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第20話、リザードマン・テリトリー


 ユーゴはラーゼンリート領にいた魔法戦士だという。


 蛇神遺跡へ向かう道すがら、割と口数の多いこの青年と、俺は会話を楽しんだ。

 最初、ベルさんはこういうお喋りなタイプを黙らせるかと思ったんだけど、そんなこともなかった。


 ヴィックへの態度は任務に忠実な兵士といった感じだったが、どこか気安さもあって、例えるなら寝返った山賊の頭目じみた頼もしさのようなものがにじみ出ていた。


 つまるところ、若いが経験豊富な戦士ということだ。口数の多い素人は早死にするが、ユーゴは口を動かすあいだも警戒を怠らず、こちらの指示にも従った。


「しかしお前も変わってるよな」


 森の端を通り、注意を払いながらベルさんは言う。


「リザードマンのテリトリーに好き好んで行くなんて」

「前から行きたかったんですよ。おれたちのボスのためにも、故郷を取り戻すためにも、強くならなきゃいけない」

「死んだら元も子もないぞ」

「その時は自分がその程度だった、ってことです」


 さばさばと言ってのけるユーゴ。経験のない素人が言ったら、思い切り嘲笑するところだが、彼が多くの死線をくぐり抜けてきたのは、彼の使い込まれた装備や体運びをみればわかる。

 そんな彼が、すっと担いでいた槍を手に持ち替えた。どうやらお出ましかな。ユーゴも気づいたが、俺も魔力サーチでそれを捉えた。


「集団……十人もいないようだが」

「リザードマンだよ」


 ベルさんも剣を抜いた。


「トカゲ臭いのが、臭ってくる」

「まだ沼地じゃないんですがね。ここらも連中のテリトリーなんですか?」


 ユーゴが軽口っぽく言った。だがその視線は鋭い。


「さあな、そうかもしれん。オレたちが知るかよ」


 何せ、ここに来るのは初めてなんだ。

 森からぬっと現れる人影。緑色の体色。自然に溶け込むかのように出てきたのは、トカゲ頭の武装した亜人たち。……いっちょ前に鎧なんかつけてやがる。片手用の斧、剣、槍やハンマーを持っている。


「歓迎はしてくれなさそうだな」

「これもひとつの歓迎ってやつだろう、ジン?」


 ベルさんが不敵に笑えば、リザードマンたちは姿勢を低くして、一斉にこちらに向かってきた。ああいう前傾での突進は、人間がやると危ないのだが、尻尾があるリザードマンたちはうまくバランスがとれるみたいだ。

 とか言ってる場合じゃないな……!


「光よ、我に仇なす敵を穿て! ライトニングボウ!」


 光の矢――先制したのはユーゴだった。さすが魔法戦士。まず一体のリザードマンが真正面から直撃を受けて倒れた。残りは、かまわず向かってくる。


「アーススパイク!」


 俺は、連中の正面に岩の槍を無数に生成して、即席バリケードを形成。鋭く伸びる尖った岩が、三体ほどのトカゲ戦士を巻き込み串刺しにした。

 だが、器用にバリケードをかわした奴らが迫る。


「ヒュー、ジンの兄さん、今の短詠唱ですかい?」


 ユーゴが槍を構えて、リザードマンと対峙する。ベルさんもまた二本の剣で敵と交戦……と思いきやすでに一体を斬り捨てていた。

 もうすでに半分になったリザードマンたち。これらを全滅させるのにさほど時間はかからなかった。



  ・  ・  ・



 沼地の外縁を進み、ブーツを泥で汚しながらやってきたのは、コケや(つた)に絡まれた石で組み上げられた遺跡。……古代都市にあった建物の廃墟かな。


「生臭い。どうにかならないものかね」


 特有の臭気に辟易しつつ、俺たちは中へ。遺跡と聞いてワクワク……はしない。最近、こういうところばかりに行っているから慣れてしまった。今度はどんな罠とか魔物がいるんだろうって考えてしまう。


 蛇神遺跡は、壁や天井が一部崩れていて、そこから外の光が差し込んで明るかった。場所によっては、ザブザブと大きな水たまりに入るところもあって、泥だらけだった靴が今度は水が入って気持ち悪い。


 巨石をある程度整えて積み上げた壁。いたるところに蛇やトカゲ頭の人型のレリーフが刻まれている。


 ここに来るまでもそうだったが、思い出したように現れるリザードマンたち。どれもこれも武器を持っていて襲いかかってくる。レリーフや飾りを見るに、ここはリザードマンにとっては神殿か、それに近いものなのかもしれない。


 事前に聞かされたとおり、トカゲ戦士たちは外皮が厚く、その上で防具を身につけているのでタフだった。まだ剣では半人前程度の俺の斬りつけでは、中々倒せず、ユーゴも急所を貫けなければ一撃で仕留めらなかった。


 ひとり涼しい顔をしているのはベルさんのみ。ほんと、バターみたいにあっさり斬っちゃってさ。正直、ベルさんいなかったら、ここに来るまでもっと手こずっていただろう。

 倒したリザードマンの武器や、手頃そうな防具を回収。首飾りとか、中には指輪をしている者もいた。


「ジンの兄さん、そのバッグ、すげぇ色々入るんですね」


 ユーゴが俺が、チマチマと回収しているのを見て言った。魔法の収納バッグに見せているけど、実際はただの革の鞄で入れるふりして異空間収納に放り込んでいる。ベルさんからは異空間収納は、あまり人には見せないように、って言われてるのだ。


 リザードマンの妨害はあったが、トラップの類は一切なかった。こりゃますます神殿説が強くなる。リザードマンが、ちょくちょく訪れるような場所なら、罠なんて仕掛けないもんな。自分たちで引っかかるわけにもいかないし。


 とまあ、後で振り返れば、トラップなんて必要なかったことに気づく。

 何せ、遺跡の奥には、主である双頭竜が陣取って、侵入者を待ち構えていたからだ。神殿? だとしたら、ここは生贄の間かな。


 大きなその部屋は三十メートル四方はあるか。床は水没していて、だいたい深さは二十センチくらい。浅いが何とも歩きにくい。水が茶色く濁っているので、ひょっとしたら深い場所もあるかもしれない。


 そして肝心の双頭竜だが、青みを帯びた灰色。蛇を思わす鱗で覆われた身体。首を持ち上げた高さは七、八メートルくらいありそうだ。二つのドラゴンの頭と長い首が胴体にあって、水に浸かっていて足などは見えない。だがこれまた蛇のように長い尻尾が胴体の後ろで見え隠れしている。……あそこ、深くなってるのか?


 ヒュドラといえば、多頭竜で、たくさん頭があるらしいのだが、二つしか頭がなくても充分怖い。首が長いから、胴体を攻撃しようと近づいたら、間違いなくその攻撃範囲に飛び込むことになるのだから。


 双頭竜が吠えた。フロア中に響き渡る咆哮。耳栓が欲しいね、まったく。なお軽口叩いているっぽいけど、内心はビビってる。デカいのはそれだけで怖い。


「ベルの旦那、双頭竜の牙は毒があるらしいですぜ」


 ユーゴは槍を構える。経験豊かな魔法戦士も、さすがに冷や汗をかいている。


「噛まれたら、死にます」

「気をつけよう」


 ベルさんは、いつも通り、落ち着き払っていた。そんな人が先頭にいるのだから、頼もしさが半端ない。俺も少し落ち着いた。だって、俺、後ろだし。


「首さえ落とせば終わりだろうが……ジン、とりあえず、オレが奴の注意を引いているから、魔法で攻撃しろ。曲がりなりにもドラゴンのお仲間だ。半端な攻撃は効かなんぞ」

「了解」


 これもひとつのテストってやつだ。緊張していた俺は、静かに呼吸を繰り返して、集中力を高める。

 まずは――

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