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第51話、削られる精神


 飛行型魔物系の襲撃は終わった。守備隊、冒険者たちの奮戦で、今日もカスティーゴは守られた。


 前回のゴブリン・スタンピードは圧倒的な数で苦戦した。今回の飛行型は数こそ大人しいが、よく町中に侵入される厄介なタイプだと言う。負傷者もそれなりに出たが、俺もエルティアナ、ベルさんも無傷で切り抜けた。


 城壁を離れ、カスティーゴの町をいく俺たち。さっそく鍛冶屋に駆け込んで武具の修繕やメンテを頼む冒険者がいる一方、運ばれる負傷者の姿もある。


「――くそ! もう限界だ! おれはこんな町出てやる!」


 返り血のついた鎧をまとう冒険者の青年が声を荒げている。少し離れた場所では、担架で運ばれながら悲鳴を上げている守備隊兵もいた。


「……まあ、そりゃ心が折れる奴もいるわな」


 広場に差し掛かったベルさんが言った。感情が抜け落ちた顔で座り込んでいる冒険者を一瞥(いちべつ)する。


「命のやり取りをしてる。どんな奴でもいつかは精神が参ってしまう」


 殺意を向けられただけでも、心は削られる。命を奪うことで何かを失い、身体に傷を受ければ激痛で心身ともさらに削られる。


「人の精神ってのは、それぞれ違うからな。一発で潰れる場合もあれば、開き直る者もいる」

「……」

「週に一度、戦争しているような場所だ。そりゃ身体は無事でも脱落者は出る」

「そうなると、人は減っていく一方じゃないか?」


 カスティーゴを守る者が減れば、弱体化し、やがては……。


「そこはお前、稼ぎ場を探して冒険者が流れてくるだろ」


 ベルさんは鼻をならす。


「週に一度のスタンピードを狩り場とする限り、他の冒険者と獲物の奪い合いになることはほぼない。戦える冒険者は防衛に強制参加だが、報酬は出るし、活躍すればボーナスも出る。考えようによっては守備隊に就職しているようなものだぜ?」


 そういうものかもしれないな。守備隊兵は、国から交代要員が来ることで賄っているだろうし。……そうなると。


「邪神塔ダンジョンを攻略してしまったら、冒険者たちの仕事がなくなる?」

「スタンピードがなくなれば、まあ、ここでの仕事は激減するだろうな」


 ベルさんが俺を見た。


「だがその時は、よそで仕事をするだけだ。それにここに来る冒険者は大なり小なり、邪神塔の攻略を夢見てきているような奴も多い。……早い者勝ちだよ。モタモタしてる奴が悪いのさ」

「ごもっとも」


 気分が少し楽になった。そりゃそうだ。俺たちは邪神塔ダンジョンの攻略を目指しているが、仮にどこかの誰かが先に攻略を果たしたからといって、死ぬわけじゃないしな。


「ジン」


 俺についてきていたエルティアナが、正面からやってくるヴィックたちに気づいた。……うわぁ、クーカペンテ人たちが、難しい顔してるわ。


「こりゃ、ウェポンレイダーを取り逃がしたな」

「だろうな」


 俺の呟きに、ベルさんが同意した。声をかけてみれば、案の定、例の襲撃者を見失ったそうだ。


「すまない、ジン。君も狙われたのに、犯人を結局を捕まえられなかった」

「……」


 それって、今後も俺、ウェポンレイダーに狙われ続ける可能性があるってことだよね? 標的候補ってだけで、俺、気の休まる暇なくなるじゃん。


「ダンジョンの中のほうが安心ってか?」


 ベルさん、茶化さないでくれ。俺、マジだぞ。


「ジンは、わたしが守ります」

「ありがとう、エルティアナ」


 申し出てくれた彼女に感謝を。俺はヴィックに向き直った。


「とりあえず、ギルドで今回の後始末しよう。詳しい話はその途中で」



  ・  ・  ・



 冒険者ギルドで、飛行型スタンピードの報告。それぞれの消耗や負傷の有無、報酬の精算などが行われた。……夜は、お決まりの祝勝会の予定。


 まあ、どこにウェポンレイダーがいるかわからない今、のんびりお酒を飲む気にもなれないけどね。……もしかしたら、ウェポンレイダーは冒険者の中に潜んでいるかもしれないからな。


「冗談じゃなく、ダンジョンの中のほうが気が楽じゃないか」

「ベルさん、ほんとそれな」


 マジで笑えない。冒険者ギルドでは、他の冒険者から、俺が使ったサンダーバレットの質問が出た。ちょっと変わった形をした魔法の杖だよ、と答えておいた。……俺が狙われたのは、やっぱこのサンダーバレットを使ったからかな?


「凄かったです」


 エルティアナが淡々とした表情ながら褒めてくれた。


「両手にひとつずつサンダーバレットを持って戦う姿……。格闘家の演舞を見ているでした」

「ガンカタじゃないぞ」


 銃と格闘を組み合わせた近接戦闘術。まあ、実際の武術ではなく、映画が初出だろうけどな。


「それで……」


 ギルド建物の外に出た俺たちの後に、ヴィックら数人がついてくる。


「どこまで、ついてくるつもりなんだ?」

「君はウェポンレイダーに狙われて、かつ生き残った数少ない人間だ」


 ヴィックは答えた。


「奴がまた狙ってくる可能性がある。護衛は必要だと思うが?」

「そりゃ、まあ……」


 俺はベルさんと顔を見合わせる。


「お前さんらがいたら、ウェポンレイダーも出てこれないんじゃないか?」

「かもしれない」


 ヴィックは認めた。


「だが、君らには我々も世話になっている。万が一、ジンが殺されるようなことがあったら悔やみきれない。……我々が取り逃がした責任もある」


 取り逃がした責任って言われると、確かに、これで俺がやられるようなことがあったら一生後悔しそうではあるな。

 だがなぁ……。俺はベルさんと念話でやり取りする。


『俺たち、邪神塔を攻略している最中だぞ』

『ポータルの件もあるしな……』


 どうしようか。俺はヴィックや、その後ろにいるユーゴらクーカペンテの戦士たちを眺める。


『……いっそ、彼らも邪神塔ダンジョン攻略に巻き込んじゃう?』

『別に人手はいらんし、かえって足手まといになるんじゃないか?』


 そうなんだけどさ。俺も思うところがあるのよ。


『攻略した後のことを考えていた』

『気が早いな』

『言うなよ。……俺たち三人で邪神塔を制覇して莫大な財宝とか手にいれたらさ。色んな奴らに狙われると思わない? ウェポンレイダーみたいな奴にゴロゴロと』

『一理あるな』

『そこで、そこそこ人数のいるヴィックたちクーカペンテの戦士団と共同で攻略を果たせばさ、下手に手を出されにくくなるんじゃないかなぁ……と』

『弾除け代わりに使おうってことか。気に入った!』

『それ言わないようにしてたのに!』


 ともかく、話はまとまったので、俺はヴィックのいう護衛の申し出を受けることにした。同時に、こちらからも邪神塔ダンジョンの話をすることにした。

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