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ナイトメア  作者: ナリ
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七章

 キーンコーンカーンコーンとありきたりなチャイムが鳴り、ホームルームが始まる時間だということを俺達に知らせてくれた。


 それと同時に教室のドアを開けてスズキ先生が出席簿を持って入ってきた。 テルコは「またね」というと慌てて自分の席に戻り、俺もナリナに目をやってから前を向く。


 リョウもコウスケもちゃんと登校してきているし、異常はない。 と思いきや、


「えー今日は突然ながら半日授業となります」


 文字通りの突然の短縮授業にクラスメイトたちは歓喜の声を上げる。


「先生」


 と学年一、成績がいいナオヤがメガネを光らせながら手をあげた。


「なぜ突然半日になったんですか?」


 クラスメイトの歓喜の中、生真面目なナオヤが言うとスズキ先生は肩をすくめる。


「それが私にもわからないんですよ。 朝、突然PTAから連絡があったらしく、昼で切り上げろと言っているらしいです」


 そんな言葉はクラスメイトたちには無意味だったが、ナオヤ、いや俺にとってそれは物凄く不気味なものだった。 なぜ意味もなく短縮授業になるのか。 先生たちでも理由がわからない。 いろいろな憶測が飛び交う中、俺は背筋に寒気を感じて体を震わせた。 嫌な予感がする。





 確かめる方法として真っ先に思い立ったのは保健室へ向かうことだった。 最初の授業が終わり、ナリナとリョウに「腹が痛いから保健室に行く」と言い残してわざとらしく腹を押さえながら教室を出た。 ナリナたちの視線がなくなると仮病を止めて足早に保健室へと向かう。 保健室は一階だ。 コンコンとノックすると中から「どうぞ」といつもの声が聞こえてきたのでドアを開ける。


「良いところに来てくれました。 ちょうど何か理屈をつけて呼び出そうとしてたとこです」


 シェリー先生は丸椅子に座って例の端末を操作していた。 白衣は着ているものの、黒いタートルネック型の服を着て、同様に黒い長ズボンを履いていた。 そして軍用のごつい靴。 恐らく白衣を脱いだら女スパイのような格好をしているだろう。


「緊急事態ですか」


「ええ、いよいよ敵側がナリナさんを回収するために動き出したようです」


 目的はナリナか。


「どう圧力をかけたのか、この学校の生徒を帰宅させてから強行手段に出てくるでしょう」


「俺たちはどうすればいいんですか」


 するとシェリー先生は懐に手をいれ、ゆっくりと抜くとその手には……黒い光りする拳銃が握られていた。 それって、本物の、拳銃、ですか……?


「当たり前じゃない。 ポピュラーなM9にしてみました」


 そ、そうですよね。 エアガンやガスガンで人間は殺せないですもんね、ハハ……。 普段は本物の銃を見たい、触りたい、撃ってみたいと思っている俺だが、今はそんなもの見たくなかった。


 ちなみにこのM9というのは9mm自動拳銃と呼ばれるもので、銃に詳しくない人でも想像できるような、そのまんまのハンドガンだ。


「短縮授業終了後に生徒がいなくなってから攻め込んでくるわけだから、貴方は何とかナリナさんを言いくるめて学校へ残って。 私の手の届かないとこに行かれたらどうしようもないですからね」


 つまり、ここが戦場となるのをわかっていて俺達にここに残れと。 戦場に篭るか、戦場から離脱するか、これを聞いた人間は絶対に戦場から離脱するという選択をするだろう。 しかし俺たちは離脱する道はなかった。 この戦場から逃げたとしても悪夢は続くのだからな。


「シェリー先生、俺達が身を守れるような物……何かないですかね。 今は完全に丸腰で」


 銃弾が飛び交うことが予想される戦場で、防弾チョッキすら着ていないのはまぬけすぎる。


 するとシェリー先生は「仕方ないわね」と言って、机の横の棚の一番下の引き戸を引いて1つの箱を取り出した。 俺の見間違いでなければ救急箱だ。


「もし怪我した時のために、持っておいて」


 どうやら俺たちに拳銃のような危なっかしいものは持たせてくれないようだった。 怪我したらとりあえず治療しろ。 これだけだ。


「任務内容を言い渡すわね」


 いつ俺が貴女の組織の任務をこなさなくてはならないような身分になったのか。


「貴方の任務はナリナさんの護衛。 そして救助ヘリにて脱出すること」


 まさか映画やゲームのようなミッションを俺自身が体験することになろうとは。 要人護衛、脱出任務。 俺は命を落とすかもしれない状況で待ちに待ったクリスマスが来たかのような高揚感を全身に感じていた。


 ライフゲージなしの一撃死、コンティニュー不可能の難易度ベリーハードのサバイバルゲーム。 ゲーム脳の俺は最初にそう思って、不意ににやけてしまった。


 そう、このくらい吹っ切れていないと今の状況を乗り越えられない。 やってやろうじゃないか。


「救助ヘリは今日の午後6時に運動場に到着するはずです。 ヘリに乗ったらまず組織へとご案内します」


 壁にかけられている時計を見た。 現在午前10時すぎ。 敵が12時に押しかけてくるにせよ、学校という戦場で6時間も耐えなければならないのか。


「もっと早く到着できないんですか? たぶん攻められてきたら1時間も持ちませんよ! 応援とかはないんですか!?」


 とてもシェリー先生は敵複数相手に応戦できるような雰囲気をかもし出していなかった。 見た目だけ、というやつだ。


 シェリー先生は運動場側のブラインドを少し開くと、俺を手招きで呼び寄せた。


「あそこ、校門のそばに紺色のトラックが停まってるでしょ。 あの中に制圧部隊が待機してるわ。 数は負けてるかもしれないけど、腕は立つわよ」


 よかった。 もしシェリー先生と俺だけで敵と戦うハメになったら瞬殺されていただろう。 とりあえずあの制圧部隊とともに生き延びて、救助ヘリにて脱出。 口で言うのは簡単だが、そう上手く行くものだろうか。


 キーンコーンカーンコーンとまた授業開始のチャイムがなった。 表向きはただの学生を演じなければならないのでいかなければならないが、個人的にはここに居たほうが安心する。


 だが、そんな俺を見てシェリー先生は首を横に振った。


「行きなさい。 ナリナさんにも怪しまれちゃう」


 そうだ、ナリナを1人にしておいてはいけない。 怪しまれるという前に俺の目の届く範囲にナリナがいないことは不安でしょうがない。 こっそり連れ去られる可能性もあるのだからな。




 その後、授業に戻ったのだが、いつも以上に勉強に集中できずに足を揺らしているだけだった。 今の状況を知ってのんきに勉強できるわけがなかろう。


 あれよあれよという間に2限目、3限目の授業が終わり、帰りのホームルームが始まった。 スズキ先生も早く帰れることが嬉しいのがニコニコして休み明けの予定をクラスメイトたちに告げている。 右隣のナオヤは真面目にメモ帖に休み明けの予定を記入しているが、そんなことしても無駄だと思うぞ。


 何せ今からここは銃弾飛び交う戦場になるんだからな。 しばらくは学校閉鎖で登校不可になるだろう。


 それより今は自分の任務を遂行しなければならない。 まず、ナリナをこの学校へ留めておくこと。


「なぁ、ナリナ。 このあと暇か?」


 平然とした顔で左後ろの席のナリナに話しかけるとナリナは「暇」と淡白に言ってうなずいた。 この後の誘い文句はどうしようか授業中ずっと考えていた。


「授業中さ、なんか視線を感じると思ったら廊下側の窓に人影が映ってたんだ。 ここは2階だろ? 窓に人影が映るなんてありえないじゃないか。 まさか本当に霊がいるかもしれないから、ちょいと心霊スポットを探してみようぜ」


 我ながら幼稚な誘い文句だが、実際にここで霊を見たナリナにとっては効果覿面だった。 ナリナが初めて生まれたての子犬を見た子供のように目を輝かせてうなずくと、ナリナの隣にいたリョウが割って入ってきた。


「おい、オレも混ぜろよ! お前らばっかり絡んでてズルイ!」


 何がずるいのかはわからないが、仕方ない、リョウも加えることにする。 人員は多いほうがいいからな。


「わかった。 俺達3人で幽霊探しだ。 どーせ家帰っても暇だからな」


 意外にもあっさりナリナを学校に留めることに成功すると、ちょうどスズキ先生のホームルームが終了したようでテルコの号令とともにクラスメイトたちが起立をしたので慌てて俺たちも腰を上げた。


「礼っ! さようならー!」


 短いスカートを押さえながらテルコがお辞儀をし、クラスメイトたちもお辞儀をして本日の授業は全部終了だ。


 がやがやと嬉しそうにクラスメイトたちは帰路につくが、俺たちは持っていた鞄を机の上に置くと息苦しい学ランのボタンを全部開けて体を解放した。 もちろん学ランの下は白いカッターシャツだ。


 壁の時計は12時を過ぎている。 周りを見ればまだ数名クラスメイトが残っており、このあとどうするかなど遊びの計画を立てているのがほとんどだ。


「まったく馬鹿馬鹿しい」


 とナオヤだけは自分の席で数学の教科書を開いて勉強をしだした。 ナオヤと俺は小学校から知り合いだが、中学生になって受験の影がチラチラしだした頃からナオヤは勉強にさらに熱心に取り組むようになり、とても絡みにくい奴になってしまった。 その気持ちはわからないでもないが、なんだかな。


 ナオヤが将来のために勉強をしている中、俺達は存在が疑わしい幽霊を探しにいく。


「じゃあ、まず例のトイレから調べようぜ」


 その時だった。 ピーンポーンパーンポーンとアナウンスコールが校内に響いた。 あまりにも突然だったため、俺は心臓と体が飛び跳ねた。


「3年1組、ユウト君、直ちに保健室へ来てください」


 それは紛れもなくシェリー先生の声だった。 朝はどう理屈をつけて呼び出そうか考えていたらしいが、あまりにも直球な呼び出し方だな。 して、ナリナたちは同伴OKなのだろうか。


「わりぃ、なんか知らんが呼び出されちまった。 教室で待っててくれ」


 俺の言うことを素直に受け止めたナリナはうなずき、リョウも「怒られてこい」とイタズラな笑みでそう言った。


 ここ最近、ずっと保健室に通い詰めだが疑いをもたれなくて助かる。


 足早に保健室へ行くと、ついにシェリー先生は白衣を脱ぎ捨てていた。


「現在、教師の大半は帰宅しました。 後は数名の生徒だけ」


 窓の外を見たままシェリー先生がそう言うと、俺は教室内に残っていたクラスメイトたちを思い出す。 勉強をしているナオヤ、ベラベラ喋っているテルコ、その話を聞く可愛げもない不良たち。 そしてナリナとリョウ。


「せ、先生―」


 と、俺とシェリー先生が緊迫した状況の中、右人差し指から血を流したコウスケがやってきた。 お前もまだ居たのか。


「プリントの整理してたら紙で指切っちゃいました」


「あらあら、ちょっと待っててね」


 コウスケはスパイ装備の先生を見て何も思わなかったのか、無言のまま丸椅子に座る。 そしてシェリー先生が持ってきた絆創膏を貼られ、治療終了。

「はい、これで大丈夫」


「ありがとうございます」


 礼儀正しく頭を下げるコウスケ。


「おい、コウスケ」


 一応コイツにも言っておかないコイツが帰路につこうとした瞬間蜂の巣にされるような気がして、


「お前も教室でナリナたちと合流しろ。 どうせ暇だろ。 霊探しするぞ」


「はぁ?」


 さすがに朝の霊の話に参加していない奴にいきなり幽霊探しをするぞと言ってもコウスケのように変な顔をして首をかしげるだろう。 こんなことに積極的に参加するのはナリナ目当てのリョウくらいだ。


「いいから。 リョウもナリナもいるぜ。 俺はまだ用があるから、先に行っててくれ」


「……よくわからんが、わかった」


 なんとか丸め込めたようで、コウスケはよく理解していないまま保健室を後にした。 そのやり取りを見たシェリー先生は「クスクス」と唇に指を当てて笑う。


「さぁ、ここからが本番です。 端末によると今から3分後に敵が姿を見せます」


 ついにこの時が来てしまったか。 シェリー先生の持っている端末には大きな数字が表示され、徐々に少なくなっていく。 おそらく人工衛星で敵の位置を把握し、ここに到着するまでのカウントダウンを表示しているのだろう。 あと150秒。


「敵が到着すると同時に制圧部隊がAT-4で敵を殲滅してくれるはずです」


「それは心強い……」


 M9の時もそうだが、シューティングゲームをやってて良かったとつくづく思う。 この人、銃火器の名称を言うので銃に詳しくない人だったらちんぷんかんぷんだろう。 素人相手にはハンドガンやらロケットランチャーのほうが通じるのに。


 で、AT-4というのは使い捨て式の携行対戦車弾……素人相手に説明するにはロケットランチャーと言ったほうが早い。 このロケットランチャーは有名で、肩に担いで撃つ、筒状のあれだ。 アニメでもこういう形のやつは見たことある人は多いだろう。


「あと60秒……見えた」


 窓の外を見ると黒いトラックが3台、黒煙を出しながら走ってきた。 もちろんナンバープレートはない。


 そして……



―――――――――――――――――ガチャン!!




 なんと強引な。 トラックは問答無用に閉まっている校門を突き破り、ドリフトをしながら運動場に侵入し、停車した。


 しかし、これは袋のネズミというものだ。固まってくれていたほうがロケットランチャーを当てやすい上に大量キルを稼げる。


 だが、敵が運動場に停車しても学校の外に留まっている制圧部隊は動きを見せない。 それどころか、




―――――――――――――――――チュドーン!!




 などという爆音とともにこっぱ微塵に吹き飛んでしまったではないか! メラメラと燃える制圧部隊の乗っていたはずのトラック。


 その状況を見たシェリー先生の顔はひきつっており、とてもまずいことになっていることは誰だってわかる。


「非常にマズイんじゃないですか、先生」


「マズイわね。 とりあえず3年1組に向かいましょう。 パニックになってなきゃいいけど」


 俺もナリナが心配だ。 トラックからは誰も出てきていないがすでに内部に侵入されたかもしれない。




 階段を一段飛ばして2階へ行き、勢いよく3年1組の教室のドアを開ける。


「キャア!」


 それに驚いたのか俺の姿を見てテルコが悲鳴をあげた。 教室内を確認するとナリナ、リョウ、コウスケもちゃんと居たし、ナオヤやその他の不良たちもいる。


 みんな驚いた顔をして窓を覗いていた。


「おい、ユウト! どうなってんだ、こりゃ! 映画の撮影か!?」


 コウスケよ、それだったらどんなによかったことだろうか。


「皆さん、落ち着いて聞いてください。 これは映画の撮影でも何かの実験でもありません。 敵の正体は不明ですが、死者も出ています」


 やはりここにきても敵の正体は伏せている。 まぁ、今からどうしてこうなったかを一から説明するにはかなりの時間がかかる上に状況を飲み込むのには数日かかる。 俺がそうだったように。


「わかりやすく説明してください」


 メガネをかけなおして言うナオヤに俺は首を横に振った。


「今はそんな説明してる暇はねぇ。 なんかよくわからんが敵は俺達を殺す気でいるみたいだ。 警察に助けを求めたら夕方6時に日本の特殊部隊が救助に来るらしい。 6時まで俺たちだけで耐え切るしかないんだ」


「つっても、イマイチ実感がわかねぇんだよな。 単に車が爆発しただけで、人が死んだとこは見てないし。 証拠を見せろ、証拠を」


 俺が少々ウソを交えながら熱弁すると不良の中の1人、茶色の長ったらしい髪を顔の真ん中で左右に分けたショウタが二人の子分を後ろに従えて偉そうに前に出てきた。 まったく、素直に現状を受け止めれないのか。


「見て! 校長先生が……」


 窓の外を覗いていたテルコが大きな声で言うと周りの連中はぞろぞろと窓辺へと移動した。 俺とシェリー先生は顔を見合わせてから窓の外を見た。


 運動場には校門を破壊されたことを怒った校長が肩を盛り上げながらズカズカと黒いトラックの前まで歩いてきていたのだ。


「そりゃ校門を破壊されれば怒るわな」


 ショウタが髪を整えながらつぶやく。


 校長がトラックの前で立ち止まると、3台のトラックの後ろがガタンと音を立てて開き、中からぞろぞろとガスマスクをした黒ずくめの部隊が姿を現したのだ。


 一台のトラックから6人の敵。 三台あるということは少なくとも18人の敵がいることになる。




 そして隊員たちは腹を空かせたハイエナのようにゾロゾロと校長を半円状に囲み、一斉に肩から下げていたサブマシンガンを構え、校長に向けて発砲した。




 目を覆いたくなるほどの酷い光景だった。 校長の体は見る見る穴だらけになり、そこから血が飛び散っていた。


 窓からその様子を見ていた俺達は愕然とし、テルコは俺の背に隠れて直視できないでいる。 どうやら邪魔なものは排除するらしい。 となれば、ここにいるナリナはともかく、それ以外の俺やリョウたちは不要なものだ。


「マジかよ……」


「事態の深刻さがわかったか? このままじゃ俺達も校長と同じ目に逢うことになる」


「どうすりゃいい」


 校長が目の前で殺されたことによってショウタも危機的状況を理解したようで、眉間にしわを寄せて俺のほうを向いた。 しかし作戦を立てるのは俺ではなく、シェリー先生だ。 俺はクラスメイトたちのまとめ役に過ぎない。


「この学校に敵を侵入させない……というのは無理です。 ならば攻撃しなくてはなりません。 全員、武器になりそうなものを持ち、敵を戦闘不能にしてください」


 と物凄く簡単そうに言うシェリー先生だが、俺達は何の訓練も受けていない中学生の集まりだ。 ましてやテルコはすっかり顔色を悪くして戦える状態ではない。


 バキッ と教室の隅で何かが折れるような音がしたと思えばナリナが掃除ロッカーの中にあったモップの先端を壁に叩きつけてへし折ったのだ。 折れた先は、人にでもブッ刺さりそうなくらい尖っている。


「敵が私達を殺しに来るなら、私達も殺す気でいかないと負ける」


 今はそれが正論だが現実、法律を重視するナオヤはメガネを曇らせた。


「僕は反対だ。 正当防衛だとしても人を殺めた感覚は一生残る。 それよりも今から最寄の警察に電話して助けを求めたほうがいいと思う。 救助ヘリの到着が今から5時間以上かかるなんてふざけている。 だから警察に電話して応援に来てもらったほうが絶対いい」


 それができたらよかったんだけどな。 この事態は警察が収拾できるものではなく、国家レベルでないと無理だ。


 シェリー先生はダメとわかっていても黒板の横に設置されていた職員用の受話器を耳にあて、応答がないことを確認してから首を横に振った。


「やっぱり繋がってないわ。 敵もバカじゃないから、そのうち電気も……」


 ふと教室の明かりが消えた。


「止められちゃったわね」


 どうやら外の敵はまだ攻め込んでこないと思ったら電気系統の妨害工作をしていたらしい。 窓から見える公民館などを見回すとどこも電気がついていない。 となると敵はここ周辺の電気、電話など外部との連絡手段を絶ったわけだ。 つまり周辺の住人が学校の異変に気づき、警察へ通報するということはない。 かと言って外に出れば必ず敵がそれを封じるだろう。


 完全に孤立している。


「この状況で法律などは関係ありません。 私も気は進みませんが敵を殺さなければ私達、アナタたちの仲間の命が失われてしまいます」


「やるしかねぇよ、ナオヤ」


 ショウタはナオヤの肩をぽんと軽く叩くと掃除ロッカーからナリナと同じモップを取り出し、壁に叩きつけて先端を折った。


 俺はいまだ武器を持っていないがその他の装備なら充実している。 自分の机の横に引っ掛けていたキャンプ用のリュックを背負う。 それを見たナリナもキャンプ用のリュックを背負うと走ったときの振動でリュックが上下運動をしないようにリョックの付属品であるベルトを胸と腰で固定した。 さすがナリナ。 本能的に戦闘準備を進めている。


「おい、リョウ、コウスケ。 お前らも別の教室からでもいいから武器になりそうなもの持ってこい」


「お、おう」


 この2人は特にまぬけだから俺が指示してやらないと満足に動けないだろう。 リョウとコウスケは慌てて隣の教室へと行き、モップを3本持ってきた。


 そしてリョウはその一本を俺に投げ渡してきた。 俺は黙ってそれを受け取るとシェリー先生を見てうなずく。 準備完了です、と。



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