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第17話、お世話と修行


 Bランク冒険者用の部屋は、二人で住むには少々手狭かもしれない。


 保護したエルティアナは、ほとんど置物状態で、文句は言わなかった。というか今のところ、まともに会話すらできていない。


 まずは服を調達しないといけない。そこで、件の女性ギルド職員――アメリさんというんだが、相談の上、彼女に同行してもらって、エルティアナとその相棒が宿泊していた宿に行き、その彼女らの私物を回収した。……第三者の証人を立てておきたかったんだ。


 無力な女性の部屋から盗んだとか言われても困るからね。実際、エルティアナの面倒を見るとは言ったが、年頃の娘を部屋に連れ込んでる状況なわけで、俺がよからぬことを考えていない紳士であることをアピールしておかないといけない。


 そんなわけで、エルティアナの私物を俺の部屋に持ち込んだわけだが、余所から来た冒険者だけあって荷物は少なかった。多少の生活費と、予備の服、使い古しのポーチ、矢筒に矢が十数本……その程度だった。

 お世辞にも治安がいいとはいえない世界。貴重品は宿に置いていくなんてこともないのだろうな。今は着替えがあったことだけでも感謝しよう。


 その日からエルティアナとの同居生活が始まったのだが、初日は結局、会話は成立しなかった。食事やベッドで寝るなど、俺が補助する形だったが、いちおう彼女は俺の言ったことに、のろのろとだが反応はしてくれた。


 翌日、俺はベルさんと、今度こそ邪神塔までの偵察に行く。


「ということで、部屋で留守番ね、エルティアナ。お昼は、テーブルに置いておくから食べるんだよ……」

「……」


 無反応。ベッドの横に座り、窓から外をぼんやりと見ているエルティアナ。……食べてくれない予感がする。遅くても夜には帰ってくるつもりだけど、脱水症状とか怖いなぁ。


「まあ、お前さんもよくやるよな」


 ベルさんは皮肉げに肩をすくめた。


「どうだ? 少しは話せたか?」

「いいや、まだ」


 昨日の今日だ。ゴブリンたちにひどい目にあったんだ。そう簡単に立ち直れるようなものでもないだろう。


「大変だな」

「他人事だな、ベルさん」

「そりゃそうだ。他人事だよ。お前が面倒見がよすぎるんだ」

「いやいや、面倒見のよさなら、あんたも相当だと思うぜ?」


 なにせ、俺はベルさんに世話になってきたからな。



  ・  ・  ・



 魔の森を通り、邪神塔周辺を目指す。昨日同様、巨大グモやナメクジ、狼などが襲ってきたが、ことごとく返り討ちにした。

 本日もゴブリンどもと遭遇。獣のように歯を剥き出し殺意を向けてくる外道どもには、慈悲はない。念入りにぶちコロ。

 すっかり暗い空模様。邪神塔ダンジョンに近づくにつれ、森の隙間から見える空は黒雲と、昼間でも暗い。


「ライト」


 照明とばかりに光を放つ光球を使ってみたが、まあ夜で使うのと同じくらいの光度で照らしてくれた。

 だがすぐにライトの魔法を解除した。森の魔獣に襲ってくださいって言っているようなものだと気づいたからだ。視力を魔法で夜間対応。


 さすがに塔に近づいただけあって、大型の魔獣やアンデッドが出没するようになった。ベルさんがついているから遅れをとることはなかったが、さすがに俺は疲労の色を隠せなかった。肉体的はもちろん、魔物との接敵、戦闘の緊張感に、精神的にも負担だった。


 休憩を挟みながら魔物との戦闘の反省会をしつつ、前進。時々、森の中から見える邪神塔。黒い石で構成されている高い塔……遠くからでも禍々しいオーラのようなものを感じる。

 途中、魔物に殺された冒険者らしき遺体を発見。ベルさんが、もうこいつに持ち物はいらんだろう、と回収。遺体は俺が魔法で処理した。南無三。


 やがて、俺とベルさんは塔のすぐそばに到着した。まだ着いただけなのに、俺は大きく息をついた。

 邪神塔を攻略する時は、空から近づいてショートカットしよう。ここまで歩いて、さらに塔を探索なんて、体力がもたない。


「見た感じは普通の塔だな」

「……普通?」


 俺は息を整える。


「ずいぶんと馬鹿でかいじゃないか」


 ぶっとい東京タワーみたいな。あれは高さ333メートルある代物だから、近くで見れば高いのなんのって。石造りで頑強な建造物であるが、建てるほうも建てるほうだ。いつからあるかは知らないが……。あ、そういえば外から見える部分は幻で、実際は地下なんじゃなかったっけ?


「表はハリボテか」

「まあ、塔までは大体わかった」


 ベルさんはそう言うと、(きびす)を返した。俺はその背中を見やる。


「入り口までいかないのかい?」

「今回は道順の確認だ。次のスタンピードまでに塔の情報収集と、お前さんの修行だな」


 顔だけ向けて、ニヤリとするベルさん。情報収集はわかるが……俺の修行ね。ま、俺の能力なんて、まだまだだもんな。



  ・  ・  ・



 というわけで、俺のレベルアップを兼ねた魔の森での魔物狩りが行われることになる。

 朝と夜、エルティアナの世話をして、昼間はカスティーゴ冒険者ギルドで受けたクエストを果たしたり、情報を集めたり、戦利品を売ったりして過ごした。


 森を駆け回り、魔法や武器を駆使して、敵を倒し、地形を突破する。ベルさんという最強の教育係の指導のもと、俺は確実に強くなっていくのを自覚した。……まあ、その分、疲れもするんだけど。


 それにしても、装備品を何とかしたいなぁ。


 俺の防具ってのは、基本は魔術師用の外套、下にチェインメイル。鉄で補強した革のレザーバンドと、帝国魔術師や兵士のお下がりの改造品と一般販売の量産品だ。剣やナイフ、杖といった武器も、全部倒した敵から回収したもので、実はまだ武具店で買ったことがなかったりする。


 対して、ベルさんは自前の、しかし一級品の武具を使っている。二本の魔法剣はもちろん、異空間収納には槍や弓も、おそらく業物の魔法武器。防具は赤い甲冑を身につけているが、どこか日本テイストを感じさせるものだ。名前は忘れたが上級ドラゴンの鱗だかを使った強靱な防具らしい。


 格差だなぁ。まあ、魔王様が優れた装備を持つのは当然。でも、俺も欲しいな魔法武器とか。

 いまは一般装備を魔法で強化したりして使っているけど、これもまあ修行の一環として役には立っている。どこかにないかなぁ……。


 とまあ、修行と称した魔物狩りでクタクタになりつつ、明日を夢見て俺は頑張っていたわけだ。

 そんなある夜、エルティアナの世話を終えて、少し早いが寝ようかと思った俺を、ベルさんが誘った。


「ジン、これから出かけるぞ」

「どこへ?」

「いいところだ」


 片目をつぶって俺の肩に手を回したベルさんに誘われるまま、俺は部屋を出て、宿からも出る。


「どこへ行くんだ? 酒か」

「お前さんもよく頑張っているからな。たまには違うところで、色々発散するのもいいだろうと思ってな」


 そう言うベルさんに連れて行かれた先は、カスティーゴの町にあるとあるお店。いわゆる娼館だった。

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