第9話、遺跡チャレンジ
ラマの遺跡は古代文明時代のもの。その地下には、その文明の遺産が眠っている――
そんな伝承を聞いて、やってきた俺とベルさんは、ラマ遺跡へ入り、その遺産と思しきモノが入っているだろう魔法金属製の箱を回収した。
遺跡の外は鬱蒼とした密林。危険な魔獣が徘徊し、人を寄せ付けない。探検家や冒険者が幾人か訪れたらしいが、大半は生きて帰れなかったとされる。
……だが俺たちは突破した。
「さて、箱の中身は何だろうな」
遺跡の外、周囲の安全を確保した上で、異空間収納内にしまっていたお宝を取り出す。
縦横三十センチ、高さ二十センチほどの箱。そんなに大きなものではない。
「宝石か、魔法具か」
ベルさんが箱を見下ろす。俺は開けようと箱を検分。鍵穴はなし。だが蓋は開かない。
「魔力式だろう。魔力を注いでみろ」
「俺、結構魔法使って、疲れてるんだけど」
「これも修行だ、ジン」
ベルさんは腕を組んで、さあやれ、と態度で示した。はいはい――
最近、俺たちは、こうした遺跡を巡ってトレジャーハンターのようなことをしている。遺跡遺産を持ち帰って金稼ぎをすると共に、俺の実戦経験と修行を兼ねている。
箱に魔力を注ぎ込むこと数秒。パカッと蓋が開いた。
「びっくりした!」
「お前がびっくりしたのに驚いた」
などというベルさんの軽口をよそに、箱の中身を見る。
「本、だな」
「魔道書か」
気をつけろ、とベルさんは俺に注意した。得体の知れない魔法や呪いを警戒する。魔法の書などは、簡単に人に渡さないためにトラップめいた処置をするのが少なくないのだ。
手を魔力で覆い、防御魔法をかけてから、革張りの、いかにも古めかしい辞書のような本を手に取る。……オーケー、罠はない。
「古代文明時代っていうわりには、保存状態がいいな」
「箱に、中のものを保護する魔法でもかかっていたんじゃねえかな」
なるほど。俺は結構重さのある本を開く。石碑にあった文字と同じような文字――読めないのだが、これまで何度か見かけた魔法文字の刻まれた文章と類似するものがあった。
「魔法文字の辞典、だったりするかな?」
「オレ様にはわからないが……まあ、試してみればいいんじゃないか」
ベルさんが周囲へと視界を向けた。
「とりあえず、ここを離れた後で」
そうだな。帰るまでが遠足っていうしな。俺は本と、魔法金属製の箱をストレージに収納。……この密林をまた歩いて帰る?
「どっちから来たっけか?」
「さあな。空を飛べばわかるだろうよ」
ごもっとも。高いところからなら、よく見えるだろうな。
「……そうしよう」
俺はストレージから、大帝国の魔術師らが使っていた空飛ぶ箒を改造した浮遊バイクを取り出した。まあ、見た目がタイヤのないバイクみたいだから、そう呼んでいるだけだが。
実際は、箒に座りやすいよう鞍のような椅子をつけて、風除けと握りやすいようにグリップをつけた代物だ。飛行性能については、元の箒から変化はない。
俺は浮遊バイクに跨がり、魔力を箒に注ぎ込む。最初は中々扱えなかったこいつも、今ではすっかり俺の手足だ。
ベルさんは人型からその姿を漆黒の竜のように変える。人間の戦士に見えて、彼は大悪魔にして魔王。変身するのもお手の物だ。
そのまま地上から飛び上がり、森から脱出。
「さて、ベルさんよ。遺跡チャレンジ、いつまで続けるつもりだい?」
『何だ、飽きたのか?』
竜の姿でベルさんが魔力を念話という形で飛ばしてきた。口を動かすことなく、ある程度の距離飛ばせる魔法の一種で、通信機みたいなものだ。
『まあ、そうは言っても、じきに大陸東の連合国だからな……。そろそろ目指してみるか、邪神塔』
俺はその名前を聞き、視線を東――かの九つの国が集まった連合国の方向へ向けた。
邪神塔というのは、いわゆるダンジョンである。多数のモンスターが跋扈し、その最深部には財宝が眠っているとか、いかにもファンタジー世界にありそうな話だが、いまだかつて攻略されたことがない、という点で他国にまで噂になっているダンジョンである。
それが連合国のひとつ、ウーラムゴリサ王国にあるとされる。
『そいつを攻略したら、有名になるだろう』
というのが、ベルさんが俺にした話。ついでに財宝があるなら、それも手に入れて優雅な生活を。……一攫千金。もちろん、魔物やトラップなどがごまんとあって、命がいくつあっても足りないなんて、ハイリスクな面もあるんだけどね。
ちまちま冒険者で日銭稼ぐ手もあるが、俺も二十代後半、三十も近い。ベルさんがいて、その彼に鍛えられて腕を上げた。そろそろ大物を狙えるんじゃないか、とそのベルさんが言うのなら、やらない手はない。
「……でもいいのかな?」
俺は思ったことを口にする。ベルさんは以前、名を上げるのはいいけど目立ち過ぎるなとも言っていたような。
「邪神塔とやらを攻略しちゃったら、充分目立っちまうのでは?」
『おいおい、もう攻略した気でいるのかよ?』
ベルさんに笑われた。
『オレ様も実際に行ったことがないからな。どんなダンジョンなのかわからん』
「単にあんたが興味あるから行ってみたいだけなんじゃないか?」
『そうとも言う』
あっさり認めやがった。やれやれ……。
・ ・ ・
近場の町へ行き、ラマ遺跡で回収した骨董品を商人に売りつけた。もちろん、宝箱の中の本のような貴重そうなものではなく、魔力を注ぐと光るカンテラのような照明器具とか、比較的複数拾えたものだけだが。……まあ、それでも中々よい金になった。
ちなみに回収した魔道書を検証したところ、魔力を文字として物に刻み、属性や魔法的効果を付与したりすることができる呪文などが書かれていることがわかった。とはいえ、意味がわからない文字や文面も多く、ちまちま解読しながら開拓していく感じではあるが。ただ、魔法文字は使い方によっては、かなり面白くなりそうな予感があった。当面、研究していく。
その後、食料を調達し、軽く情報を収集。俺とベルさんは東を目指して飛んだ。
ディグラートル大帝国が東へと進んでいるらしい。いずれこの辺りにも来るかも、と住民たちは不安がっていた。
大帝国から離れているはずが、実は進行方向上にかなりの規模の帝国軍が進出している。それらを俺たちは迂回して進んでいたわけだが、これから行くつもりのウーラムゴリサ王国の属する連合国も、九つだったのが八つとなっているという。
クーカペンテ国。連合国でもっとも西側にあったその国は、大帝国に攻められ支配下に置かれているらしい。
大陸侵攻を推し進める大帝国。……できれば関わりたくないんだよな、ほんと。
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