第二幕 カクレンボ
跡地に来た私達5人は、 ただ黙って身の毛がよだつほど不気味なオーラを放つ屋敷を見つめていた。
そのまま十数分が経った頃だった。
「なあ、 そろそろ入ってみねーか? 暇で仕方ねぇ」
幕雷がそう言って屋敷へ近づいて行くと、 斎藤が左腕を掴んで引き戻した。
「ダメだ、 何か嫌な予感がする」
「私もだ」
斎藤と氷室はどうやら異様な空気に警戒している様で、 来たはいいが中々入ろうとしない。
沈黙が3分程続くと、 痺れを切らしたのか美緒が跡地の鍵の取れたボロボロの門を開けた。
そして私達の方を振り向き、 溜息を吐く。
「歳上の皆情けないよ! ここまで来たのに入んないなんて意味ないでしょ! 」
やっぱり入るのか……美緒、 お姉ちゃんが怖がりなのを忘れたのか……? それとも知らないのか? どっちだとしてもこの雰囲気に突っ込んでくのはマズいと思うけど。
美緒が1人中へ進んで行くと、 深呼吸をし斎藤も続く。
それを見て日本刀を持ち、 氷室も入る。
「どうする? ヒロも来るか? 」
えっと……どうしよう、 私は怖いのムリだしヤダけど……美緒が行くなら心配だし、 ここは覚悟を決めるか。
「うん……! 」
私は身体が震えたまま、 真剣な顔で頷き皆の後へ続いた。
──中は驚いた事に屋敷と言うより学校だった。
どうなってるんだ? 外から見た時とまるで形も違う様に感じるが……。
「寒ぃな。 ヒロ大丈夫か? 」
「え、 ああ……」
中は怖さなんて吹き飛ぶ程冷え込んでいて、 とても暗い……転ばなきゃいいけど。
それより何か……幕雷が優しい? 私が怯えてるから……?
「ちょっと待て、 お前ら聞こえるか? 」
「え? 」
先頭を歩いていた斎藤が急に止まり、 4人に問うて来た。
……? 急にどうしたんだ……?
「雷の音がする」
「雷!? 」
確かに耳を澄ますと、 雷の様な音が微かに聞こえる……だが今日は雷の予報も雨の予報も無く、 むしろ晴れの予報だったはず。
つまりこの音は色々とおかしい、 急なものだとしても、 外は完全に晴れている。
「それに、 こん中に入った瞬間に頭痛して来たよ」
美緒は辛そうに頭を押さえてるが、 私だけは痛くない……。
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心霊スポットでもあるからか、 この跡地はやはり異常だ……完全に空気が汚れている。
呼吸もしたくない……死ぬからするが。
──直後、 脳を揺らす程の轟音、 振動が響き渡り目がくらむ強い光で私達は照らされた。
「……えっ」
── 光った一瞬に、 私達の視界には大量の死体が写った。
どれも針が身体中に刺さっており、 天井から吊らされている……ずっと思ってたんだが、 『刺さっている』と言うよりは、 『飛び出ている』ような……。
「マズいな、 一旦出るぞ! 」
斎藤の掛け声で全員外に向かって走った……私は動けなかったので幕雷が運んでくれた。
2度もすまん。
それより、 何がマズイんだろう……私は斎藤の右袖を掴み、 静かに聞いてみた。
「ああ、 見えた死体は全て俺達の方を向いていたんだ。 あのままじゃどうなってたんだか」
……確かにさっき、 全部こっち見てた様な……思い出すだけで震えが止まらない。
皆は一旦跡地の門を出て、 近くの壁に隠れる様にして集まった。
「ここは危険だ……どっちにしろ学校で死ぬ可能性もある。 行くか行かないか、 自分らの好きにしろ」
そんなの、 私は絶対行きたくない……急死の方がまだいいよ、 何かに殺されるよりは……。
私がそんな事を考えていると、 美緒が立ち上がった。
「んじゃ私行ってくるよ。 30分程度で戻るね」
美緒!? 本気か!? あんな所に行くのか!?
……美緒の目は油断してる訳でも怯えてる訳でも無く、 ただ単に真剣だった……本気なんだ……。
「んじゃ、 私も行こう」
「俺もだ」
氷室と斎藤は美緒に続き立ち上がる。
そして幕雷は私の頭に手を置き、 笑顔で言った。
「ちょっと行ってくる。 ヒロは帰っててもいいからな! 」
……幕雷の手は震えてる……やはり、 恐ろしいんだろう。
私は彼の優しさで、 今まで冷たく当たってた事が胸を痛ませた。
『幕雷……ごめん』
私は心の中でそう呟いた。
「! あれは……」
門を入った所で、 4人は立ち止まっている。
何をしてるのか少し覗いてみると、 何かが奥に居る。
「!!! 」
あの少女だった……。
やはりここは住み家なのか……。
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少女はゆっくりと腕を上げ始めた……その時幕雷は私に隠れるようこっそり合図した。
私は言う通りにし、 見えない様に隠れた。
「いーち、 にーい、 さーん、 よーん……」
何かを数えている……いや、 それが人数の事なのは分かりきっていた。
そして『4』で止まったと言う事は、 私が含まれていないのが分かる。
「4人かぁ、 皆久しぶりだね~。 遊びに来てくれたの? 」
久しぶり……やっぱ昔会ったのと同じって事か。
「ああ、 遊びに来た。 が、 何をする」
斎藤、 遊びに乗って大丈夫なのか!? 本当に帰ってこれるのか!? ……あれ? さっき、 誰も『絶対帰る』とか言わなかった様な……。
「隠れんぼ、 しよ? 」
隠れんぼ!? あの中で!? ……恐ろし過ぎる。
「いいぜ」
「ああ」
「見つからないよ! 」
美緒が自信満々そうに言うと、 少女は笑いだした……その声は、 まるでトンネルにでも入ってるかの様に響いていた。
「皆が私を見つけるんだよぉ~。 はい、 指切りしましょ? 」
──探される側を自ら?? 珍しい……のか?
それより今、 『指切り』って言ったか!? ダメだ皆! そんな事しちゃ……!
「決まりだな」
ダメだって!!
「ゆーびきーりしーましょ、 見つけられなかったら……針千本ね。 はい、 指切った」
「スタートだな」
そんな……何で全員普通にやっちゃうんだよ……あの屋敷のデカさ見ろ! 学校の敷地の倍はあるぞ! 4人なんかで……。
私が見た時にはもう、 全員姿は無かった。
もう探しに行ってしまったんだろう……だけど私はあの4人を信じ、 家に戻った。
「戻って来た時の為にお弁当を持って行こう。 飲み物とかもな」
私は5人分のお弁当と水筒をリュックに詰め、 30分程かけて跡地へ戻った。
──私は門の中を見て、 思わずリュックを落としてしまった。
……分かってたじゃないか……最初から。
こうなる事なんて想像ついてたじゃん、 誰だって分かるじゃん。
そう思いながらも私の瞳からは涙が垂れてきていた。
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屋敷の前には、 身体中から針が出て指が全て切り落とされている4人が横たわっていた。
「美緒、 斎藤、 氷室、 幕雷……」
私は悲しみの涙が大量に溢れ出ていた。
いつの間にかこんなにもコイツらが大切になっていたんだ……なんて事も考える事も出来ず、 ただその場に泣き崩れていた。
「ひーろちゃん」
頭を貫く様な頭痛と共に、 私の名前が聞こえた。
少女は私の数㎝前に立ち、 無邪気な笑顔で私を見下ろしている……ああ、 分かってるよ。
次は私の番なんだろ? ……やってやるよ。
私は勢い良く立ち上がり、 涙を袖で拭いた。
「お前の事を絶対に見つけてやる」
私がそう言うと、 少女は今度は邪気の籠もった笑顔を見せた。
そして私は少女に右手の小指を立て、 突き出した。
「指切りだ! 」
少女は更に笑顔になると、 私の小指に自分の同じ方向の小指を絡ませた。
「ゆーびきーりしーましょ、 見つけられなかったら……針千本、 だからね? 」
「分かってるよ……! 」
直後に少女は少しずつ消え、 私の脳内には『1時間』という文字が浮かんで来た……恐らく制限時間だろう。
私は怒り、 悲しみのせいか死体が居た事なんて忘れて、 屋敷内に入る。
そして床の足跡を見て、 皆が探していない様な場所を分析した。
──皆が探していない場所、 それは殆ど狭い所だった。
相手が小さい子供だと忘れていたのか、 徹底的には捜していない。
「居ない……」
私は壁の隙間やゴミ箱の中などの細かい場所も徹底的に捜した。
──そうして30分が軽く経過した。
「見当たらない……恐らく屋敷内は全部捜したのに」
私は跡地の外も全て捜し終えていた。
だが、 誰の姿も見当たらない。
残り30分しかない……その時、 私は絶望した気分になったのだ。
──『ロンドーア城跡地』──。
そう、 ここは城も在るのだ。
城は屋敷から数十m離れており、 屋敷よりも確実にデカい。
屋敷を捜す以上に時間がかかる筈だ。
「どうりで……見つからない訳だよな」
私は時計の針が進んで行くのをただ見つめていた。
そして城の方を見つめると、 何かが空を飛んで来る……30羽は居るであろうカラスの大群だった。
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そしてその中心にはあの少女が居た。
今から人を殺すであろう者とは思えない、 満面の笑みでカラスと共にやって来る。
そしてそのまま私の数m前に降り立った。
「ごめんね、 私じゃお前を見つけられなかった。 指切り……失敗だな」
私が死を悟り、 静かに言っていると少女は私の下半身に抱き付いて来た。
このまま殺すのか? でも力はそんな無い……あ、 針で殺すのか。
でもどうやって?
バキャッ
「……っ!!! 」
その瞬間、 私の指は全て地面に転がっていた……だが私は何も考えられない程の激痛を我慢し、 そのまま少女に抱きつかれていた。
「な、 なあ、 最期に聞きたい。 お前の名前……は? 」
私が痛みに耐え涙目で少女に聞くと、 少女は満面の笑みを再度見せた。
「箕輪流枷! 」
その直後私の身体は感覚が無くなり、 視界が黒くなった──あ、 死んだんだ私。
────────────────────────(ここの上の線はページの区切りを表すものではございません)
翌日、 ニュースではロンドーア城跡地に残った干露達の無残な死体が報道され、 学校では更に1人、 また1人と同じ死に方をして行く人間達が居た……。
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──死んだ……あれ? 何で死んだって、 分かるんだ? 思えるんだ? 私は、 福瀬干露だよな……?
死んだ後って、 記憶とかあんの??
「……あれ? ここ、 どこだ? 」
私は転がっていた見知らぬベッドから降り、 近くに有った目覚まし時計を見た。
「……10時4分……あれ? 私が死んだ筈の日の1週間後だ」
てか、 私は死んだんだよな……? なのに何で動ける? 手足がある? ……私は鏡を見て冷や汗が垂れた。
「……誰だこれ……」
鏡に映っていたのは、 私とは別の黒髪腰までのロングで、 眼はパッチリと大きく、 身長はギリギリ私の方が低い様な美少女だった。
いや、 誰だよ……でも私が動くと動くぞ……?
もしかして私? いや、 でも私こんなじゃ……。
「飛依ー! ご飯できたよー! 」
したから女の声がする。
飛依って、 誰だ? まさか今のわた……っ!?
直後、 私の脳にはこの体の記憶が入って来た。
今私の名前を呼んだのは母親、 で、 私は『工藤飛依』……○○高校2年3組16番。
好きな教科は理科、 逆は音楽。
好きな動物は猫、 逆はマンモス。
好きな料理は唐揚げ、 逆はパン。
好きな人は か、 桂木平汰……? 嫌いは氷む……氷室恵夢!?
好きな事は実験をする事、 逆は歌う事……。
私の知らない筈の事が、 次々と頭に入ってくる。
そして知らない部屋も、 知ってる様に何がどこにあるかも分かるし違和感も感じないし、 母親の事も分かる……。
「飛依ー? 」
「あ、 はーい! 今行くー」
……生まれ変わった訳でもない、 私は工藤飛依……それが当たり前に感じる。
── 一体何なんだ!?
私はそう感じるも1階のリビングへスムーズに降り、 自然と冷蔵庫のバターを持って来てホットケーキを食べた。
私は時々我に返っても何の疑問も持たなくなってきた……ただ1つ、 疑問に思えるのは──どうなってんの? って事だった。
──そしてここから私の新しくも不思議で不気味な生活が始まった……。