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ナイトメア  作者: ナリ
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十七章

 どこまで行っても真っ暗な世界が俺の目の前に広がっていた。 足を動かしても前に進んでいるのか後ろに下がっているのかすらわからない深淵だ。 そういえば俺はなんでこんなところに居るんだっけ? 何も思い出せない。 しかもなんかめちゃくちゃ寒い。


 俺が真っ暗な空間で凍えていると目の前が突如として白い光を放ち、見覚えのある3人のシルエットが映し出された。 それはナオヤ、テルコ、ショウタの3人のものに間違いなかった。 お前ら、どうしてこんなところにいるんだ。 


 疑問に思っていると3人のシルエットは俺に背を向けて歩き出した。 おい、どこへ行くんだ。 俺もそっちへ行けばいいのか?


 俺は3人を追って走り出すと、テルコのシルエットが振り返った。


「来ちゃダメ」


 その言葉に俺は足を止める。 意味がわからずにいるとテルコは上を指差す。


「ユウト、あたし達の分まで生きて」


 テルコがそう言った瞬間、真上から眩い光があたりを照らした。







「がはっ! がはっ! はぁはぁ……」


 急に俺は激しい吐き気に襲われ、胃に溜まったものを吐き出した。 それは大量の水であったのに気づくまで少し時間がかかった。 霞む視界に誰かが映りこんでいる。 視界が戻ってくるとずぶ濡れになったナリナが俺の顔を覗きこんでいるのだとわかり、俺はゆっくりと身体を起こした。 ぐあ、やっぱ右肩が痛てぇ。 ていうか、俺は……。


「ユウト、生きてたか……」


 そうだ、俺は梯子から川に落ちて、そのまま死んだ……はずだった。


「ナリナさんがとっさに川に飛び込んでユウト君を救出してくれたのよ」


 シェリー先生は俺の右まぶたを上に上げて目に異常がないか確かめつつ言っている。


「引き上げたはいいけど心肺停止状態で、私も死亡したものと思ったんですけど……。 ナリナさんが心肺蘇生を施してくれたんです」


 なるほど、つまりさっきまで俺が居たあの闇の空間はあの世の入り口だったのか。 うっかりあの世に逝きそうになった俺をあの3人は助けてくれたのだろう。 あの3人がいなかったら、俺は今頃水中で腐るのを待っているだけの存在になっていただろうに。


 ん、そういえば今、シェリー先生はナリナが俺に心肺蘇生したといっていたな。 心肺蘇生といえば心臓マッサージとかするあれだが、心臓をマッサージする前にすることがあるよな……。 マウストゥマウスで……。


 俺はふとリョウのほうを見るとリョウはニカッと笑い親指を立てた。 マジかよ。 しかし残念なことに俺はまったくそのことを覚えているはずもなく、うなだれるしかなかった。


 ナリナのほうへ目をやるとナリナは両膝をついたままであり、頬をつたう水滴は俺のために流した涙なのか、はたまたただの水なのかはわからなかったが俺はその水滴を指で拭いてやった。



 その水滴は暖かかった。





 さて、その後俺たちは梯子を上って地上に出るとなんと救助のヘリが待機していたのだった。 どうやらカードキーのコピーを作ってる最中にアキバが手を回していたのだという。 俺たちはそのヘリの中でいろいろ治療を受けて最寄の病院に極秘搬送されることとなった。


 ヘリから見える夜景はとても綺麗で、ここがいつも自分が住んでいた町ではないと錯覚するくらい見惚れてしまっていた。 ふと夜景を見ていた俺の目から涙が溢れ出してきやがった。 なんでだろう、今の今までなんともなかったのに、なんで今になって涙が出てきたのだろうか。 だぶん、俺は今、自分が生きていることを実感し、感謝しているのだと思う。 目の前で数々の人が死に、自分も死にかけ、尚も俺はこの世界で生きている。 いいね、生きてるって。


 機内を見るとナリナとリョウも俺と同じ景色を眺めていた。 2人とも穏やかな顔をしている。


「なんだよ、気持ち悪りぃな」


「……たしかに」


 俺が2人を見てニヤニヤしていることに気づいた2人は眉間にしわを寄せてそう言ってきたが何とでも言うがいいさ。 今の俺にとってそれは幸せなことなのだからな、ははは。


「そういえばリョウよ。 お前、柔道部なのに何であんな球投げられるんだ?」


 ゴミ処理場で俺たちに向かってジャクリンが銃を発砲する瞬間、リョウは拾った野球ボールを目にも留まらぬ速さと正確さでジャクリンの顔面に命中させたことを思い出して本人に尋ねてみた。 するとリョウは「ああ」と言い、


「オレ、柔道部入る前は野球部だったんだよね」


 と答えた。 おいおい、あんな球投げれるんだったら今頃有名な野球選手候補にでもなってたんじゃないか? どうしてそれ以外取り得がなさそうなお前が柔道部なんかに入ったんだよ。


 そう尋ねるとリョウは「そりゃあ……」と曖昧な態度を見せ、チラっと隣にいるナリナを見た。 ああ、そういうことね。 はいはい、わかりましたよ。


 ま、何を考え、どう行動するかなんて人それぞれさ。 それが限りなく0に近い可能性でもナリナと急接近できる可能性を信じて柔道部に入るのも、人それぞれだ。


 とりあえずリョウには「まあ、頑張れ」と言っておいた。







 ここからは後日談である。


 こうして俺は久々に安眠することができるようになったわけであるが、病室っていうのが数日経ってもなんか落ち着かないな。 学校でも病院でも日中は賑やかで夜になるとほぼ無音になるギャップがなかなか怖いのだ。 別に幽霊とかそういうのが怖いのではない、無音が怖いのだ。 その証拠?に俺は風船が嫌いで近寄られただけで物凄い勢いで避けるぞ。 あの急に大きな音を立てられるのが正直ビビる。


 そしてもう1つ落ち着かないことと言えば隣でナリナが寝ていることか。 いや、隣と言っても一緒のベッドで寝ているわけではないぞ? そんなことしたら隠れファン(久々に言った)にフルボッコに遭うのは確定だ。 同じ病室で俺の右側、窓際のベッドでナリナが寝ているというわけである。 ちなみに左側にはリョウが寝ているが、こちらはどうでもいい。 時計を見ると夜中の1時だ。 そろそろ寝ないと朝起きれなくなってしまうが寝つきが悪い。


 学校は謎の火災によって全焼したことになり、その中で校長はもちろんナオヤたちもそこで死んだことになったらしい。 で、俺たち3人はその火災で奇跡的に助かった生存者であり、怪我をしていたため入院ってのが表世界でのストーリーということだ。 山のふもとの病院は老朽化と地盤沈下が相まって崩壊したことになっているが、後にあの病院を捜索隊が調べたがコウスケは見つけることができず、アイツは学校での行方不明者扱いにされるというのをアキバから聞いた。


 そのアキバとシェリー先生だが、俺たちが入院した次の日には組織に戻ると言い別れの挨拶をした。 しかもこのアキバの組織とシェリー先生の組織はめでたく合併することになったらしく、より巨大な組織になったとシェリー先生も喜んでいた。 アキバとシェリー先生はナリナのデータを何とか世界から抹消できないか努力するとも名言してくれたが、はてさて、このネットワーク時代にそんなことが可能なのだろうか。


 ノダさんも次の日には松葉杖をついて警察署へと帰っていき、例の児童相談所の職員の余罪を追及することに力を入れるようだ。 結局ナリナはその時のことを話さなかったものの、それは紛れもない事実であり、ノダさんにとってこの事件を完全に終わらせることがナリナへの罪滅ぼしだと思っているのだろう。 ノダさんの健闘を祈りたい。


 各々が新たな決意を胸に動き出したが、俺たちはまだやることがいっぱい残っている。 それは何かって? 受験勉強に決まってるだろ! 学校はなくなってしばらく自宅学習になったが家にまだ帰れない俺たちは毎日この病室で勉強してるんだよ! しかも律儀に担任のスズキ先生がお見舞いがてら俺たちに個人授業をしてくれるし。 どうすんだ、頭の中もろくに整理できていないってのに……。 受験に落ちたらどうしよう……。 そういえばナリナはやたら数学とか楽に解いてた気がするな。 ホント、授業さえサボらなければ学年トップも取れるかもしれないのに、実にもったいない。 その余裕を少しでも俺に分けてくれ。


「眠れないのか?」


 正直ビックリした。 無音で真っ暗な病室で突如俺以外の声がしたらそりゃビビるよ。 その声の主はナリナで、ベッドの上で身体を起こしていた。 ナリナの身体はいたるところ湿布や包帯が巻かれており、痛々しいことこのうえないが身体の中は異常は特にないらしい。 あんなに腹を蹴られてたから若干心配していたが、良かった。


「どうも寝なれないベッドじゃ寝つきが悪くてな」


 ナリナは「そうか」というと自分の包帯が巻かれている右手を見た。


「なあ、ユウト。 結局私は本能的に生物兵器としてテロリストたちを殺してしまった。 やはり私は手を血に染めることしかできないのだろうか」


「何言ってんだ」


 即答だ。


「お前は俺の命を助けてくれたじゃねーか。 そんなこと生物兵器なんかにゃできやしねーよ。 お前は人の命を救うことができる、立派な人間だ」


 それを聞いたナリナは目を見開いて俺を見続けていた。 それにあのX-001も言ってたじゃないか「ありがとう」って。 きっとアイツは死に場所を捜していたんだと思う。 無理やり死ねない生物兵器にされ、命じられるがまま人を殺し続ける宿命を背負わされた悲しい人間。 命令に本能的に抗い、失敗作として長い眠りにつかされ、アイツはほとんど死んだことになっていた、はずだった。 そんな中、同じ生物兵器にされた人間、ナリナが身体に触れたことにより、再びシステムに抗い目覚めたのだろう。 自分を殺してもらうために。 だが本人の意思とは裏腹に生物兵器である身体は殺戮を繰り返すが、最後に俺が撃ち込んだナノマシンで身体を取り戻したアイツは感謝の言葉を述べたのだろう。 やっと苦しみから解放される、ってな。


「お前は人から恐れられる存在じゃない。 人から感謝されることができる人間だ」


「………………」


 次の瞬間、ナリナの涙が頬をつたった。 今までのような悲しみの涙ではない、喜びの涙だった。


「ありがとう、ユウト」







 とりあえず終わった。 誰がなんと言おうと終わったのだ。 結局ナルミは生物兵器の核というものを持って姿を消したのが心残りだが、次俺たちの目の前に現れたときは、どうしてやるものか。 しっかし世の中も複雑だね。 一体世界中に今回のような組織はいくつあるんだろう。 テロ撲滅を目的とした組織、兵器開発で金儲けをしようとする組織。 さまざまな組織が登場したがナルミの組織についてはまだ何にもわかっていない。 アイツは生物兵器の核を「我々が使わせていただきます」と言った。 あれを使うということは恐らくロクなことにはならないだろうな。 一体どうなるかわからないが、どこかのヒーローみたいな人間がナルミを倒してくれることを切に願う。


 さて、ここ数日に俺の身に降りかかった災難はお分かりいただけたかと思う。 なんで人間はこんな酷いことをしてまで自分の利益を生み出そうとしているのだろうか。 冒頭でも言った『同じ人間なのに同じ位置に立てないのか』という疑問だが、俺はこの体験で確信したことがある。 それはとても簡単なことなんだがな。




『人間には感情があるからなんだよ』




 どうだ? 物凄いシンプルだろ? 喜怒哀楽、その他の欲求、欲望……あと人間の7つの大罪、傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲……。 全てにおいて人間は感情に左右されて動いている。


 どこぞのジェダイの騎士が言っていたな。


『感情なきところに平和がある』


 って。 それを聞いてもっともだとも思ったし、当たり前だとも思った。


 じゃあ、感情がなくなれば世の中は平和になると考えればそうはならないな。 感情がない人間なんて面白味も何もない、ただのロボットとなんら代わりのない存在になってしまう。 では、どうしたら平和になるのか。


 うーむ、その答えはまだ見つからないな。 全人類がちゃんと規律を守れば平和になるかもしれないが感情というものがあるゆえにそれは不可能だ。 何かいい案があったら教えてくれ。 いや、その案をアメリカ大統領とかに教えてあげたりはしないけどさ、一応知りたいんだな。


 まぁ、俺は神様でも何でもないから、世界を平和にできる方法を思いついても世界を相手にはまったく歯が立たないだろう。


 とりあえず俺が生きている限り、本当の平和の実現はなさそうだな。 タイムマシンもタイヤのない車もまた然り。







 では、そろそろ締めに入ろうか。


 その後俺たちは無事、病室で謎の組織に暗殺されることなく退院を果たし、他の生徒同様に自宅学習に励むことになった。 ものの、やはり反強制的にでも机に向かわせてもらえないと集中力が5分として持たないというものである。 今日は俺の苦手な数学をしようと昨日の晩から決めていたのだが、いかんせん、例に漏れず集中力が数字ドリルの目次ページで切れてしまった。 仕方なく俺はゲーム機の電源を入れ、ナリナに敗北したFPSをやろうとしたがすぐにコントローラーを置いた。 なんか本物の銃の重みとか、火薬の臭いとかをリアルに感じたためか、ゲームでも銃を握ることに抵抗があったのかもしれない。 とりあえずここは三国無双でもやってスカッとするか。 そう思い、ゲームソフトをしまってある箱から最新の三国無双を取り出してゲーム機の中へと入れた。


 プロロロロ。 ふと俺の携帯電話が鳴った。 あ、いっけね。 忘れてた。 そういえば昨日の晩にナリナに勉強教えてもらう約束してたんだった。 今まさにゲームやろうとしてる姿を見られたらどうなるものか。


 とりあえず俺は電話に出て玄関へ向かう。 玄関を開けるとそこにはナリナ、私服バージョンが立っていた。 うん、いいね。 あんなエロスーツじゃなくて、こういう服のほうが断然いいね。


「よお」


「おう」


 この懐かしいやり取りもまたいい。 そう思っているとナリナが眉間にしわを寄せ始めた。 おおっと、どうやらまた俺の顔が勝手にニヤケ面になっているようだな。 俺は咳払いをして顔を治すとナリナを自宅へ招き入れた。


 俺の自室へと入ったナリナはやりっぱなしのゲーム機を見て、ゆっくりと俺のほうを見た。 しまった、片付けるの忘れてた。


 が、ナリナは何も言わずに机の前に座るが、今回はあぐらではなく正座だ。 そして持ってきた赤いカバンから教科書と筆箱を取り出して机の上に置いた。 この隠れファンにとっては夢のようなシュチエーションを、俺はこれから堪能させてもらうことにしようではないか。


 余談だが、ナリナは福祉関連の高校へ進学することを決めたらしい。 進学の理由は「私でも救えるものがあるなら」だと言うことだ。 まさか俺が言ったことを真摯に受け止めてその道を選ぶとは、いやはや、俺も責任重大だな。 とにかくナリナには頑張ってもらいたい。


「よぉし、頼むぜナリナ。 なんたってわからないことだらけだからな!」


「……解き方がちゃんとあるんだから、その通りにやれば簡単じゃん」


 などと授業中では到底聞くことのないことを言い、ナリナはシャーペンを指で回した。 くっそぉ、涼しい顔をして自分の数学ドリルに答えを書いていくが、これが正解なのかは俺にはわからない。


 プロロロロ。 また携帯電話が鳴った。 今日はもう誰とも約束してないぞ? まさか隠れファンからの殺人予告かと思いつつ携帯電話を見ると相手はリョウだった。 まぁ、隠れファンと似たようなものか。


「もしもし?」


「いえーい、ユウトかぁ? 遊ぼうぜーぃ!!」


 少し電話から距離を取って話せ。 ていうか、お前は余裕だな、おい。


「勉強なんてしなくても何とかなるって! これからお前ん家行っていい?」


「あー、今ナリナと個人授業してるんだが……」


 そう言ってみると電話の向こうから「ガタッ」という何かが倒れる音がした。 察するにリョウが勢いよく立ったせいで座ってた椅子が倒れたのか。 そしてしばらく無言の間が空き……、


「わかった。 お前とはまた勝負しなくてはならないようだな……」


 何がわかったんだ。 何にもわかってないというか、俺の冗談を真に受けるな。


「今度はお互い知らないスポーツで勝負だ。 そうだな……剣道はどうだ?」


 いや、どうだと言われても剣道なんてルールも何も知らないし、道具は言うまでもなく持ってない。 俺の拒否にリョウは電話の向こうで「うぐぐ」と唸っている。 もう電話切っていいかな。 こうしてる間にもナリナは問題を解いてっているし。 あとで写させてもらおう。


「仕方ない、こうなったら拳で対決だ! 今すぐ行くからな! 首を洗って待ってろ!! うおおおお――――――」


 ブツン。 切ったった。 アイツは結構有言実行するタイプだからな、絶対10分もしないうちに家に押しかけてくるぞ。 どうせ、俺とナリナが本当に勉強してるだけと知ったら「なぁんだ」とか言ってゲームやりだすに決まってる。 そうなれば俺たちも強制的にそっちをやることになり、勉強どころではなくなる。 そうなる前に少しでもナリナに数学を教えてもらうとするかな。


 ピンポーン。 ……っておい、電話は家からしてたのにもう来たのかよ。 どんな俊足でここまで来たんだよ。


 俺はナリナの顔を見ると、ナリナは唇を緩めながら肩をすくめた。


「勉強はお預けだな」


「だな。 まったくあの野郎は」


 ナリナと会話している間もインターホンは鳴り続けているので、俺は仕方なく席を立った。


 やれやれ、今日も平和だねぇ。






The end?

ピピピピ……ガチャッ。


「はい、もしもし。 ええ、『DEMON』は無事私が入手しました。 ええ。 その他にもなかなか面白いものが見れました。 ええ、はい。 インセクトの始末も私が。 はい。 任務は成功です。 ああ、あともう1つ手に入れたものが。 ええ、『彼女』、までとはいきませんがそれなりの素体を手に入れました。 後日搬送しますので、生物兵器の製作にでも使ってやってください。 ええ。 ありがとうございます。 はい、『Berserker』が『valkyrie』になる日もそう遠くはないでしょう。 はい、計画は順調です。 はい、失礼します」


 ガチャン。


「世界の悪夢が始まるのは、まだこれからですよ……。 ククク……」




To be continued

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