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第52話、魔法具作りと、透明化


「37階層だって!?」


 案の定、邪神塔ダンジョンを攻略する俺たちの話に、ヴィックは驚いた。


 ちなみにここはセンシュタール工房。リリ教授は最初に会った時の姿である眼鏡っ娘スタイルで席についている。


 なお、場には俺、ベルさん、エルティアナと教授の他は、妖精さんたちとヴィックのみ。他のクーカペンテ戦士たちには、工房からやや離れた地点で見張りを行っている。


 ウェポンレイダーが俺を狙っているからね。襲撃機会を狙っているなら、町から離れたセンシュタール工房も襲撃場所の候補に入るだろう。そこをノコノコ近づいてくるなら、飛んで火に入る夏の虫ってやつだ。


 奴は透明で近づいてくる可能性が高いが、ベルさん曰く、工房近くにいる妖精たちがそういう不審者を感知するだろうと言っていた。


 俺たち以外にヴィックしか中にいれなかったからか、教授はそこまで気分を害した様子はなかった。ただ、妖精さんたちの部外者への視線が露骨ではあったが。


「――つまり、ポータルという転移魔法で、邪神塔の中を行き来できると」

「そう。次は地下37階から再開だ」


 俺はプーカという妖精が入れてくれた果物ジュースを飲む。瑞々しい葡萄の味。安ワインよりこっちのほうがいいわ。

 これまでの愉快な俺たちのダンジョン攻略話を、ヴィックに語って聞かせる。当然、初めての情報ばかりで、彼はこちらの話に引き込まれた。


「やはり、君らは凄腕なんだな」


 クーカペンテ戦士団の長は、しみじみとした口調になった。


「我々では、おそらくたどり着けずに全滅していただろうな……」


 ボーンドラゴン階段とか毒沼フロアとか、橋に押し寄せたモンスターの大群とか――例を上げたヴィック。


「でもそれなら、浮遊の魔法で浮かべば大抵回避できるやつばかりだな」


 俺は、教授を見た。


「浮遊魔法の魔法具が複数あれば、ある程度カバーできませんかね」

「できるだろうけど、浮遊魔法の魔法具か……妖精族にはあまり需要がないからねぇ」


 浮遊魔法が使える妖精さんが多い、ということなんだろうね。


「あっても一個か二個。足りない分は作らないといけないね」

「あ、じゃあ俺、作ります」


 そう言ったら、ヴィックが「え?」とびっくりした。


「作る? ジン、君が魔法具を作るのか?」


 あー、そうか、つい工房の空気で言ったけど、冒険者たちには俺が魔法具を作ることを言っていなかったな。


「まあ、教授の弟子なので」

「おかしな弟子だよ」

「師匠譲りです」

「失敬な。君がおかしいのは元からだろう!」


 教授と愉快な皮肉を言い合った後、俺は話を変えた。


「ウェポンレイダーが姿を消すマントを使っていたんですが、あれも魔法具でしょうか?」

「実物を見ていないから断言はできないけどね。妖精族には『姿を消す』効果の魔法がある。だから、あるかないかと言われたら、あると言える」

「なるほど……」

「……ひょっとして君、作ろうとしてる?」


 俺が笑みを浮かべると、教授は肩をすくめた。


「付き合おう。楽しい工作の時間だ」


 というわけで、俺はヴィックに同行するなら何人か決めて、その人選を任せた。そして魔法具制作に取りかかった。


 まあ、俺も結構、妖精さんたち任せになったんだけどね。期せずして休養日になった。スタンピードで戦い、ダンジョン攻略もやってるから、きちんと休む日も必要だろう。



  ・  ・  ・



 浮遊魔法具に腕輪を作った。その名も『浮遊の腕輪』! まんまだな……。


 指輪でも、という案もあったのだが、魔法文字を刻むスペース上、ある程度余裕のある腕輪にした。俺の魔法文字スキルでは、小さいものはまだ難がある。


 工房の妖精たちも手伝ってくれて、とりあえず十個ほどが完成。俺たちでもそれぞれ携帯して、残りはクーカペンテ戦士団で邪神塔に挑むメンバーで使い回していくことになった。


 さて、俺は教授とさらに別の装備の製作を行った。つまり、透明化装備である。


 だがその前に、透明化、その魔法について考えてみる。何故なら、俺は透明化の魔法をまだ使ったことがないからだ。


 透明といって思いつくのは、元の世界で研究されていた光学迷彩。とはいっても、俺自体それがどうなっているのかは知らない。漫画やアニメ的なもの程度で、光の屈折をどうにかするとか、そんなようなものだったような……間違っているかもしれない。


 実際、光を曲げるとか、どうやるんだ――とか考えたら、こと魔法に関しては駄目なんだろうな。

 難しく考えるな。転移魔法だって考えようによっては消えるんだから、それもヒントになったりしないだろうか……。


「そういえば教授。妖精たちも透明化って得意そうですよね」

「ああ、大抵のやつは透明化できるはずだよ」


 俺の世界でも西洋の妖精たちってそういうのだったからイメージで話したが、ここの世界の妖精たちもそうらしい。


「あれって、どうやって消えてるんです?」

「消えるって念じれば、自分の姿くらい消せるよ」


 さも当たり前のようにリリ教授は言った。え……と――


「それだけですか?」

「それだけ。息を吸ったり吐いたりするのと同じ」

「さすが妖精ですね」


 科学もなにもあったもんじゃない。……が、ここで参考にならないって決めつけては駄目だと思う。

 転移魔法のこともある。自分が透明化するところを想像して、やってみる。……消える!


「……なんだ、できるじゃないか」


 教授の声。俺のほうを見ているのだが、どこか視線が定まっていない。まるで探しているように。


「俺、消えてます?」


 自分の手、足を見てみれば……おお、消えてる! 自身の身体が目では見えない。


「案外できるもんですね」

「アタシの助言を聞いて、その場で消えたのは君が初めてだよ。……本当は使えたんじゃないか?」

「いえいえ。透明化は初めてですよ」


 転移魔法もそうだったけど、一発成功って、俺もだいぶ魔法思考ができる脳になってるんだな。


「ふうん。まあ、君は極めて素直で、考え方がシンプルなのだろうな。アタシも色々な魔法使いを見てきたけど、どいつもこいつも難しく考え過ぎる」

「よい師に出会いました」

「よせよ、照れるじゃないか」


 などという教授だが……いや、俺はベルさんのことを言ったつもりだったんだけどな。


「先ほど、息を吸ったり吐いたりするのと同じって言っていましたが――」


 透明化の解除を念じれば、またもとの通りに戻った。


「魔法を空気と同じようなものとして認識している妖精と、魔法を学問として学ぼうとする人間とでは、スタートから違うんでしょうね」


 生まれて育つ中、身体を動かすのと同じ要領で魔法を体得していけば、人間だってこの世界では魔法も難しくないのかもしれない。


 だが現実には、勉強したり理論立てたりして修練するために、魔法とは難しいもの、一部の素養がある者しか使えないもの、とイメージがついてしまったのが習得を困難なものにしているのだろうと思う。


「何はともあれ、おめでとう」


 教授は例の無感動な調子で告げた。


「そろそろ、透明化装備作りをはじめよう」

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