第41話、お宝の鑑定
ミロス山の迷宮を攻略しました――そう俺が報告した時、カスティーゴの冒険者ギルドのロバール氏は、信じられないといった顔になった。
そもそも、俺たちがギルドを訪れ、ギルマスに面会した時の第一声が「まだ、行っていないか」だった。いえいえ、行きましたよ、と言っても、疑惑の目を向けられた。
まあ、誰ひとり帰ってこないダンジョンに送り込んだつもりの彼だから、信じられないのも無理はないが。……って、やっぱり俺らを死地に追い込みやがったなこの野郎!
俺とベルさんは、回収した魔法具のアイテムバック――異空間収納の魔法具で、俺らが使っているのに比べると容量は少ない――から、迷宮という名の宝物庫から持ち出した宝の一部を披露した。
バッグから取り出したのは木製の宝箱。くそ重たいので、俺とベルさん二人がかりで持ち上げ、ギルマスの机に置いてやる。実際のところ、ベルさんひとりで持てるし、俺だって魔法の補助があれば持てるんだけどね。
さて宝箱の中を披露。金貨や宝石類がザクザク……。ロバール氏の目が、飛び出すくらいに大きく見開かれている。
「まあ、見つけたもの勝ちなので、これは俺らでもらいます」
箱をしめて、片付ける俺たち。ギルマスの手が伸びかける。
「あ、いや――」
「とりあえず、ダンジョンを踏破した状態にしたいと言いましたよね?」
お宝拾ってこい、ですかと聞いた時に、そうだと言っていれば、多少提出する必要があったかもしれないが、その時、ギルマスは言ったのだ。そんなことよりも――と。クエストにも、持ってこいとは一言もない。戻ってこないと思っていたんだろうね、ざまあ。
俺は、宝の代わりに小さなプレートの束を押しつけてやる。
「これ、中で死亡していた冒険者たちのプレートです。確認してください」
たぶん、ロバール氏も知っている冒険者の名前もあるだろう。冒険者のランクプレートは身分証明にも使われる。ミロス山の迷宮に挑んで帰ってこなかった冒険者の名前があれば、それで行った証明になるだろう。
ここで俺とベルさんは、ギルマスに嘘を交えた報告を行う。ミロス山の迷宮は、罠も多かったが何とか最深部にたどり着き、番人とおぼしき巨大ゴーレムと交戦、これを撃破した。宝箱を回収した後、魔法陣があったのでそれに乗ったらダンジョンの外に出たが、入り口の魔法陣が壊れ、二度と足を踏み入れることはできなくなった、と。
「冗談じゃないですよ。窓も何もなくて、出口なんてどこにもないかと思いました。たぶん、あの番人を倒さないと、出口の魔法陣が出ないようになっていたんでしょうね」
「……よく倒せたな」
「オレたちを侮るなよ。こちとら双頭竜も仕留めた猛者だぞ」
ベルさんが堂々と胸を張るさまに、ロバール氏もしぶしぶ頷いた。
「そうだったな。……それで先の宝以外に何か、伝説の武器とか魔法具はあったか?」
「さあ、どうだったかな」
すっとぼけるベルさん。
「冒険者や探検に入った連中の装備品は落ちていたぜ」
「……」
あからさまな態度に、ロバール氏の表情が曇る。俺は社会人時代の適当スマイルで、追求の空気を避ける。何故、馬鹿正直に話さねばならんのだ。……相手がまともなら、話す気にもなるが、ロバール氏の信用度などこんなものだ。
・ ・ ・
ひと通り説明の後、俺たちはギルマスの部屋を後にした。最近、あの人の苦虫を噛み潰したような顔を見るのが楽しくなってきた。
その後は、センシュタール工房に赴き、リリ教授のところで、ミロス山の宝物庫から持ち帰ったお宝の鑑定作業。
今日も妖精たちがのんびりやっていて、教授の見守る中、俺たちは回収品を出していく。
古い時代の金貨や銀貨、エメラルドやサファイヤといった宝石。プラチナの首飾りやティアラもある。
「あんまり金目のものには関心がないなぁ」
今日は、ちんまい眼鏡少女の姿をした教授が、どこか投げやりな調子で言った。
「ただ、魔法具には興味があるね。特にこの宝飾たちは、魔法効果があるようだ」
さすがプロの魔法具職人。ひと目みて、魔法具かそうでないかを見分けた。
指輪類は多種多様。宝石付きのものもあれば、リングを構成する素材から、ミスリルだったり、その上位と言われるオリハルコンや他の魔法金属で出来ていたりした。
「高い効果もあって、希少価値はある。興味はあるけど、インパクトはないよね。ジンのように、何かぶっ飛んだものはないのかね」
「……教授、それ、遠回しに俺が変人だと言ってません?」
「自覚はなかったのかい? 君は充分変人だよ」
リリ教授は、ルビー付きの指輪を手にとり、じっくり観察しながらの即答だった。
ベルさんはニヤニヤしているし、エルティアナは、そっと顔を逸らした。彼女にさえ、変人だと思われていたのか、俺?
「教授に言われたらおしまいだ」
「何だい? それは暗に、アタシが変人だという意味かい?」
「え? 自覚なかったんですか?」
俺がやり返すと、リリ教授は次にトパーズ……でいいのかな、宝石付きの指輪を覗き込んだ。
「自覚はあるよ。ただ、人からそう思われるのは、また別の話だろう? なあ、諸君」
教授が、フェアリーやノームたちに同意を求めると、作業していたり、同じく魔法具を検分していた手を止めてコクコクと頷いた。
「アタシとジン、どっちがより変人だと思う?」
一瞬、妖精たちは首をかしげた。なんだこれ、可愛い。
次の瞬間、妖精たちは一斉に一点を指さした。俺――ではなく、教授に。
「何でだよ!」
教授が思わず声を荒げた。今日は子供スタイルなので、大人びた彼女が年相応に拗ねているように見える。これまた可愛い。
ベルさんがカラカラと笑った。
「妖精たちは素直だな」
まったくだ、と俺も肩をすくめた。
鑑定作業は続く。
何やら容器に入った液体の魔法薬、丸薬型の魔法薬は……いくら保存魔法がかけられていても、ちょっと口にしたくない。
キラキラと輝く粒子じみたものが見えている石とか、教授でさえ、何の素材かわからない鉱物。魔石の上位であるオーブという加工された魔法宝石は、各属性がそろっていて、かつ複数あった。
何かの卵と思われる化石、得体の知れない負の魔力がただよう金属製の箱――
「これはちょっと開けたくないなぁ」
「パンドラの箱ですかね」
「何だい、それ?」
「開けたら面倒になる箱のことですよ」
その後もでかい鳥の羽根――魔鳥というらしい――や、一角獣の角とか、竜の爪とか普段、お目にかかれない代物が、それなりにあった。
そして装備類。魔法金属製の盾や兜。特殊な糸で編まれた布や服、ローブ。
「火鼠のマント?」
「燃えない素材な。火属性の攻撃もまったく効かない」
貴重素材の一品などなど。古の魔術師さん、よく集めたよ本当。
そうそうアイテムバックは、異空間収納が使えないエルティアナにあげた。これで彼女も道具や薬などを多く持ち歩ける。邪神塔ダンジョンに挑むに当たって、各人が色々持てるのは、大きな戦力アップだ。
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