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第10話、カスティーゴへようこそ


 連合国――正確には対ヴァレリエン共闘連合という国家連合に属する国という意味らしい。


 俺も歴史に詳しいわけではないが、何でもヴェレリエン帝国とかいう強国が、大陸東に侵攻してきて、それに対抗するために連合した国々が、現在の連合国の始まりだという。


 ウーラムゴリサを盟主に、ニーヴァランカ、セイスシルワ、ネーヴォアドリス、テレノシエラ、カリマトリア、プロヴィア、トレイス、クーカペンテの九か国が、連合国という枠組みにある。


 やがて、ヴァレリエン帝国は滅び、連合を構成する意味もなくなった。だが、今度はディグラートル大帝国が大陸東進を始め、その圧倒的武力は脅威であった。故に連合国は再び同盟を組んだ。


 が、連合国の一番西にあるクーカペンテ国は、大帝国によって占領されてしまった。再度結成された連合国だが、クーカペンテへの救援に間に合わなかったのだ。結果、連合国軍は、カリマトリア、プロヴィア、トレイスの三国に展開して、大帝国の侵攻に備えていた。


 ま……俺とベルさんは戦争に関わるつもりもない。トレイス王国を抜け、ウーラムゴリサ王国へ入った。


 ウーラムゴリサは平原と風の国と言われ、土地は肥沃であり、連合国内でも強国である。伊達に盟主というわけではないということだろう。

 なお、強国である理由のひとつに、鍛えられた強力な軍というのがあるのだが、その軍の強化に影響しているのが、邪神塔ダンジョンだというのは、何とも皮肉な話であったりする。


 王国北部に、そのダンジョンはあった。魔獣が多く徘徊する魔の森――もっとも、魔の森自体は、この世界には数多く存在するので、実は珍しくはない。その広大なる森の中にその塔が建っているという。


 邪神塔の近く、魔の森の外に城塞都市カスティーゴが存在する。高々と町を囲む堅牢な城壁。しかしところどころ攻撃によってできた傷跡があって、今現在も補修作業が進められているのが何とも生々しい。


「ここは一週間に一度、邪神塔からの魔物の群れに襲われる」


 都市を守る守備隊の騎士が、やってきた俺とベルさんを案内しながら言った。

 俺とベルさんが、都市入り口の審査で邪神塔目当てと言ったら、審査もそこそこに、無精ひげをはやした、ちょい悪オヤジ風騎士が案内を買って出たのだ。


「何でかわからんが、ダンジョン・スタンピードが週に一回、必ず起きる」


 カスティーゴはもちろん、周辺には王国軍の駐屯地があって、毎週のモンスター・スタンピードに対処している。犠牲がないわけではないが、実戦経験を積んだ騎士や兵が多くなることで、ウーラムゴリサ王国の軍は周辺国より頭ひとつ強くなっている。……その分、王国の予算は軍事費がそれなりに占めている。


「邪神塔」


 騎士の案内で城壁を登る。周囲の森の木々より高い城壁のおかげで、とても見晴らしがいい。

 あの、この森めっちゃ広くない? しかも森の中央あたり、低い黒雲があって、明らかに異常気象っぽいんだけど……。見るからに怪しい。うっすらと塔のようなものが見えて、あれが邪神塔か。

 騎士が指さした。


「あの見えている塔は幻だ。実際は、地下に下っていく形の塔なんだってよ」

「へぇ……」


 下に伸びている塔ってことか。そりゃ珍しい。迷宮ではなく塔ってことは、そういう形なんだろうな。

 ところで――俺は騎士の顔を見た。


「いつもこんなことをしているのかい?」

「何だって?」

「俺たちみたいに来たばかりのよそ者に、騎士様が案内するってのは」


 騎士ってのは、一応、平民より格上だ。俺、覚えた。


「あんたたちは邪神塔の攻略を目指す命知らずか、そのおこぼれを期待して来たんだろう?」


 騎士は城壁を歩きながら笑った。


「このカスティーゴに来る奴は三種類に分けられる。王国からの派遣騎士や兵士。冒険者や戦士。そして囚人奴隷――ふらってやってくるのは、真ん中の連中」


 冒険者や戦士。なるほど。


「こんな定期的に魔物が攻めてくる場所に来る物好きはそうはいない」


 敬礼する兵士に、ラフな答礼で答える騎士。


「そしてここにいる戦える者は、全員防衛戦に参加。それがこの町にいられるルールだ」


 強制参加ってことか。あらあら、ガチでやばいとこ来てしまったかもなこれ。


「冒険者も騎士も兵士も関係ない。あんたもオレと肩を並べて戦う同志ってわけだ。よろしく、戦友」


 気安い感じなのは、戦闘の時のことを考えているんだろうな。見下すような騎士様は反発されるって相場が決まってる。力を合わせて戦いましょって時に、いがみ合っているのはよろしくない。……たぶん、この騎士さん、長くここにいるんだろうなぁ。


「それで、あんたたちは腕利きなんだろう? ランクは?」


 騎士が聞いてきた。ランク? 俺はオウム返し。


「あんたたちは冒険者だろ? その冒険者ランクだよ」

「……」


 俺とベルさんは顔を見合わせた。まだ、冒険者じゃないんだよね、俺たち。



  ・  ・  ・



 冒険者。

 魔物退治の専門家。武器の携帯が許され、荒事にも対処する便利屋。だいたいそんなものという解釈で間違いないらしい。


 魔物と言っても色々いるから、ある程度の知識と、自らを守り、敵を倒す力や能力が必要とされる。だからひとつ間違うと、ゴロツキ的なアウトローな印象が持たれがちである。


 もっとも冒険者と言っても千差万別。腕力に秀でている者がいれば、豊富な知識を持つ学者、採集専門、俺のように魔術師と、能力や得意とする部分が違う。そして大抵は、その得意分野の仕事をこなしていく。


 これら雑多な冒険者たちが集まるのが冒険者ギルドである。魔獣退治や護衛、危険地域での採集、特定魔物の狩りなどなど、寄せられる依頼を、ギルドは冒険者たちに斡旋する。おかげで個々の冒険者たちは営業活動をすることなく、依頼に集中することができるのである。


 さて、冒険者登録は前々からしようと思っていた。ただ聞いたところによると地元ルールがあって、よそに移る時に手続きやら何やらかかるところもあるらしいと聞いたから、カスティーゴに来てから登録するつもりだった。


 と、いうことで、正式に冒険者になるぞ。自称トレジャーハンターは卒業だ。……なお何故自称だったかと言えば、トレジャーハンターに特に資格がなかったというのと、そうでも名乗らないと遺跡泥棒に思われるからだ。

 自称でも、それっぽさの演出は必要なのさ。フフン。


 城壁に囲まれたカスティーゴの町並みを歩く。武装した戦士らの姿が多い。おそらく全員冒険者なんだろうな。そういう冒険者たち相手に商売する住人たちの店があって、守備隊の兵士の姿も見かけた。

 金属を金槌で打つ音が、そこかしろで聞こえ、通りに並ぶ建物も鍛冶関係が多いように思える。さすが一週間に一度、戦闘に巻き込まれる町だ。


「よう、あんたら新参か?」


 通りかかった冒険者風の男に声をかけられた。ああ、と頷きながら俺は答える。


「ギルドはこっちでいいかい?」

「ああ、そっちで合ってるよ。おれはラット」

「ジンだ」

「よろしく」


 そのまま、ラットと名乗る男は去っていった。すれ違ったから挨拶したみたいな感じだった。気さくな奴が多いんだろうかね、ここは。

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