第29話、ミイラとゴースト
通称『王家の墓』。どの王家なのかは知らないが、少なくとも今のウーラムゴリサ王国のものではないらしい。様々な歴史を振り返っても、滅びたり、新しい王家が生まれたりすることは珍しいことではないのだ。
今回、俺とベルさんがこなすクエストは、その王家の墓に赴いて、大量に湧いているらしいアンデッドを退治しろ、というもの。墓場だもの、死者がいるのは当たり前だが、これそっとしておいたらダメなのかねぇ……。
例によって、エルティアナをヴィックのところに預けて、いざ王家の墓のあるポンテ渓谷へ。ちょっと遠いので、俺は浮遊バイク、ベルさんは竜形態で空から現地へ飛ぶことにした。
不毛なる大地。植物もほとんど見当たらず、砂と岩だらけ。谷へと下りると、いわゆる死の臭いを感じた。
「何だか変な圧迫感があるな」
「負に汚染された魔力のせいだろうよ」
人型に戻ったベルさんが淡々と言った。王家の墓とやらは谷の一角、その入り口は洞窟のようになっていると聞いている。
「アンデッドの対処はわかるな? 殴れる奴はぶん殴る。殴れない奴は、その構成する魔力を攻撃すれば倒せる」
「殴れない奴ってのはゴースト系だろう? ああいうのって、浄化とか神聖系の魔法じゃないと倒せないイメージ」
「教会の連中が使う魔法ってか? 所詮はただの光系の魔法だろうに。浄化っていうが、結局は、霊体を構成する魔力を攻撃しているからであって、やっていることは変わらんぞ」
そうなのかい。さすがベルさん、物知りだ。
ジャリジャリと土を踏み、寂れた大地を歩くことしばし、四角く削った大きな岩でできた、積み木で作ったゲートのような洞窟入り口へ到達。ますます嫌な気配を感じてはいたが、アンデッドの姿は今の所ない。
「入ったら、ウジャウジャいるかもな」
「ああ、嫌だ嫌だ、そういうの」
フラグめいて嫌だよ、まったく。
・ ・ ・
昔、ピラミッドのことが書かれた本を読んだことがある。あれはあの大きさの割に、中ってほとんどなくて、通路や部屋もさほどない。図体ばかりでかいが、脳みそが小さいやつ――みたいなものだ。
そしてこの王家の墓は、どうやら地下をくり貫いたタイプで、通路は広め、大きな部屋もいくつもあった。……そして包帯巻きのアンデッド――いわゆるミイラが大量に。
「どういうことなの?」
死者の軍勢か。生半可に突いたり切ったり程度では倒せないのはさすがアンデッド。手足を切断して動けなくしたり、魔法で燃やしたり、中々面倒だった。
「なんで、こんなにアンデッドが湧いてるんだ?
しかもミイラだ。ご丁寧に包帯グルグル巻き。そんなのは元からこの墓に安置されていたものだろうけど、その数が異常だ。一体、何人のミイラをこの墓に埋葬したっていうんだよ!?
「オレが知るかよ。……ほら、言っている間に人魂だぞ」
ゴーストだろう。手にカンテラらしきものを持って、ふよふよと漂いながら迫ってくる。カンテラの炎は青や緑。ちょっと綺麗に見えなくもないが、不気味でもある。
「間違っても触るなよ。生命力と魔力を吸われて、干からびたミイラの仲間入りだ」
えげつね。暗がりだが、よく見たら、ボロ布ローブをまとった骸骨みたいな顔して怖い。触られたくないので、魔法で攻撃だ。ファイアボールを喰らえ! 炎の魔弾で成仏しろや。
ところが、炎はゴーストをすり抜けてしまった。
「あれ? 魔法が効かない?」
「物理的に寄せすぎなんだろ。もっと魔力に作用するように炎を形成しろ」
ベルさんのアドバイスが飛んできた。魔法と言っても、実は術者のイメージで効果や威力に差がある。同じファイアボールでも差があるのは個人差とひとまとめにされがちだが、術者の認識によって、対象への効果も変わってきたりする。
俺は、いわゆるゲームに登場するエクソシストたちの除霊魔法をイメージに加えながら、ファイアボールを放った。すると今度はゴーストに命中、そのままその構成魔力を塵のように霧散させた。
「できた」
「いい仕事だ!」
ベルさんから、さっそくお褒めの言葉。そちらは相変わらず、ミイラどもを両断中。首なしミイラが歩いてくる様は異様だ。だがベルさんは、その手足を分断して、蹴り飛ばした。かっけえ、さすが歴戦の猛者である。
・ ・ ・
そんな感じでアンデッドと、遭遇のたびに交戦。退治するのがクエスト内容だからしょうがない。気分はゴーストバスターズってか?
しかし、広い墓だ。まるで砦とか、地下ながら屋敷みたいに部屋が多い。これはあれかな。死後、死者たちが生活できるようにって思想の結果ってやつ。……そもそも、ミイラにするっていうのは、そういう意味があったような。
だとしたら、この王家のために、何十ものミイラを作ったのかね? なんかもう、三桁くらいに達しそうな勢いなんだが。王族の道連れ百人超とか笑えない。
「さすがに疲れてきた……」
「邪神塔は、たぶんここの比じゃないぞ」
ベルさんは汗ひとつかかずにそんなことを言うのだ。タフガイ!
「あとどれだけ部屋があるんだろうな……?」
「さすがにここが最後だろう」
いかにも王族を葬ったとおぼしき部屋。奥には祭壇があって石の棺があったが、中は空っぽだった。
「何もないぞ」
「墓荒らしにやられたんだろうよ」
ベルさんは部屋を検分していく。俺は棺の中を見やり、首を振った。
「お宝もない。とんだ無駄骨だ」
「面白くないぞ」
遺骨がないから骨がない。無駄骨? やかましいわ。別に冗談を言ったつもりはないぞ。
「昔の、それも王家の墓とくりゃ、荒らされないほうがおかしい」
「窃盗は犯罪だぞ」
荒らされるほうがおかしいと思うのは、日本人的過ぎるだろうか?
「そもそも、宝探しに来たんじゃないぞ、ジン」
「はいはい、お化け退治でしたね、そうでした」
俺はため息をついた。ふと、フロアをうろついているベルさんを見やる。
「何しているんだい?」
「魔力の流れを辿っている。お前、おかしいと思わないか? アンデッドが何で今、大発生したのか」
「そりゃ、墓場だ。アンデッドがいてもおかしくない。……ただ」
そうだな、どうして『今』湧いているのか、謎といえば謎だ。
「オレの推理を聞くか?」
「聞かせてくれ、ベルさん」
「最近、ここに墓泥棒が入った」
ベルさんは壁の前に立ち止まる。何やら文字が刻まれた壁。ただ部屋中の壁がそうなので、そこだけ特別怪しいわけではない。
「その泥棒が、トラップのスイッチを入れてしまったんだろう。ミイラを発生させる魔法具の……」
「ミイラを発生させる魔法具だって?」
「ああ。お前さんは、あのミイラを直接殴ってないから気づかなかったみたいだが、あのミイラどもは召喚魔法の類いで作られたやつだよ」
ベルさんは確信を込めてそう言った。
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