第48話、飛行船と浮遊魚
「何だありゃあ!?」
さすがのベルさんも、飛行船は初めてのようだった。いや、俺自身、本とかアニメくらしか見たことなかったから、これが生で見た最初の飛行船であるが……。
何とも、ノスタルジックな……見た目、ゲームとかに出てきそうな姿だ。風船――いやガス袋の部分はそれっぽいシルエットだが、吊り下げられているゴンドラ部分が木造のボートのような形をしている。その側面にはプロペラがついていて、回転することで推力を得ているようだが……エンジンはどこだ?
元の世界での飛行船のイメージからするとかなり小さい。小型の部類だろう。
とか言っている間に、ゴンドラに乗っている人型――作業員じみたマスクを被って素顔が見えないそれが三人。こちらに杖のようなものを向けて、次の瞬間、魔弾を撃ってきやがった。
魔法障壁にそれらが当たり、派手に四散する。
「っぶねぇ……!」
防御魔法かけてなかったらやられていたぞ!
「んにゃろ!」
俺はお返しとばかりにライトニングの魔法。ベルさん、エルティアナも反射的に反撃していた。
壮烈な撃ち合い――となったのは、わずかな間だった。ベルさんとエルティアナが攻撃してきた乗組員を射殺、またはゴンドラから転落させ、俺は飛行船のガス袋を魔法で貫き、吹き飛ばしたのだ。
爆発、炎上。衝撃で風が渦巻き、俺たちに吹きつけたが、最悪だったのは飛行船のほう。燃え上がりながら、崖の下へと墜落していった。
「……いったい何だったんだ、あれは?」
「さあね」
俺だって聞きたいよ。少なくとも、問答無用で撃ってきたのはあちらである。因果応報。仕掛けなければ、やられなかったのにねぇ。
エルティアナに怪我がないかを確認。問題なしだったので、先へ進もう。
狭い崖の道の先は折り返しになっていて、崖の下へと道が続いていた。
「あのさあ、この階層、滅茶苦茶広くないか?」
ベルさんがぼやく。
「霧がなくて、道が見えていたら、浮遊でショートカットしたほうが早かったぜ、こりゃ」
まったく同感。忌々しい霧のおかげで、下の様子は不明。視界も近場に限定されているため、この道がどこまで伸びているかもわかりゃしない。
「でも、行くしかないよな」
俺はため息をつく。しばらく道なりに歩く。すると、今度は道は左手に曲がり、崖から反対側に伸びる岩の橋のようになっていた。相変わらず霧のせいで道の先はもちろん、左右も視界不良。狙われたら、逃げ場がないんじゃないかな、これ……。
「だが、行くしかない」
「……」
ベルさんの言葉に、俺は小さく首を振る。そんなわけで岩の道で崖、いや谷かな、それを通過する。どこまで続くかわからないが進んでいると、不安は的中する。
「来るぞ! 大きい!」
霧から突然飛来したのは、巨大な蛇頭。また別方向から、クジラも真っ青の巨大魚が空を飛んで、こちらへ突っ込んできた。
「嘘だろ!?」
とっさに魔法障壁で、防御強化。ガンッと衝突音と衝撃が走り、巨大浮遊魚が弾かれ、別方向へ飛んでいった。
ベルさんが吠えた。
「こういうのはさっさと駆け抜けるが吉だぞ!」
そのベルさんに向かって大口を開けて迫る浮遊巨大蛇。舌打ちするベルさん。だが蛇の目に、エルティアナが放っただろう矢が突き刺さり、紫色の血液を吹き散らした。
「ナイスカバー!」
俺たち三人は、ダッシュブーツや加速で一気に駆け抜ける。途中、何度か浮遊魚に襲撃されたが、何とか渡りきり、下の階層行きと思われる階段を発見した。
「ジン、お前たちは先に行け!」
「ベルさん!?」
「オレは、土産代わりに、魚を一尾、仕留めてくる!」
「えぇぇ……」
思いがけないベルさんの言葉に、俺も思わず声に出てしまう。エルティアナが息を整えながら聞いてきた。
「……どうします?」
「まあ、ベルさんなら心配ないだろう」
結構な距離を走らされたから、ちょっと息も荒れてる。
「階段のところで休憩しよう」
「了解」
俺とエルティアナは先に移動して、ベルさんが来るのを待つことにした。
・ ・ ・
ベルさんは三体ほど、巨大魚と蛇を倒したらしい。解体した二体を俺のストレージに収納。帰ったら、リリ教授に見せてやろうということになった。
なお一体は、ベルさんが食った。驚いたのはエルティアナだ。
「食べた……?」
「悪くなかったぞ」
俺はベルさんが、人間ではなく大悪魔であることを知っている。おそらく、そのまま丸かじりにしたんじゃないかな。
「腹はふくれたかい?」
「まあまあ」
そう軽く答えるベルさん。あの浮遊魚、いったい何人前あるだろうね……。底なしの腹をお持ちの暴食魔王様。伊達じゃないってことかね。
さあ、次だ次。
邪神塔ダンジョンを踏破していく俺たち一行。
石迷路の階層は、形こそ違えど経験済み。あっさり超えて、闘技場めいただだっ広い階層に到達。何かと戦わされるかと思ったが、そんなこともなく、ただ複数ある扉のうち正解に入るまで延々とループさせられた。
何が面倒かといえば、スタート地点から扉までが異様に距離があるので、やり直しのたびに、徒労感が半端なく、やる気が大幅に削がれた。
その次の階層は、遺跡の地下と思われる大きな室内。石橋がフロアの中央に一本かかっていて、それ以外に床がなく、闇のみがあった。
また断崖の橋渡りか。そして現れる魔物はスケルトンウォーリアの大集団。それが橋いっぱいに広がって押し寄せてくる。
浮遊で回廊から浮かんで回避しようかと思ったが、ベルさんが『水で流しちまえ』と言ったので、水魔法を側面からぶち当てて、骸骨戦士軍団を橋から深淵へと流してやった。……あぁ、すっきりした。
さあさ、お次は何?
石迷宮型……と思いきや、牢獄フロアだった。腐臭、ヌメヌメした何かの体液か、はたまた血の跡なのか。やたらとホラー感を煽ってくる。
等間隔に設置された牢の中は、骸骨遺体もあれば、宝箱が置かれているものもあった。
「罠だぜ、これは」
嫌な予感がビンビン。この階層は、この単調ながら広い部屋ひとつのみのようで、ぐるっと見たところ、階段らしきものはなかった。
「たぶん、どこかの牢屋の中にあるんだろうな……」
「一つ一つ探索か、これは」
またまた面倒な仕組みだな。虎穴に入らずんば、何とやら。
さて、鬼が出るか蛇が出るか……。
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