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第53話、透明化魔法具の道のりは険しく遠く


 俺が透明になる魔法を習得したことで、いよいよ本命である透明化できる魔法具の製作を開始した。

 だがこれが難儀することになる。

 まずはよくあるマントに透明化の効果を付与することを考えたが――


「いや、マントが消えても、身につけている奴も消えないと意味ないからね」


 という教授のご指摘。このマントは見えませんが、中は見えます。……まるで裸の王様だな。


 そうなるとアレかな。光学迷彩の研究で作られた、背後の映像を全面に投射することで周囲の景色に溶け込んで、姿を消すやつ。カメレオンとか蛸みたいな……消えるというか、視認しにくくなるタイプ。


 とりあえず魔法文字をマントに刻んで、それっぽい魔法効果が発動するように色々試してみる。このあたりは、頭でイメージして感覚に任せて発動させる魔法とは異なる。


 リリ教授も、魔法文字式で透明化の魔法具は、過去に試したことしかないと言う。おかげでほぼ手探り状態。


「ちなみに、魔法文字式以外なんてあるんですか?」

「あるよ。妖精の粉っていう触媒を表面に塗布したら、消える魔法が発動して、姿を消せる」


 ……もうそれでいい気がする。


「それを売ったら大儲けできそうですね。消えるマント!」

「素材が妖精の粉だからね」


 教授は顔をしかめた。


「それを作るためには、フェアリー系の妖精族の力が必要になるが……他種族からの妖精狩りなんて発展しそうだから、儲かるとしてもやらない」

「……あぁー、それは、やばいですね」


 すいません。


 俺も、深く考えずに言ったのを後悔した。魔法の力を求めて、人間が特定種族を狙うなんてファンタジーの定番。物語によってはフェアリーとかピクシーって、よく捕まってるしな。


 と少々脱線しつつ、ああだこうだいいながら、魔法文字と素材を合わせつつ、効果を確かめる作業を繰り返す。そうして、ようやくできたのがカメレオンコート。じっとしていると周囲の景色に混ざり込んだように、視認しにくくなる。


 完全な姿消しにはならなかったが、多少の迷彩効果はある。


「かめれおんって何だ?」

「俺のいたせか……地方にいた動物の名前です」


 あやうく異世界人だと口を滑らすところだった。まあ、日本に野生のカメレオンはいないんだけどね。

 完全に消えるのは、今後の課題だな。妖精の粉を使って作る透明装備も、いつか欲しいなぁ。



  ・  ・  ・



 さて、クーカペンテ戦士団と共同で邪神塔ダンジョンの攻略を進めることになった。


 元々このダンジョンの攻略を目指していたヴィックたちだが、俺から内部の話を聞いた後、生半可な実力では生き残れないと判断。精鋭を派遣することを決めた。……中途半端な者を寄越されても困るしな。


「ジンの兄貴! よろしく頼みます!」


 双頭竜を討伐した時に共に戦ったユーゴを、最初に送ってきたのは、ヴィックなりの気遣いだと思う。


「まあ、よろしく」


 槍を武器にし、多少の魔法を使える魔法戦士であるユーゴは、オールラウンダータイプだ。


 他に同行するのは、四人。


 セラフィーナというクレリック。太陽神教の僧侶であり、神聖系といわれる光属性の魔法を使う。エルティアナを保護した直後、俺とベルさんが留守の時に、彼女の世話をしてくれた女性だ。二十歳前後、優しい金髪のお姉さん系の顔立ち。女性用の僧侶服をまとい、杖と小型盾(バックラー)を装備する。


 フルプレートアーマー装備で兜にカイトシールド、ロングソードを持つ、いかにも騎士といった男はガストン。実直そうな顔で、二十代半ばから三十代くらいか。こちらにも敬語で応対するあたり、真面目そうで好感が持てる。ヴィックの家、つまりラーゼンリート家に仕える騎士なのだそうだ。……忠義の男か。


 他は、いかにも兵士といった、特に特徴のない青年戦士が二人。名前はイルバとスタンレー。荷物持ちというか雑用係といった役どころなのだが、これでも歴戦の生き残りらしい。


 イルバは大型盾(ラージシールド)とハンドアックス。スタンレーは大型盾と刺突型のショートソードで武装している。


 自己紹介の後、ポジション決め。ベルさん、ガストン、スタンレーが前衛。その後方にユーゴ、エルティアナ、俺。後ろがセラフィーナとイルバとなった。


 準備ができ次第、俺たちはポータルを使ってダンジョンへ。……あ、クーカペンテ戦士団には、ポータルの件はここだけの話にするようにヴィックから命令が出ている。


 最初のフロアは真っ黒な石壁。どこからか水が流れ出ているようで、ドボドボと水の音がした。中は薄暗いが、暗いながらも一応見える。結構、広いフロアのようだ。


 視界を暗視魔法で調整。照明とかつけたくなるが、いきなりやると、魔物を引き寄せるかもしれない。突然光ると攻撃的になって反射的に襲ってくるやつもいるからね。


 とりあえず、道なりに前進。


「暗いですね……」


 ユーゴが率直に言うが、ベルさんは先導しながら答えた。


「真っ暗ってわけじゃねえ。直に目が慣れる」


 下っていく構造上、足下も見難いのだが、気をつけて歩く。


「正面、複数の人型……!」


 ベルさんが声を落とし、全員が臨戦態勢。ガストンが盾を前に構えつつ、小声を出した。


「相手は何です?」

「……人間のようだが、たぶん人間じゃないな」


 俺も暗視で、前の様子を確認する。戦士、あるいは忍び装束にも見える服をまとう武装した者たち。一見すると人の集団のようだが……。


「気のせいかな。目が光ってるような……?」

「闇世界の住人かもしれないな」


 何だそれは? 闇世界? 新しいワードに、俺もちょっとついていけない。


「妖怪や悪魔の類いだよ」


 皆がわからないという空気を出していたのだろう、ベルさんが肩をすくめた。


「まあ、やっつけることには変わりない。ジン、照明の魔法を展開。この暗さじゃ、奴らのほうが有利だ」

「あいよ」


 暗視魔法解除。そしてライト! ――光の魔法を照明弾よろしく発射。連中の真上に光源を発生させる。ちなみに光度は落とした。他の面々も目が闇に慣れつつあったから、いきなりは仲間たちの目も潰すことになる。


 だがそれでも闇の住人たちにとっては眩しかったようで、彼ら?の動きが一様に止まった。


「やっつけるぞ!」


 ベルさんに合わせ、前衛組が突撃。ユーゴも後に続き、エルティアナは弓、俺は魔法で怯んでいる敵に先制攻撃をかける。


 矢や魔法で撃ち抜かれて倒れる人型。そこへベルさん、ガストンが駆け込み、無事な敵に斬りかかる。


 ベルさんは言うに及ばず、ガストンも盾と剣を使った一撃必殺を心がけ、手早く仕留めていく。中々、いい腕をしている。


 闇世界の住人なんて聞いたから身構えてしまったが、先制が有効だったのか、あっさりと掃討できた。


 ……ちなみに、倒した敵人型は死ぬと消滅してしまうため、結局何だったのかわからずじまいだった。


 俺たちは先へ進み、やがて水の音の元へとたどり着いた。

 巨大な噴水と、大量の蛇型魔物がお出迎えしてきた。

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