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第66話、大魔石の使い道


 センシュタール工房。

 俺とリリ教授は、一メートル大の翡翠色の大魔石を見やる。


「しかし、よく手に入れられたね。大竜の魔石なんて、他にいた者たちも欲しがったんじゃないか?」

「ええ、仲良く半分にでも、って思ったんですが、ベルさんが功労者である俺が持つべきと言いまして」


 クーカペンテ戦士団の魔術師も欲しがった大魔石である。俺から話を聞いた教授は、リビングでお茶を飲んでいるベルさんにサムズアップする。


「いい仕事だ、ベルさん」


 ベルさんも教授のそれに無言ながら親指を立ててみせて応えた。リリ教授的には、ベルさんが正しかったらしい。


「さて、丸っと手に入れた魔石……こいつをどう料理するかだが――」

「食べるんですか?」


 さらっと冗談を口にする。すると、教授は唇の端を吊り上げた。


「岩食の趣味はないんだがね。順当に考えれば、手頃な大きさにカットして、杖や防具、魔法具につける触媒に使うんだが……」

「少しもったいない気がしますね」

「そうだな。いや、カットしたら最上級の魔法具とか、いくつも作れるだろうから、それはそれでそそられるんだけどね」


 とはいえ、せっかくのでかい塊だ。切断するのは、少し惜しい。かといって、このままの大きさを持ち運ぶのは無理がある。


「このままの形で活かすなら、どこかに固定して、大きな魔法や装置の動力にするくらいかなぁ」


 教授曰く、小さな集落ひとつを覆う魔法障壁を展開させたり、あるいは全ての照明を魔力で灯るものに変えて、その魔力供給に用いても充分利用できるだろうとのことだった。


 以前、透明化魔法で魔法具を作ろうかとしたが、これを常時魔法として展開して、集落ひとつを隠すこともできるのでは、とも言われた。


「そう聞くと、凄いですね。この大魔石は」

「伊達に大竜の魔石ではないということだね」


 強力なブレスを吐くドラゴン種。その上位の大竜である。……ブレスか。


「ドラゴンのブレスと同等の威力を持つ攻撃を放つ砲台の魔力供給源とかもできそうですね」

「人間さんは、そういうの好きだよな。アタシはお勧めしないが、できるだろうね」


 教授は、魔法砲台には関心が薄かった。どうも口ぶりからすると、嫌っているようにもとれる。大昔に大竜を討伐した際に、人間たちが大魔石をそういうふうに利用したのかな……?


 男の子的には必殺兵器みたいで、ロマンを感じるのだが、使い方としては物騒だよな。教授があまり乗り気でないのも、何となくわかる。妖精さんたちって、そういう武器嫌ってそうだという俺の勝手なイメージ。


 まあ、実際にそんな砲台を作ったとして、どうしようっていうんだ、という問題もある。そんな兵器を有力貴族や王国が放っておくわけもなく、取り上げられるのがオチな気がする。


 そもそも砲台なんて、個人で運用するものでもないだろうし。設置したらしたで、俺もそこから動けなくなる。大魔石を置いてどこかへ行くなんてできないし。


 砲台でなくても、設置型だとそのあたり問題だな。俺たちが定住するならともかく、邪神塔を攻略したら、カスティーゴからも離れるだろうし。まさか、それごと動かすってなれば、話は変わってくるか――。


「動かす……」

「ん? どうした?」


 教授が俺の呟きを聞き逃さなかった。俺の中で、ぼんやりとしたものが形を成していく。


「乗り物なんか、どうかなって」

「乗り物?」

「ええ、たとえば――」


 自動車とかさ。


 こんな中世ファンタジーな世界には機械もないんだけどさ。大魔石を動力にして走る車なんて作れないだろうか。


 ここ最近の魔法具作りとお勉強で覚えた術を利用する。魔力を流せば発動する技術を応用、その稼働用の魔力を大魔石から供給すれば、できるんじゃないだろうか。


「ちょっと作ってみたいものがあります。……もちろん、できるかどうかわからないですけど」

「案があるなら聞こう」


 リリ教授の目は、まるでお宝を見つけたように光っていた。俺の思いつきに興味津々の時に見せるそれ――おそらく乗り物がこの世界にはないとんでもないモノに違いないと察したのかもしれない。



  ・  ・  ・



 工作机の上に紙を広げ、俺は大竜の大魔石を利用した『自動車』の案を、教授やベルさんたちに披露した。


 エルティアナは理解できなかったのか、見守るだけだったが、妖精たちは教授同様、理解しようと真剣な目を紙の上の図などに注いでいた。


 正直、アドリブもいいところだった。俺自身、車の構造は大まかにしか知らないし、個々のパーツの作り方とか機能とか全て把握しているわけではない。


 だから、魔法の効果と、魔法具の作り方を参考に、個々の部品を当てはめて、車らしいものをでっち上げた。


 思いつくままに書いたり説明したりしたので、継ぎ接ぎだらけの玩具みたいなものの塊になってしまった。だがそこは細部を詰めていくことで、よりきちんとしたものになっていくだろう。


 リリ教授は、ずっと目を輝かせて、俺の説明を聞いていた。俺が細かな部品の説明をした時も、魔法具作りの職人としての経験から、より効率的な魔法の例を挙げてアドバイスしたりした。


「こいつは、まるで古代文明時代にあったというカラクリみたいだな」


 上機嫌の教授。古代文明時代とは、今は滅びた、かつて存在していたという超文明らしい。失われた文明のカラクリとか……ロマンだねぇ。そっちもちょっと興味ある。


「まったく。君は本当に面白いよ」


 教授は、ところ狭しと書き殴られた図を眺めて言った。


「よくよく聞くと、アタシにもできそうな技術ばかりだ。けど、それをひとつに集めて、乗り物という形に昇華してしまう発想がね……こりゃアタシらにはなかったわ」


 ……元の世界であったもので、別に俺の発明じゃないぞ。だいたいのところが説明できるのは、乗用車としてありふれた存在で接する機会が多かっただけに過ぎない。


 というわけで、大魔石動力の乗用車の案が画から具体的な図面へとなっていくのだが……残念、こっちばかりにかまけているわけにはいかないんだ。


 俺たちは、邪神塔ダンジョンの攻略という仕事があるのだ。ヴィックたちクーカペンテ戦士団も巻き込んだこのダンジョン制覇を、早々に再開する必要があったのだ。


 まあ、俺が留守の間は、車に使うだろう部品など、教授や妖精さんたちで可能な部分で進めてもらうことにする。


 さて、何か忘れている気もするが、邪神塔ダンジョンに挑もう。

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