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第56話、地下44階、攻略


 邪神塔地下44階。下への階段の所在がわからず足止めを強いられている俺たちは、突破する方法を模索していた。


「たとえば、この階層の魔物を全滅させるとか」


 ヴィックが言えば、俺はベルさんへと視線を向けた。


「そもそも、ここの魔物ってどれだけいるんだ?」


 すでに44階で戦うこと半日は経過している。ヴィックたちの増援を受けて交代しながら戦っているが、いまだ敵は現れている。


「魔物を吐き出すオーブがある」


 ベルさんが、俺たちの陣取っている孤島じみた丘から、橋のように伸びる一本道の向こうを見た。


「王家の墓は覚えているか? ミイラを生成していたやつ」

「ああ、そういうこと」


 以前、カスティーゴの冒険者ギルドで、王家の墓のアンデッド退治を依頼されたことがある。その時に、自動でミイラを生成する魔法具、というか装置を破壊している。


「つまり、それをどうにかしないことには、ここの魔物どもはいつまで経っても減らないってことだな」


 やれやれ、膠着状態のままでは、何もしていないと同じということか。ヴィックが「王家の墓?」と首を捻ったので、以前エルティアナを預けた時の話をすれば、あの時か、と納得してもらえた。


「とりあえず『変化』を起こそう」


 ヴィックが言った。


「そのオーブとやらを破壊して、魔物の供給を止める。もしかしたら、それで条件を満たして次の階段が出現するかもしれない」

「何も起こらなかったら?」

「まずはやってみることだよ、ジン」


 片目をつぶってみせるヴィック。


「それで解決しなければ、その時は次の手を考えればいいさ」


 よし、そうとなれば作戦だ。


 とにもかくにも、道を渡って向こう側に行かないとオーブを破壊することもままならない。霧のせいで遠くの視界が遮られているので、ここからでは目視確認は不可だった。

 ヴィックが、リーダー格を集めている間、俺は頭の中で浮かんだ案を説明する。


「幸い、道はほぼ一直線。魔法で一気に敵を殲滅(せんめつ)。ガラ空きになった道を突破して向こう側に乗り込み、残敵を掃討しながら、オーブを壊す」

「シンプルだな。わかりやすい」


 ベルさんの言葉に、エルティアナも頷いた。ヴィックが口を開いた。


「一本道の敵をほぼ一掃することができるなら、もっともらしい作戦だ。……可能か、ジン?」

「問題ない。……一撃ならね」


 魔器『ファナ・キャハ』を使えば。

 大帝国自慢の古代兵器をベースに作られた武器だ。双頭竜の分厚い装甲すらぶち抜く破壊力がある。ほぼ一直線に固まった敵など、まさに掃射してくださいって状態だな。


「では、それでいこう」


 ヴィックは頷いた。俺は視線をクーカペンテ戦士団の団長に向けた。


「案外あっさり認めるんだな」

「カスティーゴで君が並みの魔術師ではないのを知っているからね」


 そのヴィックは、一同を見回した。


「それにベルさんや弓使いの彼女が否定的な意見を言わなかったところからして、君ならできるということなのだろう」

「よく人を見ているな」


 思わず苦笑する。いやいや、とヴィックは首を横に振った。


「指揮官というのは、部下の能力を引き出すのも仕事のうちだからね」

「俺はあんたの部下じゃないけどね」


 俺は鞄――ストレージから、魔法杖型の魔器を取り出す。


「道は綺麗に掃除してやるよ」

「その後は、我々で何とかしよう」


 ヴィックは「ティシア」と、傍らの副団長を呼んだ。


「休憩中の奴も全員集めろ。打ってでる」

「承知しました!」


 亜麻色の髪の女騎士は声を張り上げ、戦士団に攻勢準備を告げた。思い思いの場所、姿勢で休んでいた戦士たちが身体を起こし、武器を手に集まる。


 俺たちは、道の入り口の即席防御陣地へ足を向けた。岩の盾を壁として利用し、ガストン、ユーゴらの分隊が侵攻してくる魔物――オーク兵どもを阻止している。


「……オークの集団相手に数時間。交代しているとはいえ、よく耐えているな」


 クーカペンテ戦士団の戦闘力と士気の高さに俺は感心する。


「よくやっていると思う」


 彼らの指揮官は認めた。


「だが、そろそろ突破の案がなければ撤退を指示するところだったがね」


 戦士たちも疲労が重なっている。いつまでも耐え続けることは不可能。自隊が大きな損害を被るのを避けるために、そのあたりの見極めも指揮官には求められるスキルと言える。


 いま攻めてきている連中も、残りわずか。何波目かはもう覚えていないが、今回も凌げるだろう。次のウェーブが来る前、こちらから仕掛ける!


「――こいつで最後ォ!」


 ユーゴの槍がオーク兵の首を貫いた。鮮血をまき散らし、屈強なモンスター兵が倒れる。積み上がった多くの死体……ということもなく、そのうちダンジョンが解体して魔力として取り込むことだろう。


 さあ、前へ出よう。俺は即席防御陣地を構成する岩壁を解除し、一本道を進んでいく。


 周囲が霧の海に沈んでいるから、そこに浮かんでいる橋のようだ。

 先ほどまでの戦闘などなかったかのように、静かだった。俺が先頭を進む後ろを、ベルさんやヴィックらクーカペンテ戦士団が続く。


 敵集団を断ったから、無人の野をいく感じだが、すぐに次の集団がやってくるだろう。問題は、どのあたりで敵がやってくるかだが……。


「……おいでなすった」


 前方にうっすらと集団が見えてきた。……あの様子だと、またオーク兵の集団かな。では、こちらも歓迎の一発を見舞ってやろう。


 といっても、こっちは杖を向けるだけなんだけどね。人の魔力と生命力を利用して使う呪われた武器『魔器』。使うのは生け贄になった人間――この場合、異世界人を材料にしようとした奴らのひとり、ファナ・キャハという魔女だが。


 魔力解放。独特の唸りのような音と共に、杖の魔力体である球体が赤いオーラをまとって輝き出す。……うん、この流れ込んでくる不快な感覚は、ファナ・キャハの苦痛か叫びか。好き好んで使うようなものでもないな、これは。


 前方の集団から、号令のような声が聞こえた。オークの言葉はわからないが、一度止まったように見えて、先頭の槍が前へ――つまり俺のほうへ向いた。


 あー、こりゃ突撃10秒前ってやつかな?


 またも号令が聞こえ、敵集団がこちらへ駆け足で突っ込んできた。突撃開始だな。


「じゃ、まとめて掃除してやりましょ」


 せっかくこの狭い通路に密集してくれたんだからね。


「食らえよ! ファナ・キャハ――!」


 構えた俺の手から、赤黒い光が放たれ、それは土石流の如く、一本道を下っていった。突如現れた光に敵集団は瞬く間に飲み込まれた。

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