第47話、ダンジョンの中を飛ぶもの?
カスティーゴは、いつもの朝を迎えた。
結局、娼館で一泊した俺。振り返れば、窓からザーニャさんが手を振ってくれた。
恋人、いや結婚したら、妻が出社前にああして見送ってくれるのかな――などと妄想を働かせながら、宿への道を歩く。
身体が軽い。心身とも疲れが消えるってのは、こういうものなんだな。これやっぱ大事だわ。今日もダンジョンへ行く身としては。
宿に戻り、ベルさんとエルティアナと合流、朝食を済ませる。装備の確認をしてから邪神塔ダンジョンへ向けて出発。
ベルさんが首を捻った。
「ギルドに寄らなくていいのか?」
「いいんじゃない? スタンピードもないし」
またギルマスから指定依頼とかあったら面倒だ。ヴィックたちに声をかけるか、とも考えたが、ウェポンレイダーの件で多分忙しいだろうから、今はそっとしておこう。
というわけで、カスティーゴを出て、ポータルのもとへ。その途中、センシュタール工房に立ち寄ると、ノーム妖精から、教授からの伝言とプレゼントをもらった。……俺ではなく、エルティアナが。
センシュタール工房製ダッシュブーツと、弓、そして矢筒だ。
何々、教授の伝言の書かれたメモによると、ダッシュブーツは、俺が使っている加速魔法発動のブーツを参考にしたセンシュタール工房オリジナルデザイン。
弓は妖精の弓と言われる、フェアリー族の弓使いが用いる弓を人間サイズに作り直したものだ。やや小ぶりだが、鮮やかな緑に光沢のある弓は、なるほど妖精族の武器である。
そして矢筒であるが、ポシェットのような小ささで、一見すると矢が何本も入るような深さはない。とくれば、魔法具の一種なのだろう。
説明によれば、持ち主の魔力を少量使うことで、矢を生成する、とあった。
「これって、魔力が続けば、無限に矢が出てくるってこと!?」
何それ凄い。つまり、これがあれば矢を買ったり用意しなくていいってことだろ?
「しかも荷物にならない」
「あの……わたし、魔法は……」
エルティアナが眉尻を下げた。そういえば彼女、魔法を使ったところ見たことないけど、やっぱ使えないのかな。
「まあ、誰もが魔法を覚えているわけじゃないからな」
ベルさんがフォローを入れてくれた。
「だが、魔力自体は、この世界のどこにでもあって、嬢ちゃんだってその身体に魔力を持っている。ちょっと練習すれば、たぶんその矢筒から矢を出せると思うぜ」
「難しい、でしょうか……?」
「そんな難しくはないと思うぞ」
そう言うと、ベルさんが試しにやってみた。その瞬間、筒の部分に矢が一本出てきた。
「わかった。頭の中に矢をイメージしてみろ」
言われたとおり、エルティアナは試してみる。じっと見守る俺。指先に魔力を集めたりする必要はないのかな……?
そう思っていたら、すっと、エルティアナの手に矢が握られた。あっさり出てきた!
「まあ、魔法具だからな。それほど難しいもんでもないだろ」
もっともなことを言うベルさん。ここでリリ教授お手製の魔法具の凄さっていうか感じたよ俺。
意外なプレゼントを受け取り、俺たちは改めて邪神塔ダンジョンに向かう。工房を離れてポータルのところまで移動。
いざ、邪神塔地下7階へ。
・ ・ ・
地下7階は、洞窟と遺跡を組み合わせたような内装だった。アーチを描く天井、床は階段状の段差はあれど綺麗に整えられている一方、壁は洞窟の壁そのものといった感じで、くり抜いた感がありありと伝わる。
所々で松明が焚かれている。野暮な突っ込みだが、誰が火をつけてるんだろうね。
敵として現れたのは剣や盾で武装した人型。骸骨戦士もいれば、フルプレートメイルをまとった人型のゴーレム騎士といったものたち。共通しているのは、生き物ではないということか。
「こちとら、ゴーストとミイラ退治は経験済でね!」
浄化寄りのファイアボールでスケルトン・ウォーリアを滅却。
厄介なのはゴーレムナイト。重装備をまとい、盾まで装備されては生半可な魔法や弓矢などの投射攻撃も難しい。おまけに狭い通路でかち合うと、回避不能なんだよね。
が、前衛のベルさんがその豪腕をもって蹴散らしてくれた。ただ、首を落としたり、手足をもいでも、まだ動くところが機械やアンデッドじみてしぶとかったけど。
俺やエルティアナには、相性がよろしくなかったな。
このフロアはレアものこそないが、剣をはじめとした武器、盾や鎧などが回収できた。普通ならお荷物になるから持っていくことはないが、異空間収納やストレージに放り込めるので、換金したり開発品の素材にするのが楽しみだ。
続いて地下8階に突入。7階とよく似た通路がお出迎え。構造は違えど、似たような感じだと思っていたら、通路の先からツルハシか何かで掘る音が聞こえてきた。
何かいるのは間違いない。が、今のところ分岐はなかったのでそのまま進む。すると地下鉱山のような大空洞に出て、犬頭の人型魔物の集団に襲われた。
犬の吠える声が、どんどん仲間を呼んで押し寄せる。だが、広い場所ならば、こちらだって手はあるんだぜ?
俺は炸裂式ファイアボールを無数に放ち、地面を一気に耕すように魔物集団を吹き飛ばす。エルティアナも妖精の弓を使った射撃で、爆撃ファイアボールの隙間を抜けてくる運のいい奴を射殺す。
それでも迫ってきた幸運野郎は、哀れベルさんによって両断された。
「もっとこっちへ回してもいいんだぞ?」
などとベルさんは言ったが、まあ、その必要もなかったかな。あらかた敵を片付け、探索を続ける。
どうも鉱山エリアだったらしく、犬頭どもは採掘作業をしていたらしい。ツルハシや掘り出した鉱物らしき岩が散乱している。塔の中で採掘とか、わけわからんわ。
さらに先へ。またも通路に入って道なりに進むことしばし、またも広い空間だが、今度は切り立った崖になっていて、通れる足場がかなり狭くなっていた。
「こういうのって、だいたい空を飛ぶ奴とか、反対側の崖から一方的に攻撃されるもんだよな……」
「反対側の崖ってのはどこだ?」
ベルさんが先導しつつ、顎で指し示す。反対側は……深い霧が立ちこめていて見えなかった。
「この霧を払ったらどんな地形が広がってるんだろうな」
こちらと似たような崖か、はたまた広大な平原が広がっているのか。それとも、底なしの崖だったり……?
一列になって崖の通路を行く。飛行型魔物の襲撃に備え、防御魔法をかけておく。
心なしか風が吹いているような。崖下は霧のせいで見えない。底が深そう。浮遊魔法もかけておこうかな。落ちたらヤバそうだ。
思わず唾を飲み込む。すると、何やら聞き慣れない轟音が聞こえてきた。
「何か、来るな……」
何だろうな、エンジン音のようにも聞こえる。
「嫌な予感しかしねえ……」
霧の向こうから、ぬっと巨大な影が現れた。ベルさん、そしてエルティアナが「え?」と声を上げた。
俺も思わず表情を引きつるのを感じた。
「あのさぁ……何で、ダンジョンの中なのに、こんなものが飛んでるわけ……?」
現れたのは、レトロ感あふれる小型飛行船だった。
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