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ナイトメア  作者: ナリ
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九章

 3階の踊り場を曲がり、上を見上げると階段の一番上に赤いポリタンクを持ったナリナが立っていた。 窓から差し込む光もあってナリナに後光が差している。


「避けろ!」


 ナリナはそういうとキャップをしていないポリタンクを投げる。 投げたタイミングがなんとも絶妙で俺とショウタの間を通り過ぎると同時に中に入っていた液体が飛び散り、踊り場付近を液体まみれにした。


 そしてナリナは手に持っていたマッチの一本に火をつけ、敵が踊り場に差し掛かった時にそれを指で弾いた。


 敵は俺たちを射殺できる位置に到達したのでサブマシンガンの銃口を俺たちに向けたがもう遅い。 マッチは敵たちの足元に落ち、そこから一気に炎が舞い上がった。 炎はまるで蛇のように隊員たちの足から上へと燃え移っていき、全身を焼き始める。 その光景はとても直視できるものではなく、人が焦げる嫌な臭いも充満している。


「うあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 隊員たちが悲鳴を上げる中、ナリナはその様子を瞬きをすることなく目に焼き付けている。 たとえ危機的状況であっても人を殺すということは許されることではない。 誰もが忘れたいはずなのに、ナリナはそれを見続ける。 たぶんナリナは自分が手にかけた敵たちの姿をいつまでも記憶し、その荷を一生背負っていこうとしているのだろう。 どんなつらいことでも黙って一人で背負い込むナリナ。 俺にはどうすることもできないのだろうか。


「ナリナ……大丈夫か?」


 異臭のせいでテルコは廊下で座り込み、ナオヤに背中を摩られているし、リョウとシェリー先生はコウスケのそばを離れようとはしない。


 ショウタは壁にもたれ掛って荒れた呼吸を整えているが、その目の前で俺はナリナの両肩に手を置き、俺のほうを向かせた。 そのナリナの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「私は忘れない。 私が殺してしまった人々を……」


「わかった。 もういい。 お前は俺たちを助けるためにやったことだ。 ここにいる全員、お前に感謝している」


 ここはナリナを抱きしめるところだろうが、ショウタの視線が痛い。 俺はゆっくりとナリナから手を離し、もう叫び声もない中央階段のシャッターを閉めた。 階段の死体を見ると隊員全員分の数ではない。 大体20人中半分を倒したというところか。 一回火攻めを使ってしまった以上二度は使えないだろう。 また新しい策を考えなければならない。


「ナリナ、まだ敵はいる。 今4階に侵入するには電気を復旧させるか、また爆弾を使うしかない。 ……攻めてくると思うか?」


 俺の問いかけにナリナは首を横に振った。


「この火攻めで敵もさらに慎重になったはずだ。 強引に突っ込んでくるようなことはしないと思うが……わからないな」


 理科室を覗き込んで時計を見ると午後2時すぎだ。 なんやかんやで2時間は耐えたことになる。


 敵が減ったにせよこちらが非常に不利なことは変わりない。 ここで俺たちが篭城している以上、敵はここを包囲すればいいだけだからな。 今日は午後の授業がないため給食も届いていないだろうし長期戦もこちらが不利だ。


 ベストなのはあと4時間篭城して救助を待つこと。 もう一度攻め込まれたらひとたまりもないからな。 ここにいる連中を見れば、もう戦えないというこはすぐわかる。 とても中学生が受け止めれるショックではない。


 まぁ、何はともあれ今は体を休めることだな。 俺はナリナに「休憩しとけ」と言うとシェリー先生の肩に手を置き、目を合わせると無言で調理室の中に入っていく。 するとすぐにシェリー先生も調理室の中に入ってきた。 もちろん他言できない話があるからで。


「コウスケの容態は……?」


 とりあえずまずはこれだろ。


「ええ、コウスケ君、思ってたよりタフですね。 鎮痛剤を投与して応急処置をしました。 今は大丈夫ですが気を許せません」


 よかった……。 最初はすぐに死んでしまうと思われていたが、コウスケの奴ナマズ顔の持ち主だけあって生命力は高いようだ。 このまま救助が来て助かればいいんだが……。


「次に、味方はどうなってるんですか」


「えっと……実はさっきから音信不通になってます。 現状はさっぱりわかりません」


 それは一番いけないことではないのか……? 音信不通ということは救助ヘリに何かあったのではないかという不安。 敵が味方側のトラックに事前に爆弾を仕掛けていたし、救助ヘリにも仕掛けられている可能性がある。


 ちょっと待て、今一段落終えて考えてみれば敵に奇襲をかけるために準備していたトラックが爆破されたということは……こっちの情報が漏れているんじゃないか!?


「先生、情報が漏れてる可能性が大きいですよね。 大丈夫ですか、マジで」


「……わからないわねぇ」


 ダメだ、この人。 拳銃は持っているがただの若い女性に過ぎない。 やはり頼れるのはナリナか。


「おーい! ヘリの音が聞こえるぞー!!」


 シェリー先生との密談中、廊下から大きなリョウの声が聞こえてくる。 それにしてもヘリだと? まだ2時過ぎだぞ? 敵のトラックの接近を衛星か何かで監視して正確に到着時間を割り出している、この組織に限って予定より4時間も早く到着するということがありえるのか? 嫌な予感がする……。


 廊下に出て窓から外を見ると、たしかに上空にヘリが飛んでいた。 たまーに空を飛んでるテレビ局のしょぼいヘリではなく、黒くてゴツイ、武装したヘリだ。 銃火器は好きなので名称などはよく知ってるが戦闘機などの乗り物はあまり知らないが、とにかく機体にガトリングが2門装備されている。


「先生、あのヘリは……」


「……救助のヘリじゃない、わね」


 ヘリが攻撃をしたら俺たちは確実に蜂の巣にされるだろう。 だが、相手の目的がナリナの奪取ならそう簡単には撃ってこないと思うが……。


 俺たちが不安な眼でヘリを見上げているとヘリは羽音を響かせて高度を上げ、屋上を通り越して運動場の上空でホバリングを始めた。


 いったいどうなってる?


 今度は調理室の窓から運動場の様子を見る。 すると校内に潜んでいた敵の残党がわらわらと運動場へと出ていき、ヘリに向かって銃を撃ち始めたのだ。 ヘリは奴らにとっても想定外の存在なのか?


 ヘリは敵の銃弾をもろともせずに少し上昇するとガトリング砲が回転し始めた。



    ―――――――――ドドドドドドドドドドドドッ!!


 次の瞬間、運動場の砂は舞い上がり、運動場にいた敵をトラックもろとも破壊していく。 舞い上がる砂に混じり、赤い血しぶきも舞い上がり、敵は一人残らず倒されてしまった。


「うおおおぉぉ! コウスケ、助けが来たぜ!!」


 寝かされているコウスケの近くでリョウが歓喜の声を上げるが、あのヘリが味方ではないとわかっている俺とシェリー先生には声を上げることすらできなかった。


 敵の残滅を確認するとヘリは再び上昇し、俺たちの視界から消えた。 羽音は近くでするためどこかに行くわけではないようだ。


 その時、ガシャンと窓ガラスが割れ、何かが投げ込まれた。 何か、缶のようなものだった。 それが何か気づいた時にはもう遅い。 その缶からはプシューと水色の煙が噴出され、4階が煙で充満していく。


「ゴホッ! ゴホッ! な、なんだ、これ!」


 ナオヤが目をぎゅっと閉じ、涙を流しながら咳き込むと近くにいたテルコやリョウも目を閉じて咳をし始めた。 これは催涙弾か。


 そう分析しても今更どうすることもできず、俺も例外なく目が痛くなり、視界が真っ暗になる。 頼りになるのは耳だけだが、シェリー先生もナリナも咳をしているので全員催涙弾にやられたのはまるわかりだ。 くそっ、どうなってるんだ……!!





 視界を奪われた時の記憶はとても曖昧だ。 あの催涙弾が投げ込まれた後、すぐに再びガラスが割れる音がして、何者かに口に変な液体が浸されたハンカチを押さえられてすぐに気を失ってしまったのだ。 意識がなくなる間際、このまま永遠の眠りにつくのかと思ったね。 マジで。


 気がつくと真っ白な世界が広がっていた。 その俺が見ている世界が天井だと気づくのには少し時間がかかった。


 体を起こすと目の前の白いベッドにはナオヤが寝かされており、ナオヤの隣にはテルコが寝かされている。 横を見ればショウタ、リョウも寝かされていた。


 鼻を刺すような薬品の匂い……ここは病院なのか?


 この病室(仮)は6つのベッドがあるが、テルコの横のベッドが空いている。 ここには誰が寝かされるべきだったのだろう。 いないのはコウスケとナリナだ。 コウスケはすぐに治療が必要な状態のため俺たちの寝かすわけにはいかない。 となるとここに眠っていなくてはいけないのはナリナだ。 ベッドの清潔そうな白いシーツが乱れていないため最初からナリナはここに寝かされていなかったみたいだ。


 いったい何が起こったのか、まったくわからない。 まるで風邪でも引いたかのような朦朧とする意識の中、俺はベッドから降りる。 靴はベッドの横に綺麗に並べられ、学ランも横の棚にたたまれて置いてあった。


 とりあえず靴だけ履いて病室のドアをゆっくり開ける。 一人では心細いが何も知らないコイツらを連れて行くのもあれだ。 今は消えたシェリー先生とナリナを見つけよう。 コウスケは後回しだ。


 廊下にひょいと顔を出して周囲を確認すると、壁にタバコの吸いすぎに注意やこんな症状がある方は診察を受けましょうなどのポスターが貼られていることから、ここが病院であることがわかった。 しかし壁の黄ばみや廊下のひび割れが目立つ。 建てられてからずいぶんと年月が経っているようだ。


 一番不気味なのは、病院にも関わらず物音がしないことだ……。


 学校でも誰もいないと無音で不気味で、無音の病院となるとさらに恐怖が増す。 俺は背筋がゾッとするのを感じ、大人しく部屋に戻ろうかと弱気なことを思い始めたが首を何度も横に振って恐怖を振り払う。


 病室が続く廊下を歩いていくと、これまた黄ばんだ階段を発見することができた。 エレベーターは見当たらないので何階まであるかわからないがとりあえずここが2階だということがわかり、下へと降りてみる。


 階段を下りるときも自分の足音しか聞こえず、自然と心拍数が上がっていくのがわかる。


 そして恐怖に耐えつつ1階に下りると、そこは受付や待合席があるホールだった。 しかも受付には白衣を着た若い女性が座っており、俺の存在に気づくと少し驚いたようだが軽く会釈をしてきた。


「あの……ここはどこなんですか」


「ここは山のふもとにある廃院寸前の市民病院です。 あなたたちが今利用している市民病院は30年前に建てられたから……もう創設して50年以上になります」


 どうやらここは俺たちが知らない、地元の山のふもとにある病院のようだ。 俺たちは生まれてから町中にある割と綺麗な市民病院を利用しているため、ここの存在はまったく知らなかった。


 しかし、なんで俺たちはここに運ばれたんだ? 俺は受付の人に礼を言うと待合のベンチに座って腕を組む。 こうしていると推理力がアップする気がするんだ。


 本来ならばこんなぼろぼろの病院よりちゃんとした病院に運び込まれるのが当たり前だが、今やその当たり前のことが通用しない。 それに受付の人も違和感がある。 こんな廃院寸前の病院に若い女性が受付をやっているなど違和感全開だ。 あの若さなら別の病院でもいくらでも使ってもらえるだろうに。


「起きた?」


「うわっ!?」


 推理中に不意に背後から肩に手を置かれ、無様にも声を上げて飛び上がってしまった。 ここにリョウがいなくてよかった。 いたら一年くらいネタにされるからな。 俺の背後には見慣れた白衣を着たシェリー先生が新聞紙を脇にはさみ、コーヒーカップ片手に立っていた。 夜勤明けみたいな格好だ。


「せ、先生! どうなってるんですか? もうわけわからないですよ!」


「まぁまぁ、落ち着いて。 コーヒーでもどう?」


 と言いながらちょびっと減っているコーヒーカップを差し出してくる。 明らかに口紅の後があるので飲み差しだが、実際喉が渇いていたのでいただくことにする。 ただ単に喉が渇いていただけなんだ……!


 俺がコーヒーをちびちびと飲んでいるとシェリー先生は満足そうにニッコリと笑い、今日の夕刊であろう新聞を広げた。


「中学校が謎の火災で全焼。 救出された生徒数名が病院に運ばれたが命に別状はない。 火の気がないことから放火の可能性も視野に入れ、警察と消防で捜査にあたっている。 ですって」


 いや、ですってと言われましても、それ明らかなる誤報じゃないですか。


「そう、誤報。 敵がきちんと後始末をしてくれたみたいね……」


「敵ってあの窓から襲ってきた連中のことですか?」


 シェリー先生は新聞を閉じると首を横に振った

「実は……事態は複雑化してきまして。 今回の戦いで第3の組織が現れたんです」


 なるほど、わからん。


 とまぁ、シェリー先生の言うことをまとめてみると、俺たちとシェリー先生の組織の連合軍とナリナを狙うテロ組織との戦いの中、過激なテロ撲滅組織が乱入してきたというのだ。 テロ撲滅組織というだけあって俺たちは保護されて、この病院に運ばれたらしい。


「その第3の組織は体験したとおり過激でして……テロ組織に生物兵器であるナリナさんを奪われるくらいなら破壊したほうがいいと言い出したんです」


「な、なんだって……!!?」


 ナリナを破壊……つまり殺すっていうことか!? ふざけるなよ。 なんで何の罪もないナリナが殺されなきゃならないんだ。 よく間違って生物兵器にさせられた少女を殺すという発想ができるな。 ……人間というのは本当に醜い。


「一応私たちの組織がその案に待ったをかけました。 案は凍結したので今は大丈夫です」


「それだけじゃ安心できません! そんな考え自体をなくさなくては……!」


 シェリー先生の組織では話にならない。 こうなったら直に第3の組織に話をつけなくてはナリナの命がいくらあっても足りない。


 だが、今の俺には直接交渉する術はない……。


「いいニュースもあります」


 そのいいニュースが何なのか、すぐには思いつかなかった。


「私たちの組織がテロ組織の本拠地を特定しました。 じきに突入するでしょう。 突入が成功すればナリナさんの安全は一時的に守られるでしょう」


 そういうことは一番最初に言うことだと思いますが。 そして引っかかる点が1つ。 ナリナの安全は“一時的に”守られるというところ。 一時的ってなんだ? まるでまた襲われるような言い方じゃないか。


「今回の敵はナリナさんを生物兵器にした組織です。 ですが、その情報はすでに世界に飛び交っており、別の組織が狙ってくる可能性もあるのです。 ……ですから、私たちはナリナさんを一生見守り続けなくてはならないのです」


 ナリナという存在がこの世にいる限り、それを狙う者は後を絶たないというわけか……。 ナリナの生物兵器の種を取り除くということはもう不可能らしいし、防衛する以外に術はない。 しかしそれではきりがない。 矛盾が矛盾を呼ぶ。 本当にいったいナリナを生かすにはどうしたらいいんだ。


「画期的な案は見つかっていません」


 そう言うとシェリー先生は新聞紙を脇にはさみ、手首の時計を見た。


「行きましょう。 ナリナさんのとこへ」


「ナリナは今どこに……?」


 シェリー先生は受付の女性に目配りをすると女性は何からカウンター裏に手を伸ばし、何やらガチャガチャと音を立てて何かやっている。 まさか、俺たちがここに運ばれた理由って……。


 すると階段がガチャンガチャンと音を立てながら床に吸い取られ、見る見る平らな床になっていく。 そしてその奥には大きな白い扉が。


「察しの通り、表向きは山のふもとの病院……。 本当はこの山全体が第3の組織さんの研究所なのです」


 そんなめちゃくちゃな……とはもう思わないさ。 いろいろ人生の経験値を稼がせてもらったからな。 このくらいのことを受け止めるだけの器は形成されたさ。


 シェリー先生の後ろについて白い扉の前に立つと、少し間が開いてからウィィンと音を立てて扉が開いた。 中は表の病院とは裏腹に純白の世界が広がっていたのだ。


 壁も床も天井も、手すりさえも真っ白なのだ。 そして行き交う白衣を着た人々。


「こっちに来てください」


 目の前の光景にあっけに取られているとシェリー先生は手招きをした。 足早にシェリー先生のとこまで行き、指差された窓ガラスの中を見ると口に何本もの管を入れられたコウスケがベッドで寝かされていた。 テルコあたりには直視できないくらいの光景だが、これは治療してるんだよな?


「はい、見た目はあれですが世界に発表されていない最新中の最新の医療技術が使われてます。 すぐに治るでしょうね」


「それはよかった……」


 コウスケはひとまず安心だな。 さて、次はナリナだ。


「あ、」


 と前を歩いていたシェリー先生が何かを思い出して足を止めた。 あまりにも突然だったのでぶつかりそうになった。


「一応アナタにも言っておいたほうがいいと思って」


 はい、何をでしょうか。 振り返った先生の顔はいつものチューリップのような微笑みはなく、あまり良いことではないのがわかる。


「今からナリナさんに真実を伝えようと思います。 ナリナさんはこの現状を知る必要があると上が決めました」


 この事件が自分が原因の1つであるということを知ったナリナはどういう反応をするのだろうか、まったく予想ができなかった。 それを知って怒るのか、はたまた泣き崩れるのか。


「その時、アナタはどうします? 退席しても問題ありません」


  そう言われて、俺は少し戸惑った。 俺という存在は生物兵器絡みもテロ撲滅組織絡みも何もない、ただの一般人だ。 そんな俺が今から立ち会ってもいいのだろうか。 ナリナはきっとそれは望まないだろうな。 だが、ナリナにとって今から真実はとても衝撃が大きいはずだ。 シェリー先生は淡々と喋るだけだろうから俺がナリナの衝撃を受け止めるマットの役割をしなくてはいけない。


「……同席させてもらいます」


「フフ、そう言うと思いました。 では、」


 言う前から俺が何を言うか分かっていたような感じで先生は笑い、再び歩きだした。 なんていうか俺は先生の組織の手の中で踊らされているような、そんな感じがする。 全てが計画通り、そんなような感じの。


 たどり着いた先はコウスケが眠っていたような大きなガラスが一枚だけある病室(?)だった。 窓ガラスから中を見ると中央の白いベッドにナリナが寝かされていた。 こめかみには赤い吸盤が引っ付けられており、部屋の隅には銀行ATMのような端末が置いてある。


「ナリナさんには一時的に機能停止させてもらってます。 身体、精神のメンテナンスをする必要があったので」


 機能停止って……そんな機械じゃあるまいし、そんなことできるのか? 


「脳内のチップに特殊な電波を送ることでナリナさんを外部から操ることができます。 軍用ですからね、操る人もいるというわけですが、至近距離からではないと操作できないので こめかみに受信機を貼らせていただいてます」


 それまた迷惑極まりない機能だな。 シェリー先生は「その他にもまだあります」と気になることを言いつつ、病室のドアの横にある端末にパスワードか何かを入力してドアを開けた。


 先生に続いて中に入る。 セーラー服を着たまま強制睡眠させられているナリナはまるで死んでいるかのように動かない。 寝ているだけなら呼吸をしててもいいような気がするがそれの気配がない。 先生が部屋の隅の端末を操作しているのを確認してから失礼してナリナの口付近に手を近づける。


 するとまるでノートパソコンの冷却ファンのような申し訳なさそうなくらい弱い呼吸をしていることがわかった。 大丈夫かよ、これで。


「では、起こしますね」


 先生はそう言って端末のエンターキーらしき長方形のスイッチを押した。


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