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第59話、伝説の大竜


「大竜って何?」


 久々に呼び出された冒険者ギルド。俺はギルマスのロバール氏の言葉に、傍らの相棒に顔を向けた。そのベルさんは腕を組んだ。


「ドラゴンの中で上位種だ。幻と呼ばれる最上位種を除けば、この世に存在しているとされる竜族のトップに位置する」

「そう! その大竜が、このカスティーゴに迫っているかもしれんのだ!」


 ほとんど叫ぶようにロバール氏が声を張り上げた。……うるさいよ。


「やっぱ強いの?」

「そりゃ、下級のドラゴンもどきはともかく、ドラゴンといえば、大抵の魔物どもと比べても強い」


 まともなドラゴンはまだ見たことないんだよな……。骨の竜は邪神塔ダンジョンで遭遇したけど。双頭竜は……どうなんだろうな? ドラゴンではあると思うが、頭が複数ある時点で何か違うっぽいっていうか。体型も蛇型だったし。


「で、何でオレたちが、その大竜を退治せねばならんのだ?」

「いやだって、お前たちは腕利きの冒険者だろう!?」


 何で、と言いたげに目を剥くロバール氏。


「このカスティーゴ最強のお前たちがやらねば、誰があれを止められるというんだ!?」

「……俺たち、ここで最強の冒険者だって。知ってた? ベルさん」

「オレはそうだな。だがお前さんは、まだBランクだよな?」

「Aランク! ジン、お前はAランク冒険者だ!」


 ロバール氏は叫んだ。そうまでして、俺たちに何とかしてほしいの?


「双頭竜を倒したお前たちだ。大竜もそのように討伐してくれ」

「……ベルさん、大竜ってのは、双頭竜と比べてどんなもん?」

「双頭竜をカエルとするなら、大竜は蛇だ」


 あかんやん……。まるで相手にならん。俺はあまりの差に苦笑い。


「で、ベルさん。大竜と戦って、こちらに勝てる要素はある?」

「……」


 無言である。ベルさんさえ閉口するほど、やばいのか。


『誤解はするなよ。オレが本気を出せば、大竜だって倒せるさ。……だが、天使どもがどこで見ているかわからんからな。本気が出せんのが問題だ』


 魔力念話で、ベルさんは付け加えた。


『ベルさんが魔王パワーを発揮すれば、というレベルの相手か。大竜ってヤバイんだな』

『そりゃ、伝説になるくらいだからな。数百年に現れるかどうかだが、いざ出現したら、国のひとつや二つが簡単に蹂躙されるってんだから。このギルマスも本物は見たことないんだろうが、世界の終わりみたいに慌てているだろう?』

『確かに』


 数百年に一度あるかないかなら、当然、現代の人間で実物を見たことがある者はいないだろう。教授は……どうかな。


「相手がそんな化け物なら、王国も討伐隊とか編成しないのかね?」

「どうなんだ?」


 ベルさんがロバール氏を睨む。


「む、むろん、討伐隊は組まれるだろう! だが国が派遣する前に、このカスティーゴに大竜が来るのが先だ。通り道の守備隊や討伐に出た冒険者も返り討ちにあったらしい」


 ……そういう敵を、俺とベルさんでどうにかしろってか? 何という無茶ぶり。


「オレたちが引き受ける義理はないな」


 ベルさんがあっさりそんなことを言った。ギルマスは目を剥いた。


「な、これはギルドマスター命令だ! お前たち、命令に従え!」

「やなこった。どうせ、ここに大竜がきて、滅茶苦茶になればギルドもなくなっちまうだろう? そうまでしてギルドに従う理由を、あんたはオレたちに示せるのか?」

「……は? はぁ?」

「大竜を始末した後、あんたはオレたちに何を差し出せるかって聞いてるんだよ?」


 ずい、っとベルさんがロバール氏との間の距離を詰めた。


「まさかタダで大竜討伐させようっていうんじゃないんだろうなぁ?」

「あ、ああ、もちろん、報酬は出すとも! ギルドだけじゃない! 大竜が倒されたとあれば、ウーラムゴリサ王国からも報酬が出るはずだ!」

「でなかったら、あんたが責任もって王国から報酬を引き出すか、補填しろよ? 莫大な報酬ってやつを」


 ロバール氏の心臓の位置に指でつつくベルさん。ちょっとつついた程度なのに、ギルマスは後退して椅子に倒れ込んだ。


「ああっ! その時は何とかするから、どうか、大竜を討伐してくれ!」

「念書を書け。神に誓って約束は守れよ」


 蛇に睨まれたカエルだな。俺は、ベルさんとギルマスのやりとりを見守る。


 かくて、俺たちは、突如現れた大竜を退治しにいくことになった。



  ・  ・  ・



 クーカペンテ戦士団のアジト。今日もダンジョン攻略のつもりだったヴィックたちに予定が変わったことを伝える。


「大竜、退治、だと……!?」


 その驚きは、団長であるヴィックはもちろん、今日参加予定で集まっていたユーゴたちを驚かせた。


「ギルドからの指名クエストだ」


 そんなわけで悪いね、ちょっと数日、カスティーゴを留守にするわ。たぶん、その間に邪神塔からのダンジョン・スタンピードがあると思うけど、今回俺たち免除、というか参加できないから。


「無茶なクエストだ」


 ヴィックは顔をしかめる。


「伝説の大竜だ。戦うなら、一個軍団で当たっても勝てるかどうかわからないほどの存在だと聞く……」

「兄貴や旦那に、死ねっていうんですかい、これ」


 ユーゴが言えば、バンドレも顔を怒らせている。


「くそ、あのギルマスめ! 個人の冒険者に依頼するものじゃないだろうに。カスティーゴ中の冒険者を集めても足りんわ!」


 そうだそうだ、と憤懣を隠せないクーカペンテ人たち。俺たちを心配してくれてるんだろう。付き合いは短いが、いい奴らだなぁ。


「なあ、ベルさん。そんな数集めて、対抗するもんなの?」

「どうかな。下手に数を集めたせいで、まとめてブレスとかで吹っ飛ばされたんじゃないかって思えてきた」


 あー、そういうのもありそうだな。


「……お二人とも、落ち着いていますね」


 ティシアが不思議そうに首をかしげる。いや、落ち着いているも何も。


「俺、大竜がどんなものか実物みたことないし。……誰かある?」


 そう聞いたら、一同は顔を見合わせ、揃って首を横に振った。


「伝説ってのは本当かもしれないし、尾びれがついているのかもしれない。正直、滅茶苦茶強くてやばいやつなんだろうけど、実物を見てみないことには対応策も浮かばないっていうか、ね」

「……対応策って」


 ヴィックは目を丸くした。


「勝つつもりなのか?」

「え? 負けるつもりで依頼を受けたりしないでしょ?」


 真顔で返したら、またも皆に驚かれた。


「ベルさん、俺、おかしなことを言ったか?」

「いいや、何もおかしくない」


 不敵に笑うベルさん。俺は頷いた。


「じゃ、そういうことで、大竜の情報を集めたらボチボチ行ってくるよ」


 悪いね。ダンジョン探索は、また今度な。

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