第55話、クーカペンテの戦士たち
ヴィックたちクーカペンテ戦士団は、優秀な者たちが多かった。
元は戦竜騎士団所属のラーゼンリート隊が母体なのだという。ロズダン伯爵率いる騎士団の一個中隊が、ラーゼンリート子爵の手勢ということだ。
ヴィックは、その子爵家の跡取りで、ディグラートル大帝国に国が占領されなければ、こんなところにはいなかった。
彼自身、母国を守る戦いに騎士団の小隊長として参戦した。しかし帝国との大規模会戦で父であるラーゼンリート子爵は戦死。戦竜騎士団も大損害を受けて撤退。その後、隊の生き残りを束ねたが、クーカペンテ国は大帝国に占領された。
現地での抵抗運動に限界を感じたヴィックは、軍備増強とそのための軍資金獲得のため、莫大な財宝が眠るといわれる邪神塔ダンジョンのあるカスティーゴに来たのである。
俺たちとパーティーを組んで、邪神塔に挑むクーカペンテの戦士たち。ある程度、メンバーを交代させながらやっていくことになり、俺は彼、彼女らと接する機会が自然と増えた。
ヴィックに付き従う戦士たちは、大半が母国防衛戦争で彼と共に戦った者たちだった。
ユーゴは、楽天家的な気質で、一見すると軽め。しかしいざ戦場にいる時は、軽口は出ても手は抜かない真面目さん。魔術を操る槍使いにして、ユーティリティーにポジションをこなす。
勇敢とは、彼のことを指すのだろうな。劣勢な状況でも常に立ち向かう姿勢を見せる。二十三歳。肝の座った青年である。
ガストンは、派手さはなく、口数の少ない男だ。二十六歳。あまり話さないから、とっつきにくいところはあるが、案外話しかけると丁寧に応じてくれる。彼の仕事ぶりは確実、そして真面目。ベテラン感に満ちている。騎士として前線に立つ姿は、兵たちにも頼もしく映っているようだ。
ティシア・エルフォール。クーカペンテ戦士団の幹部クラスで、よくヴィックの補佐をしているらしい。二十二歳。亜麻色の長い髪を持つ、なんなかの美人。穏やかに見えて、芯がしっかりしていそうな強さを感じさせる。
きっと生まれのせいだろう。エルフォール子爵家の令嬢で、ヴィックとは幼馴染みのような関係らしい。彼女自身、レイピアと小型盾を持つ騎士であり、母国防衛戦争でも戦い、生き延びたという。
バンドレ。筋肉たくましい身体に、髭面の戦士。年齢は四十代。がっちりしているが背が低めなので、最初はドワーフかと思ったが、人間である。斧を武器にしていて、当たれば狼も一撃で仕留める。大雑把で豪快な男だ。
ロウガ。偵察員。どこか忍者を思わす頭巾をしている男。細身の体つきだが、身のこなしは早く、シーフ系の戦士だ。歳はよくわからないが三十代くらいじゃなかろうか。クーカペンテ戦士団でも別行動が多いらしいので、俺はまだ彼とまともに会話したことがない。ただ、一緒に探索した時に見た限り、腕は確かだ。
ケンドリック。ハイ・ウィザードで、団では最年長の六十歳。いかにも年老いた魔法使いという見た目で、団では知恵袋的存在らしいが、何故か俺を目の敵にしている節がある。特に何かしたわけではないが、まあ、全員から好かれるなんてことはないわな。結局、顔合わせで挨拶したくらいで、実戦での能力は不明。
ルバート。兵たちの取りまとめ役の三十代。顔だけみると四十代にも見える無骨さ。背丈は普通だが装備の上からでも、がっちり具合がわかる体躯。立場を分かりやすくたとえるなら、古参の軍曹か。
あと、珍しいといえば、リューゾウ。彼は人間ではなく、東方にいる亜人――鬼族の剣士だ。すらりとした長身美形。額に角があることを覗けば、さぞ異性にモテただろうな。彼は元からクーカペンテ戦士団にいたわけではなく、誘われた口らしい。
他にも、まだまだいるが、強く印象に残ったのはそのあたりか。
共同で邪神塔ダンジョンを進むが、割と順調な進撃だった。人数が増えたおかげで、俺も少し余裕ができた。
これまでは敵との遭遇などで、とっさに魔法の使用の判断をしていた。だが前衛が充実したおかげで、状況をじっくり見ることができるようになった。……もちろん、判断は早め早めにしないといけないが、早押しクイズの解答権獲得競争みたく、慌てる必要はなくなった。
バンドレやリューゾウといった超前衛メンバーは、ベルさん共々、モンスターをとんどん蹴散らした。ガストンやティシアのナイト組は、よく兵をまとめ、俺やエルティアナといった後衛組に敵の攻撃が届かないようカバーしてくれた。
それらクーカペンテ戦士団を指揮するヴィックは、戦闘力の面では一般兵より上だが、他の特化メンバーに比べると劣る。しかし判断力と部下の統率力は抜群であり、よく気づくのを見ていると、上司にするならこういう人なんだな、と思った。……元の世界にいた頃に会社で苦い思いをしただけに、特にね。
そして地下44階層。ここで俺たちは足止めされることになる。
・ ・ ・
「何だか、総力戦じみてきたな」
俺は思わず声に出していた。そのフロアはとても広く、壁がぼんやり漂う霧で見えるか見えないかくらいの微妙さ。天井は遥か上。……これ何階分あるんですかねぇ。
小高い丘のような部分に俺たちはいた。なお、丘の下は霧で真っ白。底が見えない。底なしの穴かもしれないが、地面があっても、おそらく普通に飛び降りたら死ねるくらいは高いだろうね。
その丘を覗けば一本、霧にかかるかかからないかの微妙な橋のような道がある。その先は不明だが、モンスターが群れとなって、たびたび襲いかかってきてきている。
こちらは道の出口……入り口かな? そこで即席の防御陣地を形成して、敵を迎撃しつつ、次の階へ降りる階段を探しているのだが……。
「階段が見つからない」
ベルさんが苦々しい顔で報告した。戦闘は断続的だが、その間にも使い魔を飛ばして偵察していたのだが、芳しい成果はなかった。
「行き止まり?」
俺が首をひねれば、ヴィックが口を開いた。
「間違った階段で降りてきてしまったか?」
「これまでは、はずれ階段はなかったんだけどな……」
「だが、これからもないという事にはならない」
ごもっともなご指摘。だが、そうなると、それはそれで厄介だな。次の階層への階段に当たり外れがあるとか……。
道の入り口では、クーカペンテ戦士団が敵モンスターの進撃を防ぎ止めている。最初は俺たちを含めて十人できたのに、気づけばポータルを経由して戦士団の戦闘員の大半がこちらに来ていた。
俺が作ったストーンウォールを盾に、入り口でヴィックの部下たちが交代で敵に対処している。この通路を渡った先に下への階段があるのでは、と思い、ベルさんに偵察を頼んだのだが……。
「次への階段がないのか、あるいは何か条件を満たすと、階段が出現する……という可能性」
うーん、自分で言うのも何だけど、ゲーム脳だよなぁ。
「案外、それが正解かもしれないぞ、ジン」
ヴィックは遠くを見る目で言った。
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