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第25話、魔法鍛冶師に会いにいったら……


 それは城塞都市の外れにあった。いや、外れというか、まんま城壁の外なんだが……。

 俺とベルさんは、町から見て森の反対側にある、緑溢れる丘に建つ一軒家へと歩み寄った。


「こんなところに建っていて、ダンジョンスタンピードの時、大丈夫なんだろうか?」

「大丈夫だから建ってるんじゃないか?」


 ベルさんが、もっともなことを言った。


「それより見えるか? かなり魔力が濃い」


 言われて魔力眼で見てみれば、なるほど、淡い緑色の魔力が建物のまわりに充満していた。緑ということは、大地の色。かなり自然の息吹が強い場所といえる。


「……フェアリーがいるな」


 ベルさんが少し顔をしかめ、何やら魔法を使ったようだ。魔力眼で見ていたから気づいたが、薄い魔力の膜が張られたあと、すぐに消えた。


「何をしたんだ?」

「オレは悪魔だからな。そのまま行って気づかれると、あいつら逃げるんだよ」

「妖精が?」

「そういうのに敏感なんだよ」


 ベルさんが、さも当然のように言う。いやそもそもね……。


「この世界に妖精がいるのか。俺、これまで見たことないんだけど」


 フェアリーって、いわゆる妖精だろう? だいたい二、三十センチくらいのちっさくて、羽根があるやつ。それはピクシーだっけ……?


「そりゃ、オレがそばにいたからな。言ったろ? 悪魔の気配を感じたら、あいつらは逃げる」


 なるほど。魔法とか異種族や魔物なんて、ファンタジーな世界だ。妖精がいても別におかしくはないか。


「妖精って、普通に街とか村でもいるものなのかい? 住民たちから妖精なんて単語を聞いたことがなかったけど」

「んー、フェアリーはほとんど見かけないが、他の妖精族なら少数だが、だいたい人のいるところにはいるぞ。探したら、見つかると思うぜ」


 他の妖精族……。フェアリー以外にも妖精がいるのか。あー、そういや俺のいた世界にもノームとかコボルトって妖精の伝説あったな。


 一軒家に近づく。入り口の前には花が咲き誇っている。花壇があるわけではないが、自然に咲くのに任せているように見えて、それなりに整っているという不思議加減。これも妖精の仕業かね。むっとするくらい花の香りが漂っている。


「あ……」


 考えたせいか、俺の視界に、背中に昆虫の薄い羽が生えた小人の少女が見えた。フェアリーだかピクシーだろう。


「向こうはあれで隠れているつもりだぞ」


 ベルさんがボソリと言った。


「気づかないフリしておけば、ちょっかいは出してこないだろうよ」

「目が合ったら手を振ってやろうかと思った」


 無関心を装う俺。そういえば、妖精ってイタズラ好きって聞いたことがある。こっちの世界でもそうなのかな……?


 木製の古びた扉にたどりつく。ここに来るまでに、妖精を三、四体ほど見かけたが、無視しておく。……向こうはこっちをじっと見ていたけどな。


 とりあえず、扉をノック。ごめんくださーい!


「……返事なし」


 再度ノックしつつ、声をかける。しかし、やはり反応はなかった。


「留守かな?」

「奥にいて、聞こえていないかもな」


 入ってみろ、とベルさんが促した。扉のノブを捻る。鍵穴とかなかったし、まさかと思ったら、扉はすんなり開いた。


「ごめんくださーい!」


 声を張り上げる。木の床に壁、天井。家具も木でできている。ただ木目だったり、色の明るさがまばらで新旧混ざっている感じた。天井から液体の入ったビンや、得体の知れない植物の一部がぶらさげられている。机の上も、ごちゃっと器具や道具類が乗っていた。


「散らかってるな……」

「ただ掃除はしているみたいだ」


 パッと見、クモの巣とか埃はなくて、誰かが住んでいそうな雰囲気をひしひしと感じた。


 入ってすぐの、ごちゃごちゃとした部屋を横断する。靴が床に当たる音が響く。奥のほうで、チリンと音がなった。一瞬、風鈴の音を思い出して、夏の風を連想した。


 ふと、階段から気配がして、視線をやる。すると緑色の服をまとった小柄な少女が降りてきた。……眼鏡をかけているぞ。


 茶色の長い髪、眼鏡の奥にくりっと青いお目々。整った顔立ちは可愛いと思うが、表情が淡々としているのが、唯一惜しい点だった。


「どちらさんかな?」


 少女は問うた。家の人が登場とあれば、名乗らねば失礼というもの。


「ジンと言います。ここに魔法鍛冶師がいると聞いて」

「魔法鍛冶師……?」

「で、そっちはベルさん」


 じっと黙っているベルさんの紹介を俺がしてやる。少女は、ふん、と大して関心のなさそうに階段の一番下の段まで降りてきた。


「ここに魔法鍛冶師なんていないよ。いるのは魔法具職人であるアタシだけ」

「魔法具職人」


 聞いていたのと違うが、それはそれで興味があるワードだった。


「魔法具職人というと、魔法道具を作る人なのか、君は」


 見た目が子供なので、ついそのように接する俺。職人と名乗った少女は、部屋にあるものを色々指さした。


「あれも、あれも、それも、アタシが作った」


 ……うん、よくわからん。雑多にものがあり過ぎて、これといってピンとこない。だからなのか、ベルさんは率直だった。


「ガラクタの山にしか見えんな」

「言い方ァ! ごめんね、うちの相方、遠慮ない人だから」


 少女が傷つくのは嫌だったので詫びたのだが、職人の少女は鼻をならした。


「ま、失敗作のほうが多いのは事実。失敗も次の教訓として残している」


 少女はツカツカとテーブルへと歩み寄った。


 ふうん、まあ、武具が苦手と聞いたが、専門じゃないからそうなんだろうな。魔法具職人に武具やれって、そりゃ素材を駄目にされても文句言ったらいかんでしょうよ。


「魔法具か。ちょっと興味あるんだよね」


 例えば、異世界ラノベとかによくある収納の魔法アイテム。アイテムボックスとか、そういうやつ。

 俺やベルさんは異空間収納の魔法を使えるけど、時間経過がそのままだからナマモノとか腐ってしまう。食べ物を腐らせずにいつまでも持ち運べられたら、旅の食事事情も改善するんだけどね。


「見せてもらっても?」

「どうぞ」


 茶髪の少女は頷いた。そういえば――


「まだ名前、聞いてなかった」

「リリ・センシュタール」


 少女は興味なさげに俺を見た。


「ちなみに、アタシも妖精族だから。年齢は秘密」


 お、おう……。それって見た目と実年齢が結びついていないって意味か。まさか、このナリで成人済みってことか。……まじか。


 これが、俺と、のちに天才と称される魔法具職人、リリ・センシュタールとの出会いだった。

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