第37話、ポータル使えるようになったので――
魔の森、移動中。俺、ベルさん、エルティアナは、邪神塔の近くを目指している。今回は、塔近辺の適当な場所に『ポータル』を設置するのが目的だ。
あれから転移魔法を練習して、固定化に成功した。稼働するための魔力を、大気などの周囲にある魔力で補うことで、時間で消えなくなったのだ。俺が作り出した時の魔力だけでは、どうあっても展開時間に限界があったからね。魔力はどこにでもある、ということだから、じゃあその辺の魔力を使えばいいじゃん、という発想だ。
ともあれ、邪神塔ダンジョン攻略に鍵となる転移魔法『ポータル』は完成。攻略準備がひとつ、前進した。
薄暗い森を進む俺たち。
「正面、ゴブリン!」
ベルさんが警告を飛ばした。森の木陰に潜むように小鬼が潜んでいる。
「エルティアナ!」
アーチャーのエルティアナがクロスボウ型投射武器のエアバレットを構える。彼女にとってかつての自分の性格や仲間を失うきっかけとなった仇敵であるゴブリン。それを目の当たりにすると、エルティアナの目の色が変わる。
恐怖。しかし怒りのほうが強い。感情が表に出にくい彼女にしては珍しく、強烈な殺意がみなぎるのだ。
エアバレットから放たれた強力な衝撃波が、ゴブリンをまわりの木枝ごと吹き飛ばす。
肌をズタズタに引き裂かれ、小柄なゴブリンは後方の木に叩き付けられ、そのまま動かなくなった。
衝撃波の威力、侮ることなかれ。一撃を喰らって、立ち上がる魔物も多いエアバレットだが、対象の目や肌、内臓にダメージを与えていて、その後の動きを大きく阻害していたりする。
一見、一撃で倒せなくても、弱ったところをベルさんが、簡単に仕留めていくので、そう悪いものでもない。
「大丈夫か、エルティアナ?」
ゴブリンを一匹仕留めた後、俺は気にかけてみれば、こちらを向いたエルティアナの目はいつもの通りに戻っていた。俺の問いに、コクリと頷いて答える。
前衛のベルさんは、相変わらず森の魔物を蹴散らす。アーチャーのエルティアナは、エアバレットとサンダーバレットを使っての中距離支援。俺は防御魔法でふたりをカバーしつつ、手が足りなければ火力支援などで援護にまわった。
三人で行動するようになり、ここのところ互いの呼吸がわかってきて連携もうまくなっていると思う。
エルティアナの加入は、移動面に若干面倒も増えた。だが単純に人が増えて、見張りやその他ローテーション、雑用の処理の負担が軽減された。長いだろう邪神塔攻略のためにも予備人員があるのはいいことだ。総合的にみれば、プラスである。
「とはいえ、エルティアナの武器は、もうちょっと強化したほうがいいんじゃないか?」
森の木々の隙間から邪神塔が見える位置で休憩をとりながら、ベルさんが指摘した。
「エアバレットも悪くないが、独力で敵を倒せる武器があったほうがいいだろう」
「そうだな……」
多数の敵を相手にしなくてはいけない場合、速やかに敵の数を減らさないといけない場合とか、何らかのトラップで単独行動を強いられた場合とか、自分ひとりで何とかしないといけない状況もあるだろうしな。
「閉所や近接戦に備えて、サンダーバレットがあるけど……」
エルティアナはもちろん、俺も自分用に作った。短詠唱や無詠唱でも魔法は使えるが、とっさの場合、拳銃型魔法拳銃のほうが速いこともあるだろう。
「威力については改善の余地あるんだよな。携帯性を優先して、少々パンチ不足も否めない」
いっそSFにあるようなレーザーガンじみた、魔法弾を放つ強化型魔法銃でも作るか。魔法って、あまり遠距離戦に向かないところがあるから、遠くに、かつ威力の強い弾を撃つなら、それなりのものになるだろうけど。
「ふつうに――」
エルティアナが、か細い声ながら発言した。
「矢を使ったクロスボウでは……だめ、ですか……?」
「なるほど」
投射武器としてみるなら、魔法にこだわらずに物理系にするのもありだ。とくにクロスボウは、弓に比べて射程で劣るが、照準がつけやすい上に、距離にもよるが鉄の鎧さえ貫通する威力があると聞く。……矢を携帯する必要があるが、何本か、魔法文字を刻んだ特殊矢を持たせれば、さらに対応力も上がる。
「教授に相談してみよう」
実際のクロスボウは、俺も作ったことないから、工房の妖精さんたちの力を借りて、覚えてしまおう。
「……ん? どうしたの、ベルさん。難しい顔をして」
「いや、クロスボウってさ、弦を引くのに手間だから、速射性は落ちるんじゃねえかと思って」
あー、そういえばそんな話、昔、読んだ。クロスボウの歴史の中で、改良を加えていく一方、威力が上がった代償に装填時間が伸びた。人力で弦が引けなくなったり、機械的に複雑化したりと、問題も多かった。
「速射性が落ちるってのは問題だけど、そんな引けないほどの武器にはしないだろ」
細身のエルティアナを見やる。それでもアーチャーとして弓を引けるほど、腕力は女性としてはあるほうだ。そうは見えなくてもね。
「魔法具で補う、か」
思いつきを口にする。パワーグラブとかグローブとかっていう、力の上がる手袋だかのアイテムが記憶の中によぎった。まあ、ゲームの話なんだけど、そういう腕力補正する魔法具があれば、威力を高めつつも人力で撃てるクロスボウが作れるのではないだろうか。
せっかく魔法がある世界なんだし、利用しない手はないよな。
雑談のあと、邪神塔めざして出発。魔物にやられたのだろう、白骨化した戦士の成れの果てを尻目に、襲いかかってきたラプトルを返り討ちにして、さらに進む。茂みをかきわけ、木々の隙間を抜けて、ようやく塔まできたが……。
「で、ポータルはどのあたりに設置しようかな」
魔物が徘徊し、たまに冒険者もやってくるという邪神塔。目立つところにポータルを置くのは論外。入られるのはもちろん、こちらが出ようとした時に鉢合わせになっても困る。
「とりあえず、人や魔物が近づかないような場所だろうな」
ベルさんが辺りを見回した。
「せっかく塔にきたが、ちょっと離れた場所がいい」
そんなわけで、塔のまわりをウロウロする。……しかし、何度みても、禍々しい塔だ。
「ダンジョン攻略でも、状況によっては、ポータルの設置場所を探して時間を取られることになりそうだ」
「うまく、適当な場所に設置できればいいんだがな」
邪魔な枝を切り落とし、先導するベルさん。
「潜伏か隠蔽できる手段を使ったほうがいいかもしれないな」
「あー、確かに」
ダンジョンの中では、そう都合のいい場所もないかもしれない。最善の適所を探して時間を浪費するより、見つからないように隠す工夫をしたほうが建設的かも。
攻略前に、また課題が見つかったな。いや、ちょっと考えれば、その可能性も浮かんだだろうけどね。まずは行ってみて体験したほうが、ただ想像するより色々わかることもある。
その後、ポータルを置く場所を探して一時間ほど彷徨うことになった。
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