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第57話、過去の詮索と模範解答


 魔器による一撃は、オーク兵の軍勢を塵へと変えた。


 突破口は開かれた。俺の後ろで、その破壊力の凄まじさを目の当たりにしたクーカペンテ戦士団から驚きの声が上がったのは一瞬だった。


「よし、突撃!」


 ヴィックが下した命令に、彼らは一斉に動き出す。ファナ・キャハの魔力消費を見ていた俺を追い越し、一本道を駆けていく。


 クーカペンテ戦士団は一気に道を渡りきると、またも生成されはじめたオーク兵を蹴散らして、オーブを捜索する。もっともベルさんが先導したから、発見から破壊は素早く、俺が到着する頃には残敵掃討にかかっていた。


「これで次への階段が見つかれば、万々歳だな」


 ほどなく、次の階への入り口が見つかった。条件をクリアしたのだろうな。

 順番に階段を下りる中、ヴィックが俺に言った。


「今日は長丁場だった。ポータルを繋いだら、探索をやめて休みをとろう」

「そうだな。無理はすべきじゃない」


 俺も同意し、次の階層へ。……うわー、またまた馬鹿でかい空間。階段周りが小島のような足場で後ろは壁。周りは断崖絶壁のように垂直になっていて、かなり高い場所だ。


「今度は床が見えるな」


 ベルさんが皮肉げに口元を歪める。確かに、数百メートルもの高所にいるが、下がはっきり見えている。高所恐怖症でなくても、びびる高さだ。これが部屋の内部ってんだから、このフロアが並大抵の広さではないのはお察しである。


「下りるにしても並のロープじゃ届かないだろう」


 ヴィックが顎に手を当て考えるポーズをとった。


「ここも浮遊魔法の出番かな」

「無理じゃ!」


 大声に、思わず肩がビクリと震えた。声の主は、斧戦士のバンドレだった。屈強な戦士なのだが、その場に膝をついてその体躯に似合わず震えている。


「わしゃあ、こんな高いトコから降りるなんてご免だ!」

「……」


 一同絶句するが、まあ、高い所が駄目な人もそりゃいるだろうよ。


「何も下ばかりとは限らないんじゃないか?」


 俺は天井の一点を指さした。


「たとえばあのでっぱりの裏側に通路があって、階段があるパターンだってあるかもしれない」

「天井ですぜ、兄貴」


 ユーゴが苦笑した。


「そっちに階段があるなら、むしろ上に行くやつじゃないですか?」

「わかってないな、ユーゴ。ここは邪神塔だぞ。それぞれの階層が独立しているから、本来ありえない形になろうが、天井近くに次の階への階段がある可能性だってあるんだ」

「マジで言ってます……?」

「いや、かなり適当なこと言った」


 俺だって正解を知っているわけじゃない。


「ただ、思い込みはここだと危険だ」


 柔軟に、時に常識を疑うことも大事だと思うよ。



  ・  ・  ・



 予定どおり、休憩を兼ねて、カスティーゴに撤退。44階層で、戦闘員をほぼ全力投入したクーカペンテ戦士団も、選抜メンバーを除いて平常業務に戻る。

 最近お決まりとなった、戦士団のアジトで腹ごなし。


「ジン、君はここに来る前は何をしていたんだ?」


 ヴィックの問いに、俺はキョトンとなるのを自覚した。


「なんだい、薮から棒に」

「いや、邪神塔を攻略しようってカスティーゴに来たのは知っているけど、冒険者になったのはここに来てからだろう? 気にもなるさ」

「あー、まあ、トレジャーハンターっていうの? あちこちの遺跡に潜って、お宝探しとかやってた」

「なるほど。邪神塔もその延長か」

「まあ、そうなるな」


 考え深そうなヴィックを、じっと見やる。


「何が気になるんだ?」

「君ほどの魔術師なら、引く手数多だろう? 何故、冒険者をやっているのか、ってね」

「俺の腕なら宮廷魔術師になれるかな?」


 冗談めかしてみる。ヴィックは大真面目な顔で頷いた。


「その権限があるなら、全力でスカウトする。保証するよ」


 そいつは光栄だね。苦笑する俺。


「君は、東方の出身だな?」

「何故?」


 よくわからないので聞けば、ヴィックは不思議そうに首をかしげた。


「違うのか? うちにも東方の出身の者がいるが、黒髪に君と同じ肌色だから、てっきりそうだと思ったのだが……」


 正直、そういう突っ込みには真面目に答えられない。何せ、異世界から飛ばされてきたなんて、真面目に語ったところで妄言か嘘と思われるのがオチだろうからね。


「実は、俺は昔の記憶がないんだ」


 はい、嘘をつきました。というか、この手の出身とか聞かれたら、そう返すように前々から考えていた。


「ここしばらくのことしかわからない。どこで生まれたのか、家族のこともね。そんな俺を拾ってくれたのが、ベルさんというわけ。……ま、そんなんだから、世間一般の常識に疎いところは許してくれ」

「そうだったのか……。悪いことを聞いたな」

「いいや、気にしてないよ」


 むしろ、嘘をついてご免よ。


 だが、いい機会だ。話を逸らす意味も含めて、こっちから話題をぶつけてやろう。


「ところで、ヴィック。あんたは故郷じゃ貴族様なんだろう?」

「ああ、ラーゼンリート子爵」


 ヴィックは微笑したが、どうしても苦いものがこみ上げるのを隠しきれないようだった。


 彼をはじめ、クーカペンテ戦士団は、大帝国によって支配された故郷を離れている。いつか故郷を侵略者から取り戻すために、日々を生きているのだ。


「邪神塔には莫大な財宝が眠っていると言われている。それを手に入れたら、あんたはどうするんだ?」

「もちろん、クーカペンテ解放のための軍資金にする」

「具体的に取り戻す策はあるのかい?」

「……それは、こちらがどれだけの軍備を準備できるかによって変わる」


 ヴィックは至極真面目だった。


「兵力、練度、装備、そして兵站。それによって可能な作戦も変わってくる。そりゃ、一軍を率いて、それを維持できる状況にあるなら、帝国軍を野戦でやっつけてやる自信はあるよ」

「……きちんと軍があるなら、か」


 確かに、ないにも関わらず考えるのは、取らぬ狸の皮算用ってやつだ。ある程度、想定はあるだろうが、実際に揃えないとできるできないの判断は無理だろう。


「下手な質問だった。申し訳ない」

「こちらも、正直に答えすぎた。ここは嘘でも秘策はある、とハッタリをかます場面だったかもしれない」


 ははは、政治の場面じゃ必要だろうな、それは。ただ、こういう私的なところでは正直であってほしいと思うよ。

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