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第64話、大竜素材、ゲットだぜ


 大地の大竜は倒れた。


「やりやがったな、ジン!」


 ベルさんから髪をクシャクシャにされた。彼がお褒めに手を出すのは珍しい。ユーゴやラーツェルら囮役として攻撃メンバーに参加した戦士たちからも興奮も露わに肩を叩かれたり激賞された。


「さすがです、兄貴ィ!」

「アンタ、本当に大竜を仕留めちまったんだな! 恐れ入ったぜ!」

「いや何、君らも頑張ってくれたからね……」


 皆の戦果だと強調しておく。するとラーツェルは不思議そうな顔になった。


「アンタ、大竜を倒したのはオレだって叫んでもいいんだぜ?」

「やだよ、そんなかっこ悪い」

「かっこ悪い!? どこが!」

「ラーツェル、ジンの兄貴は謙虚なんだよ。お前も見習え」


 ユーゴが言ったが、ラーツェル自身は納得できないようだった。ま、何にせよ、討伐できたのだからめでたいだろ、なあ?


 待機組として、戦場から離れていたヴィックらクーカペンテ戦士団の本隊も合流する。討伐された大竜に彼らは喜びを爆発させた。

 ヴィックと、大竜の死骸を見上げる俺に、戦士団団長は言った。


「最初のプランで決着がついてよかった」

「ちなみに、俺が失敗した時のプランBはあったのかい?」

「オレが、大竜の首を落とす」


 ベルさんが素っ気なく答えた。ああ、魔器を使わないなら、ベルさんの魔王パワーで何とかしてもらうしかなかっただろうね。ヴィックは冗談と思ったのだろうか、苦笑している。


「正直、我々には手はなかったよ。だからこそ、大竜を倒した者は、竜殺し=ドラゴンスレイヤーとして賞賛されるわけだ」


 ……俺もそのドラゴンスレイヤーの仲間入りってか? 別にそれはいらないんだけど。


 ベルさんが首を傾けた。


「とりあえず、せっかくの獲物だ。解体して素材にしてしまおう」

「賛成。これほどレアなものはないだろうね」


 大竜の素材を武具に、というととても魅力的だし、普通に売るだけでも高額買い取りが期待できるだろうな。収集家も垂涎の品じゃないかね。


 ヴィックは、すでに大竜に取り付いている部下を眺めながら眉をひそめた。


「だが、大竜の鱗は、大抵の刃物じゃ傷しかつけられないぞ。どうやって切り分けるんだ?」

「任せろ」


 ベルさんが進み出て、背中の二本の剣を抜く。戦士団の面々も、何が始まるのかわからず、注目している。


 すっ、と息を整え、ベルさんが剣を振るった。刃が鱗と共に厚い肉を裂く。おおっ、と周りから声が上がる。


「すげぇ、あの堅い鱗をあんな簡単に……!」


 驚く戦士たち。まあ、本気を出していないだろうけど、あれで魔王様だからね。俺はニヤニヤしていると、ヴィックが首を振った。


「なるほど。あれなら確かに大竜の首も落とせるな」


 何故、初めからあの案を出さなかったのか、と彼が言うので、俺は推測を口にした。


「そりゃ、元気なうちは近づくのも一苦労だし、今は死体だから動かないけど、生きているうちに動き回られたら、両断するのも難しいからじゃないかな」

「いちいちもっともな意見だ。……改めて思うが、君らは揃って規格外だな」

「褒めてるんだよな、それ?」

「そのつもりだよ、一応」


 ふむ、ではそういうことにしておこうか。そのあいだにもベルさんが大竜の外皮を切っていく。


「大竜の肉ってうまいと思う?」


 思わず口に出せば、ヴィックは頷いた。


「大変興味深くあるね」

「あれだけ肉があるんだ。腐る前にある程度処理してもいいと思う」

「毒があるかが心配だが……」

「ベルさんに話を聞こう。あの人、食には詳しいから」


 などと軽口を叩いている間も、解体作業は進む。結果、その日一日がかりの大仕事となった。もっとも、ベルさんがいなければ、もっと大変だっただろうというのは間違いない。


 ちなみに、大竜の肉は、一部が晩餐となって俺たちの胃に収まった。

 毒を生成する器官さえ避ければ問題ないというベルさんの貴重なご意見である。塩で味つけした新鮮な竜肉は大変美味しかった。


 なお、ベルさん曰く、大竜の肉を食べたので、俺たちは寿命が少し伸びて、身体も不死ではないが、病気になりにくく強くなったそうな。……何てこったい!



  ・  ・  ・



 さて、大物過ぎるので、解体した肉を全部消費することはできなかった。クーカペンテ戦士団全員が食べてもなお余裕な残りは、俺のストレージに放り込んでおき、その他素材の輸送もストレージ任せにした。


 大量の素材を運ぶだけでも、通常ならかなりの負担だっただろうが、皆装備も軽く、意気揚々とカスティーゴへ帰還の途についた。


 素材の分け前について、大竜の鱗、爪、刃、角や骨、あと内臓の一部と、超高額な素材となるだろう『大竜の魔石』は俺たちで頂戴した。


 討伐の功労者、というか止めを刺した俺に、取り分を選ぶ権利があるってことで、皆の意見が一致した。


 しかし、それは皆のサポートがあればこその討伐だ。だから大量にある鱗、爪の半分、一部の骨や内臓――正確には血だな。これらをクーカペンテ戦士団にも分けた。


 鱗は防具の素材になるだろうし、爪や骨も武器に使えるだろう。あと、戦士団の魔術師であるケンドリック氏曰く、竜の血は魔法の薬の触媒にもなるとのことだった。


 ということで、俺もちゃんと、大竜さんの血液を回収させてもらった。


 ……というより、ベルさんが解体段階で、ケンドリック氏から、大竜の血も捨てずに、とご依頼を受けていたらしい。そんな有用な素材をドブに捨てるが如く、垂れ流しにしていたかもしれないとなると、俺もびびるわ。


『大竜の素材は、皮も血も残すところはない。全部が金になる』


 ……はい、ごもっともです。リリ教授に提供したら、大喜びしてくれそうだ。

 だが、ここでカスティーゴの冒険者ギルドに討伐報告するために、大竜の身体の一部を提出する必要があるという話になった。


「頭だな」

「異議なし」


 本当は鱗の一部だけとかにしたいところなんだがな。ちゃんと大竜を倒しましたと主張するために、頭以上にインパクトがある部位はないだろう。


 ただし、牙のように鋭い歯はもちろん、舌や目、角とかは解体して取り除いた。少々みすぼらしいものになるが、まあ、討伐者特権だ。


「そうなると、頭を載せる荷車がいるな……」

「大竜サイズだぞ? かなりでかいやつにしないといけない――」


 うんぬん、と話し合う中、俺はふとカスティーゴへの徒歩旅に思った。


 車とか、あったらなぁ……。


 いわゆる自動車。こんな中世もどきの異世界には、不釣り合いなんだけど。転移魔法も使わない、使えないとなると途端に歩きになるのは如何なものか。


 あ、何で帰りまで歩く必要があるんだ? クーカペンテ戦士団は、ポータルのこと知ってるから、ここから飛べばすぐ帰れるじゃん!

 俺は、思いつきを口にしようとしたが、その間に周囲は皆深刻な表情になっていた。


「――だがこれで、ウェポンレイダーは大竜素材を狙ってくるかもしれない」


 ヴィックが眉間にしわを寄せながら言った。ベルさんも頷く。


「ま、十中八九来るだろう。大竜素材の武具ならレア中にレアだ」

「今度こそ、奴を仕留めてやる」


 ヴィックたちの、仲間を殺された怒りは、いまだ健在のようだった。


 ウェポンレイダー――希少武器を狙った殺し屋。そういや、俺もあいつに狙われているんだった。


 ちょっと憂鬱になった。

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