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第49話、トラップトラップトラップ


「それで、どうなったんだい?」


 センシュタール工房。そのリビングのテーブルを挟み、リリ教授は俺に、ミードのおかわりを注いだ。

 邪神塔ダンジョン攻略中。その道中の話は、当然ながら教授の好奇心を刺激し、俺は解説することとなった。


「牢獄の中に入って宝箱を開けましたよ、ええ」


 鍵付きの鉄格子もあれば、入り口がなくなっているものもあった。牢の中も宝箱かそれ以外と、中々バリエーションがあった。


「ハズレのうち三分の一が罠。三分の一が空っぽ、残る三分の一はミミックでした」


 ミミック――RPGによく登場する宝箱型モンスター。というと語弊がある。宝箱がモンスターではなく、モンスターが宝箱に化けている、というのが正解だ。

 箱を開けたら、そこはモンスターの大きな口。鋭く尖った歯で噛みついてきたり、舌を伸ばして絡める取ろうとしてくる。中には箱の外に手が生えているものもあった。


「見分けはつかなかったのかい?」

「魔力を帯びた宝箱があったせいで、触れるまで魔力による識別はできませんでしたね」


 そのかわりに、石とか物を投げつけてやったら、半分くらいは、正体を現して襲いかかってきた。さすがに石を投げつけられて怒ったのだろうかね。残る半分は、こちらが近寄るまで我慢して待ち構えてやがった。

 ふむふむ、と聞いていた教授が、ふと首を傾けた。


「ハズレは、ということはアタリもあったわけだな?」

「ええ。次の階層への階段は、宝箱ではなく、白骨死体のアンデッドを倒した先でしたけどね。宝箱のアタリには、武器とかアイテムが入ってました」


 たとえば、剣とか槍。ミスリル金属製のものもあれば、魔法効果のついた希少なもの、ただの鉄の武器など、ランダムに入っていた印象だ。

 魔法属性付きの武具や杖、魔法が付加された指輪やネックレスなどなど。……ただの革靴とかもあった。


 口で説明するよりも、現物を見てもらったほうが早いだろう。俺はストレージから、回収した品々を出して、教授や妖精たちに披露した。


「……結構、くたびれているのもあるね」


 教授が魔法具らしいアクセサリーを光にかざしながら言う。


「これはあれかな。ダンジョンに挑んで志半ばで倒れた者たちの遺品かもしれないね」

「ベルさんもそんなようなことを言ってました」


 場所が牢獄だから、そこに放り込まれて、そのまま……とか。


「見たところ、呪いの類いはなさそうだ。……どうするね? もし持っているのが嫌ならこちらで買い取ろうか?」

「そうですね……。使わなそうなものは、お願いします」


 ストレージにいくらでも入るとはいえ、使わないまま肥やしにしておくのもなんだし。俺は、リリ教授の申し出を受けることにした。


「ちなみに、買い取ったやつ、売るんですか?」

「いいや、最近、色々改造するのが楽しくてね。その素材に使えないかと思って」


 教授は、俺が出した片手剣を持ち上げた。


「君のおかげでね、創作意欲に溢れているんだよ。面白いものができたら見せるよ。あ、あとダンジョンで珍しい素材を見つけたら持ってきてくれ」

「わかりました」


 俺は二つ返事で了承した。改造武器とか防具って、なんてロマンを感じさせるんだろうね。俺も、リリ教授の作ったそれらを見たいと思った。



  ・  ・  ・



 邪神塔ダンジョン、攻略中。

 中継点からスタートできるってのは、いいことだよな。一からやり直しとか、考えただけでゾッとする。

 今のところ、順調にフロアを踏破中。


 モンスターの集団を退けたり――


 全体が流砂のフロアにある沈む岩の足場を、浮遊魔法で突破したり――


 毒沼のフロアの天井に貼りついて通過したり――三、四メートルほどある毒蛇が、毒液を飛ばしてきて、面倒だったりした。


「……今度のフロアはでかいな」


 先導するベルさんが螺旋状の階段を下る。だだっ広いフロアだ。かなり高く、そして長い螺旋階段。周りはぽっかりと穴が開いているようで底が見えない。前に橋を動かして次の階段を見つけた階層にも似ているが、今回は橋はない。


「というか、これ階段? 骨みたいだな」


 元の世界でいうなら、東洋系の竜を思わす蛇型ドラゴン、その骨が蜷局(とぐろ)を巻くように階段を形成している。


「ずいぶんと悪趣味なデザインだ」


 ベルさんが皮肉げに言えば、「同感」と俺も首肯する。


 だが、唐突に床が揺れた。


「……おっ、と、地震か?」


 とっさに柱に寄りかかり、転倒を免れる。しかし震動は強くなるばかりで、とても歩けるようなものではない。


「な、なんだ!?」

「ジン、こいつはやべぇ!」


 ベルさんが吠えた。


「これ階段じゃねえ!」


 そうなのだ。ゴゴゴッと音がして、下から螺旋階段だと思っていた骨が生き物のように動き出した。ベルさんが口走る。


「ボーンドラゴンッ……!」

「骨ェ……?」

「やばい、跳べ!」


 いや、ジャンプしろって、この揺れじゃ――って、次の瞬間、足場となっていた骨を蹴って、跳んでいた。……まずい、このままじゃ落ちる!


浮遊(フライ)!」


 魔法で空中に浮かぶ。すぐにエルティアナにも浮遊魔法をかけたのは、我ながらナイス判断だったと思う。浮遊魔法がなかったら危なかったぞ、俺たち。


 浮遊するこちらをよそに、階段だった骨のドラゴンがその本性を現し、この広い空間を泳ぐように飛びはじめた。


「この階層のクリア条件はなんだ?」


 かなり長い身体を持つボーンドラゴン。下階層への階段があるか、あるいはボーンドラゴンを倒さないと次へはいけないのか……?


 どうする、どうする……?


 逡巡している間に、ボーンドラゴンが頭をこちらに向けて、ゆったりと迫ってきた。ドラゴンの頭蓋骨ってのは、こうなってるのか……とか言ってる場合じゃない!


 骨には打撃。ストーンバレット! 


 俺は岩石を具現化、それを迫るボーンドラゴンの顔面にぶち当てた。

 ヒビが入る。顔の向きが変わった。だがまだ悠々と宙を泳ぎ続ける。


「ジン!」

「わかってる!」


 まったく無傷ってわけじゃない。なら砕けるまで続けるまでだ!

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