第54話、クーカペンテ戦士団のアジト
「うぅ……」
クレリックのセラフィーナが青ざめた顔で吐き気をこらえている。
蛇どもを撃破して、噴水の音が室内に木霊していた。障壁でガードして、あたり一面なぎ払ったおかげで怪我人はなし。
だが大量の蛇が向かってきたのは、俺でも気持ち悪かった。数百匹もの蛇が波のように襲ってくる……あー、夢に見そう。
セラフィーナは蛇が駄目だったらしく涙目で、エルティアナから背中をさすってもらっている。……エルティアナは平然としているんだなぁ。
「さすがにスケールが違うっていうか……。邪神塔、ヤバイですね」
ユーゴが噴水から溢れ出た水に漂う蛇の死骸に顔を引きつらせる。なおこいつらは俺が範囲指定の電撃魔法でまとめて感電死させた。
「蛇の肉は旨いらしいぞ」
「マジっすか、兄貴?」
「あれ、食ったことない? 蛇の肉」
「ないですね」
「そうか、俺もない」
「ないんですか!?」
ずっこけそうになるユーゴ。俺は苦笑する。
「言ったろ。旨いらしい、って」
次の階へ下りるための階段を捜索。宝箱をいくつか見つけ、その都度回収した。罠もあったが防御魔法で身を守り、こちらも問題なくクリア。
「水属性の槍か……ユーゴ、使うか?」
「いいんですか! ありがとうございます!」
手に入れた宝玉や武具をストレージにしまって、次の階へ下りた。
・ ・ ・
邪神塔をさらに下る。
40階層クリア。レールに沿って動くリフトに乗って、次の階への階段のある足場まで移動するという、一昔前のアクションゲームを思い出すようなフロアだった。
「浮遊リングがあってよかった!」
ユーゴは喜々としていた。
そう、俺たちは正直にリフトには乗らず、空中を歩いてフロアを横断した。リフトの行くレールそばに仕掛けられていた火炎放射や矢などのトラップも全スルーできた。
そんな無意味な罠を見やり、騎士のガストンは小さく首をかしげる。
「魔法具一つで、だいぶ攻略しやすさが変わるものなんですね」
「そうだね」
俺は同意する。
「大抵の遺跡とかダンジョンは浮遊できるできないで、かなり変わるよ」
トレジャーハンターもどきとして培った経験上では、だけど。落とし穴に引っかかりにくくなるだけでも、大きな違いだ。
「とりあえず、今日はここまでにして、カスティーゴに帰るか」
俺が提案すれば、反対意見は出なかった。
「野営をしなくていいのは、いいですね」
「ほんとほんと」
ガストンの言葉に、ユーゴも乗っかった。
「テント張ったり、飯を用意する手間もない。見張りの番もしなくていいんだから、最高ですぜ」
だろ? 俺は微笑して肩をすくめた。
「ベルさん、どうだい?」
「……大丈夫だ」
階段周りをグルリと回って安全確認をしたベルさんが答えた。何故か階段近く、もしくは階段のある部屋には魔物が出てこないんだよねぇ……。
俺はポータルを設置すると、ユーゴは破顔した。
「うちのボスにいい土産話ができます」
「そうですね」
ガストンも頷いた。しかしセラフィーナは青ざめたまま低いテンションで言う。
「私は、二度と来たくないですけどね……」
まあ、人には向き不向きもあるさ。
・ ・ ・
カスティーゴに戻れば、ヴィックが待っていた。
俺たちは、邪神塔ダンジョンでの冒険譚を彼に語ってやるのだが、他の冒険者たちに情報が漏れるのはよろしくない。
なので、ヴィックたちクーカペンテ戦士団のアジトでお話ということになった。そういえば彼らの拠点にいくのは初めてだな。
城塞都市内にある大きな建物、ちょっとした屋敷のようだった。戦士団全員が住んでいて、寮みたいなものかと解釈する。カスティーゴの守備に参加する団体という条件で、格安で使っているらしい。……彼らもここではよそ者集団だからなぁ。
玄関先には三人の冒険者がいて談笑していたが、ヴィックいわく歩哨なのだそうだ。
「何があるかわからないからね」
「確かに」
警備ご苦労様。俺が心の中で呟くのをよそに、ガストンが彼らに声をかけた。
「変わりないか?」
「はい、問題ありません!」
駄弁っているふうに見えた兵たちが、ガストンのひと声で全員すっと背筋を伸ばして答える様は、なるほど元騎士団なのだと思った。……ガストンが騎士というのは格好だけじゃないんだな。
玄関をくぐると、ホテルのロビーのように広い部屋があって、装備の手入れをしている者、仲間うちで打ち合わせをしている者などがいた。
一瞬、全員の視線がこちらを見たが、ユーゴやガストンの姿が見えたのか、すぐに元の作業へと戻る。
全員、手元に武器があって、表で何かあればすぐに飛び出せるようだった。
「いい雰囲気だ」
ベルさんが何故か満足そうな顔をした。どうしたんだ、いきなり?
二階への階段を昇り、奥へ。お客を迎える部屋にて、酒と食事に舌を打ちながらの会話となる。
「さあ、君たちの土産話を聞かせてくれ」
ヴィックが酒を振る舞い、和やかなど雰囲気で場は進んだ。ユーゴやガストンらの証言もあって、彼らのボスは大いにその好奇心を刺激されたようだった。
「次は俺も行く」
ヴィックはそう宣言した。
「うちからのメンバーはある程度、ローテーションを組んでいく予定だ」
メンバーの休息などを加味した結果だと言う。ユーゴはそれに大して口をへの字に曲げた。
「オレは、毎回ダンジョンに行きたいんですが」
「……ある程度は優先してやる」
ヴィックはなだめるように言った。
「ガストン、お前は?」
「団長の指示に従います」
控えめに、騎士らしく答えた。頷くヴィックは、俺とベルさんを見た。
「人数についてはどうだろう? 少数精鋭のままでいいだろうか?」
「今のところ、人数が必要な場面はなかったからな」
ベルさんがワインを呷る。ペースが早い気がするが、そもそもこの人、酔うことあるのかね。見たことないけど。
「どうだろう、ベルさん。数で押された場面は、何度もあったぜ?」
「出たとこ勝負なところがあるからな」
唸るベルさん。
「ボーンドラゴンの階段みたいな場だったら、人数多いとかえってヤバイだろう」
「ポータルの向こうで応援を呼べる態勢をとっておく、ということでどうだろう?」
ヴィックが提案した。……そうだな、必要な場面まで安全なところで待機しているというのは、いざという時に有効かもしれない。
いつの間にか打ち合わせになっていた。
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