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第2話、異空間収納魔法とベルさんのお話


 ありとあらゆるものに存在する魔力。

 ベルさんの話は、何かの映画や小説の設定で聞いたことあるような話だった。目に見えていないだけで、そこにある、か……。


「だから、他のものから魔力を利用すれば、自分の魔力の消費を抑えながら、強い魔法を使うことができるって寸法だ」

「なるほど」


 ちょっとした裏技みたいだ。ゲームとかだとMPって自分のを消費するから、魔法=自分の魔力で発動ってイメージがついてるんだよな。ベルさんが言っていたのは、他のやつのMPを利用しろよってことだね。勉強になるな。

 ……そういえば。


「ベルさん、あんたは剣を持っていたけど、あれも魔法なのか?」


 今は持っていない。盗賊や角猪と戦った時は確かに持っていたのだが。


「ああ、ちょっと異空間に収納していているんだ――」


 次の瞬間、何もないはずの空間から、二本の剣が飛び出した。長さは一メートルほどの片手剣。柄は黒く獣を模した飾りがある一方、剣は曇りひとつない銀色。……そこらの量産品とは段違いの見栄えである。


「異空間に収納ねぇ」


 ゲームや小説的な言い方をするなら、アイテムボックスとかインベントリと言うやつに近いだろうか。

 俺が感心していると、ベルさんは不満そうな顔になった。


「何だ、剣じゃなくてそっちか」


 剣に関心があるかと思ったら違ったので、ベルさんはがっかりしたようだった。


「いや、剣も凄いが……異空間に収納とかいいなって思って」


 まあ、今は収納するような荷物もないんですけどね。あ、角猪の解体した品があったか。


「お前もやってみるか?」


 ベルさんが深く考える様子もなく言った。


「できるのか?」

「お、お、お! できるか、じゃない――」

「できる――そうだったな」


 俺が頷くと、ベルさんもニヤリとした。

 


  ・  ・  ・



 コツは、見えない箱があって、そこに物を出し入れする感覚らしい。ちなみにその箱は通常は触ることができないので、中からものを取り出す時は、自身の手もその箱と同じように魔力と同化させるのだそうだ。


 ……わかるような、わからないような。はっきり言って、深く考えたら駄目なやつっぽい。おとぎ話に登場する謎アイテムとか、なぞなぞのようなトンチじみた思考を受け入れるくらい、頭を柔らかくする必要がある。

 科学的に突き詰めようとすると、『無理』という思考が先走り、大抵失敗するのだそうだ。


 なお、最初の説明も、考え方のひとつであって、自分なりに解釈して別の感覚でアプローチしてもいいらしい。例えば剣の場合、箱ではなく、見えない鞘に納めておく感じで、使いたいと思った瞬間、鞘から抜剣する……みたいな。


 とりあえず、魔力消耗中の俺は、異空間収納の魔法の練習は後日ということにして、しばらくベルさんとお喋り。

 ベルさんって魔王とか大悪魔って言ってたけど、どうなの?


「あぁ、オレ様たちの主な活動世界は……そうだな、魔界とでも言っておく。オレ様はそこで魔王をしていた」

「一番偉い人か」

「一番、かどうかは知らん。魔王と言っても一人じゃねぇからな。まあ、少なくともトップクラスの大悪魔として、魔王会議への参加資格があるくらいは偉いとだけは言っておく」


 魔王がゴロゴロしている魔界。……おっかないな、それは。


 で、ベルさんの続けるところ、魔界は、いわゆる天使の支配する天界と日夜戦争していて、ベルさんもまた自分の軍団を率いて、天界の軍勢と戦っていたそうな。

 来る日も、来る日も、来る日も。

 何年とか何十とかいうレベルではなく、ベルさん自身覚えていないと言い放つほどの長い年月を戦い続けた。


「何でそんな戦争を……?」

「さあな。天使どもは悪魔が気にいらん。そしてオレ様たち悪魔も連中を好かん。まあそういうことだろう」


 元を辿れば、それなりに理由があったかもしれないが、今は誰もそんなことは気にしていない。武器を向けてくるから戦う、そんなものだと言う。


「正直、飽き飽きしてたけどな……」


 ベルさんは大仰に肩をすくめた。

 今回、天使が悪魔用に使う檻を人間――大帝国がどこからか手に入れ、ベルさんを召喚、そのまま閉じ込めてしまったらしい。


 ただ人間の手が加えられたせいか、完全な悪魔対策には不十分だったようだ。俺の魔力を上乗せすることでベルさんは力技で脱出、先の召喚施設を更地に変えた。

 そして今にいたる。


 ベルさんは帰らなくていいのか? と思ったが、そういえば最初に話した時、同じ質問をしていたことを思い出す。借りがあるから、俺が自立できるまでついててやる、だったか。

 お世話になりっぱなしではあるが、今ベルさんと別れて一人でやっていけるかについては、さすがに自信がなかった。



  ・  ・  ・



 ディグラートル大帝国クイグ魔導研究所は、廃墟と化していた。

 魔術師ファナ・キャハは口をヘの字に曲げた。


 美女である。二十代。長い赤色の髪、ネコ科を思わす目つきは艶やか。魔女のトレードマークともいえる三角帽子。黒いワンピースのドレス、その胸元は豊満であり、きゅっとくびれた腰回りに丈の短い裾からは、艶めかしく足が伸びている。


 大帝国の魔法学院をその年、主席で卒業し、こと魔法武器研究で同国の中でもトップを行く秀才だった。

 同時に、傲慢でもあった。


「まったく……出張から帰ってみればこのありさまなんて」


 近場の魔導実験で離れていた。古代文明時代の特殊な魔法武器――略して魔器の素材集めのための召喚施設があったクイグ研究所は、ファナの留守中に吹き飛んだ。


 報告にきた伝令によれば、素材だった大悪魔が暴れたのだと言う。同時に他の素材も、騒ぎのどさくさに紛れて逃走したらしい。


「大悪魔は仕方ないにしても――」


 ファナは口をすぼめた。


「逃げた異世界人素材は、今からでも回収しないとね……隊長さん?」


 魔女は首を動かして、後ろに控える帝国騎士に意地悪な目を向ける。


「捜索隊を編成。回収任務、行かせてちょうだい」

「はっ!」


 ファナより年上の騎士は背筋を伸ばして答えると、次に部下へと指示を飛ばした。


「……召喚装置と研究所の喪失は痛い」


 ファナは額に右手の指を当てた。首を傾けたまま、彼女はひとり呟く。


「入れ物はあるのだから、逃げた奴捕まえて、魔器をひとつでも完成させないとね……」


 何せ、異世界人の魔力は、数値は別にしても、この世界の人間の魔力と違う。何が違うのかは研究段階ではっきりとわからない。ただ魔力が豊富な人間を魔器に封入するのと、その効果に何故か差が出る。

 希少な素材だ。ひとりとて逃すのはもったいない。


 ファナは率いる魔法部隊に、異世界人追撃命令を出した。正直、どれだけの素材がまだ近くをうろついているかわからないが、ファナとしては、誰ひとりとして逃すつもりはなかった。

次話も明日投稿予定(時間は未定)。出張から帰ってきたら決めます。

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