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第12話、さっそく昇格する俺たち


 カスティーゴ冒険者ギルドに所属するウルゴという戦士はBランクの冒険者らしい。彼が刃のついた斧を構え、ベルさんに挑んだ時、見守る客席からは悲鳴が上がった。


 だが当人であるベルさんは、表情ひとつ変えず二本の剣を抜くと、右手の剣ファートゥスで斧の柄を切り落とし、左の剣ファートゥムをウルゴの首の寸前に突きつけた。

 一瞬、静まった会場。だが次の瞬間、ギャラリーたちが爆発するかのような歓声を上げた。


「すげぇ! 瞬殺だァ!」

「瞬殺しやがった!?」

「ウルゴが瞬きのあいだにやられちまった!」


 あまりに呆気ない結末。俺、実際の冒険者とランクによる強さがいまいちわからないんだけど、Bランクって上位だよね? ベルさんが強すぎるせいか、Bランクの実力ってのがよくわからん……。


「参った……」


 ウルゴが喉元に剣を突きつけられているせいか、絞り出すような声で言った。


「そうか。……すまなかったな、お前の得物を壊してしまった」


 ベルさんは、小さく眉を動かすと、両手の剣をすぐに鞘に戻した。余裕あり過ぎて逆に嫌味だな、これは。


 改めて冒険者や、隣の守備隊駐屯所から見ていた兵士たちが拍手と歓声を送った。俺も拍手で戻ってくるベルさんを迎えた。


「お疲れ」

「別に疲れちゃいないさ」


 大したことなかった、と魔王様。手応えがなくて、ガッカリしているようだけどね、ベルさん。あんたとサシで勝負できる奴なんて、いるかわかんないけど勇者くらいじゃないかね。


「あー、お前さんたち」


 冒険者ギルドの職員だろうか。色合いがギルドの受付嬢と似た服装の男が声をかけてきた。四十代、黒髪に黒い八の字髭、スマートな体格だ。


「試験を受けたい、で間違いないね?」

「ええ、そうです」


 俺は答えつつ、口元を歪めた。


「俺の相棒は、もうお客さんたちの前で腕前を披露してしまいましたけど」

「Aランク希望なら、対戦相手を呼んでくるが?」

「ベルさん、どうする?」

「そいつは強いのか?」


 ベルさんが睨むような目で男を見た。もちろん、と答えが返ってきたので、「なら受ける」とベルさんは同意した。


「それで、そちらの魔法使い――」

「ジンだ」

「ジンも試験を受けるかね?」

「ええ、いい宿に泊まりたいので」

「よかろう。相手を用意しよう」


 男は頷くと、奥にいる同じ服装のスタッフに合図した。



  ・  ・  ・



 俺の対戦相手は、泥のゴーレムことマッドゴーレムだった。


 泥に仮そめの命たる魔力コアを封入し、魔法によって形を作る泥人形である。ただし身長は二メートル超えで、下手なマッチョより大きいときた。


「ゴーレムだから魔法を叩き込んでもいいぞ」


 試験官だという、八の字髭のギルドスタッフは告げた。


「だが、ギャラリーに流れ弾なんてのはやめてくれよ。怪我させたらお前さんが何とかしろよ」

「へいへい……」


 俺は肩をすくめてみせたが、はてさて。泥のゴーレムなんて相手したことないぞ。……まあ、石のゴーレムなら遺跡で戦ったことはあるけど。


 エアブラストは泥には効き難そうなんだよな……。ぶっ飛ばすほど威力を高めれば……いや、それでゴーレムが飛ぶほどとなると客席に突っ込む可能性もあるか。

 生半可な攻撃は、その身体が構成している泥のせいで通りにくい。まあ、俺にゴーレムの巨体をどうにかする腕力はないんだけど。


 これさ、ベルさんが挑んだ相手より難しくない? ま、ぼやいても仕方ない。要は、心臓とも言うべきコアを潰せばいいんだ。

 では、そのコアはどこか? 心の目、もとい魔力を見ればいい。ゴーレムの中で一番魔力が集中している場所――


「それではよろしいか?」


 試験官が合図した。


「はじめ!」


 泥のゴーレムが動き出した。ノロノロと俺のもとへ歩み寄る。この遅さはゴーレム特有のものだが、ひょっとしたら魔術師に魔法を使わせる時間を与える配慮なのかもしれないな。おかげで、魔力を見る目――魔力眼で、コアの位置を特定。


 あとはそこにピンポイントで魔法をぶち込む! 魔力を一点に集中……騎兵槍で貫くように一撃! 加速、加速、加速ッ!

 見えない一撃がマッドゴーレムの胸を打ち抜いた。背中から泥が派手にぶっ飛び、中のコアもまた身体から引き離され、空中で砕けた。

 その瞬間、ゴーレムだったものは泥の塊となって、その場に崩れ落ちた。……ほら、ベルさんほどじゃないが、こっちも瞬殺だぞ、もっと驚けよ。


 ギャラリーからどよめきの声。


「うへぇ、泥のゴーレムが一撃かよ」

「武器で行ったらメチャクチャ苦労する相手なのによ……」

「あの魔法使い、いい腕してるぜ」


 褒め言葉が多いようだが、ベルさんの時のような歓声とはほど遠かった。魔法だからこんなものでしょ、みたいな、どこか『まあ凄いよね』程度な感じ。


 試験官が終了を告げ、俺はベルさんのもとに戻る。適当な木箱の上に腰をすえていたベルさんはニヤリと口もとを歪めた。


「もっと苦戦するかと思ったぞ」

「うん、まともにやると苦戦すると思ったから、弱点狙いでいった」


 中途半端だと、泥ゴーレムの防御を抜けないだろうからね。


「最初の一撃で防御を抜けたのが大きいな。そうでなかったら、どうするつもりだった?」

「ゴーレムの表面の泥を落として、コアを剥き出しにして攻撃、かな……?」


 多少時間は掛かるだろうけどね。ベルさんは満足げに頷いた。


「腕を上げてきているようで、オレも嬉しいぞ」

「完全に保護者目線だな」


 隣に座りながら、試験官が他の職員と話し合っている様子を眺める。


「あんなんで、実力がわかるのかね?」

「お前さんの場合、もう二、三、何かやらされるかもしれんな」

「……やっぱりそうなる?」

「オレ様も、Aランク相手の到着待ちだ」


 そうだった。

 なお、ベルさんの予想どおり、俺は二回ほど召喚生物と模擬戦を行った。結果、冒険者登録初日でBランクになった。……こんなに簡単に上位ランクに上がっていいんだろうか?


 ベルさんはといえば、やってきたAランク冒険者を撃破し、こちらは万雷の拍手受け、Aランクとなった。頼もしい奴がきた、とカスティーゴ中に双剣の戦士ベルの名前が知れ渡ることになる。


 ……俺も初日Bランクだったんだけど、すっかりかすんでしまった。まあ、いいけどさ。ベルさんが俺なんかより遙かに上位なのはわかってるし。

 Sランクなんてあるなら、S――いやSSSS……くらいじゃないかな。


 ともあれ、俺とベルさんは、カスティーゴ冒険者ギルド所有の上級冒険者宿に格安で泊まれることになった。ちなみに格安と言ったが、Aランクだと実質タダらしい……。

 もう少し欲張っておけばよかったかも。ま、わかったのがだいぶ後だったんだけど。

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