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第14話、祝杯をあげる冒険者たち


 冒険者ギルドの建物一階は冒険者で溢れていた。邪神塔ダンジョンからのスタンピードを阻止した。となれば、戦勝パーティーが開かれる。それがここでの定番イベントらしい。

 何故か乾杯の音頭は、守備隊の騎士隊長からだったが。


「本日は、新しく加わった仲間、ベル殿の活躍で――」

「ジンも忘れるな」


 そのベルさんが俺を指し示した。


「爆裂矢はあいつの魔法だ」

「あー、ベル殿とジンの活躍で、敵に大打撃を与え、その後の掃討でも損害を減らすことができた! めでたい!」


 騎士隊長は、ベルさんの肩に手を置き、皆に称えるよう促した。


「では、今日の無事と、次の活躍を祈って……乾杯!」

『乾杯っ!』


 冒険者たちが杯を掲げ、そして宴会に突入した。ベルさんは多くの冒険者に囲まれ、賞賛を受け、俺も魔術師や弓使いから質問を浴びせられた。前者からはどういう付加魔法なのか、後者からは爆裂矢を自分たちも調達できないか、という。

 ……魔力使って作るのだが、矢ってそれなりの数を作らないといけなくなるだろう。くれくれ、と言われたら俺が疲れちまう。


「有料だぞ」

「いくらだ?」


 引き下がるどころか食いつかれた。あー、こういうのの相場ってどれくらいになるんだろう? そもそも矢の単価を知らない俺だ。まったくわからん。


 とまあ、そんな調子で話題の中心にいた俺とベルさんだったが、やがて戦勝会も緩やかな雑談タイムに変わる。もう酔いつぶれた奴がいたり、喧嘩がはじまって外に出て行く奴らがいたりと、中々カオスなことになっていた。ワイワイガヤガヤと、実に賑やかだ。


「ベルさん、あんたの株は上がりっぱなしだな」


 さすがはAランク冒険者。そのベルさんはエールを口にする。


「……まあ、今回はな。次はお前さんに譲ってやる」

「いいよ、俺は裏方で」


 元からあまり目立つのは好きじゃない。控えめな性格ってやつだ。


「爆裂矢を買いたいって声をかけられた」

「副業ができたじゃないか。よかったな、ジン」

「いいのか?」

「稼げる手段があるってのはいいことだろう?」


 ベルさんがウインクした。確かに、お金を稼げるのはいいことだ。


「お前さんは、宿代を出しているし」

「てっきり秘密にしておくべきかと思ってた」


 切り札はとっておくってね。俺の言葉に、ベルさんは軽く頷いた。


「まあ、同業者に作り方とか魔法を隠しておくのは当然だな。特に魔術師の魔法とかな。だが爆裂矢は、オレ以外で使っても問題ないだろう。オレひとりでこの町を守っているわけでもないしな」


 ごもっとも。俺が納得していると、テーブルに新たな来客。


「やあ、二人とも楽しんでいるかな?」

「お前が来るまではな」


 ベルさん、辛辣(しんらつ)ー。やってきた男は三十代くらいだろうか。育ちのよさと野生っぽさが同居した不思議な男だった。


「そう邪険にしないでくれ。君らはよそから来たのだろう? 俺もそうなんだ。同じよそ者同士、なかよくやろうじゃないか」


 腰には短めの剣。割と上等な衣服。職業は軽戦士と言ったところだろう。冒険者プレートは服に隠れて見えない。


「俺はヴィック。ヴィック・ラーゼンリートだ」

「ジンだ」

「ベル」


 俺たちも名乗ると、ヴィックと名乗った男は笑った。


「知ってる。君たちの活躍は、今日一番だったからね」

「それで、ヴィック」


 ベルさんがつまみの豆に手を出しながら、念話を俺に飛ばしてきた。周り、と。


 ……ああ、俺たちの周りで冒険者たちが酒を飲んだり食べたりしているが、それとは様子の違うのが、三、四人かな。俺たちを観察しているようだ。


「何か用か?」

「……どうやら、君らは俺を知らないらしい」


 ヴィックが背筋を伸ばせば、ベルさんは首を横に振った。


「知らないといけない名前だったか?」

「いや、知っていたら話は早いかなと思って」

「ひょっとしてお前さん、貴族だったり?」


 ファミリーネームまで言うのは、身分がある奴ってことかな。


「元貴族だ。出身はクーカペンテでね」

「クーカペンテ」

「知らないか?」

「今、帝国に制圧されている、元連合国のひとつじゃなかったかな?」


 俺がそれを口にすれば、その周りでこちらを観察している奴らの雰囲気が少し変わった……ような気がする。


「その通り。俺の故郷は今、大帝国に支配されている」

「……」

「俺たちは故郷を取り戻すための準備をしている」


 そんな人『たち』が、ウーラムゴリサ王国くんだりで何をしているんだ? ……と、いや聞きたくない。面倒な予感しかしない。


「同郷だったら話が早かったんだが、俺たちは腕のいい戦士に声をかけている」

「オレたちに、おたくの故郷を取り戻すための仲間になれ、ってことだろう」

「単刀直入に言えば、そうなる」


 要するにスカウトだ。ベルさんはあからさまに渋い顔を作った。俺も思わず頭をかいた。


「君たちの実力を見た。仲間に加わってくれたら心強い」


 ヴィックの目は、やたら爛々(らんらん)としていた。強い意思――おそらく故郷を大帝国から取り戻すというのを本気に考えているのだろう。

 だが、まあ、俺たちには縁もゆかりもない話なんだよな……。


「志はご立派かもしれんが――」


 ベルさんは明らかに気乗りしていない風に言った。


「オレたちは、邪神塔攻略で忙しい」

「そいつは俺たちも同じだ」


 ヴィックは相好を崩した。


「故郷を取り戻すためには腕利きの戦士の他に、軍資金が必要だ。だから塔の攻略を目指している」


 へぇ。……クーカペンテの貴族様とお仲間がここにいるのは、そういうことか。邪神塔の財宝狙い。そしてついでに腕利きのスカウトと。


「目的が同じなら、協力しようじゃないか。俺たちがこれまで集めた塔の情報も君たちと共有してもいい」

「協力と引き換えに、か」

「正直に言うと、今の我々では邪神塔ダンジョンは攻略できない」


 ヴィックはベルさん、そして俺を見た。


「もちろん、君たちでもだ」

「だが協力すれば、攻略できると?」

「その可能性は上がるのは間違いない」


 攻略できる、とは言わなかった。ただ、そう言わなかったところに、俺は彼に好感を抱いた。調子のいいことを言ってのける輩は、いまいち信用できないからね。


「同志になってくれるのが一番なのだが贅沢はいわない。せめて邪神塔を攻略する間だけでも」

「そして手に入れた財宝は山分け、と」


 ベルさんが俺を見た。どうする? とその目が問うていた。そうだな――


「まあ、悪い話じゃないよな。邪神塔攻略については協力関係を結んでもいい。その後のことについては、その時に考えよう」


 信用できるような人間なら、手伝うかもしれないし、そうでないならそれまでに切り捨てる……、まあ、そういうことだ。

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