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第24話、魔法鍛冶師なんているらしい


 邪神塔からのダンジョン・スタンピードから一夜明けて、平穏な日常を迎えた。


 ……と言いたいところだが、昨晩のゾンビ集団の大半を焼き払った魔法について聞きたい魔法使い連中が、俺のもとを訪ねてきていた。


 が、ヴィックのクーカペンテ出身戦士団から派遣された戦士たちが、部屋の外などをがっちり固めてくれて、遠慮のない訪問者らを追い払っていた。

 部屋から顔を出したら、ユーゴが扉のすぐ脇に立っていて「おはようございます、兄貴」と挨拶した。


「おはよう、ユーゴ。……君は、ずっとここにいたのか?」

「まさか。交代ですよ」


 若い魔法戦士は笑った。


「朝食ですか? 何なら人をやって持ってこさせますが?」

「あー、頼むよ。俺の分と――」

「エルティアナって娘のですよね? わかってますよ」


 何でわかる、と思ったが、そういえば双頭竜討伐の時、エルティアナをヴィックのところに預けていたんだった。俺、ここじゃ彼に世話になりっぱなしだな。


「……彼女、どうです?」

「まあ、あまり変わらないね」

「クーカペンテ人だって聞きましたが……。すみませんね、ジンの兄貴。同胞が世話になってます」

「なあに、困った時は助け合うもんだろう。こっちはこっちで君らに助けられてるしな」


 俺は部屋の奥にいるエルティアナへと視線をやる。彼女もこっちを見ていた。ユーゴもそれに気づいたらしく、小さく手を振って挨拶した。……反応なし。


「そういえば、ユーゴ。双頭竜の素材、どうした?」


 双頭竜を倒して、その素材を回収した俺とベルさん。討伐を手伝ってくれたユーゴにも、いくつか分け前として素材を渡したが。


「あぁ、あの貴重な素材ですね。武器や防具に使えたらと思っているんで、ヴィックに相談して、どうするのが一番か考えてるところです」


 武器や防具――まあ、そうだろう。レザーアーマーやスケイルメイルに、双頭竜の鱗とか使ったら、相当頑丈になるだろう。鋭い牙とか角を槍などの武器に使うこともできると思う。……ゲームとか思い出して、勝手に気分が盛り上がる。


「俺も何か作ってもらおうかな」


 ベルさんみたいな特別製の専用装備とか憧れるよな。こっちは革だったり平凡な鉄の量産品とかだもの。


「腕のいい職人とか知ってるかい、ユーゴ?」

「そりゃ、週一、ダンジョンスタンピードと戦う町ですから。武具職人や鍛冶屋はたくさんいますよ。武具の手入れ、新調は死活問題ですから。ただ……」

「ただ?」

「昨日スタンピードあったから、どこも予約でいっぱいだと思いますよ」


 大規模戦闘の直後となれば、修理や補修が必要な事態も起こる。先ほどユーゴが死活問題と言ったが、手入れに出してその場で終わることなんてまずないから、戦闘のあった日や翌日は職人たちも忙しいのだという。


「……昨日は、武器の手入れするような戦闘でもなかったような」


 弓を使っている連中以外は、ほぼ出番なかった。


「前々から出しているやつとかもありますからね。人気どころだと、やってもらえるのが二週先とかってありますし」


 わぁお……。そりゃ大変だ。人気どころは、ってことは不人気なところもあるんだろうけど、そういうとこは腕が信用できなかったりするだろうしな。


「兄貴は魔法使いですよね?」

「何だ急に」


 当たり前のことを聞いて。


「その、武具を魔法で作ったりはしないんですか? たしか魔法鍛冶師って、魔法武具や魔法具を作ったりする職業あるって聞いたことあるんですけど」

「俺が、そんな職人に見えるか?」

「わかんないですよ。……と、自前でできるなら職人のこと聞いたりしないですよね。失礼しました」


 わかればよろしい、と冗談はさておき。魔法鍛冶師か、初めて聞くな。魔法武具や魔法具を作ったり、か……。興味がわくなぁ。


「ちなみに、カスティーゴに魔法鍛冶師はいるのかい?」

「いるっていえばいますよ。有名なのが一人いますが、評判はよろしくないです」

「腕が悪い?」

「変人なんですよ。魔法具に関しては、たまに凄いのを作るんですけど、武器防具のほうは不得意らしくて、希少な素材を駄目にされたって文句を言っていたのが何人か……」


 ダメじゃねぇーか! 


「なら頼まなければいいのにな」

「その魔法鍛冶師にしか扱えない素材だったんじゃないですか? 知らないですけど」

「それで無駄にしてりゃ世話ないね」


 とはいえ、どんな仕事なのか、ちょっと見てみたいんだよね。これは完全にゲーム脳なんだけど、貴重な素材を作ってレアな武器とか防具を作るっていうのは憧れるわけで。

 ま、現実の武器製作とか、そんなものじゃないのはわかるんだけどね。でもほら、この世界、魔法があるからひょっとしたら、とも思うわけで。


「場所知ってる? ちょっと見に行きたい」

「わかりました。ちょっと詳しい奴に聞いてきます。その間に朝食を――」

「ありがとう」


 悪いね、色々やってもらっちゃって。



  ・  ・  ・



 朝食を摂り、エルティアナにも食べさせた。宿の食事は、たまに肉があるけどあまり代わり映えしない。この世界、調味料に関して、俺のいた世界ほど発達していないようで、淡泊なんだよね。

 ベルさんが来たが、エルティアナの食事がゆっくりなので、食べさせながら、ユーゴに聞いた魔法鍛冶師の話をした。


「いいんじゃないか? 双頭竜の素材で防具を作れ」

「やっぱチェインメイルの上に鱗を貼ってみたりとか……?」


 スケイルメイル。元の世界じゃ、本物の鱗を使っているわけではないが、このファンタジーな世界でのスケイルメイルは、魔物の素材を使って本当にスケイルメイルとかアーマーを言うらしい。


「他にも脛当てとか、ガントレットとかもいけるだろう。あとは武器だが……」

「俺、まだ試行錯誤段階だから、物理で殴る武器ってよくわからないんだよね……」

「魔術師は基本は杖だもんな」


 ベルさんが考え込む。俺も考えてみて、すぐに無駄かもしれないと思った。


「あんまり評判がよくないらしいから、いまはガッツリ考えなくてもいいかもな」

「そうだな。様子見でそれから判断でもいいだろう」


 エルティアナの食事が終わったので、さっそくお出かけする。


「じゃ、エルティアナ、行ってくる」

「……」


 視線は、窓の外を向いていたが、気のせいか、かすかに頷いたように見えた。見間違えか? いやたぶん、頷いたに違いない。


 少しずつ、ショックから立ち直っている。気のせいかもしれないが、そう思うことで、俺は小さな安堵をおぼえるのだった。

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