第七幕 忘れ去られた1人
街の商店街1番左側に在る八百屋……そこにはある人が住んでいる、 私が探してる人間の1人だ。
「ちょっといい? 斎藤」
斎藤 秀、 死んだ筈の彼の元へ向かったのは直感だった。
そしてその直感が役に立ったのだ。
「ヒロ……丁度いい、 俺も聞きたい事があったんだ」
──八百屋の2階右から3番目の斎藤の部屋に入れてもらい、 私はすぐに本題を話した。
「指切り、 また参加して欲しいんだけど」
斎藤は驚いている……まああれだけ怯えていた私が言いだすんだもん、 そうなるか。
私は深く頭を下げた。
「……何で俺は生きてる? 教えてくれ。 自分でも分からないんだ」
「それは、 私にも分からない。 もしかしたら、 偽物なのかも知れないし……」
「偽物か……」
斎藤は少し不機嫌そうな表情をしてる、 自分が偽物かも知れないなんて言われたらそりゃ怒るよね、 ごめんね。
……でも、 箕輪流枷を倒すにはお前達7人の力が必要なんだ、 と必死に訴えてみる。
「ま、 1度死んでるんだ。 俺は構わないぞ」
「ありがとう斎藤」
まず1人目、 次は……。
私は自分の家にこっそりと入る。
何故ならここの住人達は私が行方不明になってると思ってるからだ、 そしてこの後私が生きてるとも限らない……バレない方がいい。
私は自分の部屋ではなく、 その隣の部屋の扉を開けた。
「あ、 お姉ちゃんやっと帰って来たんだ! 」
斎藤同様死んだ筈の妹、 美緒もまた事情を説明すると納得してない様だった。
自分は死んだのに生きている、 その状況に困惑しているみたいだ。
「7人って事は、 当然あの人達も来るって事だよね。 いいよ私は、 悪霊を止められるなら何だってする! 」
「ありがとう」
そして私は氷室の家に向かったが、 偽物さえも死んだからかもう生き返る事はなく、 遺影が飾られていた。
「何で俺達は生きて氷室は……」
「氷室姉ちゃん……」
私は遺影に向かって手を合わせ、 心でそっと『行って来る』と報告した。
その時『頑張れヒロ』と言われた気がして目の前を見たが、 氷室は写真の中だった。
「行こう、 話は後だ」
私達が外に出ると、 そこには傷だらけで動きにくそうな幕雷が立っていた。
───────────────────────
「俺が呼んだ。 必要だろう? コイツも」
幕雷は私を抱き締め、 静かに涙を流している……ありがとね、 生きててくれて。
好きでいてくれて。
「で、 これでメンバーは揃ったのか? ヒロ」
「いや、 まだ4人だ」
幕雷の問いかけに私は首を振り、 携帯電話を出しある人達へと連絡をし始めた。
全員が不思議そうな顔をしてるが、 7人って言ったろ? 氷室が死んだから6人になっちゃったけど。
「来たぞ、 懐かしい面子だな」
「やっとヒロと分離出来たよ」
数分後やって来たのは桂木平汰と工藤飛依。
私と飛依は恐らく死んだと共にお互いの身体へ戻ったんだ、 どうやって肉体が再生してるのかはわからないがこれで6人が揃って後1人となった。
「さて、 後1人の場所へ行くよ」
────最後の1人……それはストーリーに1度も登場する事の無かった『忘れ去られた1人』。
きっと私達を恨んでる、 あのこの事も見つけられなかった私を……。
ロンドーア城跡地へと着いた私達は、 揃ってある言葉を口にした。
「隠れ鬼」
私達が口を揃えた理由は、 過去にあった。
大木の前でやった遊びはまず隠れんぼ、 そして鬼ごっこ、 最後は合わせて隠れ鬼……そこで箕輪流枷を含む2人を見つける事が出来なかったんだ。
隠れんぼをクリア、 鬼ごっこもクリアした私達が次に行うゲームはそれで合ってる筈。
つまり箕輪流枷の『遊び』は私達に向けられたもので、 入って殺された人間達は巻き添えを食らったようなものだった。
本当に申し訳ない。
「ねぇ、 最後の1人って、 どこに居るの? 」
思い出した様子の美緒が私に聞くと、 やはり誰もその子の事を覚えてないようだ。
恐らくそれは……誰も見つけられなかったから。
「中に居る」
私の言葉に全員が一斉にロンドーア城を見つめた。
そうなんだ、 彼女はそこに居る。
ずっと私達を待ってるんだ……助けて欲しいんじゃない、 見つけて欲しいんだ。
読者の皆様も気付いたかも知れないが、 ずっと中に居るという事は、 明らかにもう死んでいると分かる。
だからか皆表情が硬くなり、 歩みが鈍く変わっていた──さあ、 来るぞ。
───────────────────────
「あー! 皆だぁっ! 次は負けないよぉ~! 絶対、 見つけてよねヒロちゃん! 」
1人で楽しそうに笑う箕輪流枷……喋り方、 台詞などをよく聞くとあの頃と同じだ。
この後彼女は死んでしまう……そのわけは誰にも分からない、 そこが1番の恐怖だ。
箕輪流枷は言うだけ言って姿を消した──そして脳内には2時間の文字が入って来た。
最近わかった事で、 この時間は恐らくゲーム開始から終わった時間の事なんだ。
だからこの時間を守ってあの時と同じにならないよう、 2人見つけ出さなきゃ行けない。
「走って皆! 城の中に! まずは箕輪流枷じゃない方が優先だよ! 」
「何で!? 」
私が大声で叫ぶと飛依以外が何でかを聞いてきた、 そして私じゃなく色々知ってた様子の飛依が説明を始める。
「箕輪流枷は絶対見つかれば逃げる、 けどもう1人は見つけて欲しいんだから逃げる事はないし、 もしかしたら味方になってくれるかも知れない! そうでしょ!? ヒロ! 」
「そー言う事! 」
運動音痴な私は傷だらけの幕雷に担がれている、 怪我人の方が動けるってどんだけだ私。
城の中へ来ると、 飛依の指示通りに鎖のある階段を駆け上がって行く。
──あの時は何も無かった……けど一箇所、 探してない場所があったんだ。
「……ベッド……? 」
美緒は飛依が見つめる先を見て疑問系で呟いた。
この城は普通の城よりは狭いが、 無駄に『ベッドルーム』という狭い部屋がクローゼットの奥に隠してあったのだ。
ここに来させたくなかったっぽい箕輪流枷は、 恐らく彼女を見つけられたら脅威だとでも思ってたんじゃないかと考えた。
だから私達が上がったらすぐに帰って来たんだ。
「開けるよ」
私がそう言いノブに手をかけると、 飛依は何かに気付いて1回待つように言った。
「少女がこっち側に向かって来てる……! 」
箕輪流枷と繋がりがあるようなこの飛依の能力を考える所、 もしかしたら血の繋がった人物なのかも知れない。
恐らく少女の妹か何か……。
「急ごう」
斎藤は勢い良く扉を開いた──そして人が横に2人並べる程度しか無い幅で両端にはベッドが置かれている部屋に、 座り込む小さな子供が居た。
そう、 彼女が最後の1人。
───────────────────────
見つからないよう、 大木から2キロも離れたこの城に入り、 出られなくなったかまたは少女に殺されたかで死んでしまっている。
「木尾……百華だよね」
私は茶髪が腰まで届く長さの女の子にそっと近付き話しかけた。
彼女の身体が小さく跳ねる、 気付いたようだ。
「福瀬干露、 覚えてるかな。 小学校の時同じクラスだったんだけど……」
小学校の時と言ってもこの子にとっては今もずっと小学生だし、 同じクラスになったのは2年間だけだ。
こんな説明で思い出してもらえるとは思ってなかったので、 覚悟を決めてソレを話した。
「君を、 見つけられなかった人間だよ」
その瞬間怯えていた様子の身体から震えが止まった彼女はゆっくりと顔を上げていく。
それを私達は真剣に見つめている。
「ヒロ……? 」
「ああ、 そうだ」
上げられた彼女の首元には縄で締められた様な痣があるが、 多分これは首を斬られた痕。
それで箕輪流枷が悪霊化した後に殺されたのが分かった。
「見つけられなくて、 本当にごめん。 でも恨むなら、 私だけにして……」
私は彼女の前で土下座をする。
勿論恥ずかしくも何ともない、 何故ならこの責任は殆ど全部私に有るからだ。
2人を見つけられず、 箕輪流枷を悪霊化させてしまい木尾百華を死なせてしまった私の責任……。
「バカ」
何てことだ、 彼女は怒るどころか笑顔になっている。
それも箕輪流枷とは全く別の邪気の入っていない笑顔だった──。
「今こうして会いに来てくれたじゃん、 何年経っても見つけてくれたじゃん。 忘れられても良かったんだよ私は」
「木尾……」
性格の変わってしまった私は、 昔の様に皆を名前で呼ぶ事もなくなってしまった。
何年も経つと人はそうやって変わっていくのかも知れない……。
けど彼女は昔と変わらず優しいままで、 人の事を優先して考えてくれていた。
「私は皆と会えて良かったよ。 だから1つ、 教えてあげる」
「え……? 」
彼女は光の粒子へと変化しながら私に近付き、 耳打ちをしてきた。
───────────────────────
「あの子の『心臓』は地下にある……」
心臓……? 地下にある……?
心臓って胸の辺りに有るんじゃないのか!?
私は戸惑ったがすぐに理解した。
要するに少女を倒すには心臓を破壊するしかない、 でも恐らくゲームもクリアしなきゃいけない。
彼女は隠れ鬼をして見つけたとしても逆に追ってくる筈、 隠れんぼがそうだった。
だから誘導する、 自分自身に心臓を破壊させる。
その方法が1番有効だと考えた。
「行くよ、 地下に向かおう! 」
少女の歩みはもうすぐで城へと辿り着く……そんな事は分かっている、 からこそすぐに地下へと走り出した。
『百華、 ありがとう……! 』
箕輪流枷VS私達の最後の最後の戦いが真の幕を開けた────。