表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/98

第43話、ウェポンレイダー


 厄介なこと? 

 ヴィックの発言に俺は思わず首を捻った。


「どういうことだ?」

「ペシュクがやられた」


 初めて聞くが、状況からみて、たぶんこの戦死したお仲間だろう。ゴブリン軍団が都市に入り込んで戦闘になったんだなぁ。……気の毒に。


「殺された。身内の誰かに」


 身内? え、何それ。要領を得ない俺に、顔見知りでもある槍使いのユーゴが言った。


「スタンピードからの防衛戦の最中に、何者かに後ろからやられたんですよ」

「何者かにって、誰に?」

「おそらく、ウェポンレイダーだ」


 怒りを隠せないヴィックが、殺されたペシュクの遺体を見下ろした。

 武器の襲撃者? 俺はベルさんを見やる。……知ってる? いいや、とベルさんが首を横に振る。


「このカスティーゴに、時々武器を奪っていく殺人鬼が現れる」


 ヴィックはぎりっと歯を噛みしめる。


「スタンピードのどさくさに……」


 武器を奪うってことは、つまり、ペシュクの本来持っていたはずの武器がなくなってるってことか?

 ユーゴへと視線を向ければ、彼は答えた。


「ジンの兄貴からもらった双頭竜素材で作った剣が盗まれてます。それに一撃でペシュクを()った手口。ゴブリンじゃありませんぜ」


 確かに、そこそこ大柄な彼を背後から一刺しするには、ゴブリンの背丈では無理がある。ホブゴブリンなら……いや、しかしホブなら鈍器系の武器を好む傾向があるしな。

 しかし――


「皆が、くそ忙しく戦ってたんだぞ……」


 俺は思わず口に出していた。この命をかけて皆で団結しなければならない時に、殺人と盗み。正直、信じられない。頭にきたぞ! 俺でさえこれなのだから、身内を殺されたヴィックたちの怒りも相当なはずだ。


「殺った奴を見つけ出してやる!」


 クーカペンテの戦士たちは怒りを露わにしている。ヴィックが頷くと、彼、彼女らはペシュクの遺体を回収する者以外、町に散っていった。


「手掛かりはあるのか?」


 ベルさんの問いに、ヴィックは否定の首振り。


「ない。だがその手掛かり探すことも含めて、動かないことにはどうにもならん」


 そう言うと、彼は俺たちを見た。


「ウェポンレイダーは、希少な武器を中心に狙うと言われている。君らも充分気をつけろよ」


 希少な武器――ああ、そうね。俺ら、双頭竜素材の武具を持っているし、ベルさんなんてレア装備だらけだもんな。狙われる資格はあるわけだ。……嫌な資格だが。


  ・  ・  ・



 カスティーゴの守備兵力は、半分程度に落ち込んでいる。負傷者はもちろん、死者も少なくなく、装備品の欠品や急ぎの補修が必要な者たちも多かった。

 次のスタンピードは一週間後。それまでにどれだけ戦力を回復させられるかが、次の防衛戦の鍵を握る。負傷者や装備は何とかなるが、死者は甦らない。


 カスティーゴは包囲されていたわけだが、俺たちは、町の外にあるセンシュタール工房へと向かった。最悪な予感がよぎって心配だったのだが、そこにはいつも通り、工房が無傷で存在していた。

 これも妖精たちの不思議パワーってやつなのか。すげぇな、これ。


「昨日は大変だったみたいだね」


 誰? って、リリ教授か。ノームさんたちと同じ帽子被って、ズボンスタイルは、ボーイッシュな印象を与える。


「ここはスタンピードは大丈夫だったんですか?」

「ゴブリンは、あれでも妖精族の血を引いているんだよ」


 教授は答えた。


「もちろん、普通の妖精たちには害を与えてくる連中だけどね。ちょっと魔法で誤魔化してやると、同族だと思って無視するようになるんだ」

「へぇ……?」


 そうなんだ。つまり、妖精側が、ゴブリンになりすますってことかな? 魔法で妖精ではなく、ゴブリンに見えるようにするって解釈でオーケー?


「ともあれ、君らが無事でよかった。特にジン。君は、面白い発想の持ち主だから、勝手に死なないでくれよ」

「……善処します」


 死にたくないからね。面白い発想云々とはいえ、心配してもらえるなら、まあ悪い気はしないな。


「そういえば、教授。ウェポンレイダーって知ってます?」

「カスティーゴにいるとかいう、武器泥棒だろう?」


 ご存じのようだ。ベルさんが聞いた。


「どんな奴なんだ?」

「直接は見たことはないよ。でもうちの知り合いじゃないし、たぶん妖精族ではないと思うよ」


 妖精族? ……ああ、謎の武器泥棒は、人外の可能性があったってことか。俺、普通に人間が犯人だと思っていたんだけど。

 妖精って一口に言っても、色んな種族がいるらしいし。半分幽霊とか化け物に片足突っ込んでいるが、妖精族ってのもいるという話だ。


「妖精族じゃないっていう根拠は?」

「アタシの工房は、武器泥棒に襲われたことがないからな!」


 教授は堂々と言い放った。


「仮に妖精族だったら、カスティーゴにいて、ここのことを知らないなんてあり得ないし」

「なるほど」


 でもここ、本業は魔法具で、武具はおまけ程度。あー、でも、双頭竜素材でダガー作ってくれたし、武器だってあるから、ウェポンレイダーにとってもノーマークということもないか。

 それでも襲われないってことは、カスティーゴでのセンシュタール工房の評判通り、希少な武具はないと、ウェポンレイダーも思っているということだ。つまり、ウェポンレイダーは人間である可能性が高い、か。


「まあ、何にせよ、貴重品を見せびらかすようなことは慎めば、襲われることはないんじゃないかな?」


 教授は他人事のように言った。そうだよな、この妖精さんにとっては他人事だよな。


「それで、昨日はスタンピードがあったわけだけど」


 リリ教授が改まった。


「いよいよ、邪神塔ダンジョンに挑戦するのかな?」

ブクマ評価レビューなどお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始まりました
こちらもよろしくどうぞ。小説家になろう 勝手にランキング

『英雄魔術師はのんびり暮らしたい』
TOブックス様から書籍、第一巻発売中! どうぞよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ