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第65話、凱旋と戦利品


 カスティーゴに大竜の首を持ち帰ったら、大騒ぎになった。


 まあ、当然か。何せ、大竜だ。伝説の竜のバカでかい頭が運ばれてくれば、騒ぎにならないはずがないのだ。


 ふだんはギルドから出てこないギルマスのロベール氏も、これには自ら顔を出さずにはいられなかったようだ。


 俺、ベルさん、ヴィックらで、大竜の討伐依頼を果たしたことを、冒険者やその他野次馬たちの前で報告。


 色々素材として剥ぎ取ってはいるものの、目の前に大竜の頭がある以上、ロベール氏とて難癖はつけようがない。報酬についても、皆の目があるから冒険者ギルドとしても出さざるを得ないだろう。……支払いをしぶれば、カスティーゴ中の冒険者を敵に回すことになるからだ。


 その日は、そのまま多くの冒険者に囲まれ、大竜討伐の顛末(てんまつ)を披露することになった。つまり、戦勝を祝う飲み会へと突入した。


 ギルドや守備隊宿舎などから酒が運び込まれ、人々が歓声を上げ、お祭りへと発展する。町の住民たち――冒険者も含めて、伝説の竜をいかにして倒したのか誰もが聞きたがった。それをベルさんやユーゴらが上手く武勇伝として語り、場は大いに盛り上がった。


 俺としては、早くリリ教授に成果を報告したかったんだけどね……。大竜討伐の立役者の位置に祭り上げられたので、早々に会場からエスケープは許されなかった。


 俺は酒をチビチビとやりながら、場に集まった人々をそれとなく見回した。冒険者や守備隊員、町の住民ら……。大竜の討伐で、脅威が去ったことを喜ぶ人々。


 ……この中に、例のウェポンレイダーがいる。


 そんな思いがよぎった。大竜の素材は超レアだ。そしてそのレア素材を使って、武器とか防具を作ったら、凄いものができるに違いない――そう考えるのが普通だ。


 そして大竜素材の武具があれば……あのウェポンレイダーが狙わないはずがなかった。


 カスティーゴに奴が潜伏しているなら、この場にいて大竜素材がどうなるか、聞き耳を立てているに違いない。


 果たして、誰がそうなのか。希少武具を手に入れるために、持ち主を暗殺する姑息な殺人鬼は……。


 疑い出したら、どいつもこいつも怪しく見えてくる。


 楽しそうに酒を飲んでいる者。ユーゴらの語る物語を夢中になって聞いている者。遠巻きに見守るような温かな視線を向けてくる者。連れや友人と討論したり談笑したりしている者、などなど……。



  ・  ・  ・



 戦勝会の後、冒険者ギルドの職員から、大竜の素材の買い取りの相談があった。俺たちが首以外を懐に収めているので、それらをぜひ売って欲しいということだった。


 大竜の素材は、どれをとっても簡単には手に入らない代物だ。それを売るだけで、一財産築ける。ギルドとしても儲けたいんだろう。


 魔物の解体や買い取りも冒険者ギルドの業務のひとつだから、申し出自体は珍しいことではない。

 ヴィックたちと分け前の相談して、それで残ったらギルドに売ると、ひとまず答えておいた。ただ、何も出さないのもアレなので、お裾分けの意味も込めて大竜の肉をいくらか買い取ってもらった。


 腐る前に処分を――まあ、俺のストレージなら腐ることもないんだけど、そのストレージの存在は、基本的には秘密にしているので、怪しまれる前に出しておこうというわけだ。


 さて、いよいよ手に入れた大竜の素材の活用を考える。いやはや、これで何を作ろうか、ワクワクしている俺である。


 どういう風にするのがいいか相談するため、俺たちはリリ教授のいるセンシュタール工房へと足を向けた。


 いつもの工房。のんびりしている妖精たち。工房に入ると、いつもの通りの教授と工作妖精たちが歓迎してくれた。


「やあ、待っていたよ。真っ先にこっちへ来ると思っていたのに」

「まず面倒な報告を先に済ませておこうと思いましてね。……大丈夫だったか、とか聞かないんですか?」


 寂しいなぁ、と俺が苦笑すれば、教授は鼻をならす。


「ふん、君たちが無事なのは見ればわかることじゃないか。……というのは、さすがに冷たいか。なに、無事なのは妖精たちが教えてくれたからね」


 なるほど。凱旋したのを見ていたのは、人間ばかりじゃなかったということか。


「まあ、酒を飲んで、ドンチャン騒いでられるなら大丈夫だろ?」

「……ひょっとして最初に来なかったから拗ねてます?」

「拗ねる? どんでもない! アタシが何で拗ねなきゃならんのだ?」


 心外だと肩をすくめるリリ教授。しかし工房にいた妖精たちは、そんな彼女を見てクスクスと忍び笑いを浮かべる。それを教授が目で制すれば、俺は本当は拗ねていたんだなと察した。


「それはそれとして、成果を見せてもらおうじゃないか。持ってきたんだろう?」


 リリ教授の目が光る。興味津々といった彼女に、俺はストレージからこちらがもらい受けた大竜素材を取り出した。



  ・  ・  ・



 魔物の素材がどれだけレアであろうとも、その利用の仕方というのはだいだい決まっている。


 角や爪、牙は武器に、鱗や骨、その他外皮、毛皮などは防具や服などに……。一部、アクセサリーや魔法具、魔法薬などに、というのもあるにはあるが。


 軽鎧や小手、盾などに大竜の鱗を。


 俺とエルティアナは、前衛には立たないからガッチリしたものの必要性は薄い。だが軽くて頑丈な素材を用いた防具への更新は戦力アップと言える。


 問題は武器か。ベルさんは専用武器を持っているが、俺とエルティアナは近接武器を使う機会がほとんどない。大竜素材の近接武器を仮に作っても、宝の持ち腐れか。


「そこはお前、近接戦闘もこなせるようにしたらいいんじゃないか」


 と、ベルさんは言うのである。うーん、まあ、そうなんだけど、魔術師だぞ俺。とっさの近接戦も魔法で対応しているんだけど……。やっぱ武器も使えるようになってたほうがいいのかな。


 さて、今回手に入れた戦利品の中で、一番の大物といえば、やはり『魔石』だろう。


 魔物の体内にある魔力の結晶。それが魔石だ。


 もっとも、すべての魔獣、魔物が魔石を持っているわけではなく、魔法的な力――たとえば各種ブレスを使うドラゴンような、固有の技を持っている種族が体内に保有している率が高い。

 言うまでもなく、大竜は大物であり、その保有魔石も大きく、そして膨大な魔力を含んでいた。


「大魔石。ランク分けすれば、最大のSランクだ」


 大きな翡翠(ひすい)の塊――大竜の魔石を、リリ教授はそう評した。


 パッと見た感じ、大竜の大魔石は一メートル大の大岩なのだが、淡く光を放っている。もうそれだけで魔力がたっぷり含まれているのを予感させる。魔器を除けば、大きくてもソフトボール大のサイズの魔石しか見てこなかったから、この大きさは異常だ。


 もし、魔法杖の触媒サイズに分断したら、いったいいくつできるんだろうな……。


「で、これをどうするね?」

「どうしましょうね……?」


 俺は割と本気で考えてしまう。


「これほどの魔石なら、何ができます?」

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