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第38話、邪神塔の内部情報


 カスティーゴの冒険者ギルド。俺たちは、クーカペンテの戦士団の団長であるヴィックと会っていた。

 その目的は、邪神塔攻略のための情報収集。何故なら、以前、彼らも邪神塔ダンジョンを攻略しようとしていたと聞いていたからだ。情報収集は基本。


「といっても、内部の詳しい情報ってのはないんだけどね」


 ヴィックのコップに追加の酒を注文しようとすると、「酔ったら考えがまとまらなくなる」と固辞された。


「それというのも、あのダンジョン、入るたびにフロアの構造が変わるんだ。だからマッピングしても、外に出てしまうと途端に役に立たなくなる」


 へえ、内部マップが変わるって、そんなローグライクのゲームあったな。ランダム生成で毎回マップが変わるから遊ぶ分には新鮮なんだけど、実際に命がかかっているダンジョンでは嫌だなぁ。


「まさか、邪神塔の内部地図を誰かから買ったりしていないよな?」


 ヴィックが片方の眉を吊り上げた。俺は首を横に振った。


「いいや。まずはあんたから話を聞こうと思ってね」

「賢明だな。カスティーゴじゃ、何も知らない新人に邪神塔の地図を売りつける輩もいるからな」


 おお、怖い。知らないことにかこつけて、詐欺か。……まあ、知ってたら引っかからないか。

 なるほどねぇ、とベルさん。


「邪神塔ダンジョンが攻略されないわけだ。スタンピードで時間制限がある上に、毎回リセットされて、以前行ったところでさえスムーズにいけないってんじゃな」

「あのダンジョンの最大の敵は、まさに攻略可能時間だろうね」


 ヴィックが難しい顔で言った。


「それがなければ、食料や装備を持ち込んで、時間をかければ誰かが、どこかで攻略できる可能性はあった」


 ちら、と俺は、ベルさんと顔を見合わせる。時間については、ポータルを使うことで大幅に短縮し、これまで冒険者が探索していたより捜索できるだろう。


「ちなみに、何階まで行ったの?」

「何回か入ったが、最長で10階層。塔とは言ったが、本当に奇妙なダンジョンだよ。いや、ダンジョンだからこそ、奇妙なのかもしれない」


 例えば、フロアの中には、塔の中にも関わらず通路に大きな崖状の落とし穴があったり――


「崖?」

「そう、崖。橋がなくてね、その時は諦めた。事前にその崖に落ちたら帰ってこれないって聞いていたからね」

「下の階層に続いているんじゃないのか?」


 だとすればショートカットもできただろうに。


「それが別空間のようだ。その情報をもたらした冒険者によると、通常の階段で下の階層にいって、例の崖があった辺りを見に行ったんだが――」

「崖がなかった」

「そうだ。普通に天井がある石造りの通路だったそうだよ」

「……場所は確かにそこだったのか? 間違えている可能性は?」

「さあ、案外そうかもしれない。所詮、証言だけで証拠はないしな。その冒険者が純粋に間違えているかもしれないし、あるいは嘘をついているかもしれない」


 ふむ、情報を集めるのはいいが、間違いもそれなりにありそうだな、こりゃ。実際に見てみるのが一番なのだが、初見殺しは勘弁してほしいところではある。


「別空間か……」

「なんだ、ジン?」

「いや、さっきの話が本当だとしたらさ、階段で下の階層に行くっての? それ、階段で別のフロアに切り替わってるんじゃないかって思ったんだ」

「どういうことだ?」


 ヴィックが要領を得ない顔になる。そうだなぁ――


「Aという階層があって、B、Cと階層があるとしよう。普通はAの次はB、その次がCと続いているんだけど、Aの階段を降りた先がBではなく、Cに繋がっているんじゃないか」

「入れ替わっている?」

「何十、何百というフロアが、一階進むごとにランダムで決定する。だから毎回違う」


 Aの次がGかもしれないし、Xかもしれない。入り直すたびに代わっていくなら、階層マップが役にたたなくなるのも道理だ。先ほどの、崖があったのに、下の階でその崖と接していない説明にもなる。

 ヴィックが目を見開いた。


「それが毎回フロアが違うトリックか!?」

「いや、どうだろ。階層を戻る時はどうだったんだ? 違うフロアだったか?」

「……いや、自分たちが通ってきた道だった」

「うん、帰りは適用されないのか、あるいは、この推測が間違っているか……」

『そのあたりは、あまり気にしなくていいと思うぜ』


 ベルさんが念話で告げた。


『ポータルで行き来するなら、フロアの構造は重要じゃない』

『どうかな。もしかしたら一定の法則があって、何か条件を満たさないと奥に行けないかもしれないぞ?』


 ランダムフロアを破る何らかの条件が必要かもしれない。そもそも、何階あるかわからないダンジョンだ。どこかでループしたりする可能性だってある。


『確証はないな』

『その通り。証拠はない。推測だ』


 ここでグダグダ話し合っても、どうにもならないことだ。実際に行ってみなければわからない。


「地道に攻略していくしかないな」


 そう言葉に出せば、ベルさんもヴィックも同意した。

 さて、このダンジョンの地図は不明だが、どういうフロアがあるのか聞くのは無駄ではあるまい。

 それで、どんなフロアがあるんだい?


「タダで、教えろと?」


 ヴィックがカップを掲げるように言えば、俺は笑った。


「俺たちが進んだ分の階層の情報を教えよう」


 まだ行っていないから、後払いの格好になるけどね。情報は金になる。タダで聞き出そうなんて、むしの良いことはしないさ。

 今度はヴィックが吹き出した。


「君たちを信用してる。人手がいるなら、言ってくれ。あと何か必要なものの手配も」

「ヒュー、気前がいいな」


 ベルさんがニヤリと口もとを歪めた。何を企んでいるんだ? とその顔が言ってる。


「君たちに期待しているんだよ。たぶん、いまこのカスティーゴで、邪神塔の深いところまで行けるには君たちコンビだと思う」

「買いかぶりじゃないといいんだけど」


 俺は苦笑しつつ、首を振った。


「期待に添えるよう頑張る」


 乾杯――俺たちは再度、カップを当て杯を呷った。

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