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指切り。嘘ついたら針千本  作者: ☆夢愛
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第五幕 オニゴッコ

「ここに居てもし箕輪が来たら絶対絶命だぞ」


 全校死の鬼ごっこが開始して数十秒が経った時、 桂木は体育倉庫の中を見渡した。

 確かにそうだ、 こんな1つしか入り口が無くて物ばかり置いてある所に来られたら逃げ出す前に捕まる。

 ……絶対絶命と言うのも頷ける。


 桂木は何を思ったのか、 扉を拳1つ分程開け跳び箱をその前に5つ置いた──そんな物で箕輪流枷が止まる訳がないと思ってたら、 桂木は次にマットを扉と真逆の壁際に積み重ね始めた。


「何してんの? 」


「上見てみろ、 お前がギリギリ通れるくらいの窓が有るんだ。 いざとなったら出れるし、 校舎とその間の道なら見れる」


 なるほど、 箕輪流枷が近づいて来たら逃げるって事か……でも扉塞いだら逃げられなくないか?


「その心配は無い。 アレがそこを通り過ぎたら道的に体育館の中に辿り着く、 又は引き返して来るかだ。 後者だった場合は下手すりゃ終わりだけどな」


 つまりはパニックになって音でも立てればアウトという事だね、 分かってきた。

 けどそれってつまる所窓から出たら私達もそのどちらかに行くしかない道を駆け抜けて行くって事だよね、 足遅くてバレないか心配だ。

 桂木は他の人間でメール出来る生徒に絶対に見つからないで校外へ出ろと伝え、 自身も準備を開始する。

 その間私は弁当箱は見捨て、 外を警戒していた。


「ねぇ、外に行ったら失格って事は無いかな」


 疑問に思い桂木に問いかけてみると、 靴紐を結び終えた彼は腕組みをした。


「まあ無いとは言い切れないが、 賭けてみるしかないだろうな」


「だよね……」


 その後数分程外を見ていたら、 目の前の校舎から大量の叫び声が聞こえて来た。

 ……そして私が目を凝らして見ると、 窓を塗り潰す程の大量の血が弾けたのが見えた。


「ひっ……!? 」


「どうした? 」


 桂木は驚いたと言うか恐ろしくてマットから落ちた私を受け止めた。

 そして校舎の中を覗く。


「……チッ、 騒いだらバレるに決まってんだろ……! 」


 桂木の眼は哀しそうだった……中には友達も居たんだろう、 友達でなくとも親しくして来た仲間達が殺られているんだ……そうなる気持ちは痛い程解る。

 ───────────────────────

 ただ、 私達は少女が体育館へ向かって来るまでここから動く事が出来ない……ただそれを指を咥えて見てる事しか出来ないんだ。


「! ヒロ、 荷物の準備をしろ」

 桂木は一旦隠れ、 静かに外を眺めている──少女、 箕輪流枷が来たんだろう。

 私は即座にバッグを持ち、 最低限に必要な物だけを用意した。

 そして数分後、 桂木がゆっくりと音も立てないように窓を開けた。


「よし、 行くぞ」


 体育館の扉が開く音が聞こえたと同時に桂木は窓から飛び出た、 そして私が出るのを手伝ってくれた。

 ……ごめんね、 運動系苦手で。

 窓は閉めず、 すぐには走らず箕輪流枷が体育館の中へ完全に入ったのを確認し早歩きで遠ざかって行く。


 体育館からそこそこ離れ、 校舎の横を過ぎると桂木の指示で走り出した──さっきまでは走る音で気付かれるけどここまで来れば恐らく大丈夫だからだ。


「酷い有り様だ……」


 桂木は校舎内部を横目で見ると、 悔しそうな表情になり、 私の左手を強く握って走る。

 校舎外にも針だらけの死体が数体……無事脱出出来た生徒は居るのだろうか。


「あ、 おーい! 2人共こっちだ! ここ出たら追われなかったぞ! 」

 学校の門を過ぎた所に4人の生徒達が居た。

 そして桂木の予想はドンピシャで当たり、 校外に出ればクリアらしい。

 本当に良かった。


「6人……か」


 悔しそうな表情で生存者を見る桂木は、 まるで自分を責めているかの様に拳を握り締めている。

 お前の所為ではないのに……。


「平汰、 あの女の子はなんだったんだ? 触れられた生徒が弾ける様に死んでいったけど」


 膝裏くらいまでの超長い黒髪ポニーテールをしたクール系男子が桂木に近付いて問うてきたけど、 その男子生徒は平然を装っているが身体が小刻みに震えていた。


「飛香……だけじゃねぇ、 お前ら全員聞け、 ロンドーア城は知ってるだろ? アレはそこの悪霊だ、 とにかく見つかるだけでも危険だ、 用心しろ」


「用心しろって言われても……」


 桂木がとても大雑把に説明すると、 金髪で長身のチャラそうな男子が小さな声で呟いた。

 ポニテの方は御堂飛香(みどうあすか)でチャラ男の方は鷺宮瑠衣(さぎみやるい)、 どちらも2年生らしい。

 ───────────────────────

 他に縮こまってる女の子が2人居るが、 運が良かったのか無事出られたらしい……だが恐怖で身体が動かないみたいだ、 安心しろ私も限界だ。


「ね、 誠に信じられないんだけど、 他の人達は死んじゃった訳? もう何がなんだか……」


 鷺宮は不安気な顔で聞いてきた、 それを頷いて返す桂木。

 鷺宮は何か破廉恥な言葉を時々発しながら蹲った──何やら女の子と……?? が出来ないじゃんとか……。


「あ、 でも男3人女3人だし、 飛依は平汰が居るから無理だとして……御堂はやんないから俺があの2人のコと出来るじゃん! 」


 眼を輝かせながらいやらしい表情で女の子達をガン見した鷺宮を桂木がチョップし、 御堂が持っている薙刀で鷺宮を女の子達から遠ざける。

 片方よくそんな物持って逃げ切れたな。


「だとして、 今日はひとまず家に帰るけど明日どうすんの? 来んの? 」


 明らかに嫌そうな顔で皆を見渡して鷺宮が聞いてきたが、 それに対しては何も分かっていない為『来なくていい』と桂木は返事した。

 こういう時に飛依出てくれないかな、 私達に遊びの事教えてよ、 知ってるならさ。


「今日は各自自由だが、 いつあの少女……箕輪流枷が襲って来るかは判らない。 気は抜くなよ、 何かあったら俺に連絡しろ」


 全員が頷くと桂木は私の方へ寄って来て左腕を優しく掴み引いた。


「今日俺ん家な」


 いや昨日もだけど。


「あ、 うん」


 私と桂木が共に帰って行くのを見て、 鷺宮は何かを思いついたようにニヤけ女の子達の方へ向かって行く。


「ねぇねぇ、 今日どっちか俺ん家来ない? 」


 女の子は恐怖で藁にも縋りたい気分なのか、 どっちも縦に首を振った……が、 その後鷺宮の襟を御堂が掴んだ。


「お前の家は広いだろ、 なら俺が言っても問題無いな? 」


「いいけど、 じゃあ俺はこの癖っ毛のコと寝るね」


 御堂は『何の話だ』と鷺宮を結構思い切り殴り飛ばし、 女の子達に手を差し伸べて立たせた。

 ……心配なメンバーが揃ったな。

 そう思いながら私は桂木と共に彼の家へ向かった。

 ───────────────────────

「桂木君、 これからどうする? もし私が殺されちゃったら飛依まで消えちゃうんだけど……」


 私がベッドに座る桂木を下から覗き込んで聞くと、 彼は優しく包み込むような笑顔で私の頭を撫でてきた。


「大丈夫だ、 俺が飛依の事を死なせやしないし、 ヒロの事も何とか助ける。 今日はもう寝よう」


「……うん」


 飛依だけじゃなくて私の事さえも気遣ってくれる桂木に、 自然と惹かれていってる事に私は微塵も気付いていなかった……そしてその心は決して飛依のものではなく、 私自身の気持ちだという事にも。

 その日は急に飛依と交代する事になり、 ほんの2時間程度だが桂木と飛依は再会出来た。

 目一杯愛し合ってる2人を見てしまった私は、 不思議と胸が痛んだ……この気持ちは何なんだろうな……。


 ──────。

「ヒロ、 起きろ。 一緒にロンドーア城跡地に行くぞ」


 朝起きて全裸だった私は半裸の桂木を見ない様に服を着て出かける準備をした。

 昨夜の事を思い出してしまい、 自分じゃないのに桂木と顔が合わせにくい。

 にしても身体が痛いな。


「おはよ! 2人共」


「よく眠れたか? 」


「「おはようございます……」」


 家の外には昨日生き残った4人が居た。

 事前に連絡して呼んどいたらしい……何か鷺宮から皆離れてるな、 何かあったのか?


「今から、 ロンドーア城跡地に向かう。 内容はメールで送った通りだ、 心して行くようにな」


 メール……? あ、 私には送る必要無いじゃん、 忘れてた忘れてた。

 私達は1時間以上掛けてロンドーア城跡地の門前へとやって来た──だが驚いた事に門の中からは以前の様な邪気が無くなっていたのだ。

 ……箕輪流枷が外に出ているからか……? それとも別の何か……。


「よし、 入るぞ」


 邪気が無くなっているからか、 空気も重くないし嫌な臭いも無い……そして全く恐ろしいとも感じない。

 屋敷の中には特に何も無く、 前まで軋む音すら無かった床も底抜けしそうな程脆くなってる。

 気付かなかっただけなのかは分からないけど、 天井付近には大量の蜘蛛の巣、 小さな虫などが居てもう使われなくなってかなり経ってる様な見た目だった。


「特に何も無くね? 聞いたのと全然違う気がするよ」

 ────────────────────────

 鷺宮は馬鹿にしてるのか頭の後ろで手を組み、 何も警戒せずに歩いている。

 対して他3人は私同様怖がりなのか、 身体を震わせて小股で歩いている──そして桂木にべったり。


「おかしいな……何で何も……そうだ、 城に行ってみよう」


「城……」


 そう言えば私城内には入った事無いな……行ってみよう。

 私は桂木に賛成し、 他のメンバーを連れて城の方へ続く長い坂道を歩いて行く。

 ……あれ? 何だか怖くないぞ……? もしかして邪気が無くなってるからか?

 城内に入った私達は、 手分けで何かを探すのではなく単に観光する様に歩き回った。


 1階は本当に何も無く、 ただ歪な形をした大広間があるだけ。

 2階には沢山の部屋が在ったが特に何も無く、 3階への階段は鎖により閉ざされていた。

 諦めたのか桂木は全員に指示し城外へ向かった。


 ──その時だった。


「あの鎖の向こうには何があるんだ? もしかしたら悪霊を除霊する為の物が有るかもしれない」


 桂木は1人振り返ると、 城の扉を再度開けた。


「ついて来る奴は誰だ? 別に俺1人でもいいが」


「私が行く」


 私は桂木の問いかけに即答した……訳は脳内で飛依に着いていけと言われたからだ。

 もしかしたら何かが有るのかも知れない、 その恐怖でもあり期待でもある感情を持ち、 桂木の右へ並んだ。


「俺も行く」


「俺もー」


 御堂と鷺宮も行く事にしたが、 他2人は外で待つ事になった。

 私達は再び2階へ上がり、 鎖のかかった階段の前に立った──この時空気に邪気妖気が戻ったのに気付かず、 その鎖を越えた。

 そして未知の3階へと登っていく……。

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