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第61話、いざ、討伐へ


 俺とベルさん、そしてエルティアナの三人で大竜討伐へお出かけ。……なのだが。


「いいのか?」


 無理に付き合わなくてもいいんだぞ、という意味を込めて、エルティアナに聞く俺。だが彼女は行くといって聞かなかった。


 大竜がどんなものかわからないとはいえ、危険度はかなり高い。正直、死ぬかもしれない。それにも関わらず同行してくれる。


 嬉しい気持ちもある反面、彼女にとって、俺とベルさんとこうして関わっているのが、人生の全てになっているのではないかと思えて複雑な気分になる。


 他に友人がいたり、頼れる人がいたなら、俺たちと大竜退治などに付き合わなくて済んで、命の危険にさらされることはなかったのではないか。……いやまあ、冒険者稼業自体、危険ではあるのだが。


「それで、ジン」


 ベルさんが歩きながら、こちらを見た。


「大竜をどうやっつけるか、作戦はあるか?」

「今のところはないね。……てっきりベルさんに素晴らしい名案があるかと思ったんだけどな」

「んなものはない」


 楽しそうにベルさんは言い放った。まったく悲観の色はない。いやはや、ほんと、頼もしいね。


「で、冗談はさておき、お前さんなら、どうやる?」

「……鍵は、魔器が通用するかだと思う」


 俺の持つ武器での最大火力は、ファナ・キャハとなる。双頭竜相手でも通常魔法がほとんどその装甲外皮に阻まれたから、それ以上だと思われる大竜には、これしかないと思う。


「魔器の魔力もあるから、最大火力は、一回の戦闘で一発。再使用には魔力の回復をまたないといけないから、急所があるなら、そこに当てたいね」

「まあ、装甲さえ抜ければ何とかなるだろうよ。大竜も傷からの再生が凄まじく早いが、双頭竜と違って、首が吹っ飛んじまえば再生はしないしな」

「それ聞いたら、少し勝ち目があるんじゃないかって思えてきた」

「そう簡単じゃないけどな。大竜は、双頭竜より首が太いぜ」

「……ベルさんは大竜を見たことあるのかい?」

「遠目からな。戦ったことはねえよ」


 ベルさんが淡々と答えた。


「対竜装備があればな」

「あるにはあるんだよな、一応」


 リリ教授と話し合った中、上級のドラゴンと戦う時に役に立つのが、対竜装備と言われる、竜の素材を使った武具だ。かのドラゴンスレイヤーたちも、大抵なにがしらの対竜装備を持っていたと言われる。


 ちなみに、俺たちも『一応』持っている。もっとも指摘されるまで気づかなかった、というか忘れていたのだが、例のミロス山の魔術師の宝物庫から回収した物の中に、火竜の剣という片手剣があった。……だが、噂に聞く大竜の大きさを考えると、魔獣に包丁で立ち向かうレベルに感じて心許ないが。


はたしてどう倒そうか。色々考えているあいだに、カスティーゴを取り囲む外壁に差し掛かった。そこに見慣れた戦士の一団がいて、俺たちの足が止まる。


「やあ、見送りかい、ヴィック」


 クーカペンテ戦士団。随分と皆さんお荷物抱えて、お引っ越しかな? 彼らの真ん中でヴィックが苦い顔になる。


「さんざん迷ったが、おれたちも君らと行くことにした」


 それって大竜討伐か?


「おいおい本気か?」

「ここまで来て、冗談だとでも?」


 ヴィックが肩をすくめれば、何人かが苦笑した。


「我々は、大帝国という強大な敵と立ち向かわなくてはいけない。国のため、同胞のために――」


 それが彼らが戦う理由。ここにいる理由。


「大竜も強大な敵という意味では同じだ。相手は強く、立ち向かう相手としては命がいくつあっても足りないだろう。だが、ここで前に踏み出す勇気がなければ、大帝国にも立ち向かうことはできないと思う」

「……」

「おれたちは覚悟を見せないといけない。ここで引いたら、まだ準備が出来ていないからと言い訳を重ねて、足踏みを続けることになってしまう」


 邪神塔ダンジョンを攻略する――そう決めたのに、攻略の糸口もつかめず無為に時間を浪費してきた、とヴィックは言う。


「おれたちは戦う。そのためにやってきたんだ」


 城塞都市にいつまでいるつもりなのか。故郷を取り戻すためではなかったのか。ここでの日々に、そろそろケジメをつけなくてはいけない――ということなんだろうか。俺は彼らの言い分を考えてみる。


 まあ、それもひとつの理由ではある。俺やベルさんには、クーカペンテ人の意思とか大義は関係ないのだが。……ただ、覚悟は受け取った。


「死んでもこっちを恨んでくれるなよ、クーカペンテの兄弟」


 冒険者はあくまで自己責任、だからね。歓迎しよう、勇気ある者たち。



  ・  ・  ・



 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。


 というわけで、まずは大竜の近くまで移動し、それから偵察を行う。相手がわからないことには、手も限られる。実際に見たら、何か名案が浮かぶかもしれない。


「……でかいな」


 それがまず、第一の感想。


 巨大な身体は、屋外のせいか、双頭竜よりも大きく見えた。高さにすれば二十メートルくらいあるのではないか。

 深い緑の(うろこ)はゴツゴツした岩のような印象。二足歩行。足は太く、がっちりしているのに対し、腕は細腕に見える。背中に翼が二枚あるが地上を歩いている今は畳んでいる。

 一歩を踏み出すたびに、振動が地面を通して伝わってくる。

 二本の曲がった角は猛牛を思わす。トカゲ顔だが、精悍かつ獰猛さを匂わせる。目の色は赤い。


 距離はあるが、俺たちは隠れて、大竜を遠距離視覚の魔法で監視していた。林に隠れ、さらに伏せているという徹底ぶりだ。


「……どう思うベルさん?」

「地属性の大竜だな」


 同じく遠視の魔法で視力を強化していたベルさんが答えた。


「ブレスは毒と、岩の塊を生成する魔法型の二種類だろうな」

「魔法型……?」


 魔法の吐息ってか。口から岩石吐き出すってことでいいのかな?


「気をつけろよ。あの重量で足元揺らされる上に、大地系統の魔法じみた攻撃も使ってくるぞ」


 砂、土、岩の魔法を使いこなすドラゴン――おー、怖い。迂闊に近づけないし、近づいたら大変な目に合うだろうことは想像に難くない。


「翼があるってことは、飛べるんだよな……」

「得意不得意はあるだろうが、翼を広げたら、かなりのものだからな。飛ぶくらいはするだろうな」

「遠距離からファナ・キャハをぶちかましたら……やっぱ避けられるかな?」

「ドラゴンは魔力の反応にそれなりに敏感だからな」


 ベルさんは首をすくめた。


「ファナ・キャハほどの一撃なら、たぶん撃つ前に察知されて、逆にブレスを撃ってくるんじゃねえかな」

「……そう簡単にはいかないか」


 さてさて、それでもあれを倒さねばならないのだ。どうしたものかねぇ……。

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