第21話、双頭竜と戦った
異空間収納より魔法杖を出して、魔法の威力を高める触媒として持つ。ご挨拶のライトニングを食らえ!
俺が向けた杖から、電撃弾が放たれ、双頭竜の首の根元あたりに着弾する。
「うわ、焦がしただけか……」
双頭竜の咆哮。その厚い鱗を抜けなかった。いつものライトニングより威力は二倍近いはずなんだが。二、三発、撃ち込んでみたが、やはり効果はなし。
ベルさんが前に出て、ユーゴは俺と離れつつ、こちらも投射魔法を使った。が、彼の魔法も効き目なし。
「アイスブラスト!」
俺は鋭角的な氷の塊を生成して射出する。突き刺されば、と思ったが双頭竜に命中した途端に砕けてしまった。
双頭竜の頭、その片割れがこちらに向かって吼え、どす黒い塊を放った。毒の塊か! 慌てて回避。えい、くそ。張った水のせいで走りにくい!
浮遊魔法。ここからは水面の上を滑るように移動するのに切り替える。毒の塊が石の壁に当たり、ジュッと焼けるような音を響かせた。うわ、溶ける溶ける……!
ベルさんが、片方の竜頭の噛みつきを剣で弾く。今のところは余裕そう。二つの首がまとめて来たらどうなるかはわからないけど。
「氷がダメなら、これでどうよ!」
アースジャベリン。尖った岩の塊を魔法で投射。片方の竜頭の顔面にぶつけて――と、頭突きで岩が砕かれた。……なんという石頭だ。
双頭竜は毒塊のブレスで反撃してくる。俺は水上を高速で滑り、回避しつつ、お返しにライトニングやアースジャベリンを叩き込む。
しかし、まったく効いてないようなんだよなぁ。しかも気のせいかな? 表面の焦げた跡とか、わずかながらの傷もすぐに消えてしまっているような……。
威力を上げていくしかないよな。ライトニング、威力五倍!
威力マシマシな電撃弾が炸裂。片割れが悲鳴じみた声を上げた。うん、少し効いたっぽい。外見上はあまり効果があったとは思えないが。
ベルさんが剣で、双頭竜の首や胴体に傷をつけていく。飛び散った血が、黒く水面を染めていく。蒸気とか上がっていないが、毒とかは大丈夫だろうか?
「さすがに堅いな……!」
ベルさんの魔法剣は、双頭竜の表面を斬っているが浅いようだ。本気出したら、首ひとつ苦もなく落としそうなんだけどね、ベルさんなら。
アースジャベリン、あらため巨岩落とし! 俺は双頭竜の頭上に大岩を作り、隕石よろしくぶつけてやった。重量があった巨岩に、片方の頭が巻き込まれ、床に激突する。そのまま潰れてしまえって!
と、そこでベルさんが攻撃目標を変えた。俺が魔法で押し潰した竜頭、そいつの首に斬りかかったのだ。
「断頭!」
その一撃が、双頭竜の片割れの首を切り落とした。
「お見事!」
思わず言葉に出た。倒せるかもしれない! そう思った瞬間に広がった安堵のような感覚。
片割れを失った双頭竜だが、直後、水面を滑るように移動を開始した。あ、こいつ胴体は蛇だ。巨体だけあって、あっという間に端から端へと動く。そして長い尻尾――こちらも二本あって、それが鞭のようにしなり、ベルさんへ直撃した。
いや、剣で受け止めたようだが、弾き飛ばされた。毒塊が俺のほうへ飛んできたので、敵から距離をとるついでに、ベルさんの方向へ。
「大丈夫か、ベルさん!?」
「ああ、大丈夫だ」
派手に床とぶつかって水が跳ねたからね。
「おっと、剣を落としちまった」
ベルさんの左手の剣――ファートゥムがなくなっていた。水が濁っているから、どこにいったかパッと見ではわからない。
「いや、そんなもの魔力の目で見ればすぐわかる。……それよりもジン、あれ見ろ!」
指し示された先――双頭竜の切断したはずの首から、ニョキニョキと肉が生える。
「おいおい、まさか……」
「そのまさか、だ。再生してやがる」
なんてこった!
「首が生えてくるとか、化け物かよ! あ、化け物だったな、失礼」
俺は小さく首を振る。こんなのどうやって倒せばいいんだ?
その間にも首が元通りになっていく。なお、もう片方の頭は、いまユーゴに襲いかかっていた。
噛みつきに対して飛び込むように回避。水飛沫をあげながら、すぐに起き上がり、うまく逃げ回る。
「ちょ、兄貴に旦那……!」
助けを呼んでいるようだから、俺は異空間収納より剣と魔法杖を数本射出。遠隔操作で双頭竜の頭を執拗にチクチクと攻撃する。蜂が刺すようなもので、ほぼ効いていないが時間稼ぎにはなるだろう。
「さっさと二本とも首を落とせば、さすがに再生しない、か?」
「ほぼ同時に、か? やってみる価値はありそうだが」
ベルさんはニヤリとした。
「どうだろう、ここは奴の心臓をぶっ飛ばすというのは?」
心臓……。確かに攻撃できるなら、一番効果がありそうだが、あの堅い鱗と肉に覆われた胴体だ。
「威力を上げた魔法でも、今のところは抜けてないし、そもそも奴の心臓って――」
「そこは魔力の目で見ろ。カスティーゴでやったろ? マッドゴーレムのコア抜き。あれの応用だ」
……話はわかった。だが問題はその攻撃を届かせる威力の問題に直結する。
渾身の、最大火力をぶつける……となれば。
「アレを使うか」
「ああ、いい機会だ。相手にとって不足はない」
ベルさんが頷いた。俺は異空間収納から、一本の杖を取り出した。
真っ赤な紅玉のついた漆黒の杖――人の生命力と魔力を吸って完成した呪われた武器、『魔器』。大帝国の魔女の名をとってファナ・キャハとつけたその杖の力を試す時がきた。……何だか心臓の音が聞こえるような気がするのは気のせいか。
「ベルさん、悪いが――」
「ああ、奴の注意はオレが引いてやる」
そう言い残してベルさんが駆けていく。遠隔で飛ばしていた武器は集中の妨げになるので戻す。相変わらず、ユーゴが必死に頑張って双頭竜の注意を引いていて、それにベルさんが加わる。
こっちは標的から外れた。精神を集中。双頭竜、その心臓を魔力の目を使って探す。……見える。見えるぞ……奴の心臓が激しく鼓動を繰り返している。魔力の含まれた血液が奴の体内を駆け巡っている。
俺は魔器ファナ・キャハを双頭竜に向ける。喰らえ、必殺のライトニング・キャノン!
光が溢れ、一筋の光弾――いや、複数の光が絡まった一撃が双頭竜の胴体を直撃する。それは竜の鱗を焼き、貫き、その厚い肉を穿ち、心臓部を吹き飛ばした。背中を貫通した光の束は、フロアの壁をも貫いた。
あれだけ騒がしかった双頭竜の声が消えた。二本の首が力なく下がり、地面に落ちた。飛び散る水が壁にかかる。俺は体から力が抜けて、一瞬ふらついた。
魔力を使ったのがわかる。だがその価値はあった。双頭竜は息絶え、その骸を晒しているのだから。
「すげぇ! すげぇよ、ジンの兄貴!」
ユーゴが声を上げ、こっちへと走ってきた。
「信じられない! 双頭竜を倒しちまった!」
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