第43話、ウェポンレイダー
厄介なこと?
ヴィックの発言に俺は思わず首を捻った。
「どういうことだ?」
「ペシュクがやられた」
初めて聞くが、状況からみて、たぶんこの戦死したお仲間だろう。ゴブリン軍団が都市に入り込んで戦闘になったんだなぁ。……気の毒に。
「殺された。身内の誰かに」
身内? え、何それ。要領を得ない俺に、顔見知りでもある槍使いのユーゴが言った。
「スタンピードからの防衛戦の最中に、何者かに後ろからやられたんですよ」
「何者かにって、誰に?」
「おそらく、ウェポンレイダーだ」
怒りを隠せないヴィックが、殺されたペシュクの遺体を見下ろした。
武器の襲撃者? 俺はベルさんを見やる。……知ってる? いいや、とベルさんが首を横に振る。
「このカスティーゴに、時々武器を奪っていく殺人鬼が現れる」
ヴィックはぎりっと歯を噛みしめる。
「スタンピードのどさくさに……」
武器を奪うってことは、つまり、ペシュクの本来持っていたはずの武器がなくなってるってことか?
ユーゴへと視線を向ければ、彼は答えた。
「ジンの兄貴からもらった双頭竜素材で作った剣が盗まれてます。それに一撃でペシュクを殺った手口。ゴブリンじゃありませんぜ」
確かに、そこそこ大柄な彼を背後から一刺しするには、ゴブリンの背丈では無理がある。ホブゴブリンなら……いや、しかしホブなら鈍器系の武器を好む傾向があるしな。
しかし――
「皆が、くそ忙しく戦ってたんだぞ……」
俺は思わず口に出していた。この命をかけて皆で団結しなければならない時に、殺人と盗み。正直、信じられない。頭にきたぞ! 俺でさえこれなのだから、身内を殺されたヴィックたちの怒りも相当なはずだ。
「殺った奴を見つけ出してやる!」
クーカペンテの戦士たちは怒りを露わにしている。ヴィックが頷くと、彼、彼女らはペシュクの遺体を回収する者以外、町に散っていった。
「手掛かりはあるのか?」
ベルさんの問いに、ヴィックは否定の首振り。
「ない。だがその手掛かり探すことも含めて、動かないことにはどうにもならん」
そう言うと、彼は俺たちを見た。
「ウェポンレイダーは、希少な武器を中心に狙うと言われている。君らも充分気をつけろよ」
希少な武器――ああ、そうね。俺ら、双頭竜素材の武具を持っているし、ベルさんなんてレア装備だらけだもんな。狙われる資格はあるわけだ。……嫌な資格だが。
・ ・ ・
カスティーゴの守備兵力は、半分程度に落ち込んでいる。負傷者はもちろん、死者も少なくなく、装備品の欠品や急ぎの補修が必要な者たちも多かった。
次のスタンピードは一週間後。それまでにどれだけ戦力を回復させられるかが、次の防衛戦の鍵を握る。負傷者や装備は何とかなるが、死者は甦らない。
カスティーゴは包囲されていたわけだが、俺たちは、町の外にあるセンシュタール工房へと向かった。最悪な予感がよぎって心配だったのだが、そこにはいつも通り、工房が無傷で存在していた。
これも妖精たちの不思議パワーってやつなのか。すげぇな、これ。
「昨日は大変だったみたいだね」
誰? って、リリ教授か。ノームさんたちと同じ帽子被って、ズボンスタイルは、ボーイッシュな印象を与える。
「ここはスタンピードは大丈夫だったんですか?」
「ゴブリンは、あれでも妖精族の血を引いているんだよ」
教授は答えた。
「もちろん、普通の妖精たちには害を与えてくる連中だけどね。ちょっと魔法で誤魔化してやると、同族だと思って無視するようになるんだ」
「へぇ……?」
そうなんだ。つまり、妖精側が、ゴブリンになりすますってことかな? 魔法で妖精ではなく、ゴブリンに見えるようにするって解釈でオーケー?
「ともあれ、君らが無事でよかった。特にジン。君は、面白い発想の持ち主だから、勝手に死なないでくれよ」
「……善処します」
死にたくないからね。面白い発想云々とはいえ、心配してもらえるなら、まあ悪い気はしないな。
「そういえば、教授。ウェポンレイダーって知ってます?」
「カスティーゴにいるとかいう、武器泥棒だろう?」
ご存じのようだ。ベルさんが聞いた。
「どんな奴なんだ?」
「直接は見たことはないよ。でもうちの知り合いじゃないし、たぶん妖精族ではないと思うよ」
妖精族? ……ああ、謎の武器泥棒は、人外の可能性があったってことか。俺、普通に人間が犯人だと思っていたんだけど。
妖精って一口に言っても、色んな種族がいるらしいし。半分幽霊とか化け物に片足突っ込んでいるが、妖精族ってのもいるという話だ。
「妖精族じゃないっていう根拠は?」
「アタシの工房は、武器泥棒に襲われたことがないからな!」
教授は堂々と言い放った。
「仮に妖精族だったら、カスティーゴにいて、ここのことを知らないなんてあり得ないし」
「なるほど」
でもここ、本業は魔法具で、武具はおまけ程度。あー、でも、双頭竜素材でダガー作ってくれたし、武器だってあるから、ウェポンレイダーにとってもノーマークということもないか。
それでも襲われないってことは、カスティーゴでのセンシュタール工房の評判通り、希少な武具はないと、ウェポンレイダーも思っているということだ。つまり、ウェポンレイダーは人間である可能性が高い、か。
「まあ、何にせよ、貴重品を見せびらかすようなことは慎めば、襲われることはないんじゃないかな?」
教授は他人事のように言った。そうだよな、この妖精さんにとっては他人事だよな。
「それで、昨日はスタンピードがあったわけだけど」
リリ教授が改まった。
「いよいよ、邪神塔ダンジョンに挑戦するのかな?」
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