第22話、凱旋
次回、1月24日、更新予定。
ユーゴは興奮収まらないようで、俺の肩を叩いた後、改めて双頭竜の屍を見上げている。
俺とベルさんは顔を見合わせ、苦笑する。
「まあ、よくやったよ、ジン」
「魔器の力だろうな」
凄い威力だ。本格的に使ってみたのは今回が初めてだが、こりゃ大帝国が人間を生贄にしてでも作ろうとするはずだ。怖い怖い……。
俺はそっとファナ・キャハを異空間収納にしまった。ベルさんは剣を鞘に収め、異空間収納から大剣を取り出した。また見たことない武器だ。
「せっかくの大物だ。バラして持ち帰ろう」
解体、剥ぎ取りってやつね。双頭竜の素材……とか言うとゲームみたいだけど、実際、元の世界でも動物の解体はあったわけで、特別なことでもない。もちろん、専門の知識があるにこしたことはなく、素人には難しいが。
「ベルの旦那! 解体ですか!?」
ユーゴがワクワクした顔のまま、やってきた。危ないぞ、と言いながらベルさんは大剣を振りかぶり、双頭竜の首を切り落とした。今度は再生しなかった。
「旦那、何やってるんです? 持っていくなら牙とか角とか、鱗でしょ……。あ、ひょっとして肉の一部も持ち帰るつもりで?」
「一部と言わず、持っていけるだけ持っていくぞ」
「え、でもこれだけ大きいのどうやって……」
「異空間収納の魔法具があるだろ」
と、ベルさんは俺の腰のポーチ状バッグを顎で指し示す。なるほど、と頷くユーゴ。
「それより、お前はフロアの周囲を見張れ。リザードマンどもに邪魔されるのも面倒だ」
「わっかりました! あ、おれにも取り分あります……?」
「おう、囮として働いた分は、お前にも分けてやる」
「ありがとうございますっ!」
ユーゴは意気揚々と見張りについた。ベルさん優しい。
「動けるか、ジン? 休んでいてもいいぞ」
「手伝おうか?」
「いや、こっちはオレが手早く片付けておく。あぁ、もし余裕あるなら、このあたりを調べてくれるか? もしかしたらお宝の類があるかもしれん」
「オーケー、ちょっと調べてこよう」
ここは蛇神遺跡。昔、誰かが作ったもので、そこに双頭竜なんて化け物が住み着いた。いや、生贄の間として双頭竜がいるのを前提としているなら、もしかしたら奥には、守りたかった財宝が置かれている可能性もある。いわゆる宝の番人というやつ。自称トレジャーハンターの血が騒ぐ。
ということで奥を探索したのだが、金銀財宝の類はなく、あったのはダチョウの卵ほどの大きさもある魔石が複数と、少し造りが豪華な槍や槌といった武器が数点。
お金はないが、これほどの大きさの魔石なら、充分その価値がある。お宝と称してもいい。異空間収納にしまいしまいして、ベルさんの元に戻る。
双頭竜の解体は済んでいた。うわ、ベルさん早いよ。まあ、待たされるよりはマシか。
その後、ユーゴを呼び戻し、俺たちは帰還の途についた。
相変わらずリザードマンに襲われたがきっちり返り討ちにした。彼らのテリトリーを脱したが、夜になってしまったので、その日は野宿。
異空間収納から簡易テントもどきを出して、ベルさんが解体した双頭竜の肉を一部、それでも充分な量になったが焼いた。
「食えるの、これ?」
毒ブレス吐く竜だから、毒とか大丈夫なん?
ベルさんが毒味して、問題ないと太鼓判を押したので俺とユーゴも貴重な双頭竜の肉を食べた。まあまあ美味かったが、焼肉のタレが欲しかったー!
・ ・ ・
「というわけで、これお土産です」
ドン、と双頭竜の肉を、ギルマスの机の上に置いてやる。
カスティーゴ冒険者ギルド。双頭竜を討伐した報告に、まずギルドのカウンターで受付嬢に告げ、どうせ呼び出されるだろうから、先んじてギルマスを訪問してやった。
「双頭竜を……倒したのか?」
目を丸くして驚くロバール氏に、俺、ベルさん、ユーゴは頷いた。
「これは双頭竜の歯です。ご確認ください」
どうせギルマスには鑑定できないだろうけど。
本当は、ベルさんが竜の首をとってきたのだが、異空間収納にいれるサイズ故、ロバール氏には見せなかった。異空間収納の魔法具などの存在は、気にいらない奴には見せないに限る。
「クエストは果たしたので、報酬はいただきますね」
依頼書には、ギルドから報酬金が出ることになっていた。どうせ倒せないだろうって、結構お高い金額だ。……これで娼館にいけるね、やったぜ!
「双頭竜を、どうやって倒したんだ?」
「魔法です」
「剣で首を落とした」
「いや、凄かったですよ、ジンの兄貴とベルの旦那は」
色々細部を省いて、適当に説明。魔器とかはユーゴも知らないので、そのあたりは高ランクの杖と言えば誤魔化しがきいた。
他に要件がないようなので、俺たちはお暇する。フロアに戻ったらその場にいた冒険者たちが、一斉に俺たちを見た。
「双頭竜を倒したって?」
「マジなのか。マジで双頭竜倒しちゃったのかよ?!?」
「おう、マジだマジ!」
ユーゴが進み出て、冒険者たちの注目を集めた。その隙を縫うように、ヴィックがやってきて、俺とベルさんに声をかける。
「お帰り、二人とも。双頭竜と戦ったというのに五体満足で帰ってくるとは大したものだ」
「どうも」
「おたくの部下もな。無傷でお返しする」
奢る、とヴィックが言うので、俺とベルさんは早速テーブルにつく。
ユーゴは、冒険者たちの質問を一手に引き受け、ベルさんや俺の活躍を皆に教えた。少々芝居がかっているのだが、武勇伝語りがさまになっていて、おかげで俺たちはゆっくり酒と食事を楽しむ余裕ができた。
「討伐おめでとう。君たちは凄腕だな。ここに来た早々、これまで倒せなかった双頭竜を仕留めるとは……」
「予想してなかった?」
俺が冗談めかして言えば、ヴィックも相好を崩した。
「ああ、正直に言うと、期待はしていなかった。死ぬにしろ帰ってくるにしろ、双頭竜はそのままだと思っていた」
「正直でよろしい」
ベルさんがエールを煽った。
「確かに、あれだけの再生力を持った奴だからな。蛇とはいえ竜の眷属だけはある。ありゃ中々倒せないはずだ」
「再生力……? ああ、ユーゴがそんな話をしているな。いやいや、これまではあの竜に傷を負わせるのも難しかったんだ」
「並の魔法だと弾かれたもんな、あの装甲」
俺も、いつもの魔法が効かなかったのを思い出す。さすが竜族ってか。
ともあれ、双頭竜を討ったことで、俺とベルさんの名が、一躍カスティーゴ中に知れ渡ることになった。
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