開幕『指切り』
エブリスタで多分三番目くらいに人気が出た作品です。エブリスタは全部短くて、この作品も9話しかございません。
だけど、エブリスタは1ページ千文字と決まっていたのでページ数が伸びてしまい、1話が長いです。ご了承ください。
指切りげんまん嘘吐いたら針千本飲ーます──。
誰しもが一度はやった事がある……かもしれないし無いかも知れないその約束の仕方。
私も過去に一度人とした事がある──。
『指切り』 『針千本』──。
この言葉の意味をよく理解していれば……いやそんな事する人は居ないだろうけど、 ちゃんと考えてからした方がいいと思う──。
月曜日の午前7時、 私は人形の目が開く様にゆっくりと眼を開いた。
私は福瀬干露。
市内の高校に通う2年生の女子だ。
大人しくてクールで、 とっつきにくい性格らしい。
私は楽しい事が好きだが、 まあ、 仕方無いかも知れない。
私には妹がいる。
名を美緒と言い、 こっちは明るく話しやすく人気がある。
「おねーちゃん! 学校行こう学校! 」
「最悪の目覚めだな」
私は美緒が入って来ると同時に言ったので、 とてもタイミングが悪いとしか言いようがない。
ごめん美緒。
「お姉ちゃん、 学校……行こ? 」
「うん、 さっきは悪かったよ」
涙眼で見て来るので気まずいが、 まあそれはそれで仕方がないことだ。
とりあえず学校に行こう。
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「おっす2人とも! 今日もお美しいね~! 」
そう言って来たのは、 同級生の幕雷尚吾だった。
コイツとは腐れ縁か何か……幼稚園児の頃からの付き合いで、 家も近い。
「ありがと尚君! 尚君はいつも通りだね! 」
「え? 」
私はコイツらのテンションについて行けない、 それに私だけが知っている事で……美緒は幕雷が嫌いだ。
まあ私も気色が悪くて嫌いだが。
「ん……」
何やらクラス中がざわついてる……何か有ったのか? と、 私の隣の席を見ると何やら赤い液体が机の上に乗っている……しかも満遍なく床にまで垂れながら。
「うげっ、 何これ気味悪りーな」
「悪質な嫌がらせ……では無さそうだな」
私達が机を見ていると、 誰かが机に近づいた。
「む……この臭いは血だな……? 臭いぞ」
氷室恵夢……私は彼女が嫌いだ。
双子でもないのに私と瓜二つの顔をしていて、 喋り方も地味に似ている……以前は長髪だったのに今は私と同じくショートにし、 私がどっちか一見普通の人じゃ分からないだろう。
それに、 私はBだが彼女はEだ、そこが一番腹立つ。
「どうだと思う? ヒロ」
「呼び捨てにするな。 それとどうだと思うかと言われても……私は何も知らないぞ」
氷室は笑いながら持参した日本刀を出した……コイツの方が人をヤりそうじゃないか。
そして私の首元に向ける。
「私はお前だとは決して思わないさ……だけど、 私でもないから安心しろ。 それにこの刃はプラスチックだ」
「そんな事、 知ってるからどかせ」
私が氷室を睨み付け、 毎日恒例の頂上決戦が行われようとした時だった。
「まあ待てお前ら。 これで何で人が死んだと思ってる。 俺は悪戯にしか見えないぞ」
斎藤秀……実は私は彼に密かに恋をしている……。
実はこの2人とも小さい頃の付き合いで、 中学は別で再び高校で一緒となった。
「悪戯? 私には別に人が殺された様には見えてないけど、 悪戯にはもっと見えない」
私がそう言うと、 斎藤と氷室は見合い、 頷いた。
何だ?
「恨みでこんな事する奴って以外と居るもんだぞ」
斎藤は私に携帯を見せて来た。
「……!? これは!? 」
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そこに映っていたのは私の同級生の姿だった。
だが、 身体中に針が刺さっており、 何故か全ての指が切れて無くなっている。
……それがこの机の上に吊らされていたらしい。
「俺達が見つけて先生達に昨日どうにかしても貼ったんたが、 朝来てみたら血だけが戻っていた。 まるで湧き出てるみたいなんだ」
「血が湧き出てる……? 」
てか写真撮るなよ罰当たりな……。
それにしても彼は何故こんな事に……!? それが知りたい……。
「今日は私、 帰った方が身の為だと思うが……ヒロはどうなんだ? 」
氷室が私に大きな声で聞いてきた……が、 隣の席と言えど喋った事すらない人間だから怒りとかはないな。
「とりあえず、 犯人を調べてみよう。 いくらモブでも、 命が有った生物だからな」
「言い方酷くねーか? 」
私達は先生達には協力してもらう事無く、 犯人探しを始めた。
見つかるだろうか……何せあんな事をする奴だ、 放っておいて言い訳がない。
「それにしても見つからないな」
「何がだ」
「なあ、 ちょっと良いかお前ら3人。 超分かりにくいんだけど、 誰が喋ってんの? 」
「私だけど……この前の時は」
「私だ、 本当に見つからなくてな」
「あと俺だ」
本当だ、 喋り方が似てて全然分からない。
じゃあ私がちょこちょこ名前でも入れてみるか。
「で、 何が見つからないんだよ? 」
「いや……数分前まで有ったのか私の刀がだな……」
氷室の刀が消えた……? もしかして犯人が持ってった? でもアレで人は斬れないからな……いやそういう問題じゃないか。
「俺が探して来るから先行っててくれ! 」
幕雷が走って行った……そして氷室も消えてくれれば私は幸せなんだけど。
無理か、 この2人恋人並みに仲良いもんな。
ふ、 私の恋はとっくに終わってるってことか。
私は涙を流して壁に寄りかかる──すると急に辺りが暗くなった。
後ろの2人が震え始めた。
「昨日のだ! これ昨日も有ったんだぞ! 」
「誰だ!? 」
誰って……なんだ? よく分からないな……。
その瞬間、 放送室のブザーが鳴り、 不思議な放送が音声のみで流れた。
ーー『指切りげんまん、 嘘吐いたら針、 ね』ーー
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何か聞いた事ある様なセリフだけど、 一部がちょっと違うな……何の放送だ?
それにしても2人は未だに顔が青ざめているが……何か知ってるのか??
「この放送、 何なんだ? 」
私が2人に聞くと、 2人もよくわかっていなかったが、 知っている事が有ると言う。
「昨日も同じ放送が有った。 5時頃だった。 そして数分後、 昨日死んだ生徒の名前を言うと続けて……『指切った』って流れたんだ」
「今は丁度5時だ。 ……もしかしたらまた誰か……」
私は2人に落ち着く様に言い、 1人で考え始めた。
「誰かの悪戯が過ぎたゲームみたいなものか……? 漫画の読み過ぎだね、 上手く考えつかない」
そしてまた、 先程と同じくブザーが鳴った。
そう言えば幕雷はどこを探してるんだろうか。
「なあ……幕雷は」
ーー『指切った』ーー。
「今度は名前が流れなかった! 」
今度はって事はやっぱり、 昨日も流れたと言うのは本当なんだ……。
漫画の読み過ぎかサバイバルホラーの見過ぎか……いやどっちも全然観ないけど。
怖いし。
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「ギャアアアアア!! 」
私達が向いてる方向と真逆の廊下の方から女子生徒の叫び声が聞こえた。
「行くぞ! 」
氷室のかけ声と共に私達が駆けて行くと、 そこには幕雷と女子生徒が立ったまま何かを見つめてる。
それを覗き込んだ私は、 思わず声をあげてしまった。
「ひっ!!? 」
幕雷は咄嗟に私の顔を隠したが、 一瞬見えたのは間違いなく同級生の死体だった。
身体中に無数に刺さった針のような物、 そして指は全部切られていて、 釣り糸の様な物で吊らされている……釣り糸みたいなのだぞ、 釣り糸だったら切れちゃうもん。
それと私動体視力凄いな。
「またか……全く同じだな。 来た時にはもうコレか? 」
斎藤が幕雷に確認したが、 幕雷は首を振り女子生徒を指差した──言っちゃ悪いけど顔はメガネザルみたいだ。
メガネザルは怯えた表情で黙っている。
「その女がどうかしたのか? 」
氷室が聞くと、 幕雷は頷きメガネザルに話をする様に言った。
メガネザルは気分を落ち着かせても尚メガネザルだが、 ようやく口を開いた。
「あ、 あたしがぁ……一緒に歩いてたらぁ、 彼が急にこうなってぇ……ち、 ちょー怖くってぇ……」
う、 何だこの喋り方は……気色の悪い……顔と声と喋り方と体型と……コイツは負の塊か!
「だとさ、 どう思う斎藤」
「どう思う……か。 それより見ろ、 福瀬。 見ないと何も分からないぞ」
「えっ……」
私はずっと幕雷に隠してもらってたのに、 斎藤の後ろに隠れています、 ごめん幕雷私はお前が嫌いで……す。
幕雷は溜息を吐くと、 死体の糸を身体から抜き床に転がした……ううぅ……うへぇ……。
「なあヒロ? お前まさかグロいものとか無理なのか? 」
氷室が聞いて来て、 一瞬否定しそうになったが今後も捜査を続けるんだとしたらの為、 私は肯定した。
そしてお化けとかも無理と一応教えといた。
「こりゃ参ったな……私の分身であるヒロがグロいのが苦手だったとは……」
「じゃあ一旦戻るか? 福瀬。 ここに居させるのも可哀想だしな」
氷室、 誰がお前の分身だ、 似てるだ・けだ! 一緒にするな! あと斎藤優しいな! お前が羨ましい!
「なら俺が連れてく」
「えぇ……」
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幕雷に連れてかれても嬉しく無いんだが……。
でもバカと居た方が気が紛れるかもな。
「じゃあ、 行くよ幕雷」
「ああ」
幕雷はいつも元気で明るく、 楽しくさせてくれるクラスのトラブル……じゃないムードメーカーだ。
だがこの時の幕雷は私を楽しませてはくれなかった。
「なあ、 昔会った女の子……覚えてるか? 」
「女の子? 」
いつの話だか分からないが、 女の子と言ったら今朝夢に出て来たな……今思ったら肌は青白く血の気が無い。
黒髪が腰までで顔がほぼ隠れていて不気味な雰囲気だった……それにあの言葉が入って来た。
──『指切りしーましょ、嘘吐いたら針千本ね』──
『指切り』──。
何であんな放送が流れて……。
「退がれヒロ! 」
「 !? 」
幕雷は私の胸を押し、 歩みを止めて来た……そしてどんどん後ろに下がって行く。
ちょっと、 胸掴んでるから! あの、 ちょっと胸!
私は幕雷が睨み付ける場所を見た。
「……え? 」
そこには夢に出て来た少女が立っていた……10歳くらいかな。
少女は私達にゆっくりと近付いて来る。
その眼は光が無く黒く濁っていて、 辺りからは眼に見えないが邪気の様なモノが漂っているのが分かった。
「こっち来んなお前……! 」
「……っ! 」
幕雷は手に力を入れた。
ちょ、 そんな強く握られたら……。
そう1人別の事で顔が赤くなっていると、 幕雷はより強く握り不可解な事を叫んだ。
「お前はもうとっくに死んでんだろ!! 」
──死んでる……?
その直後、 数m先に居るはずの少女の声が耳元でそっと聞こえた。
『指切りげんまん嘘吐いたら針千本飲ーます』
ヒヤリとした息が耳にかかり、 背筋が凍る様だった。
「……!!! 」
少女は邪気をより一層放ち、 包む様に笑顔で言った。
『指切った』
そして少女は消えた……が、 私の身体は震えが止まらずその場にへたり込んでしまった。
動けない……私はそのまま幕雷におんぶされて行ったが、 幕雷も震えてるのが分かった。
「俺達はさっき、 呪いをかけられたんだ」
「呪い……? 」
私は生徒達に囲まれている……何でだかは分からないが、見られてる。
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幕雷は、 調理室から持って来たらしいコーヒーを作る何かで温かいコーヒーを淹れてくれた。
私はコーヒーを飲みながら再び聞いた。
「呪いって……? 」
すると幕雷も一旦コーヒーを飲み、 真剣な表情で話し始める。
「今から10年近く前、 俺達の中の何人かはある屋敷に行ったはずだ」
「7年前の『ロンドーア城跡地』の事か? 」
『ロンドーア城跡地』とは、 私達の住む場所の近くにある小さなお城、 屋敷の廃墟で立ち入り禁止になっている。
「小学校の歩く会でそこに寄りかかったうちのクラスは皆引き寄せられる様に屋敷へ入って行った。 そして何もせずにただ出て行ったんだ」
ん、 ちょっと待て……? 私は不気味過ぎて入っていないし、 お前も入ってないだろ?
「俺達数名は入らなかったから出会わなかった……そこではな」
「出会わなかった?? 」
何の事だ? そこではって事は結局会ってるんだろう? 何がだ。
よく分からず、 続きを聞く。
「その後入らなかったメンバーの元に、 その頃同級生くらいの少女がやって来た。 そしてそいつと一緒に隠れんぼをする事になった」
「あ……」
思い出して来たかも知れない……確かあの後私達は全員彼女と──。
「『指切り』をした……だよな。 覚えてるだろ」
そうだ、 私達は1人ずつその子と『指切り』をして、 隠れんぼを始めた。
ただし内容は『少女1人vs.私達』で。
そして『指切り』の内容は……。
「『絶対に見つける』事……だよ……な? 」
「ああ。 そして俺達は1時間経っても見つけられなくて、 『約束』を破棄して帰ったんだ」
「……今更だけど、 それと今回の連続死亡事件は何か関係が有るのか……? 」
幕雷は深く頷き、 先程の邪気を纏った少女の事を語り始めた。
「小さい頃でうろ覚えだけど……あの女の子の姿、 雰囲気は変わってない。 何1つな」
「て事は、 見つからなかったのは何かしら有って、
そのまま……死んじゃったって事……? 」
「そういう事だ」
幕雷は今回その少女が7年の時を経てやって来て、 私達を殺そうとしてるんだと考えてるらしい。
……仕返しであんな姿になっちゃうのか……じゃあいつか私も斎藤もああなると……?
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「何だそれ……はは、 じゃあ……どう対処するんだよ。 むりだろ、 お、 オバケとか相手じゃ……」
私が身体を震わせていると、 後ろから肩に手を置かれた。
「心配し過ぎだ……今日5人であの跡地に行ってみよう」
5人……とは? 氷室、 斎藤、 幕雷……あと2人は?
幕雷は私の事を見ている……は? え? もしかして、 私もか!? さっき怖いのムリだって……。
「まあ無理強いはしない。 来るなら、 今日午後5時ごろ、 学校に集合な」
皆は気合を入れているけど……何でそんなやる気になれるのか、 頭のネジ取れてるんじゃないか? 300本くらい。
───
家に帰ると、 電気が暗かった。
それにしてもあと30分か……行くか行かないか……。
「あ、 お姉ちゃんも来るんだよね」
「いや、 まだ決まってない」
妹が居たのにも気付かなかった……何で電気消してるんだよ……てか知ってるって事はラストの1人は美緒か……。
不安だな、 妹だけに行かせるなんて……。
それに何も知らずに殺されるのもなんかね。
「よし決めた、 私も行くよ美緒。 準備し……」
美緒は居なかった……私が考え事をしてる間に上の階へ行っちゃったんだろうか……。
私がそう思い階段を見つめると、 家の鍵を開ける音がした。
「……誰!? 」
「え、 誰って私に決まってるでしょ」
あれ? 美緒……? でもさっき私の目の前に……。
もしかして、 偽物……? そしてそれがあの少女だとしたら、 行くのがバレてる!? 止めた方が……。
「さっき、 美緒の偽物が居たんだ……。 急に消えた、 あの少女かも知れない……!! だから行かない方が……」
美緒は跳ねて驚き、 でもその後すぐに真剣な表情になった。
「私はその少女の事知らないけど、 私達が行かなくてもあの3人は行くと思う。 私は3人だけを危険に晒すなんて事したくない、 私は行くよ」
「美緒……」
確かに私もあの3人とは特に長く一緒に居る。
いつの間にか皆逞しくなっていて、 今回の事で怯えているも立ち向かおうとしてるんだ……見捨てたくはない。
私は覚悟を決め、 拳を強く握り締める。
「そう……だね、 うん。 行こう美緒……! 」
こうして私達は跡地へ向かった。