表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/98

第30話、王家の墓最深部


 王家の墓の深部、あらかた宝の持ち出された後の室内。壁を探っているベルさんは言った。

 出現したミイラは魔法具によって作られた存在だと。


「魔法具と推測するのは、わざわざミイラを使っているってところだな。この墓を作った当時の。もし今、召喚術者がここにいたとしたら、ミイラでなくてもいいわけだしな」


 確かに。先客がいて、やってきた俺たちに嫌がらせしたいなら、他の魔獣とか召喚生物を出せばいい。


「そうなると、その魔法具とやらを止めないと、いつまで経っても、クエスト達成にはならない?」

「そうなるな」


 次の瞬間、ベルさんが壁を蹴り飛ばした。石の壁が脆くも崩れ、通路が現れた。こいつは、隠し通路か。

 わぁお……。俺はベルさんの元へ駆けつける。ぽっかり開いた闇の口の奥、かすれた呻き声のようなものが聞こえた。


「進もう」


 先導するベルさん。俺はその後に続く。


 通路を進んでいくと、やはりというべきか、ミイラが現れて俺たちの行く手を遮った。もっとも足止めにもならなかったが。


 広い部屋に出て、そこにいた十数体のミイラを掃除。その戦闘の中、ベルさんが吠える。


「あの石像! あれだ!」


 鳥頭の人型の石像。その前で、淡い光が走り、床から湧くようにミイラが具現化する。


「オーケー、破壊する!」


 ライトニング! 電撃弾を撃ち込み、その鳥頭を吹き飛ばす。すると、具現化途中のミイラが粉のように散って消えた。

 もう現れないとなれば、後は掃討するのみだ。



  ・  ・  ・



「ここが最深部ってことになるのかな……?」


 掃討した後の室内。宝箱や壺が壁ぎわに置かれていた。さらに床には、いくつか魔法陣が描かれていたる


「気をつけろよ。その魔法陣で、この墓のどこかに転送されるぞ」


 ベルさんが首を振った。

 なるほど、この部屋でミイラが生成されて、魔法陣で室外に飛ばされていたわけね。


「で、そのスイッチを入れた奴がいて、それがここのアンデッド大発生の原因になったと」「魔法具は壊したから、もう湧いてくることはないだろ」


 剣を鞘に収めて、ベルさんはニヤリとした。


「よかったな、ジン。お望みのお宝タイムだ」

「ああ、まったく」


 やっぱりお楽しみがないとね。さてさて、宝箱には何が入っているかな……?


「罠の類いはあるかな?」

「心配なら防御魔法をかけておけよ」


 そりゃそうだ。鍵は……開いた。さてさて、中身は……。


「カード?」

「護符か?」


 ベルさんも覗き込む。複数枚のカード……タロットカードみたいだ。


「魔法のカードってことかな」

「これも昔の魔法具かもな」

「読めるかい?」

「さあな」


 ベルさんも見たことがないらしい。俺は異空間収納にカードをしまう。


「魔法具なら、リリさんに聞いてみよう」


 他には、と複数の箱を漁ってみれば、魔法使い用の杖とか、魔石や宝石をあしらった魔法具が数点回収できた。正直、何に使うかわからないのもあるけど。

 さて、俺はフロアを見渡し、この部屋にもある祭壇へと視線が向いた。そこにも棺がひとつあって、こちらはまだ開けられた形跡がない。


「この部屋に葬られた人間かな?」

「たぶんな」


 ベルさんは頷いた。


「そいつの持ち物だっていうなら、この部屋にあったものも納得できるってもんだ。生前は魔術師だったんだろうなぁ」


 宝があったということは、この棺の中には、その仏さんがあるってことだよな。


「どうするジン? 開けるのか」

「いいや」


 できれば開けたくないな。トレジャーハンターの真似事をして、お宝は回収してきたけど、さすがにミイラとか遺体をお持ち帰りするつもりはなかった。


「このまま眠らせておこうと思う」

「それが賢明かもな」


 ベルさんは棺を睨む。


「そもそもミイラを使役するような魔法具を使う魔術師だ。もしかしたら、自身の遺体に魔法をかけていて、アンデッドキングとして甦るなんてこともあるかもしれん」

「ありそう。何せここ墓場だし」


 触らぬ神に祟りなしっていうし、これでお暇しよう。


「やっぱ強いのかい? アンデッドキングって」

「例えばの話だったんだが……。そうだな、不死者の王ってのは面倒なのは間違いない。オレはともかく、今のお前さんじゃ荷が重い」


 ベルさんがそう言うのならそうなんだろうな。


 というわけで、俺たちは元来た道を引き返す。ベルさんが蹴破った壁を再度、岩の魔法で塞いだ後、外を目指した。隠し通路は隠したままにしておく。やはりお墓は静かにしておきたい。

 あれほどいたミイラは影も形もなく、ゴーストも現れなかった。


「クエスト達成で問題なさそうだ」


 外の空気がうまい。王家の墓の外に出ると、すでに夕方。間もなく日が暮れる。


「今日はこのあたりでキャンプかな?」


 空を飛んで帰っても、カスティーゴにつく頃には出入り口の門は閉まっている。空から侵入して騒ぎになるのは避けたい。……出かける時も、街から離れてから浮遊バイクとか使ってるくらいだからね。

 もっと便利に移動できたらいいのになぁ。空を飛ぶだけで、かなり道中を短縮しているんだけど、こう、RPGにおけるボス倒したら、自動でダンジョンの外に戻るとか、町に移動しているとかさ。


 転移とかっていうの? そうそう、そういえばこの王家の墓の中にもミイラが移動するために転移魔法陣とかあったみたいだけど。


「あったらいいなぁ、転移魔法」


 つい呟きが漏れた。するとベルさんが首をかしげた。


「あるぞ、転移魔法」

「あるの?」


 思わず聞き返せば、相棒は肩をすくめた。


「そりゃあるさ。オレを誰だと思っているんだ?」


 大悪魔にして魔王様。並みの人間の範疇に入るはずのないお方がそこにいるのだった。

英雄魔術師はのんびり暮らしたい2巻、4月10日発売予定!


レビュー、評価、ブクマなどよろしくです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始まりました
こちらもよろしくどうぞ。小説家になろう 勝手にランキング

『英雄魔術師はのんびり暮らしたい』
TOブックス様から書籍、第一巻発売中! どうぞよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ