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第63話、ジンと大竜 生と死の狭間


 大竜が右へ方向転換した。接近する攻撃メンバーに気づいたのだ。


 まだまだ距離があり、弓などの投射武器の射程外。だが、首が長く背丈もある大竜には、そのブレスの攻撃範囲には充分だったようで――


 おどろおどろしい緑色の液体ブレスが放たれる。……うげぇ、気持ち悪! 考えようによっては吐瀉物ぶっかけられるようなものだが、そのブレスは弾丸のように素早く、見方によっては中々、様になっている格好よさ。


 俺は何とも言えない心境になる。映画とかで見る分には格好いいんだが……。


 ベルさんたち攻撃メンバーが散開したようで、毒ブレスを回避した。塊ひとつで十人くらい軽く飲み込めそうなでかい塊だったんだけど……しかも着弾点から蒸気出てるし。


 思わず唾を飲み込む。あれは喰らったらあかんやつだ……。


 攻撃メンバーが大竜の注意を引いているうちに、俺とエルティアナは奴の後方へと回り込む。……くそ、あの野郎、方向を変えやがった。二本足で攻撃メンバーたちとの距離を縮めようとしている。


 死角に入り、魔器ファナ・キャハをぶち込む。それまで、もってくれよ……。


 俺が念じたその時、大竜が足を止めて腕を地面についた。すると大地を引き裂く音と共に巨大な岩のトゲが無数に生えた。まるで目の前で山が地面を突き破って出てきたような。


 超特大アーススパイクってか! 攻撃メンバーの姿が見えなくなった。範囲攻撃に巻き込まれたのだろう。あれを初見で範囲外に避けられる!?


 とか思っていたら、小さな影がアーススパイクの間から現れ、大竜への肉薄を継続した。三、四人か。とりあえず、うまく切り抜けた者もいたようだ。あの中に、当然のようにベルさんはいるんだろうな。


 大竜が再びブレス攻撃。奴が首を巡らしているところから見て、攻撃メンバーはよく回避しているようだ。


 距離が近くなったのか、大竜は足を止めての迎撃に切り替えた。……狙うなら今か。死角とはいえ、真後ろからファナ・キャハを当てたのでは仕留め損なう恐れがある。ほら、人間も尻は肉が厚めだっていうじゃない? まして尻尾に当てても仕方ない。


「ジン!」

「肉薄する!」


 エルティアナの呼びかけに俺はそう応じて、さらに大竜へと接近する。突くなら横腹から内臓、そして理想をいえば、胸を裏からかっさばいての首飛ばし。しかしそうなると、かなりの接近だ。


 奴が振り返ったら、間違いなくこちらも視覚に入る位置。一発で仕留めなければいけないという制約がある以上、リスク覚悟で突っ込む。……まだ、気づいてくれんなよ!


 突然、大竜の周りが光った。魔力がうねり、一瞬、魔法陣のようなものが開いたように見えた。もちろん、魔法陣は気のせいなのだが、範囲内に存在した魔力が大きくかき乱されたのは事実だった。


『来るぞ、気をつけろ!』


 ベルさんの魔力念話が届いた。念話まで使って警告ということは、かなりヤバイ攻撃だ。


 大竜の周囲に氷柱の形をした巨大な岩塊が複数生成された。……おいおい、マジで魔法じゃねぇかこりゃあ!


 大竜の目が、こちらを――俺を見ていた。……クソッタレ!


 奴の頭上にそんなものが無数に浮かんだとなれば、次に来るのは想像がつく。


「エルティアナ! 注意!」


 次の瞬間、氷柱型の岩が、雨のごとく落下してきた。ベルさんたち攻撃メンバーはもちろん、俺とエルティアナの方にも。というより、大竜は自分の全周に岩の雨を降らせたのだ。


 でかい岩、岩、岩ァ! 心臓が掴まれたように痛い。地面を揺さぶり、突き立てられる巨岩の柱。俺とエルティアナは避ける。デカすぎる岩が高速でトラックさながらで突っ込んでくるとなれば、その恐ろしさは想像できよう。


 防御魔法があっても、それごと押しつぶされそうだぜ! アドレナリンが弾けまくって、精神が昂ぶっている。まるで、アクションゲームで操作しているキャラが死ぬ寸前の状況を反射で連続回避しているようなハイな気分。……勢いに飲まれて注意力が散漫になるやつだ。


 落ち着け俺。岩の雨をくぐり抜けて大竜は、もう目と鼻の先だぞ。喰らえよ、ファナ・キャハ!


 俺は充分距離を詰めたので、魔器を使用すべく構える。……あ、くそ、魔力集中をしていない!


 ほらみろ、本当なら射点についたら即発射できるようにしておくつもりだったのに、巨岩に気をとられて、それを抜かった!


 魔器ファナ・キャハが赤い魔力がまとい、そのエネルギーを収束させる。だが大竜の目が俺を凝視している。魔力の流れに敏感といわれる大竜が、至近距離の魔力集中を見逃すはずがないのだ。


 ドクリ、と心臓が鳴る。発射までのわずか数秒が、永遠のように感じる。……もし地獄があるなら、こんな感覚なんだろうか、と一瞬わけのわからない想像がよぎった。


 大竜が首をひねり、俺にその口腔を開いた。ブレスかこの野郎! 俺とオマエ、どっちが速いか――


 ボンと、大竜の鼻っ面で小さな爆発が起きた。何が――いやわかる。俺の後ろから飛んできた矢――爆弾矢だ。エルティアナだ。彼女が撃ったのだ。


 爆弾矢はしかし、大竜に傷を追わせることはできなかった。恐るべき鱗の厚さ。だがそれは猫だましの一発の如く、一瞬の怯みを大竜に与えた。


 ありがとうよ、戦友!


 その瞬間、俺は魔器ファナ・キャハを開放した。


 禍々しい赤。


 血の色をした魔力の放射が放たれ、大竜の鱗を直撃。その右腕ごと、脇を突き抜け、胸を貫き、そしてこちらへ曲げている首をも引き裂き吹き飛ばした。



  ・  ・  ・



 大竜の首が二十メートルくらい飛んだ。


 残った身体が傾き、グラリと地面に激突した。地震が起きた。右腕ごと胴体の一部をごっそりと失い、身体のバランスが保てなかったのだろう。


 その巨体が横たわる際、俺はとっさに距離をとった。だが舞い上がった砂煙が吹きつけ、思わずむせた。……だっ、クソ。砂が口に入った!


 大竜は動かない。倒したのだ。俺たち、やったんだ……! ふはっ!


「ジン、無事ですか……!」


 エルティアナの声に振り返る。彼女は装備を砂まみれにしたまま立っていた。俺は思わず歩み寄る。


「おう! 君も無事そうで何よりだ!」


 そして興奮冷めやらぬまま、俺はエルティアナに抱きつき、その背中を叩いた。


「ありがとう! 君が奴を逸らしてくれたおかげだ!」

「ジ、ジン……!? あの――!」


 驚いた様子のエルティアナ。見れば物凄くビックリした顔で、さらに真っ赤になっていた。

 俺は彼女をハグから解放して、ついている砂を払ってあげた。


「命拾いした。ありがとう」

「そんな……わたしは、ジンを守るという役割を果たしただけで……」


 そのために俺に援護役として随伴したのだ。柄にもなく戸惑いながら照れているのが、無性に可愛らしい。抱きしめたいな……っと、もう抱きしめたな、うん。


「そう、役割を果たした。困難な状況で、確実な仕事をしてくれた。だからこそ、ありがとう、だ」


 うまくやったなら褒められて当然。本当、よくやってくれたぞエルティアナ!


「で、ですが、それ言ったらジン。あなたは大竜を倒した。……凄いです!」

「うん。そいつは、このファナ・キャハと、ベルさんたち囮役、そして援護の君のおかげだ」


 俺は改めて死骸となった大竜を見やる。ちょっと危ない場面もあったけど、案外なんとかなるもんだなぁこりゃ。


 討伐、完了だ。

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