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第44話、邪神塔ダンジョンに突入してみた


 ウェポンレイダーのことは気になるが、そこは身内をやられたヴィックたちクーカペンテ戦士団にお任せだ。

 復仇に燃える彼らなら、おそらくウェポンレイダーを自分たちの手で裁きたいと思っているだろうしな。頼まれれば手伝うが、そうでないならしばらくは静観だ。


 ……一応、俺たちはレア装備持ちで、レイダーに狙われる可能性もあるが、その時こそ、こっちで返り討ちにしてやればいい。


 邪神塔ダンジョンへ……の前に、さすがに徹夜でくたくたなので、休息を取る。貴重な時間を消費することになるが、無理はできない。


 翌日、すっかり休みをとった後、俺たちは宿を出た。薬屋へポーション類の補充調達に向うためだ。戦災の跡が生々しく残るカスティーゴの町並み。どこか重く、スタンピードの次の日特有の鍛冶屋が立てる音も、何故か物悲しく感じた。


 薬屋での買い物を済ませ、今度はセンシュタール工房のある町の外へ。そのまま工房を素通りして近くの林へ。邪神塔ダンジョン近くに設置したポータルに繋いで、一気に現地へ向かう。


「今日は初内部なので、無理はせず、偵察気分でやっていく」


 俺は宣言した。危ないと感じたら即撤退。今回でいきなり全攻略するというのは微塵も考えない。

 そんなわけで黒々しい塔、その一階へ入る。事前にヴィックに聞いた話では、この一階フロアはいつ来ても変わらないらしい。


 入り口は東西南北の四ヶ所。だがすぐにひとつの大部屋に繋がっていて、中は上へ登る階段と下への階段しかない。

 なお、運が悪いとモンスターの集団が待ち構えていることがあると言う。


「……いないな」


 入り口から覗き込んで、無人なのを確かめる。ベルさんが先導し、俺、エルティアナが警戒しながら、中へ足を踏みいれる。


「上と……下か」


 フロア中央に階段がある。だが上への階段は、屋上に通じていて、すぐに行き止まる。外から見える塔は幻であり、そこに何もないのは、大抵やってきた者が確認してすぐに引き返す。この邪神塔ダンジョンは下へ行くのが正解なのだ。

 俺とベルさんは頷き合い、下へと降りる。まずは地下1階。


「……いきなり荒れ地か」


 階段を下った先には、床が荒れ果てた野となっていた。壁や天井は普通に石壁なので、建物の中というのはわかるが……。


「外と中の縮尺がおかしいな」


 明らかに外から見た塔の太さと、中の広さが違う。まあ、地下は地上で見えるより大きく作られている、と言われたらそれまでだけど。


「思ったより起伏があるな。見通しが悪い」


 階段の一番下まで到着し、地下1階フロアに一歩を踏み出す。地下2階への階段は、この荒れた野のどこかにあるのだと思われる。俺は思わずため息をついた。


「これ、歩き回らないと次の階へは降りられないタイプ?」


 下手な迷路より面倒かもしれない。どこでも行ける自由度はあるが、見回したり、手を抜くと見落とす可能性がある起伏と地形。端から順番に見ていくことで、いずれ階段を見つけられるだろうが、運が悪いとかなりの時間と労力を使う。


「めんどくせぇ」


 ベルさんは口をへの字に曲げると、何やら握り込んだ右手を持ち上げ、次の瞬間開いた。すると、小さな黒い虫が複数飛び立った。

 ……新手の手品か?


「気のせいかな、ハエに見えた」

「ハエさ」


 ベルさんは腰に手を当てフロアを眺める。


「使い魔を放った。あいつらが虱潰しにフロアを探るから、直接歩いて探すより早く次への階段が見つかるだろう」

「使い魔!」


 そういうのもあるのか。いや、あるんだろうけど、普通、カラスとか猫、ネズミとかだと思った。ハエの使い魔って、初めてだわ。


「なるほど、人海戦術なら、確かに早いかも」


 使い魔たちが見つけるまで、俺たちはのんびり待っていればいいわけだ。

 待つこと十分ほど、ハエが地下2階への階段を見つけた。俺たちは加速魔法でフロアを駆けつつ、次のフロアへと降りていった。



  ・  ・  ・



 次の階は、狭い通路。どうも、ダンジョンと聞いてよくあるタイプの、石材で組まれた迷宮のようだった。

 天井が低く、壁と繋がっているので、上に飛んで見下ろすとかいうズルはできない仕組みだ。


「ベルさん」

「はいよ」


 パンと手を叩くベルさん。ハエの使い魔たちが、十数匹放たれ、迷宮に散っていった。


「……だいぶズルしているよな」

「なんだ、一から真面目に攻略したい派か?」

「いいや。どこまで深いダンジョンかわからないからね。できれば無駄な移動は避けたい」


 俺は後ろの通路を見張っているエルティアナに顔を向ければ、彼女もこちらを見て、コクリと同意するように頷いた。


 待つことしばし、俺たちは見張りをしつつも、休憩タイム。水属性の魔石を仕込んだ水筒から、水分を補給。この水筒は、教授のところで作った魔法具だ。魔法文字と魔石を組み合わせて、新鮮な水が出るようにしたものだ。これで水源を探したり、ろ過作業などをしなくて済むぞ。

 その間にも何匹かハエが戻ってきたが、中々動き出さないベルさん。だが、ある一匹が戻ってきたところで立ち上がった。


「次への階段が見つかった。行くぞ」

「おう」


 魔石水筒をストレージにしまい、俺とエルティアナも、ベルさんの後に続く。


「あと一つ言っておく。使い魔の報告じゃあ、このフロアにも魔物の姿はなかったそうだ。つまり……」

「……トラップのあるフロア、ってことだな」


 これもヴィックから仕入れた情報にあった。迷宮型で、魔物がいるタイプといないタイプがあって、いないほうは矢のトラップや落とし穴などが、多く仕掛けられているらしい。


「どういうこと、ですか?」


 エルティアナが聞いてきたので答える。


「徘徊するモンスターがトラップに引っかかるのを避けるため、って説がある」


 モンスターだ! で身構えていたところ、目の前でそのモンスターが落とし穴に落ちるとか、間抜け過ぎるだろうし。

 理解しました、とエルティアナは頷いた。


「ジン、お前さんとエルティアナに防御魔法と浮遊魔法をかけておけ。それなら大抵のトラップを無効化できる」


 浮遊していれば、床のブロックに罠の作動スイッチがあっても踏むことはない。仮に罠が発動して、矢とか攻撃が飛んできても、防御魔法で防げれば、初見殺しも回避できるって寸法だ。


 正解ルートを知っているベルさんの導きによって、この階もクリア。

 さあ、次はどんなフロアだ?

ブクマ、評価などお待ちしております。

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