果を見ることができるんだ」


 ジン――とベルさんが俺に言った。


「この色をつけた魔力を消してみろ」

「消す……?」


 これって、大気中の魔力に色をつけたって言ってたな。触れられないものを消すってなると、汚れを拭き取るとかそういうのじゃないな。元の大気――無色透明な室内を想像して。魔力よ、色をなくせ。


「あ」


 ティシアの声。俺は自然と目を閉じていたようで、そっと目を開ければ、青の世界は消えていて、元通りになっていた。


「お見事。色が消えたな、ジン。お前、どうやった?」


 ベルさんがニヤニヤしながら聞いてきた。


「いや、着色された空気を、元の透明に戻そうって思っただけだよ」

「……聞いたな? ちなみに、ジンは今の色消しの魔法を初めて使ったぞ」


 ヴィックとティシアは絶句したまま、俺を見ている。ベルさんは続けた。


「変に先入観を持たないことだ。こと、魔法に関してはな。ジンのように、疑わず、魔力に働きかければ、大体のことはできるもんなのさ」


 うんうん――俺は頷く。ベルさんは、二人を見た。


「それで……魔力眼を使えるようにする気になった奴はいるか?」

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