十五章
まさか首の骨を折っても起き上がってくるとは、ナリナの親父もビックリだな。 再び聞こえるX-001の雄たけびとテロリストの銃声。 このチャンスを逃すわけがなく、ナリナはロシアン爆裂弾を持って立ち上がった。
研究室からちょっと顔を覗かせば、廊下でX-001とテロリストたちが交戦していることが伺える。 この隙に逃げるのもアリだったが、少しでもダメージを与えておかないと両方に追われることになるのでナリナはロシアン爆裂弾の導火線(新聞紙)にマッチで火をつけると大きく振りかぶってX-001の背中に向けて投げた。
ロシアン爆裂弾はX-001の背中に見事に命中し、フラスコが割れて中身が飛び散ると
―――――――――――――――――ズゴォン!!
薬品が引火して爆発を起こしたのだ。 本当に爆発するとは予想してなかった俺たちは、その爆発の衝撃でひっくり返るとリョウは持っていたロシアン爆裂弾を床に転がしてしまった。 すぐに起き上がって体制を建て直し、背中が爆発しても尚立っているX-001に向かってナリナは再びロシアン爆裂弾を投げ始めた。 この爆発の嵐でテロリストたちも巻き添えを食らい、見事テロリストはここにいない坊主頭の男以外は撃退できたようだ。 俺も負けじとアルコールランプに火をつけて投げつけるとX-001の身体を炎が包む。
「ガ、ガアアアアア……!!」
「おい、効いてるんじゃねーか!?」
リョウの言うとおり、全身が燃えているX-001はその場で膝をついて苦しんでいるようだ。 たしかに炎上し続けているためか身体の再生が追いついておらず、見る見るX-001の肌は黒こげになっていく。
が、すぐに天上のスプリンクラーが作動してX-001の身体の火を消し、俺たちをびしょ濡れにした挙句ロシアン爆裂弾の導火線部分も大量の水分を含んでしまって火がつけれない。
「ガ、ガバァ!! ガハッ!!」
X-001はその場で血を吐いて苦しそうに肩で息をしている。 しかも肌は再生しておらず、力を使いきっていたようであった。 が、
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
それを見た時、心の底から後悔したね。 X-001の上半身は見る見る巨大化して残っていた迷彩服まで突き破り、両手も巨大化して人間離れした上に爪が異常に長く、鋭く発達し、おまけに顔の包帯は取れて額から二本の角まで生えてきやがった。 まさかアキバが言っていたナリナと戦わせるなってのはこういうことだったのか? あの野郎、こうなることがわかってたなら最初からこう言ってくれればよかったのによ。 シェリー先生もまったくこんなこと言ってなかったじゃねーか。
X-001はその場で右腕をなぎ払うと爪が壁を突き破り、4つの爪痕を壁に刻み込んだ。 流石に正真正銘の化け物状態のX-001に当て身投げなんぞやろうとすれば、こっちが一瞬で肉塊に変わってしまうだろう。
「コイツはやべぇ! 逃げるぞ!!」
こんなもんに勝てるわけねぇだろ。 俺たちはX-001に背を向けて走り出すと、その後をX-001が走って追いかけてきたのだ。 今まではノシノシ歩きだったのに、身体が巨大化したらなぜか走って追いかけてきやがる。 こうなったら全力で走って階段を見つけてやる、と思ったのだが見覚えのあるエレベーターが見えてきた。 どうやら本当に一周回ってきたらしく、結局階段は見つけられなかった。
「リョウ、使えそうなロシアン爆裂弾はあるか?」
走りながらナリナが言うとリョウは持っていた数個のロシアン爆裂弾の中から1つをナリナに投げ渡した。 ナリナはそれに火をつけると、
「ナオヤ、許せ」
と言ってエレベーターの中に向かって投げたのだ。 エレベーターの扉に当たったロシアン爆裂弾は爆発してエレベーターを扉ごと吹き飛ばして黒煙を上げた。
「飛び込むぞ」
ナリナはそれだけ言うと黒煙の中に飛び込んだ。 何を考えているのかがわからなかったが俺とリョウもそれに習って黒煙、すなわち破壊したエレベーターの中に飛び込むと真っ逆さまに落下した。
ゴンッと着地に失敗して身体の側面から地面に落ちると一瞬目の前がぼやけたが、すぐに視界が回復した。 軋む身体を起き上がらせるとそこには一枚の扉があったのだ。
そうか、いくら地下一階を探し回っても見つからないわけだな。 地下二階はライフラインがあるところであり、研究者たちには立ち入ることのない場所である。 万が一異常があった時は業者がエレベーター横の梯子から下に降りる、ということだったのか。
「気づいたのはX-001が壁を突き破った時だ」
たしかにX-001はエレベーターから落ちたはずなのに壁の向こう側から出現した。 となればそこは人間が移動できるほどのスペースがあるということだった。 流石に盲点だったが、アキバはそんなこと言わなかったな。
ナリナが扉を開けるとそこには捜し求めていた階段があった。 やっと、やっと地下2階、ゴール地点にいける……。 この階段を下りれば天国までもうすぐだ。
「………………」
この3点リーダーはナリナではなく、俺だ。 そこは天国の入り口ではなく、地獄のど真ん中のようだった。
辿り着いた先は薄暗い巨大なゴミ処理場で、野球場くらいの広さがあり、天上や壁にはいくつもの巨大なパイプが張り巡らされている。 ここまではまだ「不気味」で済ませるだろうが、処理場の中央には巨大な大穴が空けられており、そこから刺激臭が漂ってくるし、その大穴の横には研究員たちの死体が山積みにされていたのだ。 どうやらX-001は研究員たちの死体をここに集めていたようで、中央の大穴を覗くとそこには黄色い液体が溜められていた。 なんだ、これは。
ナリナは研究員の死体の足から靴を剥ぎ取ると、ため池の中へ放り投げた。 すると革靴は液体に触れた瞬間煙となって消えてしまった。 これは、硫酸か何かか?
どうやらこの施設では可燃ごみも不燃ごみ問答無用でこのため池に放り込んで溶かして処分するという環境のことをまったく考えていないシステムのようで、入り口横にある小さな事務所の横に停めてあるショベルカーでゴミをまとめて落とすというものだろう。
「おい、お前ら」
その低い声に驚いて振り返ると、そこにはアキバとシェリー先生とナルミが立っていた。 どうやらアキバたちは無事にここまで辿り着いたようで、目だった外傷はない。
アキバは俺たちの姿を見ると肩をすくめる。
「随分減ったな……」
「ああ……テロリストにやられたり、X-001にやられたり、な」
仲間割れがあったことはあえて言う必要もないし、言いたくもなかった。 で、それより今の状況はどうなっているんだ。 俺たちが到着するのを待ってたとでも? 俺なら待ってるより脱出して助けを呼ぶという選択をするんだが。
「そうしたいのは山々なんだが、問題が発生してな」
ここまで問題だらけというか、問題しかなかった気がするんだが。 するとアキバは処理場の奥の壁を指差した。 そこには一枚のシャッターが降りており、シャッターの横にはカードリーダーらしきものがある。
「下水パイプはあのシャッターを通らなくてはならないんだが……そのカードキーを持っている奴を捜さないといけないんだ」
持ってる奴を捜す? 生存者は俺たちだけだし、捜すってぇとまさか、この死体の山からカードキーを見つけるってことか? そんなものどれだけの時間がかかると思ってるんだ。
「そう言い出すと思い、アキバ先生のパソコンでカードキーのコピーを作る作業も同時進行中です」
どうやらゴミ処理場の事務所の中でパソコンがカードキーのコピーを自動的に作成している途中らしい。 流石俺が言うまでもなく、そこまでしていたか。 となれば、カードキーが完成するまでは死体の山から本物のカードキーを捜し、コピーが完成したらそれで逃げればいいのか。
だが、あんまりぐずぐずしている間はない。 なぜなら上の階にはX-001がいるのだからな。
とりあえず、カードキーの捜索だ。
俺たちは死体の山を漁り、死体の白衣のポケット、胸元、ズボンの中などをくまなく捜したが一向に見つからない。 流石にこの数を全部捜すっていうのは効率が悪いんじゃないだろうかと思ったりもしたが、どうすることもできない。
「X-001は自己再生が追いつかなくなるとリミッターを解除して強制的に変異を起こすんだ。 そうなると自己再生はできなくなるが、さらに強靭な肉体を手に入れるんだよ」
そういうのは最初にX-001を見た時に教えてくれないといけないのではないか? おかげで散々な目に遭った。
「ごめんなさい」
アキバの代わりにシェリー先生が血まみれの白衣を漁りながら謝った。 しかしまぁ、あの脅威の再生能力がなくなったのはいいことなんだろうが、あの巨体にダメージを与えられる気がしない。
と、このような感じでカードキーを捜しつつアキバたちに質問したり、情報を聞いたりしていた。 続いて話題はテロリストの話になる。
「テロリストはお前らが暴れたおかげでほぼ壊滅だ」
はて、俺は暴れた記憶はこれっぽっちもないのだがな。 覚えているのはナリナが銃を乱射したり、爆発物を投げつけたり、直接投げ飛ばしたりしていたことだけだ。 そしてアキバの言うとおり、テロリストは『ほぼ』壊滅しているが、今現在、ここにはまだ1人のテロリストが残っている。 あの坊主頭の男だ。
「お前の言う坊主頭の男……身元はさっき割ることができた。 コードネーム、インセクト。 本名、ジャクリン・ホワイトソン 31歳。 イギリス人で、現在はフリーの傭兵として活動しているようだ」
コードネーム、インセクト……つまり虫か。 それは、さぞかしどこぞの伝説の傭兵のコードネームが羨ましいと思っているだろうな。 しかし、奴の素性と本名がわかってもデスノートも何も持っていないのでこれと言って意味はないが、問題が1つある。 なぜただの傭兵が任務失敗に終わったのにも関わらず今尚ここにいるのか、ということだ。
俺は死体の革靴を硫酸の池の中に放り込みながら言うがアキバは首をかしげた。
「さあな。 ただ単に引くに引けない状況であるか、はたまた1人でも傭兵の仕事をしているか、か」
別の任務説はナリナも言っていたな。 あの坊主頭の男、ジャクリンは任務失敗にも関わらず、目の前にX-001が居るにも関わらず、俺たちに向けて発砲してきた。 しかも部下まで引き連れて執拗に俺たちを追ってくる始末。 そして、問答無用に捕虜にしたショウタを殺し……。 となると、『別の任務で行動し、邪魔者、存在を知る者の口封じをする』ということなのか。
「お」
アキバと話をしているとリョウが何か発見したようで、それを俺に見せてきた。 まさか、カードキーが見つかったのか!?
「見ろよ、白衣から野球ボールが出てきたぜ。 やっぱインテリな人間もこういうスポーツするんだな」
握っていたのはカードキーではなく、使い古されて黄ばんだ硬式野球ボールであった。 リョウはそれを自分のポケットにしまうと再びカードキーの捜索を開始したが……そんなくだらないことで声を上げるな。 期待で膨れ上がった胸が針で穴を開けられた感じで精神的ダメージが大きいぞ。
「まったく、これがぬか喜びというやつですかね」
そう言ってナルミはニヤケ面で肩をすくめた。 もういい、コイツら。 無視してカードキーの捜索を続けよう。
「アキバ先生、そろそろカードキーの複製ができる時間ですよ」
もう完全にアキバの助手的位置になっているシェリー先生が左手首につけられている腕時計を見てそう言うとアキバももっともな顔で「うむ」と言って立ち上がった。
やっと事務所で作成中のカードキーのコピーが完成したのか。 これで脱出できる…………わけがなかった。
「クックック……そのカードキーのコピーってのは、これのことか?」
その声で俺たちは死体を漁る手を止めた。 事務所からアキバが作ったカードキーのコピーをぷらぷらさせ、左手に見覚えのあるアタッシュケースを持って歩いてきているのはジャクリン・ホワイトソンであった。
俺たちは急いで死体の山を降り、身構えるがジャクリンはそれを見て「クックック」と笑うのみだったが、
―――――――――――――――――――ズンッ!!
と低い音とともに事務所が爆発したことにより、その笑みの理由がわかった。 そしてあろうことかジャクリンは持っていたカードキーを硫酸の池の中に投げ込んでしまったのだ。 カードキーはひらひらと舞い、硫酸に触れると一瞬で消えてしまった。 アキバのパソコンも破壊され、もうコピーを作ることもできないし、頼みのコピーキーも今消えてしまった。
続いてジャクリンは腰から拳銃を抜いてこちらへ向ける。
「多少手間取ったが、任務達成だ。 あとは目撃者の口封じのみだ」
任務達成だと……? やはり別の任務で動いていたようで、ジャクリンは左手に持っていたアタッシュケースを持ち上げて俺たちに見せた。 あれは、生物兵器の保管室にあった危険度『10』の物体が入っていたアタッシュケースだ。 それを見たアキバは動揺を隠せないようで、一歩後ろに下がった。
「お、おい! そいつが何なのかわかってるのか!」
「ああ、わかってるさ。 そこにいるガキの脳内にあるのが生物兵器の種なら、これは生物兵器の核なんだろ?」
あの肉の塊みたいなのが生物兵器の核? と言われてもあまりピンとこないのだが、ナリナの持っている種は戦闘能力向上とか地味と言っちゃあ地味な能力だし。 その核と言われてもな。
「あの肉の塊の中にナリナの持ってるようなチップがあるんだ……。 ナリナのチップは通称バーサーカー、向こうは通称デーモンだ」
ふむ、ナリナのほうが狂戦士で向こうが悪魔ねぇ……。 やっぱりわからん。
「さあ、話はもうこの辺で終わりだ。 この核を欲しがっているクライアントがいるんでねぇ。 では、さようならだ、不運な目撃者たち」
「うらッ!」
ジャクリンの持つ拳銃の引き金に力が入ろうとした瞬間、リョウは持っていた野球ボールをジャクリンに向かって投げつけたのだ。 いつものまぬけなリョウからは想像できない剛速球はブレることなくジャクリンの顔面へと命中し、その反動で弾丸が一発だけ放たれてしまう。
「きゃっ!」
弾丸は俺の髪を少しからめとり、シェリー先生の左腕をかすめた。 その一瞬の出来事の中、ナリナはリョウの脇をくぐり、のけぞっているジャクリンの手を蹴り上げて銃を放り出させたのだ。 俺は慌てて倒れこんだシェリー先生を抱き起こすとシェリー先生は「ふふっ」と笑って見せた。
「かすり傷なので大丈夫です。 アキバ先生の道具も事務所に置いてきちゃったので治療はできないですけどね」
白衣が赤く染まっているが、とにかくシェリー先生は大丈夫だ。 しかし、リョウがボールを投げなかったらシェリー先生は負傷しなくて済んだが、代わりに俺の頭に風穴が開いていたと思うとぞっとなる。 リョウに感謝するか、全てが終わったら。
ジャクリンはアタッシュケースをその場に置いて胸にあった軍用ナイフを抜いて構えた。 それを見てナリナも姿勢を低くして構えるが、こっちは丸腰である。 加勢しなくても大丈夫なのだろうか。 もっとも加勢したところで10秒持つ自信がない。
「コイツは、私が倒す」
と戦闘漫画のありきたりな台詞を吐き、ナリナは握りこぶしを作るとジャクリンは「ヘヘヘ」と笑った。 そりゃ小娘が相手でそんな台詞を吐かれたら笑うしかないだろう。 だが、お互いに戦闘能力は過小評価していないようで、ナリナが一歩前ににじみ出るとジャクリンは一歩後ろに下がった。
「うおりゃ!」
先に動いたのはジャクリンだ。 ステップを踏みつつ前に出て右手に持っていたナイフをなぎ払ったがナリナは後ろに跳んでナイフを避けると今度はジャクリンの懐に潜り込み、右の拳を腹にめり込ませた。 ジャクリンは「うぐふ」といって怯むがすぐにナリナの右手を掴む、逃げれなくしたところでナリナの腹部に膝蹴りを食らわせて距離をとった。 今まで攻撃を食らうことがなかったナリナはその場で片膝をついて腹部を押さえている。 流石に15そこそこの少女に鍛え抜かれた傭兵の蹴りは大ダメージだろう。 だが、ナリナは腹部を押さえながらもすぐに立ち上がり、右ストレートパンチを放つが当然のごとくジャクリンに避けられ、その隙に再びナイフがナリナを襲う。
「ッ……」
ジャクリンのナイフはナリナの左腰の少し下あたりを切り裂いた。 切られたスーツはベロッと剥がれ、その下からナリナの白い肌と鮮血が流れる傷口が見える。 ちょっと待て、あの位置を切られたら普通下着が見えるはずなんだが……などということを一瞬思ってしまってアキバのほうを見た。
シェリー先生を抱きかかえるアキバのメガネがキラッと光る。
「あのスーツは使用者との情報共有速度を極限まで高めるには、着衣はないほうがいいんだ。 もちろん、胸などの大事な部分はスーツの生地を厚くするなど対策はとってある」
ともっともなことを言っているようだが、あのスーツはエロアニメのものを真似て作ったものであることを忘れてはならない。 理屈っぽいが、これは完全にアキバの趣味なのだ。 しかしまぁ、そんなもの、よくナリナも着たな……。
しかしそんなことを言っている場合ではなかった。 俺が場違いなことを思っている間にもナリナとジャクリンは戦いを続けていた。 ジャクリンは回し蹴りでナリナの顔の側面を狙うが、ナリナはそれを両腕で受け止めると身をかがめてジャクリンの軸足を蹴り抜いてダウンさせ、続いて倒れているジャクリンの頭部に向かって拳を振り下ろすが、ジャクリンもとっさに横に転がって拳を避ける。
ジャクリンは両腕をバネにして跳ねるように起き上がり、そのままナリナに向かって突進して、ナリナの軽い身体を弾き飛ばした。 どうやらお互いにパンチやキックなどの技では決着がつかないと悟ったのだろう。 ナリナは地面に叩きつけられるが、すぐに起き上がって身構える。 しかしジャクリンは突進すると見せかけてナリナの目の前まで行くと持っていたナイフをナリナの左腕に刺したのだ。 激痛が走ったナリナは一瞬ガードを緩めてしまい、その隙をついてジャクリンはナリナの額に頭突きを食らわせた。 頭突きがクリーンヒットしたナリナは大きく後ろに仰け反り、倒れた。
「手間取らせやがって」
倒れているナリナの襟を掴むと無理やり立たせたジャクリンは、意識が朦朧としているナリナを見て「フッ」と笑い、ナリナの顔面にパンチを食らわせたのだ。 するとナリナの口から血が流れる。 ああ、ダメだ、見てられねぇ!
「うおおおおおおおおおお!!」
ナリナがコイツは1人で倒すと言ったが、流石にバトル漫画でもないのでヤムチャ的立ち位置に徹するわけにもいかず、俺はナリナを掴んでいるジャクリンにタックルをお見舞いした。 ズンッと重い衝撃が俺を襲い、俺は情けないことに後ろへ吹っ飛んだ。 だが、こんなことで落ち込んでいる暇はない。
俺はすぐに起き上がってジャクリンの脇腹にパンチを食らわせたが、ジャクリンは大して怯まず、ナリナから手を離さずに左手で俺を突き飛ばした。
「お前から先に死にたいようだな」
ジャクリンはニヤリと笑うと腰にあった小さいナイフを取り出した。
「ユウト……逃げ、ろ……」
くそ、こんな状態のナリナを放っておけるわけがないだ―――――――がはっ!!
ジャクリンの投げたナイフは俺の俺の右肩を貫いた。 最初は何が起こったかわからなかったが、自分の肩にナイフが刺さっていることに気づくと痛みが襲ってきた。 ぐっ 刺さっているナイフの柄を握ってみるが、それだけで物凄く痛い。
「ユウト! 無茶すんな!」
リョウは俺の背後から手を回し、両脇を抱えるとズルズルと俺を引きずってアキバたちのもとへ運んでくれた。 不甲斐なくてすまねぇ……。
「やばいぞ……」
アキバがボソッとつぶやいた。 たしかに今の状況はヤバイ。 俺とシェリー先生は負傷。 ナリナは捕まりっぱなしだって……あれ?
ナリナを見て、アキバが言った「やばいぞ」の意味がわかった。 ジャクリンに掴まれているナリナは両手をぶらんと垂らし、唇を緩めて笑っていたのだ。 まさか、あれが……、
「リミッターの解除、ですかね」
この期に及んでもニヤケ面のナルミが言う。 普段、感情をあまり表に出さないナリナが今は「フフフ」と言って楽しそうに笑っている……。 リミッターが解除されたことにより抑え込んでいたものがどっと溢れてきたのだろうか、さっきまで笑っていたと思ったら今度は眉間にしわを寄せてジャクリンを睨んだ。
「ぐふっ!!」
次の瞬間、ナリナは自分を掴んでいるジャクリンの腕を両手で掴むと身体を浮かしてジャクリンの顔面に蹴りを入れたのだ。 それによりジャクリンはナリナから手を離し、後ろへ吹っ飛ぶ。 見るとジャクリンの鼻は曲がり、鼻血を流していた。 さっきまでのナリナより力も上がっているようで、ジャクリンの額に血管が浮かぶ。
「いよいよお出ましか。 化け物め」




