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第11話、登録したぞ


 冒険者ギルドの建物は、守備隊駐屯所の隣だった。

 西洋屋敷っぽい外観。結構大きい建物である。


「俺、冒険者ギルドって初めてなんだ」

「奇遇だな。オレ様も初めてだ」


 ベルさんは肩をすくめた。


 いざ中へ。入ってすぐ酒場じみた――いや、酒場だな。ガヤガヤと冒険者たちがたむろっていて、飲んだり食べたりしていた。入り口で立ち止まると邪魔なので、中へ進む。


 冒険者たちを避けた先、奥には複数のカウンターがあって、それぞれに受付嬢の姿がある。左手に視線をやれば、貼り紙で埋まった掲示板があった。こういうの、異世界ラノベでよくあるやつだ。


 登録はカウンターかな。ちゃっちゃと手続きを済ませてしまおう。……何気に冒険者の何人かから不躾な視線を浴びちゃってるからな。


「なにジロジロ見てるんだ?」


 おっと絡まれ――って、ベルさんが逆にガン飛ばしていた。ベルさんに絡まれたのは、それなりにガタいのいい戦士風冒険者。その彼は首を横に振った。

 ベルさんの威圧勝ち。


「なんか、西部劇みたいだな」


 二刀流の戦士ベルさん。アメコミヒーローじみた体躯の持ち主!


「何だ、ウェスタンって?」

「かっこいいって意味さ」


 俺はニッコリと告げて、空いているカウンターへ。その受付嬢は、茶髪の控えめそうな少女。十代後半くらいかな。

 ……金髪美人の受付嬢もいたんだけど、俺、異性との付き合いがあんまない童貞だからさ。気後れしちゃうんだよね……。


「こんにちは。今日はどんな御用でしょうか?」

「……今日ついたばかりなんだけどね。ここで冒険者登録しようと思って」


 相手が年下だから割と普通に話せた。とりあえず噛まなかった。


「新規の方ですね。……お名前をどうぞ」


 受付嬢は用紙と羽根ペンをとった。……どうやら書いてくれるらしい。識字率があまり高くない世界だ。字が書ける奴が少ないせいだろう。


「ジン……」


 トキトモ、と思わずフルネームを名乗ろうとして、ふと考えてしまう。こういうのって本名でいいんだろうか?


「ジン、ですね」


 書き書き、と名前だけ書いて次に行こうとする。ファミリーネームとかいいの?


「確認しますが、『男』ですか?」

「……女に見える?」


 何て質問だ。生まれてこのかたそんなこと聞かれたことないぞ。

 ベルさんが俺の肩を叩いた。


「要するにタマタマはついているかって、聞かれたんだろう」


 お前はタマなしの臆病者かって意味か? ベルさん、そういう意味じゃないと思うぞ。ま、冗談のつもりなんだろうけどさ。


「少なくとも、鳥じゃない」


 チキン=臆病者じゃない。そう言いたかったのだが、ベルさんも受付嬢も「?」という顔になった。


「えー、次です。年齢は?」

「二十八」

「……サバ読まなくてもいいですよ。二十代前半ですよね?」

「若く見えるとさ、ジン」

「ありがとう、ベルさん」


 皮肉を言い合う。日本人は西洋の人間に比べて若く見られがち、というのは俺の世界ではあったなー。


「では次。あなたの職業は?」


 トレジャーハンター、と言いかけ、たぶん違うなと思い直す。


「魔術師。ソーサラー」


 とくに資格があるわけではないんだけどね。魔法使いではあるから。


「ソーサラー? ……聞いたことがないですが、魔術師系の職ですね」


 書き書き。それ以上ツッコミはなかった。ひと通り終わると、次はベルさんの番。


 名前はベルとだけ。職業は戦士で、年齢は三十代と、横から聞いていたら適当感丸出しで、実にありふれた感じになった。


 手続きを終え、受付嬢は冒険者について説明をした。

 登録直後の俺たちのランクはF。依頼達成率や成果、功績によりE、D、C、B、Aとランクが上がっていき、上位ランクになると騎士や貴族にもなれるかもしれない、らしい。ランクが高いほうが、報酬のいい依頼を受けられ、ギルドからも特典や優遇があると言う。


「カスティーゴでは即戦力が求められています。実力を示せば、相応のランクになります。裏手でランク昇格試験を受けられますので、もしFがお気に召さなければそちらへどうぞ」

「へぇ、すぐ昇格できるのかい」


 ベルさんは自身のFランク冒険者プレートを握りながら言った。はい、と頷く受付嬢。俺はわざとらしく笑う。


「どうする、ベルさん。一気にAランク目指しちゃう?」

「オレ様はどっちでもいいんだけどな」

「あのぅ、腕に自身がお有りなら、ぜひ受けたほうがいいですよ」


 控えめに受付嬢は言った。


「ランクが高いほど、いい宿に泊まれます」

「よしやろう」


 俺とベルさん、即決である。



  ・  ・  ・



「なあ、試験って、こんなギャラリーが多いものなの?」


 ギルド建物の裏手へ行ったら闘技場みたいになってるんですが。さらに客席があって冒険者や住民とおぼしき人たちが何人か。さらに隣の守備隊駐屯所の二階からもギャラリーたちが見ていた。まるで見世物だな。


 ベルさんが進み出た。


「なあ、ジン。オレが先でいいよな?」

「ああ、構わないよ」

「実戦で鍛えられたというここの連中の実力が、はったりじゃなきゃいいがな」


 腕を鳴らすベルさんは、やる気充分だった。


「ほう、新人の癖に大口を叩くじゃないか」


 奥から、斧をかついだ中年戦士がやってくる。大柄ではあるが、別段巨人の仲間というわけでもなく、長身のベルさんとどっこいである。……まあ、俺よりは大きいか。軽鎧をまとい、腕はむき出しだが発達した筋肉が一目瞭然だった。相当鍛えてんな。


「いや、どうみても新人って雰囲気じゃねぇな。お前さん、希望のランクは?」

「何でもいい。とりあえず強い奴を出せ」


 ヒュー、ベルさん、かっけぇ。さらりと言ってのけるあたり、相当な自信が感じられる。これで負けたらかっこ悪いじゃ済まないのだが、魔王様がまさか負けるとは思えない。


「Bランク、ウルゴ」


 斧を構える中年戦士。その瞬間、腕の筋肉が一回り太くなったように見えた。すると周りから声が上がった。


「おい、ウルゴ! てめえ、模擬武器を使えよ! 挑戦者殺す気か!」


 完全アウェーかと思いきや、ギャラリーの戦士たちが非難と悲鳴の大合唱である。そりゃそうだ。試験で本物の武器を使うなんて頭おかしいぞ。


「構わん」


 しかしベルさん、平然と背中の二本の剣を抜いた。


「かかってこい」

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